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明日は晴れると思う  作者: 奏路野仁
2/13

2話

江戸紫 然 雨男 杉本書店にてアルバイト フリーで翻訳の仕事

青山 翔 ポストマン ボランティアで地元ラジオ局DJ

東雲 健太 大手自動車会社勤務 法人営業部 柔道部のスポーツ推薦入社

杉本 茜 杉本書店の二代目 通販大手に勝ちたい

松田 珊瑚 スペイン料理店「オラ」でバイト 声優目指して日夜レッスン

桜井 朱莉 大手自動車会社勤務 営業事務 バレー部のスポーツ入社

ブランシェア・ラクシーニュ 自称テンシ

シャルロ・ステファヌス・アートルメクス 自称アクマ

「テンシ」ブランシェア右と「アクマ」シャリシャリのイメージ画像

挿絵(By みてみん)

第二話


00 午後6時 頼代駅前 中央通り ラジオスタジオ

  ガラス張りのブース内

  青山「明日から4月。Aprilの語源は開花。

    「冬が無ければ春の喜びは無い。って誰かが言っていた。

    長く寒い季節を終えて、力いっぱい花を咲かせたい。

    そんな春はもうすぐです。」

    「僕は春って言うと、旅とか冒険って言葉を思い浮かべる。

    新品のランドセルを見ると

    あの幼い子は新しい世界に飛び立ったんだなぁって。

    大人になると、それがとても狭い世界なのだと気付くけど

    当時はそれが全てだった。」

    「春。springって言葉には、躍動するって意味もあるんだね。

    次の曲はDavid BenoitでWaiting for Spring。」


01 夜 江戸紫宅

  江戸紫と子供二人がテーブルを挟み向かいあう。

  江戸紫は学校への編入手続き書類を手にしている。

  江戸紫「君がブランシェア・ラクシーニュ。」

  ブラン「ブランでいいよ。」

  江戸紫「で、君がシャルロ・ステファヌス・アートルメクス。」

  ブラン「こいつはシャリでいい。」

  江戸紫「えーと、イロイロと聞きたい事はある。」

    「昨日の夜突然現れて泊めてくれ。」

    「僕が起きたらもういなくて。」

    「で、また今日もいる。」

    「この用紙によると僕は二人の保護者にされている。」

    「何がどうなってこうなった?」

  ブラン「あー。メンドくさいから今日は寝る。」


02 朝 頼代駅前中央通り、歩道。さほど多くない通行人。

  江戸紫を中央に右にブラン。左にシャリ。シャリは江戸紫と手を繋いでいる。

  ブラン「何度も言うけど、お前達は余計な事言うなよ。」

  江戸紫「お前って。君言葉悪いよ。」

  ブラン「判ったのか?」

  シャリ「(繋いでいない側の手を上げ元気に)はぁい。」

  江戸紫「保護者扱いなのに黙ってろって?」

  ブラン「何も判っていないのに何喋るつもりだよ。」

  路地に入り、しばらく歩くと「頼代小学校」へ。

  校門から中に入り、事務室へ。

  江戸紫「江戸紫と申します。転入の手続きで・・・」


03 頼代小学校の校門を背。封筒から書類を出して見るブランシェア。

  1歩後ろに江戸紫とシャリが手を繋いでいる。

  ブラン「よしっ。必要な物を買いに行くぞ。」

  江戸紫「ちょっと待った。誰が買うの?」

  ブラン「心配するな。お金ならあるから。」

  江戸紫「いろいろと説明を要する事があるな。」

  ブラン「まぁ追々説明するから。そんなに慌てるな。」

  シャリ「そうそう。オッチャンは今まで通りしていればイイの。」

  江戸紫「オッチャンて言うな。」

    「いやいやそんな事よりもだね。えーっと。」

    「えーっと、何から聞いていいか判らん。」

  ブラン「だからそのうち判ってくるよ。」

    「先ずはっと、上履きと体操服が学校指定だな。」

    「なんて読むんだ?この店で売ってるって書いてあるから連れてけ。」

  ブラン「その後ショッピングモール行くぞ。」


04 駅前からバスに乗る三人。


05 ショッピングモール内レストラン。買い物袋3つ。12時半頃。

  江戸紫が一人、シャリ窓際、ブラン通路側に座る。

  水を飲みながらメニューを見る3人。

  江戸紫「他に必要な物は?」

  ブラン「んー、ランドセルは今日あたり届くだろうから、

    給食(着)袋と雑巾2枚。」

  江戸紫「ふーん。何処に売ってるって?」

  ブラン「作るんだよ。」

  江戸紫「誰が。」

  ブラン「(江戸紫を指差し)保護者が。」

  江戸紫「何でだ?」

    「いや、待て、だいたいうちに裁縫道具なんて無い。」

  ブラン「じゃあ買え。」

  江戸紫「裁縫なんて出来ない。」

  ブラン「ちっ」

  江戸紫「ちっとか言うな。」

  ブラン「ガールフレンドに頼め。」

  江戸紫「そんなもんいないよ。」

  ブラン「ちっ」


06 ショッピングモール内 レストラン

  食事中。ブランシェアとシャリシャリが2人でピザ。

  江戸紫はスパゲティ。

  江戸紫「いくつか質問があるけど。いい?」

  ブラン「どうぞ。」

  江戸紫「今まで何処にいたの?」

  ブラン「実家。」

  江戸紫「どうしてうちに来たの?」

  ブラン「学校に近いから。」

  江戸紫「いやいや、どうして僕のうちなんだ?って意味。」

  ブラン「だから近いからだよ。」

  江戸紫「いやいやいや、例えば両親が親戚だとかさ、

    個人的な繋がりとかって意味。」

  ブラン「何も無いよ。」

  江戸紫「じゃあ、まったくの他人?」

  ブラン「そうだよ。」

  江戸紫「僕の家じゃ無くても良かったわけだ。」

  ブラン「そんな事も無い。それなりの理由はある。」

  江戸紫「どんな?」

  ブラン「お前が独り者で、基本的に子供嫌いな事。」

    「犯罪歴が無い。性的な異常者じゃ無い。」

    「金遣いが荒く無い。とかまぁそんな感じかな。」

  江戸紫「理由って言うより条件だ。」

  ブラン「そう。私たちがしばらく生活するのに必要な条件ってとこか。」

  江戸紫「しばらくっていつまで。」

  ブラン「さぁなぁ。一年か二年かもっとか。」

  江戸紫「一人だって生活キツイのに。」

  ブラン「ああ、生活費は仕送りくるから。学費とか給食費もね。」

    「だから私たちにはお金掛からないよ。」

  江戸紫「だったら居候する必要無いだろう。」

  ブラン「子供たちだけじゃ色々と面倒な世の中だからな。」

  江戸紫「だからって何もうちを選ばなくても。」

  ブラン「ああもう。大人のくせにいつまでもいつまでも。」

    「そんなだからイイ歳して彼女の一人もいないんだそっ」

  江戸紫「それは関係ないだろ。」

  ブラン「それから!」

  江戸紫「何。」

  ブラン「ここの払いはよろしく!」

  と言ってテーブルの伝票を江戸紫に押し付けてシャリと手を繋いで

  とっとと食堂から出る。


07 歩いている松田。腕時計を見る。小走り。

  ビルの中。エレベーター。降りてドア。貼紙"オーディション会場"

  気合を入れてドアを開ける。


08 江戸紫宅。居間で荷物を広げている。

  江戸紫「さてと。これからバイトだから大人しく留守番しててね。」

  ブラン「バイトって?自宅で翻訳の仕事じゃ無かったのか?」

  江戸紫「それだけじゃ生きていけなくてね。」

  ブラン「何処?」

  江戸紫「駅前の本屋さん。何かあったらそこにいるから。」

  ブラン「シャリっ本屋だっ。本屋に行くぞっ。」

  シャリ「いぇーいっ。」

  ブラン「見直した。初めてお前を見直した。」


09 杉本書店裏口から中に入る江戸紫。

  ロッカーからエプロン。店内へ。

  杉本に挨拶をしようとレジ前へ向かう。

  レジの前で杉本とブランシェア、シャルロが会話中。

  ブラン「どうやらこの人がこの店のボスだ。」

  シャリ「ボス。うちのアレがお世話になります。」

  杉本「うちのあれ?」

  江戸紫「うちのあれってのは僕の事でしょうね。」


10 杉本書店

  ブラン「要領の悪い奴だが見捨てないでやってくれ。」

  杉本「それは今後の働きによるな。」

  シャリ「おおー。厳しい。鬼軍曹みたーい。」

  ブラン「これからはサーを付けろよ。」

  江戸紫「ああそうだ。軍曹殿は裁縫は得意ですかサー。」

  杉本「誰が軍曹か。得意に見える?」

  江戸紫「この際見えます。」


11 松<田、ビル(オーディション会場)から出てくる。


12 18時過ぎ ラジオスタジオ

  青山がブース内にいてマイクに向かっている。


13 オラ店内。20時30分近く。

  江戸紫、杉本、ブラン、シャリが入店。

  店員「いらっしゃいませ。四名様ですね。」

  席を案内しようとする店員。

  江戸紫「青山来てます?」

  店員「はい。ただ今日はお連れの方とご一緒のようです。」

  江戸紫「連れ?」

  江戸紫一人青山の席に案内されると

  青山、東雲、桜井、松田がいる。

  店員がテーブルを繋げ席を広げる。

  ブラン「私はソパ・デ・アホね。シャリは?」

  シャリ「えーっとチャンピニョーネスアラプランチャ。」

  ブラン「あれ?トルティージャじゃなくていいのか?」

  シャリ「だってあれ大きいからー。」

  ブラン「コイツとシェアすればいいじゃん。(店員に)トルティージャもね。」

  江戸紫「コイツって僕の事だな?えっとトルティージャってオムレツだよね。」

  江戸紫メニューをめくるが

  ブラン「シャリと両方シェアしろ。どっちも食べきらないから。」

  ブラン「軍曹殿は好みが判らないから自分で頼む。」

  青山「さっきから何語喋っているんだ。」

  桜井「そこかよ。」


14 オラ 店内

  それぞれに食事が並ぶ。

  ブラン「ん。Sabrosa。いい腕だ。」

  江戸紫「何者なんだ。」

  青山「お前が説明しろよ。いつの間に子作りしたんだ?」

  桜井「相変わらず冗談に品がないな。」

  ブラン「コイツの姪でこの春小学四年生。居候。よろしくっ。」

  青山「よろしくお嬢さん。俺は青山翔。君は?」

  ブラン「私はブランシェア・ラクシーニュ。こっちはシャルロ・ステファヌス・アートルメクス。」

  シャリは頬張りながら手を挙げる「んー。」


15 オラ 店内

  青山「(松田に向かって)で、どうだったの。」

  松田「うーん。どうかなぁ。」

  桜井「どうって何かあったの?」

  松田「オーディションだったんだよ。」

  桜井「オーディション?声優の?」

  松田「うん。」

  青山「手ごたえは?」

  松田「(困ったように)うーん。」

  ブラン「感触悪かったの?」

  松田「そうねぇ。」

  ブラン「それともあれ。」

    「期待して落ちたらショックだから期待しないようにしているの?」

  江戸紫「(小声で)余計な事は-」

  ブランシェア江戸紫の発言の途中で、松田を見ながら

  ブラン「やるだけやった。て言えないようならきっと落ちるよ。」

  江戸紫「あのなぁ、声優のオーディションてそんな簡単なワケには-」

  江戸紫の発言をブランシェアは遮りながら

  ブラン「どうなの?やるだけやったの?」

  松田「うん。やるだけやったわ。」

    「落ちたら残念だけど、悔いは無いわ。」

  ブラン「そう。受かるといいね。」

  松田「うん。ありがと。」

  青山「(江戸紫を指しながら)お前の負け。」

  シャリ「ブランに口喧嘩で勝とうってのが間違いだよぅ。」

  江戸紫「(シャリの頭を撫でながら)そうみたいだね。」

  ブラン「罰として、雑巾頼むよ。」

  江戸紫「罰って何。自分で作ればいいのに。」

  杉本「もしかしてそれで家庭科得意かって聞いたの?」

  江戸紫「その通りであります。サー。」

  杉本「私に雑巾作らせたら生地がいくつあっても足らないわよ。」

  ブラン「雑巾にパッチワークはいらないから遠慮させてもらおう。」

  杉本「賢い子ね。」

  桜井「それって急ぎでいるの?」

  ブラン「学校始まるまで。」

    「(江戸紫に)学校ていつからだっけ?」

  江戸紫「8日か9日。」

  ブラン「だそうだ。」

  杉本「いいよ。私が作ってあげる。」

  青山「なーにーーー!」

  杉本「何故お前が驚く。」


16 江戸紫アパート。外からドアが開く。3人リビングへ。

  まだ腰も下ろしていない。

  江戸紫「雑巾も何とかなりそうだね。」

  ブラン「うん。思ったより事が巧く運んだな。」

  江戸紫「今日はもう休みな。随分遅くなったから。」

    「もう一日こっちのリビングで寝て、

    明日隣の部屋を2人が使えるようにするから。」

  シャリ「今は何の部屋なの?」

  江戸紫「寝室」

  ブラン「お前は明日からどうするんだよ。」

  シャリが大きなあくびをする。

  江戸紫「こっちのリビングで寝られるようにするよ。」

  ブラン「ふーん。」

  シャリ「もう寝ようよー。」

  ブラン「私たちがずっとこっちで寝てもいいけど。」

  江戸紫「僕のが寝るの遅いだろうし、

    トイレに行くにもこっちを通らないとだからね。」

  ブラン「ふーん。」

    「ま、いいか。とにかく今日は寝るよ。」

  江戸紫「うん。」

  ブラン「お前はまだ寝ないの?」

  江戸紫「うん。ちょっとする事があるから。」

  ブラン「何?」

  江戸紫「うん?まぁイロイロとね。」

  ブラン「人には・・・言えない事?(ニヤリ)」

  江戸紫「・・・」


17 朝 江戸紫宅

  江戸紫起床。ブラン、シャリの声。

  時計を見る。8:15。

  目をこすりがらリビングへ

  シャリ、ブランの声はキッチンから。

  江戸紫キッチンへ。

  江戸紫「何してるの?」

  シャリ「おはよー」

  江戸紫「おはよ。」

  ブラン「朝食の用意してるから、座って待ってろ。」

  江戸紫「料理できるんだ。」

  ブラン「シャリはイタリアとフランスで料理人と暮らした事もあるからな。」

  シャリ「えー朝食でそんなの期待しないでよー。」

  目玉焼きの皿を3枚。受け取るブランシェア。

  ブラン「おっさんも突っ立ってないで手伝う!」

  江戸紫「おっさん言うな。それにさっき座って待ってろって」

  ブラン「(遮って)はいこれ持っていく。」

  サラダ3つ手渡す。

  ブランも食パンを持って歩く。

  リビング。座る3人。

  シャリ、ブラン手を合わせて

  シャリ、ブラン「いただきます。」

  江戸紫「いただきます。君達日本人なの?」

  シャリ「違うよー。」

  ブラン「その国の習慣に合わせるのは当然だろう。」

  江戸紫「へー。」

  ブラン「突然だけど、今日帰るから。嘘だけど。」

  江戸紫「は?」

  シャリ「シャリも一緒に帰るー。嘘だけどー。」

  江戸紫「なに?それ。」

  シャリ「4月バカー。」

  江戸紫「やっぱり日本人だろ。」


18 映画館パラダイス入り口。看板“4月ジョン・ランディス特集”

  ブラン「何でジョン・ランディスなんだ?」

  江戸紫「知ってるの?」

  中に入る3人。広く無いフロア。

  左手に掲示板、映画チラシ、パンフレット、ポスター。

  売り物ではなくケースに収まっている。

  ブランとシャリはそちらへ。

  江戸紫は右手のカウンター(チケット売り場へ)

  受付無人。「チン」とベルを鳴らす。

  奥のドアが開き、男性が現れる。

  江戸紫の顔を見て笑顔になり

  男性「ちょっと待ってて。」

  ドアが閉まり、スタッフオンリーのドアの鍵の音の後そのドアが開く。

  男性「やあいらっしゃい。4月の予定表だね。」

  江戸紫「はい。」

  男性「いやあ済まなかったね急に休んで。潰れたかと思った?」

  江戸紫「はい。思いました。」

  いつのまにかブランシェアが江戸紫の隣に立って

  ブラン「貴方がオーナー?」

  支配人「そう我が劇場へようこそお嬢さん。」

  ブラン「何でジョン・ランディス?」

  支配人「知っているの?。」

  ブラン「こう見えても30超えてますから。」

  江戸紫「4月1日なので気にしないでください。」


19 映画館パラダイス。劇場内サロン。

  ブランシェア、シャリシャリ、江戸紫の順に座り対面に支配人。

  ブラン「(予定表を見ながら)オスカー、ブルースブラザース2000、

    サボテン・ブラザースか。」

  支配人「何か問題でも?」

  ブラン「ケンタッキーが見たかったなー。」

  江戸紫「何でそんなマニアックな映画を。」

  ブラン「いや、そもそも何で今時ジョン・ランディスなの。」

  支配人「本当は3月にランディス特集する予定だったのだけど、」

    「シアトルで映画祭に招待されてね。

    まぁ規模の小さいフェスタなんだけどね。」

    「急遽行くことになって慌てていたから仕方なく休みにしたんだよ。」

  江戸紫「そうでしたか。」

  ブラン「(理由になってねぇ)」

  支配人「君には申し訳ない事したなーと思ってたんだよ。」    

  江戸紫「え?」

  支配人「君ほどの常連さんはいないからね。」

    「月に2,3本の映画しか公開しないのに毎週来ているだろ?」

  江戸紫「ええまぁ。」

  ブラン「暇人」

  シャリ「ひまじーん。」

  支配人「いやいや、暇でいてもらわないとね。お客さん減っちゃうよ。」

  ブラン「(ワクワクしながら)ちなみに2月は何特集?」

  支配人「ジョン・カーペンター特集。」

  ブラン「(さらにワクワクしながら)ウハッ。で?で?上映作品は?」

  支配人「遊星からの物体X、ニューヨーク1997、ゼイリブ。」

  ブラン「アハハハハ。」

    「(支配人に向かって親指を立て)アンタなかなかイカスよ!」

  シャリ「エスケープフロムLAがあれば

    カート・ラッセル特集だったのにねー。」

  支配人「おや、君も渋いねー。」

  ブラン、シャリ、支配人「アッハッハッハ」

  江戸紫「何なんだこいつら。」


20 オフィス。桜井PCに向かい資料を見ながら入力中。

  バイクの音。止まる音。立ち上がり窓に向かい郵便局のバイクを見る。

  ドアに向かって歩く桜井。郵便受けに落ちる郵便。桜井ドアを開ける。

  桜井「アオ。」

  青山「(振り返りながら)うん?」

    「お前から声かけるなんて珍しいな。」

  桜井「(無視して)珊瑚の結果聞いた?」

  青山「いや?」

  桜井「そうか。呼び止めて悪かったな。仕事戻っていいよ。」

  青山「気になるなら直接聞けよ。」

  桜井「お前なら知っていると思ったんだよ。」

  青山「なんで。」

  桜井「オラの常連なんだろ?

    それにお前珊瑚と付き合ってるんじゃないの?」

  青山「常連なのは否定しないが付き合ってなんかいないぞ。」

  桜井「そうなんだ。手の早いお前にしては珍しいな。」

  青山「あぁ何となく卑下されているのは理解できる。」

  桜井「事実だろうが。」

  青山「俺の心はお前だけだよ。」

  桜井「よくそういう台詞を真顔で言えるな。」

  青山「そこは褒めてくれるんだな。」

  桜井「ほめてねぇーよ。」


21 江戸紫アパート昼食。ラーメンを啜る3人。

  ブラン「侘しいお昼なのはともかく、今日のコレからの予定は?」

  江戸紫「部屋片付けてバイト。」

  ブラン「つまらない奴。」


22 江戸紫宅部屋の片付け。

  ブラン「片付けってパソコンの移動だけかよ。」

  江戸紫「変わりにテレビをそっちに置いてやるよ。」

  シャリ「やったー」

  ブラン「お前はいいのか?」

  江戸紫「最近テレビ見てないから。」

  ブランしばらく腕組みしながら考えて

  ブラン「いやテレビはこっちのがイイな。」

  シャリ「なーんでーーーー。」

  ブラン「シャリはテレビ見始めると寝ないからだめ。」

  シャリ「ブーブー」

  3人で片付けている。喧々囂々。パソコンのセッティングをしている江戸紫。

  ブランシェアが机の上のノートを手に取りパラパラ捲る。

  びっしりと文字。表紙を見る。何も書いていない。一枚目。

  “Please Mr.Postman”

  江戸紫「そっちにケーブル無い?」

  ブラン「あぁあるよ。今持ってく。」

  ノートを置く。


23 夕方。18時を少し回っている。頼代中央通り、ラジオススタジオ前。

  ガラス張りのスタジオ内には青山。

  女子高生が数人手を振っている。

  青山はマイクに向かいながら手を振り返す。

  青山、通りを眺めながらマイクに向かい。

  青山「この時期のこの時間に学生服を着た女の子が手を振ってくれました。

   「春休みはどうした?部活?

   「春休みももうすぐ終わるね。社会人には全く関係無い話だ。

   「そうそう今日はエイプリルフール。

   「気になってどうしてこの日に嘘をつくのか調べたんだけど、

   「諸説あるのでココでは発表しません。

   「どれが嘘なのか判りませんから。」

   「大きな嘘や、小さな嘘。人を傷付ける嘘。人を癒す嘘。

   「世の中にはいろんな嘘が渦巻いている。

   「嘘の善悪についてうだうだ言うつもりはないし、

   「考え始めたら眠れなくなるな。」

   「あ、今のは嘘ね。」

   「嘘吐きは嫌いだし、嘘は付きたくないけど、

   「僕個人としては誰も傷つけない嘘なら、

   「そして誰かを幸せにできる嘘なら許せるかな。」


24 杉本書店店内。客はいない。

  ラジオから青山の番組が流れている。

  杉本「春休み中だからお客さん少ないわねぇ。」

  江戸紫「それ以外は多いんですか?」

  杉本「学生さんは多いわよ。」

  江戸紫「いつもこんな感じなのかと思いましたよ。」

  ブラン「なぁオッサン。」

  江戸紫「オッサンて言うな。」

  ブラン「(無視して)このラジオってさぁ、

    「青山って奴が喋ってるよな?」

  江戸紫「奴って。でもよく判ったね。」

  ブラン「でもコレ言わせてるのお前だろ?」

  江戸紫「何で知ってるんだよ。」

  ブラン「ふーん。」

  江戸紫「何だよそれ。」

  杉本「ふーん。」

  江戸紫「ふーんって何ですの。」

  シャリ「ふーん。」

  江戸紫「だからふーんって何。」

  ブラン、シャリ、杉本「くさい!」


25 オラ店内。ロングショット。青山と東雲が水を飲みながら会話。

  青山「正式な辞令とかいつだよ。」

  東雲「いやまだ辞令とかの段階でも無くて。」

  青山「お前のとこくらいの会社なら

    普通一ヶ月前には判ってるんじゃないのか?」

  東雲「まぁそうなんだけど、俺みたいな立場だと」

  青山「何だよ立場って、肩書きでもあったっけ?」

  東雲「いや、平なんだけどさえっとつまりさ」

  青山「あーもう!」

    「お前みたいに運動部推薦入社だと

    仕事できないって見られているから

    辞令なんざ直前になる可能性もあるって事か?」

  東雲「うん。」

  青山「説明させるな。」

  二人の席に桜井が来る。

  桜井「こんばんわ。」

  東雲「お疲れ様でした。」

  青山「ようこそ人生相談席へ。」

  桜井「アンタに相談するような物好きがいるとは思えないけど。」

  青山「(東雲を指して)そこにいる。」

  桜井「(真顔で東雲に)冗談でもやめるべきですよ。」


26 オラ。江戸紫、杉本、シャリシャリ、ブランシェアが現れる。

  シャリは江戸紫と手を繋いでいる。

  ブラン「オラ!」

  シャリ「オラ」

  東雲「ゴクウ!」

  ブラン「(東雲に)よけろナッパ。」

  東雲「びっくりさせやがって。」

  ブラン「合格」

  青山「何に?」

  ブラン「お前は失格だ。」

  桜井「こんばんわ。」

  ブラン「(桜井に)Hola.Senorita. Como estas?」

  シャリ「こんばんわお嬢さんご機嫌いかが?って言ったの。」

  青山「お嬢さんて誰。」

  桜井「黙れ失格者」


27 オラ店内。注文を終えてメニューをウェイトレスに返している。

  桜井「ブランシェアちゃん。雑巾作ってきたよ。」

  ブラン「Chevere!」

  シャリ「イカス!って言ったの」

  江戸紫「Muchisimas gracias Senorita.」

  シャリ「どうもどうありがとうお嬢さんて言ったの」

  桜井「どういたしまして。」

  青山「さっきから何語喋ってるんだよ。」

  東雲「スペイン語でしょ?」

  ブラン「さすが合格者。」

  青山「何で急にスペイン語なのさ。」

  ブラン「さすが失格者。

    「この店がスペイン料理屋だからだ。」

  青山「そうなの?」


28 オラ。全員食事中。しばらく無言が続く。

  杉本「珊瑚ちゃんて言ったっけ?あの子は来ないの?」

  青山「さぁ。」

  杉本「いつもこのメンバーでつるんでいるんじゃなかったの?」

  青山「メンバー?」

  桜井「私と東雲さんはこの前の星見る会からですよ。」

  江戸紫「僕は桜井さんと初対面でしたからね。」

  杉本「それなのに雑巾作らせたの?」

  江戸紫「強要したみたいに言わないでください。」

  杉本「えーと、一体どういう繋がりなの?。」

  青山「簡単に説明しますとですね、

    俺とシノとエドが高校一緒。

    で俺とサクラが小、中一緒で、

    サクラとシノが同じ職場。

    珊瑚ちゃんはココで知り合って、

    実はサクラのトモダチで杉本さんの後輩。」

    「合ってる?」

  桜井「私とサンゴも小中一緒。」

  シャリ「シャリはー?シャリはー?」

  ブラン「お前はオッサンとこの居候。」

  江戸紫「オッサン言うなって。」

  シャリ「じゃブランはー?」

  ブラン「私は偉い人。」

  江戸紫「偉そうな人じゃなくて?」

  ブラン「お前には私のこの滲み出る偉い感じが判らんか。」

  杉本「じゃあ集まったのってこの前の星見る会からなんだ。」

    「あ、さっきそう言ったわね。」

  青山「俺も杉本さんに聞きたい事あったんだ。」

  杉本「どうぞ?」

  青山「アルバイト募集って隣町のスギモトでしたよね。」

    「どうしてまだ杉本さんとこで働かせているんです?」

  杉本「この子人見知りするでしょ?」

    「接客もした事ないって言うから」

    「少し慣らしてからのがいいかと思って。」

  江戸紫「この子?」


29 オラ店内。松田が席に案内されてくる。

  案内したウェイトレスに礼を言ってから全員に向き直り

  松田「皆に合わせる顔が無かったけど来てしまいました。」

  青山が立ち上がり席を促す。

  座る前にシャリシャリが立ち上がり、松田に歩み寄る。

  シャリ「て事はハッキリ言うと不合格って事?」

  松田「(立ったまま)うん。」

  シャリシャリが両手を広げて松田をハグ。

  2回ほどシャリが松田の背中を軽くたたく。離れ際

  松田「ありがとう。」

  シャリは黙って席に戻り江戸紫の服の端を握る。

  顔は半泣き。江戸紫はシャリの頭を撫でる。

  青山「ま、とにかく座って。」

  桜井「また次があるから。」

  松田「うん(気の無い返事)」

  桜井「今度はいつよ。」

  松田黙って首を横に振る。

  松田「もうね、諦めようかなって思ってるの。」

  桜井「何で。ずっと頑張ってきたんじゃないの?」

  松田「うん。」

    「ほら、昨日ね、ブランシェアちゃんにも言ったけど、

    やるだけやったのよ。でもダメだったから。」

  全員手を止め、言葉を無くしているが、ブランシェアは食事をしながら

  ブラン「さっきサクラが言っていたけど、」

    「オーディションはまだあるんだろ?」

    「今回のはダメだったってだけで、またあるんだろ?」

  松田「うん。」

  ブラン「声優になって成功するのが夢で、目標なんだろ?」

  松田「うん。」

  ブラン「夢なんてな、最後まで諦めなかった奴だけが叶えられるんだよ。」

    「言い方を変えれば、諦めなかったら夢なんて叶うって事。」

    「そうだろ?夢の叶わなかった奴ってのはどこかで諦めただけで

    夢の叶ったって奴は叶うまで諦めなかった奴ってだけなんだよ。」

    「まあサンゴがアイドルになれないから声優になりましたって程度の」

  シャリ「わーっわーっそこまで。」

  シャリがブランシェアの口を塞ぐ。

  松田にも笑顔が僅かに戻る。

  ブラン「とにかくだ。諦めたらそこで試合終了ですよ。」

  江戸紫は黙ってうつむいている。

  桜井「小さいのにしっかりしてるなぁ。」

  ブラン「お前らより人生経験豊富だからな。」

  青山立ち上がる。

  青山「ここに座る小さなテンシが言うように

    夢は叶う。叶うまで追い続けるだけだ。」

    「(ブランシェアに)乾杯ってスペイン語で何て言うんだ?」

  ブラン「(オレンジジュースの入ったコップを持って)Salud!」

  青山「よし、乾杯だ。」

  青山「未来に!」

  全員「未来に!」

  全員「Salud!」

  重なるグラス。


30 夜、中央通り。江戸紫、ブラン、シャリ帰り道。

  シャリは江戸紫と手を繋ぎ、片方の手で目をこする(眠そう)

  しばらく無言で歩きながら

  江戸紫「どんなに頑張ったって、どれだけ諦めなくたって

    叶わない夢だってあるだろ?」

  ブラン「そりゃあるだろうな。」

  江戸紫「ふーん。」

  ブラン「ま、エイプリルフールって事で。」

  江戸紫「思ったより優しいんだな。」

  ブラン「うん?それも実は嘘ってオチか?。」


31 江戸紫モノローグ

  今僕の部屋に、この春小学4年生になる子供が2人いる。

  1人は自分を「テンシ」と言った。名は「ブランシェア・ラクシーニュ」。

  欧州の、どちらかと言えば東欧系の顔立ち、

  透き通るような白い肌と薄い金色の長い髪と青い瞳を持つ「いかにも」な見た目をした少女。

  もう1人は「アクマ」の「シャルロ・ステファヌス・アートルメクス」。

  ブランシェアからは「シャリシャリ」と呼ばれている。

  シャルロという名前は男女共に使用できるし、

  黒く短い髪は性別の判断をより不確かなものにしている。

  この子が男の子なのか女の子なのか判らない。

  テンシだとかアクマだとかいかにもな格好をして現れ、流暢に日本語を操り、

  「今日から保護者になってもらう」と言い出した。

  これは日常なんかじゃない。


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