後悔する始まり
「解った! じゃあ、私がプレゼントあげる!」
黒竜ムアは、人間を監視するという、ドラゴンの役割に飽きてしまっていた。逃げ出すために〈沈黙の森〉に入り込んだ訳だが、盛大に着地に失敗して、森の住民に見つかってしまうし、翼は怪我するしと散々であった。幸い、ムアは人の姿を得ていたので、姿を変える事で逃げ出すことに成功した。服は森の住民のものを勝手に取っていったわけだが、どうしようと思っていた所に、フィクターに出会ったのであった。
「えっ……?」
人の姿をしていても、ムアは普通の人よりは力が強い。フィクター押して倒すのはそんなに難しい事ではない。そして、頭をぶつけて気絶してしまっている。
「やりすぎちゃった。でも、丁度良いし、多分大丈夫だよね」
ムアは少し悩んだが、考えても仕方ないと結論を出した。頭をぶつけている以上は、そんな気楽に構えるべきでは無いのだが、これからやることに対しては、関係ないとばかりに振り払った。
「多分ビックリするだろうな。だけど、ドラゴンが好きなら喜んでくれるはず! そして、私をかくまってくれる流れになる筈! 完璧過ぎる作戦じゃん!」
それが完璧な作戦かは解らないが、どうやら何かをするらしい。ムアは自分の指を噛み、流れた血を数滴、フィクターの口の中に入れる。ドラゴンと人間には奇妙な関係性があり、お互いの血肉が影響を及ぼしあうのだ。ドラゴンが中途半端に人間の血肉を食らってしまえば、その肉体は人間のものとなり、ドラゴンに戻れなくなる。そして、逆に、人間が中途半端にドラゴンの血肉を食らってしまえば、その肉体はドラゴンのものとなり人間に戻れなくなる。
「少しずつ、慣らしていかないとね」
だが、急激な変化は、どちらにしても死をもたらす。少しずつ摂取する事で、ゆったりと、身体を作り替えていく。だが、もう一つ方法はある。それは、その個体を丸ごと摂取する事によって、その対象の身体を完全に手に入れ、尚且つ、元々の身体と、手に入れた身体を自由に切り替えることが出来る。つまり、ムアは人間を一人、丸ごと食べていると言う訳だ。また、この方法は人間側にも適応されるが、人間が一体のドラゴンを丸ごと食べるのは、物理的に無理があるというものだ。
「でも、なんか嬉しいね。ドラゴンに好きって言ってくれる人間。私は見たこと無いけれど」