2.蒼風
金茶色の大地はあまりにも広かった。
果てはあるにせよ、見たものはいない。
わずかな者が、果てとその先に何があるかを知っていたが、口にする事は禁忌であった。
なぜなら、知ることが危険を呼び寄せることになるからだ。
いつもそうだ。
真実を知るものは僅かで良い。
目前の事実だけを見て、幸せに暮らす事が大切だ。
果てのない広い大地には人の住む集落が幾つかある。
陽の沈む地には草はらが広がる場所があった。
草はらの一部が大きく窪み、人々はその窪みの底に住み処を作って暮らしていた。
窪みの底に住む彼らは、窪みの周囲をダルシの丘と呼んでいた。
草はらの中を耕作地として開墾し、穀物を得た。
生存に欠かせない水は井戸を深く掘ることで安定して得るようにした。
丘を離れると岩山がそびえ、甘い実の成る低木や四つ足の動物が見られた。
実りは豊富ではなかったが、人々はダルシの丘を拠点に平和に暮らしていた。
窪地の集落にはたくさんの民がいて、各々が役割を持ち、能力を集落のために使うことで助け合って生活していた。
枯れた水脈の復活は、精霊と契約ができる者の役割だ。
小鳥を使い、作物を育てる事の得意な者もいる。
身体の痛みを大気に溶かして「ほどく」役目の者は、独特の声を使い分ける事が得意な者たちだ。
それぞれが何らかの役目を果たし、集落は成り立つ。
絆深く、和やかに暮らしていた。
集落には守り主がいた。
鳥の姿をした尊い生き物がいて、ただそこに有るだけで根源の光を人々に恵む存在であった。
そして、鳥には対となる人物が必ず必要で、その者の言葉だけを解し、その者だけを背に乗せた。
鳥は対となる人物と共に生まれた。
共に育ち、共に光に帰った。
そしてその後、新しい次代の鳥と人物が対で生まれるのだ。
今、ダルシの丘に守り主の対となる子が生まれようとしていた。
ほぼ同じ時に、岩山に守り主の石の卵が出現した。
人々はこの吉事に喜び、祝う。
名はその者の本質を表す。
生まれ来る子はユ・ウマト。
鳥の名はリ・ル・アウラ。
しかしこの名はしまっておき、呼び名をつける。
ユーマとルゥ・ラァの出会いは、間もなくだった。