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赤い瞳の銀の鳥   作者: アマメ ヒカリ
第七章 虹
32/50

28. その指の先

暖かくなってきました take2






ユーマは丸い雲を見ている。


寝転んで、ひとり。


山の斜面に寝転んで空を見ていた。


目を閉じているようで実は違う。


視界は萌樹で溢れ、薄く目を開ければまつげのあたりで光が珠になる。


ユーマは、空と木の若芽と光の珠を一度に見ようと、


うまく視点を定めるのに忙しい。



三つが瞳に映るのに成功すると、ユーマは星の外の景色を思い出した。



暗闇の中、眼下には淡く光る渦。

あれは僕の住む星。

精霊達と輪になって、光を動かした。







ルウ・ラァはひとりで星を巡りに行った。



ユーマは10才の成人の日から毎日、夜明けと共にルウ・ラァの背に乗り、星の高みから奥底まで巡っていたのだが、今日は行かなかった。


行きたくないという程ではない。


この気持ちは何だろうと、言葉を探していたら、


「気が乗らない」 と、ルウ・ラァが頭の中に音を寄越す。



ユーマは、はっとして、ルウ・ラァを見た。


「そうか。気が乗らないのか。ぼくは」



光の鳥の目は、少し笑う。


「ユーマ。あなたがいればできることがあります。

そして、わたしだけでもできることがあります。今日はそういう日なのです」



ユーマの心に芽生えた苦味がある。

それが何かはこれからわかるのだろう。


「ユーマ。あなたは豊穣の預かり手であり、人です。

この時を(なか)(いま)として大切になさい」




そう言って、鳥は光炎の輝きを作りその中へ消えた。




「この体……」


ユーマはそう言うと、右手を開いて太陽にかざした。


手の甲を見た。


手のひらを見る。


手を(かえ)す度に、陽光が指の間から洩れて眩しかった。





豊穣の力が体の中にあるのは、自覚があった。


胸の辺りの骨の奥、喉の下、そこのところが深くて温かい。


豊穣はそこにあるようで、時々それは、蠢いた。


どれ程使っても枯れない泉のよう。


星を巡る時に豊穣は使われている。


種まきの時も、井戸を掘る時も、川から魚を頂く時も、


赤子が生まれる時も、死して旅立つ時も、


豊穣は明々(あかあか)と輝く。




豊穣はある。


だけど、これが一体何なのか、ユーマ自身にもわからなかった。


成人の日に初めて星を巡った折に会った、あの三人。


怒りも露に、豊穣を我らが預かろうと言っていた。




「ああ……もう」


ユーマの頭は一杯だ。





その時、風が微かに吹いた。


ルウ・ラァがくれたものだ。


大気をかき混ぜる光の化身。



精霊王たちも顕現せずに挨拶をくれた。


目の前の風が川が、背中の下の山土が、太陽の陽射しが、


「人として」


と投げ掛けてくる。





「僕は、何だ」


ユーマは空の丸い雲を見る。


空へ伸ばした腕、太陽にかざした手。


その指は何のためにここにある。





後にユーマはこの時を、懐かしくあたたかい思い出として


受け止める。




今は、そうではないようだね。







人が人に何かするには、人としての一般教養を済ませていなくては何かとうまくゆきません。

悩め!泣け!そしてそれを俯瞰せよ!

みーんな悩んで大きくなった。

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