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赤い瞳の銀の鳥   作者: アマメ ヒカリ
第二章 光
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4.岩屋へ

陽の沈む地に子供が生まれた。

そして土地の契約を覚えている霊獣も共に生まれた。

この知らせは瞬時にある場所へ届いた。


その場所は、霧のような白いプラズマが充満した空間だった。

部外者、侵入者を完全に拒むその場所に老人が立つ。

老人は、ふむ、と一言つぶやいた後、懐から白い蝶を取り出した。


蝶に向かって指で文字を描くと、蝶は忽然と姿を消す。


老人は蝶のいなくなった空間を見つめ、やれやれ、とつぶやいた。



鳥は目を開けたが、眩しくて何も見えなかった。


会いたい人がいる。

ただそれだけを想う。


目を閉じた明るい闇に像を結ぶ、その人の陰。


どこにいるのだろう。

会いたい。

とても会いたい。

どこだ。

飛ぼう。


集落の民から守り主と呼ばれる鳥は、岩の卵から孵ると濡れた羽を乾かす。


通常は日没を2回見る間、岩山で過ごす。

羽が乾けば対となる人物の元へ飛んでいく。


鳥と意識を合わせる事のできる者が言うには、鳥にとって、対の者がどこにいるのかを知るのはたやすい事なのだそうだ。


行きたいと願えば行けるし、光に向かえば良い時もある。


鳥の対となる子供を産んだ母親の前で、鳥遣いは首をふりふり、驚きを隠せない様子で話を続けた。


「ですから、普通はこんなに早く会うことはないのですよ。

驚きましたよ。

ええ本当に。


守り主様の羽を拭くために水を汲みにいったら、いないのですから。


まだ目も開かない、羽も乾かない、そんな時に…まさかこちらに来ていたなんて!」


鳥遣いは、暖かいぬくもりのある岩屋の奥に目をやった。


明かり取りの穴から、朝の光が岩屋の床に届く。


床には柔らかい乾し草と布地で大きな寝床がこしらえてあり、光はその上に眠る二つの生まれたばかりの命を照らし上げていた。


赤子と、寝床よりも大きな鳥。


今朝方、岩屋の入り口に激突した巨体があった。


岩屋の中に住まう母と子のために、入り口には幾人かが待機していたが、とてつもなく煌めく物体が見たこともない速さで近付いて来た時は、侵入者かと肝を冷やした。


物体がはっきり見える近さになった時に煌めく翼を確認した者が、慌てて指示を出す。


「いけない。守り主様だっ!風のもの!頼む!」


風のものと呼ばれた者は、手を宙にかざすと渦を作った。


その渦を煌めく鳥に向けて柔らかく投げる。


鳥は轟音と共に岩屋の入り口にぶつかったが、風の渦に包まれて傷ひとつない。

皆が胸を撫で下ろした時、鳥遣いが歪んだ空間から供を連れて、突如現れた。


水の面に波が立つような門を作るのは、さまざまな鉱物と同盟や契約を結ぶ者ができる技だ。


「やはりこちらだったか!皆さん申し訳ない。

これはありがたい!傷つかないようにして下さったか。」


入り口を守る者の一人が鳥遣いにたずねる。

「いったい?目も開かない時にどうして。」


「羽も乾いてはいないよ。よくご無事だった。

ああ、風の方、降ろして差し上げてくれ。」


ゆっくりと、風の渦は地面に降りる。

渦は消え、鳥の姿は皆の前に今はっきりと示された。

羽は一枚一枚が光を跳ね返し、輝き煌めいていた。


陽を受けると輝きは複雑な動きをして全身を巡る。


虫の出す透明な糸に光があたると見える光沢と色が、鳥のからだ全体に散りばめられていた。



鳥は考えていた。


近くにいる。

会いたい。


目を開けると先ほどよりは眩しくなくて、周りに生き物がいるのがおぼろ気に見えた。


光を感じる方向へ頭を向けると、喜びが沸き上がって来た。


鳥は脚で歩き始めた。


奥へ。

奥へいこう。



ヨチヨチと歩き始めた雛鳥を、鳥遣いは見惚れていた。


鳥遣いの目には涙さえ浮かんでいる。


「目は、目の色は、赤。燃える太陽の赤。

慈愛深く、優しいお方だ。」



鳥と赤子との出会いは、こんなにも急がれた。


そして今は、共に寄り添って眠る。


外に白い蝶は、いなかっただろうか。

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