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魔法学園生活録  作者: 陽
12/12

それはまるで驟雨のような 4

アイリとレオが、共同フロアに向かって行った頃、先程まで2人がいたところにはジャスラとキサラの姿があった。せかせかと早足で塔の玄関を目指す。先程すれ違ったケインとクロードには外出禁止令出てると言われたのだが、そんな事よりレシアへの面会だ。


「ほんとにヤバい」

「そうだな、はやく行こう」

「ジャスラが忘れるからだろーが!」

「忘れてたわけじゃない!伝えようとしてたところに、あんなことに巻き込まれたから!」

「くそぉ………」


今ここで、彼を責めた所でなんの解決もない。運良く、本当に運良くレシアの機嫌が良くて、それくらいの遅れなら気にしないわ、うふふ。で済めば良いのだが。

イデヤをたった今、アイリが持ち場を離れさせたので、誰も門番がいない塔の玄関を堂々とくぐり、魔法構成論の教室がある”翠の館”へ向かう。


「レシアの明日の講義、なんだって言ってたっけ?」

「講義内容の変更で、各属性の特殊技能の構成について、だそうだ。」

「またややこしい内容にしてきたなぁ……そんなの私”水”しか使えないから、他の属性の特殊技能構成論なんて分かるはずないじゃんね」

「まぁ、発動するのにもすごく魔力と緻密な構成がいるからな……」

「こういうややこしいのにしてくる時は大概、機嫌が悪いんだよな」

「離婚調停、上手くいかないんだなぁ……」


ジャスラが遠い目をして、翠の館を見つめる。件の先生は見た目はすごく美女なので、引く手は数多なのだろうが、それは黙っていたらの話。如何せん、あまりに優秀すぎるのと、そのきっっっつい性格がいけない。二人三脚である夫婦には向かないのだろう。


「結婚できない女だな」

「……………ブーメラン」


どやっと言ったキサラに、小さく呟いた。お前も大概、他人に物事あわせらんねぇだろ。


「なんか言った?」

「何も」


ひとまず、今はレシアに集中しなくては。彼女に目をつけられて、とんでもない量の彼女が見もしない嫌がらせの為だけにやらせるレポートを書かされるのは勘弁して欲しい。

2人は、足早に広場を抜け、先程ユーリ達と身を寄せた校長像のそばまで来た。制裁会の姿はなくスムーズに翠の館へたどり着こうとしていた。


「あれ?誰だ?」


ジャスラが指さした先は、館の脇にある小路だった。

そこは、時計の塔に向かうには遠回りになるが、季節ごとに色とりどりの花が咲き乱れる。授業の合間など、少し時間のある時は歩くといい。気分をリラックスさせる効果のある花もうわっているとかで、眠たい授業No.1の国土史なんかの前には、非常にリラックスして眠りにつけること間違いなしだ。

なぜ、そんなものが植わっているかと言うと、おそらく園芸部の仕業であることは間違いない。真面目に授業をうけさせない気だ。


「誰だって?」

「あの、小さい子………あんなチビサイズの生徒、ウチにいたか?」


ジャスらが指さした先には、確かに、彼らの腰ほどの背丈しかない、小さな子供がいた。基本、最年少でも11から12歳ほどの学生しかいないこの学園では珍しい、7………8?程の少女に見えた。


「誰かの隠し子か………?」

「冗談キツイぜ」


その子供はきょときょとと、辺りを物珍しげに見回す。

何かを探しているようだった。

声をかけるか迷う。確かに誰かの付き添いの子供かもしれない。そうだとすれば、迷子なのだろうが…、自分達には今人助けよりも大切なものがある。


「いこうか」


2人が何も声をかけずにその後ろを通り過ぎようとすると、ばっと音がするほどにその子供はこちらを振り返った。

そして、軽い足取りでこちらにかけてくる。

さすがにこちらにかけてくる人間を無下にする訳にもいかず、2人はため息をついて子供を迎えた。


「君、だれの付き添いの子?」


薄い翠のウェーブのかかった髪をふさふさと揺らして少女だろうか、は2人の目の前にきた。キサラはため息をついて腕を組み、ジャスラは少し身体をかがめて視線を子供に合わせて問いかける。


「おぬしたち!わらわを組みしいたオトコをしらぬか?!」

「おぬし……?」

「く、くみしいた?!」


屈めた腰を予想外の言葉を聞いたせいか、驚いて立ち上がる。

近くで見るとまた幼い。歳の頃は6-7歳頃だろうか。ポテりとした頬がその幼さをまた物語っていた。

えーっと、と言葉を詰まらせていると、イライラしたように子供が地団駄を踏む。


「ええぃ、知らぬか。役に立たん童たちよ。」

「どんな人をお探しかなー……?」


すっかり諦めムードに入ったキサラをフォローするようにジャスラが、質問をする。


「そうさな……とても猛々しい力を持つやつじゃ。乱暴に猛々しくわらわの中に入ってきたかと思ったら、その力で我を包み込んだその優しさ……なんとあぁ、扇情的に熱情的にわらわの気持ちを弄ぶやつよ!」


およそ、子供からは出てこないであろう言葉の羅列に純粋培養魔法学園産チェリーボーイ・ジャスラは真っ赤になって言葉を失った。


「こ、こんな子供になんて事をしたんだ……?!」

「ほんと」


頬を赤く染め、薄い翠の髪を撫で付け照れながら喋る少女。それを見ながら、頭の中で学園内でそんな変態をピックアップする。


「可能性がありそうな奴が多すぎてしぼれん」

「そうだなー」

「知らぬか、ちっ。ほんに役に立たん童共じゃ!わらわはもうゆくでな、世話になった」


そう言捨てるやいなや、少女は素早く2人に背を向けて走り去ってゆく。止める間もなかった。キサラは特に面倒くさそうだったから、止める気もなかった。


「………最近の子供ってすごいな」

「アンタがぴゅあ過ぎるんじゃない?」


2人は翠の館に足を踏み入れた。今はこんな事に頭を悩ませている場合ではないのだ。


「はやく行こう…」

「こうしてる間に刻一刻とレシアの機嫌は悪くなるからな…」


変わった少女だったと、2人は話ながら教室へ向かう。話しあった結果一応レシアに報告することをきめた。

まずはまぁ、彼女の機嫌がわるくなくて、無事に用事が終わることが大前提であるのだが。



-------------



ところ変わって、ジャスラの部屋である。皆が戻ってくれば、ノアの所在をどうするかを決める予定であり、それまでは別段することも無くただだらだらとした空気が漂っていた。


「まーひーまーひー」

「………………」

「ひーまーひーまー」

「………………」


ぱくぱくと金魚のように口を動かしながら、声を乗せる。それを横目にみ、さきほどまでは相手をしてやっていたのだが、いい加減に飽きた。

サラリとした青色の髪をかきあげて、呆れたように声をかける。うるさいから黙って欲しい。


「窓の外でもみていろ」

「だれもいないもん、面白くない」


先程、キサラからの伝言で、塔内からの外出禁止令が出ていることをしった。外に出れば、即座に首輪付きになるそうだが、そんな事をレシアに訴えたところで意味が無いことは分かっているから、すり抜けて行ってくる、とケインがわざわざ教えに来てくれた。

ノックの音で一瞬2人の間に緊張が走って、わくわくしたものの、何のことはない、ケインだったので肩すかしだ。面白くない。

 それにしても、絶対に見つからないで欲しいものだ。水の魔人というものとこれからどんな対決があるのか分からない。ジャスラは特に。


「つーかさ、学年一の秀才がこんな事に巻き込まれていいのか?真面目なアンタなら、こんな回りくどいことせずにすぐにでもチクるかと思ったけど。」

「なんだ、チクった方が良かったのか?」

「いや、止めてくれせっかくのワクワクが消える。」


ならいいじゃないか、とラディオは手元の本に視線を戻した。

ユーリはさっきは面白くないと言っていたくせに、窓の外を見るともなしに見る。


「今ってさぁ、」

「あぁ?」

「外出禁止令出てたよな?」

「ついさっきの話だぞ、もう忘れたのか?」

「いやバカにすんな、覚えてるわ!!!そんなことより、アイツ、誰だ?」


一瞬、ユーリが沸いたのだが、それよりも、と不審顔で窓の外を指差す。そこはつい先ほどユーリ達が作成した謎のオブジェの残骸が残る中庭だ。(不思議なことに、あれからまだ1日も経っていないのだ。)

ラディオは外を指差すユーリの頭の上から窓の外を覗き込んだ。

謎に存在感のある失敗作のオブジェの傍に動きがあった。目を凝らしてみる。


「遠くて見えづらい………制裁会のやつか?」

「その割には目的がない動きをしているな。」


その人影は崩れて形も無くなってきたそのオブジェのまわりをゆっくりとしたうごきで歩いているように見えた。何かをしている様子はない。言い方を考えなければ、徘徊のようだ。右左、交互に足を運ぶ、だけの動きを繰り返している。それはいささか不気味で、命のないものに見え、じっと見つめているとジワリと恐怖が湧いてくる。


「キサラがいれば、“見え”るんじゃないか?」

「いや、…………………いや、あれは観ないほうがいい、そういう類のもんだ」


ユーリの声が平坦になる。

あれを知っているのか?と問いかけようとしてその顔を覗き込んだが、言葉を飲み込んだ。

長い付き合いになると思う。この学園に入学して、もう4年。寝食を共にしてきた。なんでも知っている、と言えなくても、ユーリという存在ががどういう奴か、などはわかっていたつもりだったのだが。


こんな顔もするんだな。


その影は俄かに動きを早めたかと思うと、オブジェの周りを滑るように動き始めた。

ぐるぐる、ぐるぐる。

しかし突然、示し合わせたかのように唐突に、その顔のような部分をこちらに向けてくる。

ゆっくりとした動きなのか、それともそういうふうに見えるのか、目が合う、と思った瞬間。

ユーリがすごい速さでカーテンを閉め切っていた。


その顔は無表情で、ガラス玉のような黒い瞳がほんの少し恐怖に染まっているように見えた。


あれは、笑っていた。


「あれは、なんだ?」

「悪いもんだ」


ユーリは苦々しげにそれだけ言って、そのあとは、キサラたちが無事に戻ってくるまで、口を開くことはなかった。




2章 了


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