変貌する始まり
この世界は、中央に存在する大陸と、北西に存在する大きな島、それを取り囲むように点在する小さな島で構築されていた。そして、大陸は、西側の草原、通称〈無知の国〉と東側の森、通称〈沈黙の森〉にエリアが分かれている。
「この辺りでドラゴンの目撃情報があったはずなんだが……」
〈無知の国〉から南に位置する場所に〈要塞の帝国〉と呼ばれる、南を海に、残り3方を壁に囲まれた町がある。そこの住人の一人、フィクター・グラフという名の男は〈沈黙の森〉に来ていた。どうやら、ドラゴンを探しに来たらしい。
「何かを探しているの?」
「うん? 君は、ここの住人かい?」
フィクターは〈沈黙の森〉の捜索をしていると、少し日焼けしたような肌の色の少女に会った。この森にも人は住んでいて、動物を狩ったり、果物を摂取して生きている。また、様々な薬を作るので、〈要塞の帝国〉の製造品と交換したりもしているらしい。尚、通貨は〈要塞の帝国〉内でしか流通していない。
「私は違うね」
「だろうな。どうしてこんなところに」
〈沈黙の森〉の中に住んでいる。森の住人達は森から出ない。なので日に殆ど当たらず、肌が色白なのだ。なので、この少女は森の住人では無いとなる。そんなに危険な動物が居ないとは言え、一人で居るという事に対して、フィクターは顔をしかめてしまう。それに、ドラゴンの目撃情報があるとなれば尚更。
「それが、ちょっと間違って。地面に激突しちゃって」
「君は、何を言っているんだ? いや、そうではない。この辺でドラゴンの目撃情報があったらしい。危険だから帰りなさい」
少女の言葉に疑問を感じるが、フィクターからしてみればそれどころではない。全てのドラゴンが凶暴だとは言わないが、凶暴なドラゴンの可能性もある。早く家に帰すのが最善のはず。
「おじさんは、大丈夫なの?」
「おじさんか……。私は問題ない、いざとなれば武器もある」
おじさんと言われた事に少しショックを受けつつ〈要塞の帝国〉の秘密兵器である〈銃〉を見せる。これでドラゴンを倒すことは出来なくても、時間稼ぎくらいは出来るだろう。だとしても、フィクター自身はそれを使うつもりも無いのだが。
「んー? そんな鉄の筒で、ドラゴンをどうにか出来ると思ってるの?」
少女はやけに不機嫌そうに、文句を言っている。〈要塞の帝国〉に住んでいない人からすれば、〈銃〉の威力なんて知る由も無いのだから、仕方ないのかも知れない。
「というのは、建前だ。私はドラゴンが好きでな、仲良くなりたいと思っているんだ。こんな武器は使う気もない」
フィクターは、ドラゴンの鱗を集めているマニアであった。そして、ドラゴンと仲良くなれば、もしかしたら鱗をくれるかも知れないと考えている。
「ドラゴンが好きなの?」
少女はとても驚いているようだ。どうやら、ドラゴンの鱗が美術品とされている事を知らないらしい。銃を知らないという事もあり、フィクターは〈無知の国〉の遊牧民ではないかと予測する。
「あぁ、カッコいいだろう?」
そもそも、フィクターは美術品云々というよりも、ドラゴン好きであり、最も手に入れやすいのが鱗であるというだけだ。そうでなければ、自らドラゴンを探しに来たりはしない。
「解った! じゃあ、私がプレゼントあげる!」
「えっ……?」
フィクターは少女に身体を押される。その力は想像を絶するほどに強く、後ろに倒れてしまう。そして、頭を打ち、意識は暗転する。