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赤い瞳の銀の鳥   作者: アマメ ヒカリ
第二章 光
9/50

9.星を巡ろう

太陽の光がずいぶん強くなった。



丘を渡る風は、耕作地の緑を揺らす。

作物の花は盛りを迎えようとしていた。



強い日差しを避けるため、冷たい風をよけるため、丘の窪地に集落がある。



どの家も泥や木や干し草で作られていて、住む人々を暑さ寒さから守っていた。家々の門の前には赤や黄や橙や紫色の花が飾られ、または植えられて咲いていた。



集落の中央には最も大きく広い建物があり、そこでは様々な役割を持つ者たちが集う。



皆は建物を、震える場所、ゴートと呼んだ。

ゴートでは、集落の民の平安のために持てる能力を使う場所であり、根源の光へ感謝を伝える祈りの場所でもあった。



集落では四つ足の獣を大事に飼い、友のように一緒に暮らす者もいて、人と獣と植物と祈りが共存している場所。

そんな場所に、ユーマは母と鳥と共に暮らしている。


この土地の守り主と呼ばれる巨鳥ルゥ・ラァは、集落の端にある森に住む。

普段は好きなときに丘へ出て空を飛ぶ。

どこに行っているのかは誰も知らない。

鳥の対となる子供、ユーマは、ゴートの中の一区画で健やかに日々を送っていた。



今日もユーマは母に抱かれて、母の歌う気持ちのよい歌を聴いていた。

ゴートを散歩しながらたくさん話しかけてくれる優しい母が、ユーマは大好きだった。

ユーマは歌を聴きながら、目に入るぼんやりとした光景を見つめた。



光る四角いものがくるくる回っている。

その周りで葉っぱの色の衣装を着た何人かの人が話し合っていた。



とても温度の高い水を空中に呼び出して小さな箱に詰めている人たちもいた。



横になって寝ている人に向けて赤い衣装の人が手をかざしている。

手から赤い光が渦巻きになって寝ている人へ注がれると、寝ている人は嬉しそうにおきあがった。



少し眠たくなった時、銀色の帯がユーマの周りで揺れるのがわかった。



「君、来てくれたの?」

銀色の帯に話しかける。



「君、ルゥ・ラァだね。いつも来てくれて嬉しい。君は今どこにいるの?」



「ユーマ。今、私の体はこの星を巡っています。たまってよどんだ場所に行ってかき混ぜるのです。」



ユーマはまどろみながら笑う。

「かき混ぜるの?どうやって?」



「それはね、いつか私の背に乗って飛ぶときに教えてあげますよ。」



「早く乗りたいなあ。」



「ええ。もうじきです。あなたを乗せてどこへでも、どこまでも翔びましょう。 私はあなたと共に見たい。星の外での日の出を。


私の他に根源から来た仲間たちと、うみという水の中を見せてあげたい。


雲を突き抜けて、地上を覗きたい。


大地の中を潜り、水晶の国へ案内したい。


精霊たちと踊りましょう。

星を囲むほどの輪を作り、歌を歌いましょう。


根源の光の中に住まう方の元へも行きましょう。」



「ぼく、大きくなるから、待っていてね。」



ユーマはぐっすりと眠る。ユーマを抱く腕の持ち主は微笑んで、ユーマの頭をなでた。



その時、奥の部屋から濃い藍色の衣装の老人が近づいて来た。

ユーマとその母を見ると笑顔になった。

老人は母親に挨拶をした後、ユーマの顔を見る。



「預かり手の君は、お健やかでおいでだ。豊穣の力の兆しが最早見えている。ありがたいことだ。」



母親は笑みを浮かべて眠る、ユーマを見た。

「本当に、すくすくと大きくなって。ルゥ・ラァは待ちきれなくて、先程も近くへ来ていました。

お二人の絆は見ていて切なくなる程のもの。皆でお二人をお守りせねばと思いました。」



「間もなくですぞ。間もなく、ユーマどのがこの土地の精霊王たちに力を分け与える日がそこまで来ています。我らはこの土地を、遥か先に全き姿でお返しすべく、代々住まうを許された末裔。

皆がそれぞれの役目を務めるために能力をより研ぎ澄まして、あなたの目覚めを心待ちにしています。」



母親は柔らかく笑う。

「でも今は、赤子ですもの。」



「お、そうでしたな。やれやれ、私も待ちきれない者の一人でしたな。ルゥ・ラァの気持ちがわかる気がします。」



眠るユーマを挟んで朗らかに笑いあう。



豊穣の力の預かり手、ユーマ。

間もなくだ。

鳥の背に乗り、星を巡れ。


光で大地を耕せ。

水の道に風を送れ。

木々の記憶を読み、石の思いを聞け。



そうしてユーマよ。

豊穣の力は全き姿で持ち越して欲しい。

決してその力を根こそぎ欲しがる者に渡すなよ。

頼むよ。

頼むよ。

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