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赤い瞳の銀の鳥   作者: アマメ ヒカリ
第三章 星
14/50

14.精霊王

こんばんは。

今日もお疲れ様でした。

鳥と少年の話をどうぞ。



ユーマは、自分の心が複雑な模様と色でいっぱいな気がした。


ルゥ・ラァのあんな姿を見たのは初めてだったし、大人があんなに恐ろしい顔をしているのを見たのも初めてだった。


自分は何も知らないのだと、悲しい気持ちになる。


皆のくれた安らぎの中で、暮らして来たのだ。


皆は自分の事を、豊穣の預かり手とか豊穣さまと呼んでいるけど、それが何なのか、まだよくわからない。


さっきの風変わりな大人達は、なぜ、あんなに怒っていたのだろう。


任せるとか任せないとか、何をだろう。


正義?


またお前かって言っていた。

会ったことがあるのかな。




ユーマはあれこれ考え込んでいて、自分の周りに浮かぶ4つの光の玉に気がつかない。



玉の一つが人の形を取り始めた。

人の形の光がだんだん大きくなり、熱と光と炎を身に纏う。


「わっ!何?」

さっきの人たちが来たのかと、ユーマは身を固くした。


人の形をしたまばゆい光。

それは、火と炎と虹でできている。

ゴオと燃えて、熱かった。

しばらく見ていると、炎の中から、男の人が現れた。


ユーマの怯えを感じ取ったのか、ルゥ・ラァが言葉を寄越した。

「太陽の熱と光と火の精霊王です。風の王と共に、私たちを逃がしてくれたのです。」



「太陽の熱と光と火の…」ユーマは目の前に現れた人物をよく見た。


その男の人は、炭がよく燃えた時の透明な火で

できているようだった。

「ユーマ。」

炎の姿の人物が、自分を呼ぶ。

顔を見た。

透明な青い瞳をしている。眉も髪も、透明な火の色。火の精霊王の口元は笑っていた。



「ユーマ、また会えたね。君は私を覚えていないだろうけど、私は君を知っているよ。」



火の精霊王は、声、というよりは音のようにシャラシャラと話した。


薪がはぜた時の火の粉に音をあてはめたら、こんな感じかもしれないな、とユーマは思う。



「前はね、君は名前をくれた。今回は何と呼ぶのかな?」

そういうと、火の王は「富有馬」という文字を、空中に火で書いた。


「フューマ。」

ひとりでに、ユーマの口から出た名前。


「そうか……私はフューマ!フューマだね。名前をありがとう。ユーマ。」



「うん。いえ…はい。」

ユーマは不思議に思う。

「シルフェの時と同じだ。文字を見て、読み方が口を突く…。」



火の王は、ふっ、と笑う。「ユーマ、この二人にも名前をくれますか?」



二つの光の玉が、先ほどと同様、人の形をとる。


そのうちのひとつは、土くれの人影ができたかと思うと顔が映り込む程に磨いた鉄のように、周りを反射する塊になった。

「私は、土、鉱物の長である。預かり手殿よ、我に名を与えよ。」


土と鉱物の長と自分を呼ぶ、この人の形をしたものは、「爽土」と文字を手のひらに浮かばせた。


ユーマは、楽しくなっていた。

次々と現れた精霊の王。

自分が名前を彼らに渡すなんて、できるかなと思ったけど、ひとりでに出てくるので面白くなった。


「ソード」と、土と鉱物の精霊王に伝えた。

王の瞳は黒くて深い色をしている。


王はしっかりとうなずき、「ソード」と繰り返した。


代わってその隣に浮かぶ光の玉は氷のように透き通り、その芯には小さな魚が泳いでいる。


そのうち玉は、霧で作ったような姿の人影となっていった。あれは清流の水の長だと、火の王は教えてくれた。


せせらぎそのもの。と、ユーマは思った。

木もれ日の下を軽やかに流れる、せせらぎを人にしたらこうなるだろうなと、ユーマは思った。



清流の水の長は、鳥と少年に向かうと、ゆっくりと腰を折る。その瞳は、ユーマの心をあたためた。


「ユーマ。水を代表して歓迎しよう。また、会えたな。」



ユーマがうなずくと、魚のような蛇のような長くてうねる生き物が目の前に躍り出た。



水の精霊王は言う。

「あなたは覚えてはいまいが、この者はあなたを慕っていたのだよ。」


ユーマは、長くうねる生き物の前に手のひらを差し出した。


生き物は、どうやら文字を書いている。


「名前?これは精霊王の名前だね?」


見ると、「里融」と水で書かれている。


「リ・ユウ、リ・ユウだね。王の名はリ・ユウだ!」


「はっはッ。自分に名をくれとせがんだのだな。ユーマよ、リ・ユウはこの生き物の名だ。私は揺無だよ。」


「…ユリム。水の精霊王、あなたをユリムとお呼びしても良いでしょうか。


「ありがとう。…ユリムか…。」

水の王は、新しい名を味わうようにつぶやいた。





「我らは再び会うことがかなった!」

見ると、風の王が腰に手を当ててこちらを見ていた。


「フューマ、ソード、ユリム、シルフェ、あと、リ・ユウ?」



「ユーマよ。我らは友人として、お前の力になろう。」


ユーマはうなずいた。


「じきに豊穣の力の全てを思い出すだろう。心配するな。あの土地、そしてこの星に住む者の役割を果たすべく、お前は来たのだ。

我らは共に歩む仲間だ。お前たちが手を差しのべる限り、我らはその手を取るだろう。」


風の王は、火と土と水の王を見た。


「豊穣は、人の手により運ばれる事が望ましいのだ。この星の命が、この星を生かす。他の星、世界からの力ある者による管理と統治は、我らとて欲してはおらぬ。」


皆がうなずいた。


風の王は、その大きな手をユーマの頭に乗せた。

「ユーマ!大きくなれ!」

ユーマは胸が熱くなるのを感じていた。

大人になりたい。

そう思った。


精霊の王たちは光に包まれた。

それぞれの世界に帰るのだ。


「待っているぞ。」


そう言い残して、精霊王たちは消えた。


ユーマは、自分の暮らす星、渦を見た。


美しい僕の、星。


僕たちの、星だ。


「行こう、ルゥ・ラァ。お母さんが、待ってる。」


ルゥ・ラァは、辺り一帯に響き渡る声で啼くと、光の炎に包まれた。


光炎をたなびかせ、鳥は帰還する。


少年の生まれた里へ。


住むことを許された土地へ。


その役割を果たすべく、鳥は螺旋を描き渦の芯へと降りていった。

時々、銀河鉄道の夜のような言葉使いがあります。

「コムパス」は出てきません( ´∀`)

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