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明日は晴れると思う  作者: 奏路野仁
4/13

4話

挿絵(By みてみん)

第四話


00 午後6時 頼代駅前 中央通り ラジオスタジオ

  ガラス張りのブース内

  青山「皆新しい景色にはもう慣れたかな。」

    「今日4月12日はガガーリンが「地球は青かった」と言った日だ。」

    「彼はその景色を地球上の誰よりも早くその目で見たんだ。」

    「きっと恐怖はあっただろう。不安で潰されそうだっただろう。」

    「それを乗り越え目にした景色は、どれほど素晴らしいだろう。」

    「皆の新しい世界が、素晴らしい景色でありますように。」

    「曲は、What A Wonderful World。ジョーイ・ラモーンがカバーです。」


01 18時過ぎ 杉本書店内。シャリとブランが休憩室で宿題をしている。

  書店内。

  杉本「(お客を見送りながら)ありがとうございましたー。」

  自動ドアが閉まる。周囲を見渡す江戸紫。お客がいないのを確認。

  江戸紫「あの。」

  杉本「うん?」

  江戸紫「あの2人、毎日何時頃お店に来てます?」

  杉本「そうねぇ。曜日によって違うでしょうけど

    3時とか4時頃じゃない。」

  江戸紫「いつも2人だけですか?」

  杉本「ええ。」

  江戸紫「そうですか。」

  杉本「何か心配事?」

  江戸紫「心配ってほどではありません。」

  休憩室のドアが開く。

  ブラン「宿題しゅーりょー」

  シャリ「(回りながら)しゅーーりょーーー」

  近づいてくるブランシェアとシャリシャリに

  江戸紫「学校楽しい?」

  シャリ「たのしー。」

  ブラン「何だよ急に。オヤジ丸出しじゃねぇか。」

  シャリ「オヤジは丸出ししちゃダメだよねー。」

  江戸紫「お前は何を言っている。」


02 オラ店内。そこそこの混みよう。

  桜井、松田と入店。

  桜井「まだ誰も来てないな。」

  松田「青山君たち7時過ぎないと来ないよ。」

  桜井「あいつら毎日来てるの?」

  松田「うん。平日は毎日打ち合わせ。」

  桜井「ラジオの?」

  松田「うん。でも考えているのはエドで

    「青山君は取材がメインみたい。」

  桜井「取材?」

  松田「お店のお客さんに話を聞いているの。」

  桜井「営業妨害じゃないか。」

  松田「店長公認。ラジオでお店の宣伝もしてるから。」

    「それに最近じゃお客さんから青山君に声かけるよ。」

  桜井「何の取材なんだか。」

  松田「日常のひとコマが欲しいんだって。」

  桜井「やけに詳しいな。」

  松田「聞いたら嬉しそーに答えてた。」

  桜井「(笑って)話したくてたまらなかったんだな。」

  松田「そうみたい。」

  桜井置かれた水を一口。

  桜井「で?二人はどの程度の付き合いしてるの?」


03 杉本書店内。後片付けの最中。シャリ、ブランは奥の部屋。

  杉本「で、悩みって?」

  江戸紫「はい?」

  杉本「勿体ぶらずにお姉さんに言ってごらん。ん?」

  江戸紫「何です、そのキャラは。」

  杉本「さっき心配事があるって言ってたでしょう。」

  江戸紫「ああ。」

  杉本「それをお姉さんが聞きましょうって言ってるのよ。」

  江戸紫「でもあの二人の事ですから。」

  杉本「いいからいいから。」

  江戸紫「あの二人、真っ直ぐここに来ている気がして。」

  杉本「自分でそうしろって言ったじゃん。」

  江戸紫「そうなんですけど、放課後遊んで来ないのかなぁ。と。」

  杉本「うん?」

  江戸紫「つまり、友達がいないんじゃないかと。」

  杉本「ああ、そういう事。」

    「気になるなら直接聞けばいいのに。」

  江戸紫「お前たち、学校はどうだい?友達できたのかい?」

    「って?」

  杉本「そうよ。」

  江戸紫「それこそオヤジ丸出しじゃないですか。」

  杉本「オヤジは丸出ししちゃダメよねぇ。」

  江戸紫「アンタも何を言っている。」


04 オラ店内。

  全員揃っている。食事中。

  桜井「ブランシェアちゃんもシャリシャリちゃんも友達できた?」

  江戸紫、テーブルの下で手だけガッツポーズ

  ブラン「今度は母親丸出しがいるぞ。」

  シャリ「母親も丸出し-」

  江戸紫「(遮って)それ以上言うな。」

  ブラン「友達ねぇ。

    「そう言えば軍曹以外は学生からの友達なんだよな。」

  杉本「青山君て、何となくプレイボーイって感じじゃない?」

  青山「なんです急に。」

  杉本「エドって、くそ真面目でオタク野郎みたいな感じじゃない?」

  江戸紫「きっと悪口だ。」

  杉本「そんな二人がどうしてトモダチになったの?」

  江戸紫「ナンだったらこいつのがオタクですよ。」

  青山「お前こそプレイボーイだろうがよ。」

  江戸紫「お前が言うな。」

  青山「お前もなー。」

  江戸紫「この隠れ文学青年め。」

  青山「そりゃ褒め言葉じゃねぇか。」

  東雲「まぁ似た者同士って事で。」

    「そう言えば二人で舞台に立ったりしたもんな。」

  杉本「何その舞台って。」

  青山「(東雲に)お前はチョット黙っとけ。」

  ブラン「詳しく聞こうか。」


05 高校、体育館。体育の授業、バスケの試合中。

  一つのコートで男子、半分女子。

  江戸紫ドリブルからパス。

  青山受けて、フェイク、シュート。ゴール。

  女子の歓声。味方に囲まれる青山。

  江戸紫は近寄らない。

  男子A「さすがバスケ部のキャプテン。」

  男子B「だてに全国まで行ってないなー。」

  その後試合風景。江戸紫はパスの場面。青山はシュートの場面。

  高校、教室、授業風景。数学。

  江戸紫、教科書の間に小説。

  休み時間、頬杖をしながら読書をする江戸紫。

  周囲では話し声、笑い声。

  青山が江戸紫の席に座る。

  青山「ナイスパス」

  江戸紫は顔を上げずに「うん」とだけ答える。

  青山「何読んでるの?」

  江戸紫は黙ってその本を立て、青山に背表紙を見せる。

  『老人と海』

  青山「渋いの読んでいるね」

  江戸紫は目線を上げない。

  青山「俺も3,4回読んだよ。」

  江戸紫「(本を読みながら)5回目か6回目。」

  青山「時々さ、あのじいさんの見るライオンの夢のとこが読みたくなってさ。

    「それで最初から読み直すんだ。

    「途中から読んでもダメだ。ましてあの場面だけを読むなんて馬鹿げている。

    「最初から読んで、ゆっくりと読み進んでアレにたどり着きたいね。」

  江戸紫が顔を上げる。

  青山「他には?」

  江戸紫は鞄の中から無造作に4冊の文庫を出す。

  カフカ『変身』ヘッセ『車輪の下』

  モンゴメリ『赤毛のアン』オースター『ムーンパレス』。

  青山「これ知らないな。」

  青山は『ムーンパレス』を手に取る。

  江戸紫「面白いよ。」

  青山「ちょっと探して見るか。」

  江戸紫「それ読んだから貸すよ。気に入ったら買えばいい。」

  言い終えると同時に始業チャイムが鳴る。

  青山は本を手に取り

  青山「それじゃ遠慮なく借りるよ。」

  席に戻る青山の後姿を見る江戸紫。


06 オラ店内

  ブラン「お前らの出会いの話なんてどうでもいいよ。」

    「舞台がどうのはどうなったん?」

  東雲「文化祭でさ」

  桜井「あ!」

    「文化祭って、アオの隣にいたのエドだったんだ。」

  松田「え?今わかったの?」

  ブラン「何だよっ遮るなよっ。」

  シャリ「ワカルよーに言ってよー。」


07 高校、HR。黒板には「文化祭の催し物」の文字。

  その下に「喫茶店」の文字。

  生徒A「ありきたりじゃないか。」

  生徒B「お化け屋敷とかどうなん?」

  などなど雑談。

  青山「いんちょー。俺とエドは不参加ねー。」

  江戸紫「は?」

  生徒C「(青山に)何で参加しないんだよ。」

  青山「実行委員会から別枠で参加要請きてるんだよ。」

  江戸紫「いや、聞いてないんですけど。」

  青山「今言ったから。」


08 オラ店内

  江戸紫「ヒドイ奴でしょ。」

  青山「驚かしてやろうと思ってさ。」

  東雲「お誕生会じゃ無いんだから。」

  ブラン「お前ちょっと黙っとけ。」

  桜井「で?」

  青山「あぁ、その実行委員会からさ

    文化祭でライブやるから盛り上げ役で参加してくれって依頼が来たんだよ。」

  江戸紫「元々は参加者募集形式だったんだけど

    コイツのとこには委員会から参加要請があったんだ。」

  シャリ「その実行委員の委員長は女だな。」

  青山「どうして判った?」

    「でさ、最初は断ったんだけど、

    「コイツ誘って舞台立たせたら面白そうだと思ってね。」

  江戸紫「ヒドイ奴でしょ。」


09 青山宅。部屋でアコースティックギターを持つ二人。

  江戸紫「ギター弾いた事無いんだけど。」

  青山「平気平気。コード押さえてリズムとってくれればいいから。」

  江戸紫「何語喋ってるかすら判らないんだけど。」

  青山「えーと。コレ。」

  青山が自分のギターでコードを押さえて鳴らす。

  青山「こんな感じ。」

    「簡単な譜面書いたから。」

    「譜面って言ってもコード進行だけだからさ。」

  江戸紫「フメンとかコードとかって何ですの。」

  青山「いいから覚えろ。」

  

10 オラ店内

  江戸紫「ヒドイんですよ。」

    「この時何でギターなんか弾かされているのかすら聞いてないんですよ。」

    「何でギターなんか。て聞いたら」

  青山「いいから弾け。」

  江戸紫「指の皮ベロベロになるまで弾け。だろう。」

  杉本「で、結局弾けるようになったの?」

  江戸紫「弾けるって言っても、丸暗記ですよ。」

    「だからソレしかできないんです。」

  青山「ホントに指の皮剥けたもんなぁ。」

  ブラン「(江戸紫を見ながら)へー。」

  江戸紫「へーて何。」

  ブラン「(無視して)で?それから?」

  青山「ソレから歌だよ。」

  杉本「歌?」

  青山「ギターができたら歌でしょう。」

  江戸紫「コレがまたヒドイ。」


11 青山宅

  江戸紫「弾きながら歌うの?」

    「どうやって?」

    「何でそんなこと出来るの?」

  青山「ごちゃごちゃ言わずに歌え。」

  江戸紫「ちょっとゴメン、

    「そもそも何で歌わなきゃならないのか聞いてないんだけど。」

  青山「言ってないもん。」

  江戸紫「えっと、言ってくださる?」

  青山「もうちょっと待て。」

    「言ったらイヤだって言うから。」

  江戸紫「イヤだって言われるような事させるつもりか。」

  青山「まぁちょっと付き合ってくれよ。」

    「最後までやってみて、どうしても嫌だって言うなら一人でやるから。」


12 オラ店内

  青山「それから練習の毎日だったなぁ。」

  東雲「雨の日も風の日も槍の日も練習練習。」

  ブラン「今度喋ったらこの先お前が注文する食べ物にタバスコ投入する刑な。」

  シャリ「瓶ごと。」

  青山「アレは恥ずかしかったなぁ。」

  江戸紫「凄く恥ずかしかった。」

  青山「練習する場所が無くてさ、何処行っても誰かしらいるし、

    「人いないところってスゴイ静かだし。」

  江戸紫「ギター持ってるフリだけして屋上で歌ったりね。」

  青山「やったなぁ。」

  杉本「で、結局何歌ったのよ。」


13 体育館。文化祭。ステージ袖で出番を待つ数組。

  ステージ上ではロックバンド(日本のバンド)のコピー。

  ウマク無い。

  客の生徒たちは立ち見。制服姿、普段着(外部の人)

  桜井、松田の姿もアリ。

  客席はそこそこの盛り上がり。

  再びステージ袖。

  青山「緊張してきたー。」

  江戸紫「そう?」

  青山「お前緊張しないの?」

  江戸紫「してるよ。」

  青山「そんなふうに見えないけどな。」

  江戸紫「アンタも緊張してる割には嬉しそうだね。」

  青山「何かこう盛り上がってくるよな。」

  江戸紫「いいや。」

  青山「何かこうワクワクしてくるよな。」

  江戸紫「いいや。」

  青山「あぁそう。」

  ステージ上のバンドの曲が終わる。

  生徒たちの拍手。ステージ袖に戻ってくるバンドメンバー。

  青山が一言二言声をかける。

  ステージ上では片付けが行われている。

  江戸紫は溜息。


14 オラ店内

  杉本「何で溜息?」

  江戸紫「何でこんなことやってるんだろ。て思って。」

  青山「人がテンション高くしてるってのに

    隣で溜息なんざつきやがったもんなぁ。」

  江戸紫「(杉本に)判るでしょ?」

  杉本「何が?」

  江戸紫「コイツと一緒にステージ出たら完全に引き立て役。」

  松田が何かを言おうと口を開くが何も言わない。

  江戸紫「ソレ思ったらヤメたくなりましたよ。」

  青山「でもお前何も言わなかったじゃん。」

  江戸紫「どうでもいいやて思ったんだよ。」

  桜井「なげやりねー。」


15 体育館。文化祭ステージ。

  片づけが終わる。生徒たちは雑談をしている。

  青山「そろそろかな。」

  江戸紫「だね。」

  実行委員のアナウンス

  「続いてはブルーアンドパープルです。」


16 オラ店内

  ブラン「ブルーアンドパープル?」

  青山「ブルーアンドパープル」

  杉本「ぶるーあんどぱーぷる?」

  江戸紫「ぶるーあんどぱーぷる」

  ブラン「ワハハハハ」

  シャリ「ウヒャヒャヒャ」

  松田と桜井もクスクス笑っている。

  東雲「そのまますぎる。」

  青山「お前はタバスコの刑だな。」

  ブラン「ワハハハ。

    「いやいい!今回は許す!」

  シャリ「ウヒャヒャヒャ」


17 体育館。文化祭ステージ上。

  二人はギターを片手に抱え、もう片手にパイプ椅子。

  青山は笑顔で登場。江戸紫はうつむいている。

  客の一部からキャーと聞こえる。

  「あおやまくーん」の声援も。

  軽く手を振るとまたしてもキャー。

  黙々とセッティングをする江戸紫。

  座ってギターを二度鳴らす(チューニングの確認)

  青山も座って同様に。

  場内はまだ少しザワついている。

  多少ザワつきの残る中、青山がイントロを弾く。

  続いて江戸紫がギターを合わせ、

  二人で同時に歌い始める。


18 オラ店内

  青山「三曲やって殆ど反応無かったよな。」

  江戸紫「今時の若いのビートルズ聞かないのかもな。」

  桜井「誰の歌なのか知らなかった。」

  松田「ワタシも。」


19 体育館 ステージ上

  最後の曲が終わるとパラパラと拍手。

  現れた時とは異なる反応。


20 オラ店内

  江戸紫「あれでコイツの人気は相当落ち込んだ筈。」

  杉本「そんなに酷いデキだったの?」

  松田「そうでも無いですよ。」

  桜井「ホント、知らなかっただけだよ。」

    「他の連中のが酷かったけど、皆知っていたから。」

  青山「やめて。余計惨めになるから。」


21 朝。頼代駅前中央通り。通勤・通学中の人達。

  ブラン、シャリ、江戸紫。

  黒猫が横切る。

  江戸紫達の背後から少女が走ってくる。

  少女「ちょっとそこどいてー」

  江戸紫が声に振り向き道を譲る。

  見るとその後ろから犬が尻尾を振りながら走る。

  黒猫が驚いて飛び上がる。

  少女は猫を受け止め一緒に走る。

  さらに後ろから同学年らしき2人の少女が後を追い走り去る。

  江戸紫「ちょ。助けないと。」

  ブラン「いや大丈夫だ。任せろ。」

  シャリ「ノトー」

  江戸紫「のと?」

  ブランとシャリがその後を追い、江戸紫も続く。

  ブラン、シャリはそのまま校内へ。

  江戸紫は校門前で止まる。

  ブラン「大丈夫だよ。あとは任せろー。」

  と言いながら消える。

  江戸紫戸惑いながらも引き返す。

  少し歩くと、上から少女が降ってくる。

  少女「お兄さん。すみません。」

  江戸紫「うわあぁっ。はい。」

  少女「この子を連れて逃げてください。」

  江戸紫「は?」

  少女は無理矢理黒猫を江戸紫に預ける。

  少女「この道真っ直ぐ戻れば勝手に飛び降りるので。」

    「ヤバイ来たっ。じゃ頼みます。」

  江戸紫が少女の見ていた方を見ると犬が走って来る。

  再び少女に振り返ると学校内へと走った。


22 頼代小学校内。4年1組。

  教師が出席を取る。

  教師「(たちばな) 木葉(このは)はお休みかな。誰か聞いてる?」

  ブラン「犬に追い掛けられていました。」

  先生「そんな漫画みたいな」

  教室のドアが慌ただしく開き少女が駆け込み閉める。

  教師「橘。遅刻だぞー。」

  木葉「すみませんっ犬に追い掛けられていますっ。」

  ドアをガリガリする音がする。犬、吼える。

  先生「います?」

  いつの間にかブランシェアがドアのとこにいる。

  ブラン「証拠をお見せしましょう。」

  先生「やめなさ」

  ガラッ。

  犬。


23 頼代駅前中央通り

  江戸紫、黒猫を抱いて歩く。

  江戸紫「こっちでいいの?」

  黒猫は無言で抱かれるまま。

  しばらく歩き、最初に黒猫を見た場所に戻ると

  黒猫は身をよじって飛び降りる。

  江戸紫「おっと。ここでいいのか。」

  黒猫は江戸紫の足元に二度頭を擦り付け歩いて去る。


24 小学校 4年1組

  男性教師が三名、犬の首輪にリードを付けて連れて行く。

  教室内は机がいくつか倒れている。

  教室「さあHR始めるぞー。」

  シャリ「(木葉に)ノトさんどうしたの?」

  木葉「二人と一緒にいたお兄さんに預けた。

    「いい人そうだったけど大丈夫だよね。」

  ブラン「アイツなら大丈夫。でもどうして追われてたんた?」

  木葉「体質?」


25  頼代駅前中央通り。映画館パラダイス前。

  看板「5月エイリアン特集」を眺める江戸紫。

  背後から「エド?」と彼を呼ぶ女性の声。

  江戸紫「はい?」

  振り返ると桜井。

  江戸紫「あれ?お仕事は?」

  桜井「今日は休み。うちはシフトだから。エドこそバイトは?」

  江戸紫「夕方からです。」

  桜井、江戸紫の肩越しに看板を覗く。

  桜井「来月何やるの?」

  「エイリアンコップ」「エイリアンネイション」「花嫁はエイリアン」

  江戸紫「なんというか悪意すら感じる。

  桜井「アハハハハ。さすが。ここはこうでないと。」

  江戸紫「まぁそうなんですけどね。」

  桜井 「あーーーーっ」

  江戸紫「何です急に。」

  桜井「いつもいつも一人でいる人ってもしかしてエド?」

  江戸紫「は?」

    「あ!いつもいつもギリギリに入ってエンドロールで帰るのって桜井さん?」

  桜井「ソレってイヤな印象だな。」


26 映画館パラダイス内

  中央やや後方の席、江戸紫と桜井が並んで座っている。

  大きなポップコーンを二人でつまむ。

  他に客は無し。

  スクリーンでは「サボテン・ブラザース」

  同じ場面で笑う二人。


27 杉本書店内

  正面出入り口。ドアが開くと同時に

  杉本「いらっしゃいませ。」

  ブラン「いらっしゃいましたー。」

  杉本「いい加減裏から出入りしないと出入り禁止にするわよ。」

  ブラン「ふふん。今日はお客を連れてきた。」

  杉本「偉いっ。褒めて使わす。」

  ブランとシャリの後に続き橘木葉が入店。

  木葉「こんにちはー。」

  杉本「木葉ちゃん。いらっしゃい。」

  ブラン「何だ知り合いか。」


28 パラダイス、ロビー。江戸紫は受付で5月の予定表を貰っている。

  桜井「青山は自分で取りに来ないの?」

  江戸紫「うん。」

  桜井「自分でさせな。」

  江戸紫「食事代だと思えば安いよ。」

  桜井「本人がイイって言うならイイけどね。」

    「このアト何か予定あるの?」

  江戸紫「夕方からバイトであります。」

  桜井「杉本さんて厳しい?」

  江戸紫「いや、そんな事無いよ。」

  桜井「あなたたち付き合ってるんでしょ?」

  江戸紫「そうなの?」


29 オラ

  江戸紫と桜井が向かい合いで座る。

  江戸紫「平日ランチは初めてですか?」

  桜井「うん。昼休みにここまで来る余裕は無いかな。」

  江戸紫き「今日みたいに映画後でも?」

  桜井「エドって一人飯できる人?」

  江戸紫「無理です。コンビニで買って帰ります。」

  桜井「私も。」


30 杉本書店内、出入り口近く。

  木葉「じゃあねー。」

  シャリ「また明日ねー。」

  ブラン「バイバーイ。」

  杉本「また来てねー」

  橘木葉、自動ドアが開くと静かに顔だけ出して

  周囲を確認してから走る。

  杉本「大変ねー。」

  ブラン「軍曹でもどうにもならんか。」

  杉本「犬猫にじゃれつかれない方法なんて本は見たことない。」

  ブラン「知り合いだったんだな。」

  杉本「知り合いってほどじゃないよ。神社の子で有名だから。」

  シャリ「オッちゃん来た。」

  裏口、江戸紫が入ってくる。

  江戸紫「こんにちわー。」

  杉本「ホントだ。」

  シャリ「おかえりー。(走って江戸紫の元へ)」

  杉本「(ブランに)何で判るの?」

  ブラン「ワタシに聞くない。」

  杉本「あの子に聞いたってワガンネって言うだけじゃない。」

  江戸紫「どうかしたんですか?」

  シャリが江戸紫の手を引っ張って歩いてくる。

  杉本「二人がお客様を連れ込んだのよ。」


31 杉本書店内。客無し。

  江戸紫、杉本が本の整理。シャリ、ブランは奥で宿題。

  杉本「二人がお友達連れてきたの。良かったね。」

  江戸紫「良かった。のでしょうね。」

  杉本「変わってるけどイイ子よ。」

  江戸紫「知っている子ですか?」

  杉本「この街じゃ知らない人はいないわ。」

    「あ、あなた一年もこの街にいてあのノトちゃんの事も知らなかったのね。」

  江戸紫「ノトちゃん?」

  杉本「朝黒猫とすれ違ったんでしょ?」

  江戸紫「ああ。はい。そう言えば。」

  

32 ラジオスタジオ。

  ガラス張りのブースをそっと覗き見る桜井。

  青山が気付く気。マイクに向かい喋りながら手招き。

  ジェスチャーで脇の入り口へ回れと合図。

  青山ドアまで行き、開ける。

  青山「どうしたんだよ。こんな時間に。」

  桜井「今日休みだったから様子を見にね。」

    「今平気なのか?」

  青山「ああ、曲だから平気。

    「もうちょっとで終わるからそっちの調整室で待ってろよ。」

  青山の話すブースの奥、機械の置いてある部屋。

  桜井「失礼します。」

  D「どうぞ。もうすぐ終わるから適当に座ってて。」

  桜井「お邪魔してスミマセン。」

  D「青山くんの彼女?」

  桜井「冗談でも止めてください。」

  ラジオ番組をガラスの向こうで眺める桜井。

  マイクに向かって喋る青山。

  D「曲開け5秒前~4,3,2、1入ります。」

  青山「そうか、人によっては今度の土曜日からゴールデンウィークだ!」

    「皆様素敵な連休をお楽しみください。

    「でもいつもの通りラジオは聞いてね。」

  青山「プリーズ・ミスター・ポストマン。お相手は青山翔。また来週。」

  D「はいお疲れ様ー。」

  青山「お疲れ様です。ちょっと待ってくださいね。」

  青山ブースから出て桜井に

  青山「で、どうしたんだよ。」

  桜井「だから様子見に来ただけだって。」

  青山「仕事は?」

  桜井「休みだって言ったろ。」

  青山「フーン。これから打ち合わせあるけどそれ終わるまで待ってよ。」


33 ラジオスタジオからオラへの道中。

  通行人は青山に気付いて挨拶。青山も笑顔で挨拶を返す。

  青山と桜井、オラへ向かう。

  青山「で、折角の休みに何処か行ったのかよ。」

  桜井「ああ、シアターパラダイスで」

  と言いかけたところで別の通行人に挨拶をされる青山

  通行人「やあアオ。」

  青山「やあ、調子はどう?」

  通行人「いいよ。」

  青山親指を立てる。

  (この間お互いに立ち止まらずすれ違う。)

  オラへの道中数人に挨拶される。

  老若男女問わず。一言ずつだが、青山は全員に笑顔で挨拶する。

  オラ入り口、青山がドアを開けながら

  桜井「毎日あんな感じなのか?」

  青山「何が?」

  桜井「殆ど全員に挨拶してただろ。」

  青山「ああ、もう習慣だな。」

  松田「いらっしゃいませー。」

  青山「こんばんわ珊瑚ちゃん。」

  松田「こんばんわ。あ朱里ちゃん。いらっしゃい。どうぞ。」

  席を案内する松田。青山、桜井の順に歩き、桜井は青山を見ている。

  

34 オラ店内。食事中。

  青山「ところで皆、ゴールデンウィークの予定は?」

  杉本「(顔も上げずに)仕事。」

  江戸紫「バイト。」

  松田「バイトかレッスン。」

  桜井「仕事。」

  東雲「普通に仕事。」

  青山「皆稼ぐなぁ。」

  桜井「サービス業だからな。」

  ブラン「何処か連れてけ。」

  シャリ「連れてけー。」

  ブラン「エドのボケには稼いでもらわないとだから。」

  シャリ「連れてけー。」

  青山「何処行きたい?」

  ブラン「お。ホントに連れてくのか。」

  青山「いや聞いてみただけ。」

    「1日くらい皆の休みが揃うって日は無いのか。」

  杉本「世間様が休日のトキこそ稼がなければならない商売でして。」

  松田「私もです。」

  桜井「それにだいたい、殆ど毎日こうして揃ってるしなぁ。」

  青山「そういうモンでも無いんだよなぁ。」

  江戸紫「どういうモンなのかね暇人くん。」


35 オラ店内

  杉本、スマホで4月のカレンダー、29日から指差しながら

  杉本「仕事、仕事、休み、以下仕事。」

  青山「1日って月曜じゃん。」

  杉本「そうよ。」

  青山「意味無いすね。俺が仕事。」

  ブラン「軍曹の休みが無意味だなんて凄い事言うな。」

  青山「いやそういう意味じゃ。」

  ブラン「罰として何処か連れてけ。」

  青山「罰って何。」

  杉本「そうね、罰ね。」

  ブラン「ワタシと遊ぶのが罰みたいな言い方なのは無視してやるから。」

  シャリ「だって罰じゃん。」

  青山「エドはどうなんだよ。」

  江戸紫「えーと、仕事、仕事、休みで・・・」

    「(杉本に)5月のシフトどうでしたっけ?」

  杉本「いつでもイイわよ。」

  江戸紫「じゃ今まで通り月金休みって事で。」

    「あ、5日は出勤しますよ。」

  ブラン「(青山に)な?コイツらと遊べないから。」

    「何処か連れてけ。」

  シャリ「連れてけー。」

  青山「あー。じゃあ期待しないで待ってろよ。」

  ブラン「お!言ってみるもんだなー。」


36 頼代駅前中央通り。江戸紫、ブラン、シャリ帰り道。

  江戸紫「午前中なら時間あるから何処か行きたいなら連れてくよ。」

  ブラン「別に何処って事は無いよ。」

    「1日家にいるのも面白く無いからさ。」

    「それに明日は木葉んとこ行くって約束したし。」

  江戸紫「木葉?神社の子だっけ。」

  ブラン「そう。」

  江戸紫「ふーん。」

  ブラン「何だよ。」

  江戸紫「友達できたんだな。」

  ブラン「(チョット間をおいて)

    (笑顔で)うん。できたよ。」

  江戸紫「(笑顔で)そうか。」

  歩く後ろ姿でフェードアウト、声も小さくなっていく。

  その会話

  ブラン「朝黒猫見たろ?あれ魔女の黒猫なんだぞ。」

  江戸紫「魔女?」

  ブラン「ノトさんて言うんだよー。

  フェードアウト


37 江戸紫 モノローグ

  小学4年。大した思い出はない。

  親の仕事で引っ越ししてトモダチが目の前から消えて

  それ以降殆ど一人で過ごしていた。

  幸運なのだろうか

  高校生になってようやく「トモダチ」と呼べる存在と出会う。

  彼は人気者で、僕に欠けている全てを身に付けていた。

  もし、小学生の頃引っ越しもせずトモダチがたくさんいて

  皆と楽しく遊んでいたのなら、きっと彼は僕に声を掛けなかっただろう。

  それを思うから、幸運だった。

  テンシとアクマにトモダチができて、喜んでいるのは

  きっとあの頃の僕を思い出したから。


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