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魔法学園生活録  作者: 陽
3/12

雨季の訪れ 2


 走って、制裁会の厳重な包囲網をくぐり抜けてきた三人は、無事に地の塔にたどり着いて息をついていた。ここまでくれば、魔法を使っていて残滓が残っていたとしてもここで自主練してました、と言い張れば逃げ切れる。ここは地の塔。校内で唯一授業外でも魔法を使うことが出来るのだ。


「見つからなくてよかった」

「首輪つきなんてやってらんねぇもんな。めんどくさいし」

「ユーリ、先月まで首輪ついてたじゃん」

「だからこそいってんだよ」


 地の塔は、屋内でこそあるが、ほとんどがガラス張りの塔で、日の光が差し込む。中では木々が密に生えており、泉もある。自主練の休憩がてらここでのんびりする人も多い。やはり授業の合間だからか誰の姿も見えなかった。

 キサラは黒髪をひとつに結って身体の熱気を逃がしていた。そばではユーリが泉の水に手を浸しながら水飛沫を上げて遊んでいる。

静かな日差しが暖かかった。


「そういえば、こんな水場にいるとねー。」


 アイリが大の字になって寝転びながら間延びした声をあげる。二人は気だるそうにそんなアイリを振り替える。

 泉の水がぱしゃりと音を立てた。

 ユーリは制服のすそを払って、キサラの隣に座り込む。ガラス張りの塔の空は青く、白い雲がゆったりと流れているのを見ると、時間が止まっているかのような錯覚を覚える。


「水の魔人ってのが出るんだって」

「なんじゃそれ、あたらしい魔物タイプか?」

「わかんない。見たことある人がそもそも少なくてさー。最近ってかここ一ヶ月くらいかな?時間外の大浴場とか、真夜中の聖者の泉とかに現れるんだって。人気があんまりないところに出るみたい。分かんないけど」

「噂の範疇ってやつだね。人気がない水場って言ったら、今だなー」


 キサラが伸びをしてユーリにもたれ掛かった。手元の石をぽちゃんと泉に投げ込む。波紋をおこし、石が泉に沈む。音は1つのはずだった。

 ぱしゃりと音がした。キサラは眉を潜める。ここに生き物は、いただろうか。


「お前がそんな話をするなんて珍しいな。いつもはもうちょっと裏付けされた情報しか喋んないだろ?」

「そうそう。たとえばルシアンの想い人がマッカーサだったとかね」


 ユーリが身体を伸ばしてキサラの影から驚きの声をあげる。


「なんだそれ!それほんとなのか?!」

「うん。だって本人から聞いたんだもん」

「マッカーサには高嶺の花だろう」

「ひどいなぁ、ユーリ。でもまぁ何人かには恨まれるだろうね、彼」

「ルシアンのファンってたくさんいるからなぁ。」


 アイリとユーリが呑気に話をしている真ん中で、キサラは鋭い視線を泉に送っていた。あまりにも黙り込む彼女につられたのか、二人も泉に視線を送った。ごぽ、と何かの空気はが漏れるような音がした。


「その、水の魔人ってさぁ」


 ゆっくりと体勢をおこし、キサラがアイリに向かって話しかける。その視線は泉に注がれたままだった。


「こんなのかな?」


 ばっ、と3人が勢いよく立ち上がった。ごぱっと何か文字にすればそんな音がして水の中から何かが浮き上がってくる。 それはその固まりのみを残して泉の水をきり、人型の形をとった。


「さっきもいったじゃん、情報が少ないから分かんないって」


 緩慢な動作で近づいてくるそれに相対する。


「おいおい、校内きっての情報屋がそんな曖昧な情報でいいのかよ」

「だって、デマの範疇を越えなかったんだもん」


 後ろから水飛沫がかかって3人がその場所を飛び退く。するとそこに背後から近づいてきたもう一体の水の魔人が、いた。3人がいた場所がえぐれる。


「なんだこれ襲ってくんのかよ」


 キサラが水の刃を素早く生み出すと、大降りな動作でそれを振り回した。やはりというか案の定というか、効果は驚くほどなかったが。


「のっぺらぼうなのに、私たちのことがわかるんだなー」


 まっすぐこちらにむかってくる魔人をみて感心したような声をあげる。


「あたしはお前にこの状況がわかってるのか聞きたいわ、キサラ」


 ユーリは魔法構成の最後の終末記号を組み立ててから、キサラにむかって呟いた。


「かつての退廃の記憶を刻め」


 ユーリの構成通りに、地面に地割れが走る。ごごご、と重い音が、水の魔人を一体飲み込む。水の自重でか弾ける音がして、その一体は割れた地面のなかで消えていた。だが、彼女が顔をあげるとまた別の一体が増えていて、アイリに向かっていた。


「産めや増やせや、だな」

「だね。一気に片す?魅せよ、第1幕『雷円…………」

「ちょ、おいまて!アイリ!」

「私らを感電死させるきか?!」


 必死そうな二人の声に、端と見れば、二人の足元は水の魔人のせいなのかなんなのか、あたり一面水浸しで、二人も少なからずしっとりと濡れていた。


「あちゃ」

「お前、分かっててやろうとしたよな」

「なんのことかなユーリ。ぼくはユーリのこと大好きだから、そんなことスルワケナイジャナイ」

「語尾の方に不安を感じるな」

「何でもいいけどさ!!二人とも私を助けてはくれないのだろうか」


 雷の属性を得意とするアイリと、地と金を得意とするユーリの二人はまだ、水の魔人に対して魔法が効いたのだが、水の属性を得意とするキサラは同属性の物質だからか先程から全く魔法が効いていなかった。それを見たのか感じたのか水の魔人は先程からまた数を増やして5体になりそれが一斉にキサラに向かっていく。


「おぉっと、麗しいお姫様があたしを呼んでいるな、待っていろ」

「ユーリ、キモイ」

「アイリや、あとでお前校舎裏に来いよ」


 ユーリが先程の魔法を改めて唱える。地割れの魔法だ。先程より範囲を大きくして構成を組み立てた。


「あ、その構成は」

「5体まとめてけしてやらぁー!」


 先程聞いた音よりも大きな地響きがして、ぱっくりと開いた穴に水の魔人が落ちる。5体を飲み込んで、さらにキサラの足元でも。


「わっと!」

「あ、ごっめーん」


 キサラの足元まで割れた地面にたたらを踏むとユーリを睨み付けた。


「分かっててやったよね」

「あたし、キサラのこと大好きだからそんなことスルワケナイジャナイ」


 制服のスカートをぱんっと払い、キサラが体勢を整える。泉はいくつかの戦闘跡を残して、一先ずの静けさに戻っていた。


「だけど、これがその噂の水の魔人なわけなの?アイリ」

「こんな風に襲ってくるならあんなに不確かな情報になるはずないよ」


 その時、一際大きな魔力の匂いがしてそれと同時にごぼり、と嫌な音とともに泉の水が盛り上がった。

 3人の視線が一斉にそちらに向かった。


「なんか嫌な予感すんな」


 今までのはほんの腕試しだと言わんばかりに濃い魔力をまとった魔人が1体、泉の中から盛り上がってきた。

 3人の間に緊張が走る。息をつまらせる。その間に逃げれればよかったのだが、魔人が放つ異様な雰囲気に背中を向けるのが、怖かった。学年一の実力者ではないが、彼らとて実力はそこそこあると言うのに。

 水の属性に対する有効属性がいないのに、こんなに強い魔人を相手するのか。

 嫌な汗が流れる。


「頑張ってみる………っつ?!」


 腕でガードし、後ろからキサラが引っ張ったからなんとか大ケガをしなくてすんだのだが、とっさに防御壁を築くことも出来なかった。二人して勢いよく倒れこむ。突進してきたその魔人は3人の退路を絶つようにゆぅらりと立ち上がり、目もないのに口もないのにこちらを見て、確かににやりと笑った。


「今、何が起こった?!」


 ユーリがキサラに制服の襟首を持たれたまま、打撃を受けた腕をかばっている。真っ赤に腫れていた。一緒に引き倒されたキサラもユーリを掴んでいた腕を庇っていた。腕に力が入らないのか、肩から下がだらんとしている。アイリが駆け寄ってきてその腕の傷を確かめようとしたが、ユーリがそれを押し退けた。

 視線の先で、まるで人間のような動きをして地面を踏み込む魔人が見えた。もちろん、こちらを向いて。


「やべぇ、……………逃げろ!」


 アイリが二人の前に立ち、雷の防御壁を築く。アイリの構成陣から放たれた稲妻は、格子状に編まれ、3人を守ろうとした。

 守ろうとした。


「ぎ、ぐぁ!」


 噛み締めた歯の隙間から息が漏れたと思ったら、身体は宙に踊っていた。防御魔法ごと地面に叩きつけられた肺から空気が漏れていく。

 魔人が、地面に伏せたキサラとユーリを見ていた。


「いや、だめ!やめて!」


 倒されたアイリが無理に立ち上がると、二人に向けて走り出す。

 ユーリは傷ついていない方の腕で地面を強く叩くと、構成陣を、打ち込んで魔人との間に壁を築いた。

 振り上げられた腕が、壁を破壊し、土くれが降り注ぐ。

 魔人の反対側の腕が振り上げられたのが、土くれの雨の中から見てとれた。


「こら、ダメだわ」


 キサラが少しでも離れようと立ち上がってもがくが、間に合わない。ユーリはキサラを押し退けて、背中で庇う。アイリの悲鳴とキサラの怒号がぎゅっと衝撃に備えて瞑った瞳の暗闇のなかで聞こえた。


 『やめるにゃぁあ!』


いつまでたってもこない衝撃に、瞼を恐る恐る開く。すると、目の前にいた魔人の姿がなく、あったのは、ごぅと大きく燃える白い炎だった。ものすごい魔力が漏れ滲んでくる。


「な、にが?」


 その炎のなかで躍り狂う魔人の姿。こんな凄まじい炎のなかでも今だ形をとることができているのは、やはり魔力が濃いからか。

 揉んどりうって、炎からまろびでてきた魔人が改めてユーリたちに向かってくる。その頃には立ち上がって逃げの体勢をとっていた3人は再び突進してくる魔人に魔法を放った。だが、やはり弾かれる。一先ず入り口に向かいながら、背後に魔法を放ち続ける。


「何があったんだ、あの炎」

「分からない」

「ふたりとも、ふせて!!」


 アイリの声に反射的にこたえ、頭を低く伏せた。その頭上をあの水の魔人の腕であろう太いものが掠める。


「だめかも、逃げらんない」


 アイリが悔しそうに唇を噛んだ。魔人に投げ飛ばされたときに、食らった脇腹がギシギシと痛い。ユーリもキサラも、力が入らない腕を庇っている。絶体絶命だった。


 『彼女の力でこれ以上の悪行は許さない』


 その背後からまた、聞こえてきた声に、先程のは空耳ではなかったのだと知った。

 猫、がいた。

 真っ白な、毛足の長い、美しい猫。

 唖然とする3人が見守るなかその猫はすぅ、毛を膨らませてピタリと止まった。何が起こるのか、と次の瞬間先程出現した白い炎が魔人に向かっていた。魔人はそれに真正面から向かっていく。それは予想外だったのか、一瞬身体を強ばらせた猫は、その動きに反応することができずに魔人が蹴りを見事に食らってしまう。


「あぁあ?!」


 宙に踊るその白い小さな身体に思わず受け止めようと前のめりに動き出すが、その前に軽やかな音とともに地に着地し、今度は真っ正面からその魔人に向かって炎を浴びせた。

 ただの一度でも受けてしまったらどんなものでも溶けてしまうだろう力の炎を三度も浴びていれば、さすがの魔神もがたがきたのだろうか、どろりと粘調性のある何かになって溶けていってしまった。猫は静かにそれを見届けていたが、不意にパタリと倒れこむ。

 訪れた静寂に、混乱する頭を整理させようとするが、まとまらない。

 だが、魔人が再度現れて来る様子もなかったので、ユーリが恐る恐るその猫に近づく。


「ひとまず、助けてくれたんだし、あたしらも傷だからけだし、こいつ連れて……………………この場から逃げないと、ヤバイ。」


 決して、決して自分達のせいだけだはないのだが、ひび割れた地面にところどころ残る白い炎の残骸、ヘドロのようになった魔人だったもの。この塔の特性なのか、練習場として使われるこの塔は自己修正能力をもつ。

どんなに建物に傷がつこうが、焼け焦げようが、次の日には元通りになっているのだ。

 だが、それでもこの惨状はどうしたものか。

 それにこの猫はとても力のある魔力を使っていた。制裁会が、この魔力を察知しないはずがないし、ここの戦闘音は間違いなく外に漏れていたはずだ。

あんなに大きな包囲網を展開していたんだ、あと数分足らずにここに向かってくるだろう。


「この子はどうするの?」


 片腕を庇うユーリから猫を受け取りながらアイリが問いかける。


「まぁまずは怪我治してもらおう。痛いし」

「いやぁ、それにしてもなんか、すごいもん見たなぁ」

「ユーリすっごく暢気!」


 キサラの提案に合意して、三人はそそくさと、その場を発った。

何もかもそのままにして。


 まるで鼬ごっこか何かのように、3人が消え去ってからしばらくして制裁会のメンバーであろう生徒が地の塔に飛び込んできた。生徒たちはあまりの惨状に目を疑う。大蛇がのたうち回ったのかと疑うような炎の跡に、所々窪んだり、割れたりしている地面。


「は、んちょ。ここの魔力残滓、とんでもない数値を示しています。しかも登録されたもんじゃないです。いくつか、登録された魔力もあるようですが、この力に紛れてしまって誰のものかは分からないです」


 後輩であろう、班の生徒が機械をかざしながら、呆然とする男に告げた。


「これが、侵入者の力なのか?」

「そう考えるのが、妥当ってもんだろうね…………どうしよっか、ザラッド」


 ザラッドと呼ばれた生徒は、その声にぴくりと身体を震わせると、別の班を率いているその男ミュシャに向かって厳しい顔をする。


「決まってるだろうミュシャ。制裁会長に報告するぞ」

「まぁ、セレナを凌いだやつだからね。こんなのは想像してたんだけど、侵入一日目に動きを見せるなんて、せっかちな侵入者だなぁ」

「確かにな」

「はやくここを現場保存して報告にいくぞ」


 班員たちは、はいっ、と緊張した声をあげて、てきぱきとそれぞれの仕事をする。

 ザラッドは視線をあげて、ガラス張りの空を見上げた。そこにはあまりにも青くあまりにも高い空があった。




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