アナタが温かいのは
人の体が温かいのは血が通っているからだ。
人の手が温かいのは心があるからだ。
人の心が温かいのはそこに魂があるからだ。
でも、僕はどうなのだろう。
僕の体は作り物で、
僕の手は金属で、
僕の心はプログラム。
僕は人間の皆さんより出来ることが沢山あります。
やり方を教えてもらえれば料理も計算も出来ます。
僕に出来ないものはありません。
記憶力だって負けません。
戦闘力だって負けません。
僕はなんでも出来ます。
皆さんの役に立ちます。
だけど
どうして人が笑うのかわかりません。
どうして人が泣くのかわかりません。
どうして人が争うのかわかりません。
どうして人は祈るのかわかりません。
どうして人は死ぬのかわかりません。
どうしてアナタの体温が消えていくのかわかりません。
アナタは血が通っているから温かいはずです。
アナタは心があるから温かいはずです。
アナタは生きているから温かいはずです。
アナタは生きているから息をしなくてはいけません。
アナタは生きているから心臓が動いてないといけません。
アナタは生きているからこの手を握り返さないとダメです。
そうでないと
この目から流れる原因不明の液体漏れを止めることができません。
このプログラムの異常を治すことができません。
ねえ、父さん────
どうしてこんなに胸部の胸の奥が痛いのでしょうか。
教えてもらってないので僕にはわかりません。
お父さん
死なないでください。
お父さん
僕を一人にしないでください。
起きてくださいよ。
今朝、アナタのために育てた赤い薔薇が咲きました。
アナタの笑った顔が見たくて育てたんですよ。
せめて、一目見てください。
とても綺麗な花ですよ。
お父さん
博士
アンドロイドのお話です。
彼または彼女には、感情というものを持たせてはいけなかったのかも知れませんね。
感情がなければ、彼または彼女はこうして泣くこともなく半永久的に生きれることが出来たのに。
感情がなければ、彼または彼女はあんな風に憎悪で我を失い暴走することもなかったのに。
なんでも完璧にこなす彼または彼女が彼または彼女であるためには感情という余分なものは必要なかったのに。
そうすれば彼または彼女はまだ世界の役に立てたのに。