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魔法学園生活録  作者: 陽
4/12

雨季の訪れ 3


「猫?」

「ついでに治してあげてほしいのー」


 アイリが差し出した白い猫に、金髪金眼の少女はキョトンとした表情を見せた。

 地の塔から逃げ出した三人は今再び犯行現場である自分の塔に戻ってきて、ある少女の部屋を訪ねていた。その少女は長い美しい金髪を首の動きに合わせて揺らしながら、アイリの腕のなかの白い猫を覗きこむ。

身体を触り、毛をかき分けて傷の様子を観察する。邪魔な毛はカミソリで刈り、傷の大きさを測る。

毛をかき分けながら、少女は、


「拾ったの?」

「拾ったの。そんで助けてもらったの」

「貴方たち何してたの?」


 そんな傷だらけになるほど悪さしてたのかしら。


 ルシアンと言う名前の少女はくすりと、美しい笑みを浮かべるとやがてその小さな身体に両手を添えた。キサラとユーリがアイリの後ろで居心地悪そうにもぞりとした。ルシアンを誤魔化すことが心苦しいのだ。これだから美女に弱い子達は。

 学年一の美女と名高いこの生徒は、その見た目から4年生『時計の塔の聖女』(彼女ら4年生の生活塔を『時計の塔』と呼称しているため)とも呼ばれており、そして一番の癒し手だ。

学校に3学部あるうちのひとつ『医療部』に属していて、とくに外傷の癒しを得意とする。

 例えばキサラたちが扱う魔法は攻撃魔法が主で、世界の摂理にしたがって自然の力を取り込んでそれを攻撃に変換することに特化している。それがキサラたちが属する魔術部。

 対して同じ魔法を使う者でも医療に特化したものが集う場所を医療部。

 また、攻撃でもなく医療でもないそれ以外の能力魔力をもつ学部を夢見部という。


「てへっそんなの、秘密だよ」

「教えてくれないの?ね、キサラ、ユーリ」

「な、なんのことだろぅねぇ、ねぇユーリ」

「あた、あたしにふるのかよ!」


猫の状態を把握してから構成を組み立てる。美しい金色の構成陣だ。

 猫に魔力を送りながら、ルシアンが美しい笑顔でユーリに向かって微笑む。


「そういえば、地の塔の方で未確認の魔力反応が察知されたらしいわね。さっきちょうど制裁会のメンバーと鉢合わせて聞いちゃった。アイリ何か知らない?」

「そうなんだぁ知らないなぁ」


 膝上の猫を構いながら明後日の方向をみてルシアンと視線を交わさない。


「あら、起こった事件は制裁会が嗅ぎ付ける前に詳細まで入手してるという、学校でも一二を争う情報屋さんのアイリが知らないなんて。居眠りしてたの?」

「夢見が悪くて階段から落ちちゃって。こんな有り様だよ」


 あはは、とアイリがから笑いをする。それを見ながら、ふぅんと相槌をうつ。

 猫の治療が終わった。荒かった息が、穏やかになっている。血のあとは残っているが、傷があったであろう場所を触っても、熱感もない。


「ありがとー、ルシアン。助かったよ」

「そんなことは全然いいのよ。」


 微笑むルシアンに、ユーリがアイリの後ろから身を乗り出す。


「ほんとうにありがとうな。できることがあればなんだってするからな!」

「また怪我したら来てね」


 ほんと、ありがと!と手を合わせるユーリにアイリが肘でこずく。それ以上言うな、と。だけど、もう遅かったようだ。


「そんなに言うなら、この猫ちゃんの傷なんだけどね。どんな状況でついたのか教えてほしいの。ただの興味本意なんだけど。」

「え。」

「ね、ユーリ。今後の勉強に!お願い。」


 ほらなぁ、探りいれてきたでしょお。アイリが軽くユーリを睨み付ける。ルシアンはその容姿と物腰と人当たりからおとなしく、なんでも受け入れてくれるようにみられがちだが、そんなことはまったくない。むしろアイリのなかでは見た目にものを言わせて無理矢理にでも物事をよい方向へと導くように促す狡猾さも持ち合わせていると考えている。ここで暮らしていくなかで、密かに培われたものなのだろう。


「表面の深い裂傷が摩耗したようになっていて、何か魔力の結晶がこびりついているわね。それが、自己回復を遅らせているだけでなく、魔力も吸い取っている。治すには、まずこれらを取り除いてから細胞活性させていくしかないの。しかもそれが全身に幾つかあるわ。いったいどこでこんな傷を作ってきたのかすっごく興味がある。学園にこんな悪質な魔力片があったかしら?こんな危ない魔法、どこにあるのか知っておかないと!」


 早口で状態を説明して、言葉でオブラートに包んではいるが、あなたたちはどこで何をしていたの?という質問が言葉の端々にかいま見えるようだ。


「この子が怪我してるとこは見てないからなぁ」


 そんな思惑に、気がつかずにキサラが答える。


「そうなんだ、なら出会った状態を………」

「ところでさ、そんなことよりも」


 まだ、探りを入れてくるルシアンに畳み掛けるように言葉を紡ぐ。

アイリは背後にいる二人に振り返り、猫を手渡しあくまで会話しながら自然なようにを装って合図を送る。


「今日のマッカーサ、知りたくない?」

「………………っ!」


 金色の瞳がきらんと光って、大きく開かれた。


「そ、そ、そんなこと別に聞きたくないもん」

「そう?残念だにゃぁ。とーっておきのネタ、持ってたんだけどにゃー」


 アイリが立ち上がってスカートを翻す。それを追って、ルシアンが立ち上がった。完全にユーリとキサラ二人に背を向ける。


「まって、…………………アイリ。き、聞いてあげない、ことも、ない…………わ!」

「素直に言えばいいのにぃ」


 アイリがにやと、笑ってルシアンの耳元に唇を近づける。金色の髪をすくって、耳にかけてやる。ひく、と揺れた肩に気がついて可愛いなぁと呟く。ほんの少し視線を後ろに送ると二人がノブに手をかけ出ていくところだった。


「マッカーサのね、今日のパンツはね」


 くまさんだったよ。


「く、く!くまさんですって?!あのおっきくてぬぼーっとした人が、くまさん?!」

「あはー、ルシアンってほんとにマッカーサのこと好きなの?言ってることがなかなかひどいよ」

「好きよ、大好き。」


 胸をふん、と張るルシアンに苦笑するアイリ。


「それじゃ、次の情報に乞うご期待!」

「ありがと、待ってるわ」


 快く送り出したルシアンにしてやったりと舌を出した

。ルシアンのことは大好きだから誤魔化すようなことはしたくはなかったけど、仕方ない。ご機嫌よく手を降って送り出してくれる彼女を横目で見ながら、部屋を出て先に行った二人を追いかける。

 いくら二人が自分より強いとは言え、得たいの知れないものと一緒にいるのだ、心配しないわけがなかった。

 廊下は少し薄暗い。窓がないせいだろう。

 突き当たりの階段を降りる。そうすると踊り場の壁に大きな黒い時計の針が2本、今ではない時間を示していた。壁の四隅には適当な数字が並んでいて、全く時計としての機能を果たしてはいない。だが、その機能していない壁時計に用があった。

 手をかけようとしたその時、背後から声がかかる。


「首輪はついてないみたいだな!問題児その3」

「うるっさいなぁーへたれジャーちゃん!ぼくを何だと思ってるのさぁ」

「ジャーちゃんって言うな、ジャスラと呼べ」

「ジャスラ、お前の問題そこなの」

「うん、ぼくもへたれ聞き流されてまさかそっち突っ込まれるとは思わなかったよ。」

「レオ、お前なんでそこ言うんだよ。聞いてないふりしてたのに」


 燃えるような赤髪のジャスラと呼ばれた男子生徒は苦虫を噛み潰したような顔で隣にいた銀髪の男子生徒に言った。優しそうな笑顔が眩しい。


「へたれの部分は自覚してるわけなんだな」


 その後ろにひっそりといた長身の生徒がひっそりと呟く。


「ラディオ!」


 今まで読んでいた本を閉じると、顔をあげた。蒼い髪と蒼い眼が特徴だった。


「何でもいいんだけどさ、3人とも早く行きなよ。」

「問題児その1に用があるんだが、いないのか?」

「今は別行動だけど、なに?言っとくけどってか、その1はどっちのこと?」

「キサラの方。いや、さっきレシア先生から連絡あってさ。明日の講義の時間が変更になったんだが………」


 ジャスラが話はじめたとき、その爆発音が辺りに響き渡った。




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