16. 君の歌、僕の色
こんばんは。
今日は鳥の声がよく聞こえる日でした。
ヒヨドリの鳴き声も冬らしくなりました。
何があっても季節はめぐります。
鳥は光炎を増して渦へ近付く。
この炎は繊細な織物のよう。
温かくて、微かに音を発している。
音は耳では聞こえない。
喉で聞こえる音だった。
音に合わせて喉の中が反応する。
喉の中に色が立ち上がり、体のなかを巡り、声になることもある。
光炎に包まれて、ユーマは知らずと笑みがこぼれた。
ルゥ・ラァの炎が体のなかで力に変わる。
命の一部になる。
この迸る感じ!
嬉しくて、喜びが過ぎて、溢れ出す、この感じ!
ユーマは笑い、喜びが込み上げて、笛のように歌っていた。
歌声は長い息と共に伸びて、遠く広く薄く響き、届く。
星を囲む精霊達たちの受用器に、届く。
ユーマの歌に応えて、星を囲む者たちの歌が始まった。
音は、空間に無数に散らばる見えない粒を介して響きとなる。
音と歌は色を呼び、かたちを生み、星の上に生きる命を増やす。
遊ぼう。
それが一番のご馳走だ。
ああ、もう、自分がどこにいるのだか、わからない。
僕は、命。
僕は、豊穣。
僕は、……
僕は?
ユーマは自分をしばし忘れていた。
周りにはたくさんの人影。
薄明かるい渦を囲んで手を取り合い、踊っていた。
僕は……
ふと左を見ると眩しい。
人の姿をしている白い発光体。
目が合った。
木漏れ日に透ける葉の色。
君は……
「君はユーマ。そうでしょう?」
緑の目の人が言う。
ぼんやりしていると、その人は微笑んで言った。
「君はユーマ。君たちはひとつになりたがる。」
ユーマは気がついた。そして、自分の真の名を手繰り寄せた。
ルゥ・ラァがこちらを見ていた。
自分が曖昧になっていたようだった。
緑の目の人の方を見ると、にっこりと笑っていた。
ユーマはあわててお礼を伝える。
「ありがとう。僕はユーマだって事を忘れそうになっていたよ。あなたのおかげです。」
「私は木だ。木の心の担当と言ってよいと思う。」
と緑の目の人は言う。
「名前はないんだ。」と言うその人は、歌の続きを歌う。
緑の目の人のその歌は、とても軽い。
軽くて、音が舞う。
人が音としてわかる前に、散ってしまうほどの軽さだった。
私の歌は、とても軽いだろう?
と、緑の人はユーマの心に話しかけてきた。
私の歌はね、そのまま太陽の光の中に紛れてしまう事がほとんど。それが大切。
ユーマはうっとりと目を閉じ、緑の人の歌を聞く。
この人の歌は、僕達には太陽の光にしか見えないのだろう。
この人の出す音や色は、なんて細かくて心地よいのだろう。
この人の歌は、太陽の光の中に折り畳まれていつも僕たちへ届くのだ。
僕の歌は、他の人にはどんな様子に聞こえるだろう。
きれいかな。強いかな。
ユーマがそんなことを思っていた時、銀色の帯が頭のなかに
やって来た。ルゥ・ラァの心だった。
鳥の心は寄り添い、伝える。
ユーマの歌は熱い。
ユーマの歌は形を与える。
あなたの歌はまっすぐで、揺さぶる。
「そう?」
ユーマは鳥の顔を覗き込む。
そう。
あなたはそのように歌う者なのです。
そのようにできています。
「豊穣だから?」
あえて聞いてみる。
ユーマ。あなたそのものが、豊穣です。
その事を忘れないで。
ルゥ・ラァは、それだけ言うと、後は自分のやることに向かったようだった。
銀色の帯が、すう…と消えた後、翼の温度が上がる。
ルゥ・ラァの羽ばたきで、皆の歌が束ねられた。
束ねられ、編まれて、董が立ち、董の先端は渦を目掛けて落ちていく。
落ちていった先は星。
歌は響いていく。
落ちた先から、歌が返ってくる。
返って来た歌は渦の中心を貫いて、打ち上げられた。
ユーマや精霊達が送った歌は星に届き、星の様々を抱き込んで空の先、蒼穹の彼方へと放たれる。
それをまた受け取り、ほぐして、歌い上げ、
からめて、編み上げた。
董は立ち、渦の中へ潜り、 空の先へと再び放たれる。
星の外と星とで交わされる歌の送り合いの如く、それは続いている。
「お母さんは今頃、喜んでくれているだろうか。」
ユーマは、ついさっき別れた母親を思い出した。
「窪地の皆が喜んでくれているといいな。」
「風はよく吹いているだろうか。」
「王達、あの人たちの役に立っているだろうか。」
ユーマはルゥ・ラァを呼んだ。
「ルゥ・ラア。」
呼ばれた鳥は羽ばたき、光炎を燃やしていた。
ユーマは首を抱きしめる。
「ルゥ・ラア、僕、楽しいよ。連れてきてくれて、ありがとう。」
そう言うと、ユーマは再び歌い出した。
光炎は益々燃えて、光の奔流となる。
星を囲み、歌い上げ、踊り、躍る。
ほら、また。編まれた歌が、光と色が、渦の芯を貫いていく。
もう少ししたらまた、返ってくる。
ユーマは自分の歌を響かせる。
次に返ってくるのを、楽しみにしながら。
映像を文字にすると説明や情景の表現が多くなります。見たままを文字にするとレポートになります。そういうお話なのです。
ですので、こちらにお付き合い下さることは少し申し訳なくも思います。
今日もお出でくださり、ありがとうございます。
光はスペクトラムと捉えます。光を分光すると様々な波長にわかれます。
白い光は実は七色。そして七色以外にも広がりを持ちます。
Humanも、そういう意味のようです。
様々な色を内包する人、という事でしょうか。
今日もお疲れ様でした。