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明日は晴れると思う  作者: 奏路野仁
7/13

7話

江戸紫 然  雨男 杉本書店にてアルバイト フリーで翻訳の仕事 作家志望

青山 翔   ポストマン ボランティアで地元ラジオ局DJ

東雲 健太  大手自動車会社勤務 法人営業部 柔道部のスポーツ推薦入社

杉本 茜   杉本書店の二代目 通販大手に勝ちたい

松田 珊瑚  スペイン料理店「オラ」でバイト 声優目指して日夜レッスン

桜井 朱莉  大手自動車会社勤務 営業事務 バレー部のスポーツ入社

ブランシェア・ラクシーニュ  自称テンシ

シャルロ・ステファヌス・アートルメクス  自称アクマ

七話

挿絵(By みてみん)



七夕っていつからお祭りになったのだろう。

伝説やら伝統やらはともかく、どうしてお祭りなのだろう。

遠くの二人がただ出会うだけの日に

どうして願いを託すのだろう。


01 オラ。夜。食事中の江戸紫。

  一人で座りペンを握りノートに何やら書いている。

  他の連中が他のテーブルに座り食事をしている声がする。

  松田が水を足しにくる。

  松田「どんな様子?」

  江戸紫「うん。もうちょっと。」

  江戸紫、一度他の連中の席の様子を見てから

  江戸紫「アクセサリーとか売っているお店知ってる?」

  松田「いくつか知ってるよ。」

  江戸紫「3日の月曜の午後空いてたら」

     「一緒に行ってくれると有り難いのだけど。」

  松田「いいけど、どんなアクセサリー?」

  江戸紫「うん。誕生日プレゼントにね。」

  松田「(ちょっとムッとして)彼女に贈るの?」

  江戸紫「彼女?」

  松田「えっと、正直に言うけど」

    「いつだったか駅で女の子と話していたの見て」

    「その子に贈るのかなぁ。って。」

  江戸紫「駅で女の子と?うん?」

  松田「雨の日に駅で。」

  江戸紫「ごめん。全く記憶に。あっ」

    「あれ青山の彼女。」

  松田「へ?」

  江戸紫「その日の朝アイツに紹介されて」

    「帰りの電車がたまたま一緒だったみたいでそういや名前聞いてないな。」

  松田「そうなんだ。」

  江戸紫「で、月曜空いてるかな。」

  松田「(嬉しそうに)うん。」

  江戸紫「それじゃ頼みます。」

  松田「あれ?誰の誕生日プレゼントなの?」

  江戸紫「桜井さん。」

  松田「朱莉ちゃん?」

  江戸紫「うん。雑巾作って貰ったり、

    「ブランシェアの誕生日で世話になったからね。」

    「ついでに青山のも探すけどね。」

  松田「うーん。でも朱莉ちゃんアクセサリー類付け無いよ。」

  江戸紫「そうなの?」


02 頼代駅前。江戸紫、シャリ、ブランが立っている。

  改札から階段を小走りで降りてくる松田。

  松田「お待たせぇ。」

  江戸紫「ごめんね折角の休みに。」

  松田「休みじゃないわよ。」

    「木曜日まで夕方からなの。」

  江戸紫「お仕事なのに申し訳ない。」

  松田「で、朱莉ちゃんのどうするの。」

  江戸紫「うん。桜井さんのはもうちょっと考えてみるよ。」

     「ただ青山のは今日買っておかないと。」

     「松田さん何か買った?」

  松田「ううん。私も一緒に今日買おうと思ってたの。」

  ブラン「(ニヤニヤしながら)いやあ邪魔して悪いですなご両人。」

  江戸紫「だからお前は誰なんだ。」


03 ショッピングモール。買い物シーン。

  時計、服等いくつかの売り場でアレコレ言っている。


04 夕方 オラの前で別れる。

  手提げの紙袋を持ちオラ裏口へ行く松田。

  江戸紫、シャリ、ブランがそれを見送る。

  

05 ラジオスタジオ。青山がマイクに向かっている。

  青山「7月最初のPMP。」

    「7月と言えば七夕。この頼代町でも小さなお祭りが催されます。」

    「7日の金曜日8日、9日まで、いずれも16時以降。」

    「中央通りが一部交通規制されます。」

    「PMPはこのお祭りにちょっとだけ協賛しています。」

    「そして大事なお知らせ。」

    「7月7日18時、午後6時に中央通りのスタジオ前で」

    「番組主催のイベントがあります。」

    「皆さんの願い事を書いた短冊を持って集まってください。」

    「公開生放送実況中継。これでラジオ聞けないって人も大丈夫。」

    「当日来られない方は前もって送ってください。」

    「スタッフが責任を持って飾り付け。え?」

    「あれ?皆首振ってる。俺一人で飾り付けするの?」


06 杉本書店。店内にはラジオが流れている。客はなし。

  杉本「エドも参加するの?」

  江戸紫「仕事でしょう。」

  杉本「7日は金曜日よ。」

  江戸紫「あ、休みか。でも不参加で。」

  杉本「エドって出不精?」

  シャリ「おっちゃん太ってないよぅ」

  ブラン「じじぃは散歩好きな筈なのに。」

  江戸紫「言いたい放題だな。」

     「出不精なのは否定しません。」

  杉本「イイ若いもんがそれじゃあイカンな。」

  ブラン「じゃやっぱりじじぃなんだ。」

  シャリ「だから太るんだよぅ。」


07 夜。オラ店内。東雲、桜井、松田が座っている。

  桜井「シノさんはどっちなんです?」

  東雲「土曜っす。」

  桜井「じゃ一緒ですね。」

  松田「?」

  桜井「(松田に)うちの会社今度の七夕祭り強制参加なんだよ。」

  松田「何するの?」

  桜井「別に何も。」

  松田「何も?」

  桜井「行ってこいって言われただけ。」

  松田「それって。」

  桜井「賑やかしだな。」


08 夜。オラ入り口

  青山と杉本が会う。二人席に案内されながら

  杉本「今日は遅いのね。」

  青山「ちょっと祭りの打ち合わせでね。」

  席に着き

  桜井「(青山に)遅かったな。」

  青山「祭りの準備だ。」

  松田「楽しそうねぇ。」

  青山「祭りは好きだ。」

  杉本「(溜息して)エドにもそのお祭り好きを分けてあげてよ。」

  松田「何かあったんですか?」

  杉本「不参加表明したの。」

  青山「あいつはずっとそうだ。(東雲に)な?」

  東雲「御祭事キライっす。」

  青山「で、お前ら出る日決まったのかよ。」

  桜井「二人とも土曜日」

  青山「強制なのは参加だけでイベントは関係無いんだろ?」

  東雲「多分ね。」

  青山「よっしゃ。」

  桜井「何させようとしてるのよ。」

  青山「18時はスタジオ前集合って事で。」

    「短冊は用意してやるから願い事考えておけよ。」

    「ところで珊瑚ちゃんは?」

  松田「7,8,9は昼間だから夜は参加できるよ。」

    「そんな事よりも。」

  青山「そんな事って。」

  松田「いいから。はいこれ。」

  手提げ紙袋を渡す松田。

  青山「何?」

  松田「誕生日おめでとー。」

    「エドと私から。」

  青山「おおーっ見てもいい?」

  松田「いいよ。」

  手提げから小さい袋を一つ取り出す。

  SIMPSONのハーフメッシュグローブ(バイク用)。

  青山「おお。」

  松田「そのグローブは私から。」

  続けてもう一つ大きな袋を取り出す。

  松田「で、そっちの大きいのがエドとシャリちゃんとブランシェアちゃんから。」

  SIMPSONのレインウェア

  青山「おおっ奴ら奮発したなぁ。」

  喜ぶ青山。

  青山「で。」

    「君達も何か用意してたりするんだろ?」

  桜井「すまん!」

  東雲「すまん!」

  桜井「かんっぺきにお前の誕生日忘れてた!」

  東雲「右に同じ!」

  青山「なにぃ。」

  杉本手を挙げながら

  杉本「はい!」

  青山「はい杉本さん。」

  杉本「そもそも青山君の誕生日知らない。」


09 夜 江戸紫自宅アパート

  PCに向かっているが手は止まっている。

  電気を消す。

  布団の中。隣にはシャリ、その向こうにブランシェア。


10 朝、江戸紫アパート前

  シャリ、ブランを見送る江戸紫。

  向きを変えて駅に向かう。

  道には頼代町七夕祭りの旗。

  それらには目線を向けない。


11 頼代駅。改札前。

  青山が彼女といるが江戸紫は俯き加減で歩いているので気付かず素通り。

  青山と彼女が手を振り別れ、青山はバイクに乗っていく。

  女の子「エドさん。」

  江戸紫顔を上げて顔を見る。

  江戸紫「うん?ああおはようございます。」

  女の子「どうしたんですか?」

  江戸紫「どうって?」

  女の子「考え事ですか?」

  江戸紫「まぁそんなとこかな。」

  改札を通り、歩きながらホームへ。

  女の子「どんな事です?」

  江戸紫「七夕って何なのかなぁって。」

  女の子「はい?」


12 図書館。江戸紫が窓の外を見る。

  笹の葉を運んでいる数人。楽しそうな顔。

  ノート内容、七夕、短冊、願い事、彦星、織姫


13 青山、バイクで郵便配達。通りの旗。上機嫌。

  手元はグローブを填めている。


14 杉本書店。江戸紫バイト中。黙っている。シャリ、ブランシェアはいない。

  客がレジを済ませ店を出る。

  杉本「ありがとうございました。」

  江戸紫「ありがとうございました。」

  ドアが閉まりきるのを待って杉本

  杉本「挨拶はちゃんとするのね。」

  江戸紫「はい?」

  杉本「どうしたのよ一体。」

  江戸紫「何です?」

  杉本「具合悪いの?」

  江戸紫「いいえ?」

  杉本「悩みがあるならお姉さんに言ってごらんて言っているでしょう。」

  江戸紫「はぁ。」

  杉本「(ワクワクしながら)で?どんな悩み?」

  江戸紫「七夕って何なんです?」

  杉本「は?」


15 ラジオスタジオ。青山がマイクに向かっている。

  青山「いよいよ明日から頼代七夕祭り。」

    「皆様の短冊はチョットだけ届きました。

    「チョットだけって事は皆当日来てくれるのかな。」

    「ここまで大きなイベントするのは始めてで緊張しています。」

    「地元警察、地元消防署、地元商店街の皆さんの協力の元」

    「ようやく辿り着いた七夕祭り。」

    「雨なんて降りませんように。」

    「短冊の願い事に書いておこうかな。」


16 杉本書店内。

  レジの横で本を読んでいるシャリとブランシェア。

  ラジオが流れている。青山のその台詞を聞いて、

  ブラン「あ!」

  杉本「どうしたのよ。」

  ブラン「おっさんは祭りに行くのか?」

  江戸紫「おっさんて。」

  ブラン「行くのか行かないのかどっちなんだこの野郎。」

  江戸紫「行く気はないよ。」

  ブラン「ならいい。」

  シャリ「えーっオッチャンも行こうよー。。」

  ブラン「ダメだ!奴は災害レベルの雨男だぞ!」

  シャリ「あああああーーーっ」

  頭を抱えるシャリ。

  ブラン「留守番決定!」

  シャリ「お土産買ってくるから泣かないでねぇ。」


17 7月7日金曜日

  江戸紫、頼代駅からアパートまで歩く。

  歩道では露店の準備。途中の旗を何度か見る。

  江戸紫アパート、部屋へ。

  PC電源入れてモニターの前に座る。

  手付かず。

  ブラン、シャリが帰宅。

  ブラン「これから木葉達と祭り行ってくる。」

     「お前は来るなよ。」

  シャリ「お土産買ってくるからね。」

  ブラン「オラは何時頃行く?」

  江戸紫「8時くらいかな。」

  ブラン「そうか。じゃオラでな。」

  江戸紫「行ってらっしゃい。」

  

18 頼代駅 中央通り。17時30分過ぎ

  ラジオスタジオ前。

  青山とスタッフが機材を運んでいる。

  青山がシャリとブランシェアを見付ける。

  青山「やぁテンシちゃんアクマちゃん。」

  ブラン「でたな。」

  青山「でた?いたんだよ。いきなりだけどマスコットになってよ。」

  シャリ「青ぶどう?」

  ブラン「条件と内容による。」

  青山「番組中で笹に短冊飾るの一緒に手伝って欲しいんだ。」

    「と言うか、番組中一緒にいてよ。」

  ブラン「うーん。条件次第だな。」

  青山「オラでケーキ。」

  ブラン「ひとつか?」

  青山「いくつほしいんだよ。」

  ブラン「ワタシはひとつでイイけどな。」

  青山「勿論アクマちゃんにも。」

  ブラン「トモダチが3人いるの見えてる?」

  青山「わかった。それぞれにケーキ一つ。」

  ブランが右手を出して握手をする。


19 江戸紫はアパートを出る。

  交通規制の始まった車道では祭りで賑わいつつある。

  人通りの少なくなった歩道を歩き

  駅方面から逆の町の西の丘の上公園へ。


20 中央通りスタジオ前。18:00になり、青山の声。

  青山「18時になりました。」

    「今日は特別番組として、スタジオの外から実況生中継。」

  ブラン「外っても目の前だな。」

  青山「目の前でも外は外。」

    「実にたくさんの方に集まっていただきました。」

  ブラン「単なる通行人のような。」

  青山「それでも構わん!」

    「通行人手当たり次第に強制参加だ。」

  シャリ「おーっ」

  ブラン「やけだな。」

  青山通行人に声をかける。絵に描いたような家族。父、母、娘。

  青山「早速ですが、お父さんの願い事は?」

  父「うーん。家族みんなが幸せになりますように。」

  青山「さすが一家の大黒柱。短冊お渡ししますので是非書いてください。」

    「それではお母さん。願い事は?」

  母「お父さんの禁煙が成功しますように。」

  青山「これはお父さん、厳しい願い事ですね。」

  父「努力します。」

  青山「それではお嬢ちゃんの願い事は?」

  娘「えーと、パパのお嫁さんになること」

  青山「お母さんライバル出現です。」

    「じゃあ願い事書けるかな?」

  娘「うん。」

  ブラン「何てベタうがっ(口を塞がれる)」

  口を塞いだのは桜井。

  桜井「あとで聞いてあげるから。」

  青山「スタジオ前では皆さんの願い事を待ってます。」

    「番組の最後までには皆さんの願い事を書いた短冊を」

    「笹に下げますので、どんどんお持ちください。」

    「ではCMです。」

  マイクを切る青山。ディレクターがカウントしている。

  青山、家族にお礼を言ってブラン達の元へ。

  青山「テンシちゃんもアクマちゃんもいいねー。」

  ブラン「いいのかよ。」

  青山「容赦ない突っ込みでテンション上がるよ。」

  桜井「変な奴だな。」

  シャリ「変人変人。」

  桜井「で、来てやったぞ。」

  青山「おう。とりあえず短冊の取り付け手伝ってくれよ。」

  桜井「結局手伝わされるんじゃねぇか。」

  青山「まぁまぁ、ちゃんと出番は用意するから。」

  桜井「せんでいい。」


21 西の丘の上公園内。江戸紫。他に人はいない。

  中央通りを見下ろしている。


22 ラジオスタジオ前

  多くの人が集まって短冊に願いを書いている。

  シャリ、ブラン、木葉、七夕、早苗も青山の周りにいる。

  東雲、桜井、松田は短冊を笹に下げている。

  猫が三匹、揺れる短冊目掛けてジャンプする。

  青山「ちょっ止めて。」

  シャリ「惜しいっ。ノトさんもうちょっと。」

  青山「惜しいとか止めてっ。」


23 頼代駅前中央通り 祭りの賑わい


24 ラジオスタジオ前。

  笹を立ち上げる青山とスタッフ達。

  周囲から歓声。


25 公園から祭りの様子を見ている江戸紫。

  ベンチに座り、そのまま横になって星空を見る。

  天の川。


26 ラジオスタジオ前。

  機材を片付けるスタッフ。

  あちこちでお疲れ様でした。の声。

  青山「片付けてから行くから」

    「祭り楽しんできてよ。」

  ブラン「ケーキ忘れるなよ。」

  青山「わかってるよ。」

  ブラン「行こうぜシャリ。」

  シャリ「あ、うん。ちょっと待ってよ。」

  片付けを手伝っている桜井達の元へ。

  シャリ「アカリちゃん達はお祭り行けないの?」

  青山「いやいや今から行くとこだ。」

    「あとはコッチでやるから祭り行ってこいよ。」

    「終わったらオラ行くから。」

  桜井「そんな事言って私らにあの子らの保護者役をやれって言ってるな。」

  ブラン「大人しく保護されてやるから行くぞほら。サンゴも。」

  青山「シノは手伝ってくよな?」


27 公園ベンチ、江戸紫が寝ている。


28 オラ店内

  21時近く。江戸紫以外揃っている。

  青山「エド来るって言ったんだろ?」

  ブラン「家で寝てるよ。始めちゃおうぜい。」

  シャリ「うー。」

  杉本「そうね、いないエドが悪い。」

  青山「結構厳しいですねぇ。」

  杉本「お腹空いたから。」

  松田「電話とかは?」

  青山「出ない。」

  東雲「じゃ寝てるな。」

  青山「まぁいいか。」

    「じゃあ簡単に」

    「お疲れ様でしたー。」

  全員ジュース等で乾杯。


29 オラ、食事が済んで空いた皿を下げる店員。

  ブラン、シャリ子供達五人が別テーブルでケーキを食べている。

  桜井「ところで、あの短冊ってどうするの?」

  青山「日曜日まで飾っておいて月曜日には撤去。」

  桜井「その後は?」

  青山「笹から短冊外してまとめて燃やす。」

  松田「燃やしちゃうんだ。」

  青山「みんなの願いが煙になって天に届くかもしれないじゃん。」

  桜井「(無表情に)ああそうね。」

  青山「なんて綺麗な言い訳なんだろう!」

  ブラン達が青山達の席に現れ

  ブラン「木葉達迎え来たから帰るな。」

  女の子たち揃って青山に「ご馳走様でしたー。」

  青山「うん。皆もありがとう。気を付けてね。」

  

30 夜。オラ駐車場。

  七夕、早苗が先に乗り込み

  木葉「送って行くよ。」

  ブラン「いや、保護者を迎えに行くから。」

  木葉「うん?」


31 西の丘の上公園。

  ベンチで寝ている江戸紫。他に人はいない。

  ブラン「起きろおっさん。」

  江戸紫「ん。」

  シャリ「こんなとこで寝てたら風邪ひくよー。」

  江戸紫「うん。」

  体を起こす江戸紫。公園内の時計を見る。

  22時近い。

  江戸紫「こんなに寝てたのか。」

  隣に座るブランとシャリ。

  ブラン「で?七夕って何だか判ったのかよ。」

  江戸紫「まるで判らない。」

     「無粋だって思いが強くなっただけ。」

  シャリ「ぶすい?」

  江戸紫「一年に一回会う機会を祝ってやるから」

     「かわりに願いを適えろって。」

     「おこがましいとは思わんかね。」

  ブラン「本間先生。」

  江戸紫「祝い方も気に入らない。」

     「超遠距離恋愛の二人がようやく出会うってのに」

     「何であんなにドンチャンするのか。」

     「無粋にもほどがある。」

  シャリ「んー。」

  シャリが突然立ち上がりキョロキョロする。

  それを黙って見ている江戸紫とブラン

  シャリが何かを見つけ突然走る。

  江戸紫「なに?」

  ブラン「さあ・・・」

  水呑場にある誰かが忘れた子供用のバケツに水を入れてヨロヨロしながら持ってくる。

  あまりにヨロヨロしているので見かねた江戸紫とブランが近づく。

  江戸紫「何、どうしたの。」

  シャリ「えっとねー、昔の人ってねコレ見てたんだよー。」

  江戸紫「は?」

  シャリ「えっと水の中の星でねー

     「風とかでユラユラしたら近くに行けるの。」

  江戸紫「なるほど。」

  ブラン「今のでわかったのか?」

  江戸紫「水面に星を映して、風吹いたりしたら水面揺れるだろ。」

     「そしたら織姫と彦星が近付くじゃん。」

  ブラン「ふーん。」

  江戸紫「なかなか風流だねぇ。」

  ブラン「で、天の川映ってるの?」

  江戸紫「うん。」

  ブラン「風がねぇな。」

  5,6秒の沈黙

  おもむろにブランシェアがバケツを蹴る。

  シャリ、江戸紫「あ!」

  ブラン「お。」

  シャリ「一緒になったねぇ。」

  江戸紫「うん。」


32 昼 ラジオスタジオ裏。駐車場。

  笹から短冊を外す青山と江戸紫

  それを見ているシャリとブラン

  ブラン「サクラの発見!」

  青山「バレーどうのじゃないの?」

  江戸紫「悪趣味な奴らだな。」

  ブラン「青山さん見事に正解。

     「全国大会出場だってよ。」

  江戸紫「あっ!」

  青山「何だ。誰の短冊だ!」

  江戸紫「いや、そうじゃなくて。」

  青山「何だよ。」

  江戸紫「桜井さんの誕生日プレゼント決まった。」

  青山「何にするんだ?」

  江戸紫「言わない。」


33 しばらく無言で短冊を外す二人。

  シャリ、ブランは相変わらず外された短冊を読んでいる。

  シャリ「大佐のはっけーん。」

  江戸紫「杉本書店世界進出とかじゃない?」

  シャリ「惜しいけど惜しくない。」

     「スギモト世界制覇。」

  青山「すげぇな。」

  短冊外しながら

  青山「そういやお前願い事書いてないだろ。」

  江戸紫「とくに無いから。」

  青山「このままのつもりなのか?」

  江戸紫「は?」

  青山「80年代のラブコメ野郎。」

  江戸紫「何?」

  青山「それはともかく、お前はこのままのつもりか?」

  江戸紫「ともかく?」

  青山「ずーっと本屋のバイトなのか?」

  江戸紫「正社員になれって?」

  青山「それもいいさ。」

  江戸紫「何が言いたいんだよ。」

  青山「別に。」


33 夜 オラ、食事中。

  江戸紫紙袋を桜井に渡す。

  桜井が開けると中からシューズ。

  ナイキ、airforce1

  江戸紫「桜井さんにはお世話になったから。」

     「試合はチームカラーあるだろうから練習用にどうぞ。」

  桜井「ありがとう。でもサイズとかよく判ったね。」

  江戸紫「松田さんに聞いたよ。」

  桜井「聞かれてないよ?」

  江戸紫「二人で食事に行ったときに座敷上がらなかった?」

  桜井「上がった。」

  江戸紫「こっそり見てもらったんだ。」

  桜井「手の込んだ事するな。」

  江戸紫「まぁそれくらいはね。」

  桜井、さらに小さな袋を二つだす。

  ブラン「そっちの鹿島神宮の勝守りがワタシから。」

  シャリ「シャリからは闘魂~。」

  桜井「闘魂?」

  桜井が袋を開けると、お守りが入っている。

  一つが鹿島神宮の勝守り。一つが白峯神宮のスポーツ闘魂守。

  桜井「シャリもブランシェアも、実は日本人なんじゃない?」

  江戸紫「僕もそう思う事あるよ。」

  青山「そもそもテンシとかアクマって何だよ。」

  桜井「(笑顔で)とにかく嬉しいよ。ありがとうふたりとも。」

  桜井「で?」

    「他の皆も何か用意してたりするんだろ?」

  青山「すまん!」

  東雲「すまん!」

  青山「かんっぺきにお前の誕生日忘れてた!」

  東雲「右に同じ!」

  桜井「仕返しか。」

  杉本手を挙げながら

  杉本「はい!」

  桜井「はい杉本さん。」

  杉本「そもそもサクラちゃんの誕生日知らない。」


 七夕ってのは何なのか、結局はっきりとは判らないままだ。

お盆のような行事だったり、地域によってはハロウィーンのような行事だったり。

お祭りになったのは随分と後になってからだろうし

二人が離れ離れになったのだって自業自得説が多いのも事実。

それでも祝福してやるから願いを叶えろだなんて、

僕にはどうしても言えない。

でも空気が悪くなるからそれも言えない。

だから黙っている。


せめて二人の再会を邪魔しないように。


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