13.あなたは誰?
こんばんは。
お訪ねくださいまして、とても嬉しいです。
ありがとうございます。
夢の中の光景が、頭に残って苦しかった。
だから文字にした。
という物語です。
非言語を言語にするチャレンジは、
まだ続きます。
渦へ向かう二人は、螺旋。
右向きの螺旋となって、青と緑の色相が重なる、渦の芯を目指した。
二人の目には、稲妻の如く弾け飛ぶ、双色のまばゆい輝きが映る。
金色と橙色。
二つの色は常に弾け、点滅し、砕け散った光がほろほろと地上へと降るのが見えた。
ユーマはそのようすが面白くてたまらない。
明け時の日の出と、暮れ時の日の入りが、どちらが早いか駆け比べをしているようだったから。
ほろほろと降る金と橙の砂粒みたいな光が、日の出と日の入りの笑う様を見ているようだったから。
ユーマは淡く光を放つ銀色の鳥の首をそっと撫でてから、自分を乗せて飛ぶ鳥、ルゥ・ラァに尋ねた。
「ね、ルゥ・ラァ。あのチカチカ光る明かりは、なんだか比べっこをしてるみたいだね。僕のほうが明るいぞ、いや僕だぞって。」
鳥は、赤い目をユーマに向けた。
そしてゆっくりと目をつむり、開いた。
「ユーマ。あなたが楽しそうで私も嬉しい。」
ユーマの心に響く、暖かい声。
ユーマは鳥の背から手を伸ばし、頬の辺りに手を添えた。
大好きだったから。
ユーマはルゥ・ラァが大好きだったから、嬉しいと言ってくれて、嬉しかったから。
頭を撫でるのも違う気がして。
鳥は続ける。
「あの二つの光は、この渦に必要な力です。あなたの言うように、二つの力は競りあっています。そうすることで、世界に活力を与えます。」
「へえ…」
ユーマの周りは光の粒で満ち溢れている。
手のひらには絶えず金と橙のきらめきが注がれている。
よく見れば、手に落ちてぶつかった光は、さらに細かくなって、霧のようになっている。
霧は揺れながら渦の中心へ向かうようだった。
「二つの力は、根源より分けられたものです。ユーマ、この光と私たちは、兄弟のようなものなのです。」
ユーマは再び、へえ…と応えた。
「ユーマ、豊穣の預かり手よ。私とあなたもまた、この二つの光のようなものなのです。」
「うん」
ユーマはそれだけを言うと、光がやって来た道のりに思いを馳せた。
喜びと、さみしさが、美しく編まれてできあがった道のり。
そうだ。ぼくも、そこを通ったんだ…。
緑色の、光る、石を、持っていた、気が、する…。
ぼんやりとしかけた時、見たことのない濃い紫色の硬い光が脳裏に映った。
驚いて前を向くと、3つの人影がゆがんで見えた。
氷のように透明な壁が、ユーマとルゥ・ラァを囲んでいて、壁の向こうに人が透けて見えていた。
真ん中にいる、威張ったような顔をした人は白銀色。
左側にいる、怒ったような顔をした人は黄色がかった金色。
右側にいる、困ったような顔をした人は深い水色。
ユーマは3人の体から色が見えた。
どの色も、ユーマが生活のなかで見たことのない、鋭利な光が見えた。
ルゥ・ラァ、と呼ぶが、鳥は瞬きせずに相手を見据えていて、応えはなかった。
銀色の人が口を開いた。「おまえか。何度目だ。諦めの悪い事だ。」
何故だろう。誰だろう。
いったい何が始まったのだろう。
ユーマの心は様々な思いでいっぱいだった。
金色の人が続けて言う。
「お前たちに任せてはおけぬ。これは正義である。そうであろう。」
同意を求められた人は水色の人だった。
その人は、困ったような顔をして、横を向いていた。
銀色の人が声を張った。
「ヨミ!」
「私にはわかりかねます。…在来の種に任せる時が来たのでは?」
銀色の人は微かに笑う。
「何を言うか。おぬしはこの者らを導いてやるものであろう。あれはこの者たちには過ぎ足るもの。
あのお方は…」
突如、ルゥ・ラァの喉から、凄まじい音が発せられた。
透明の壁はぐにゃりと縦に大きく歪み、裂け目ができた。
裂け目をくぐり出た二人は光の速さで渦の中心へ向かった。
3人は二人を追いかける。2つの光と遅れてくる1つの光が流れ星のように二人を追った。
鳥の首にしがみついたユーマは、困惑していた。
「ルゥ・ラァ、あれは誰なの?わあっ!」
ユーマたちを突風が襲った。
即座に身構えたユーマに、聞き覚えのある太い声が降り注ぐ。
「ユーマよ!ここは我らに任せて、行くが良い!」
ユーマが、シルフェと名前を呼んだ、風の精霊王だった。
「シルフェ!あいつらは恐いやつらだ。だめだよ。逃げよう!」
風の精霊王は、ユーマににっこりと笑ってみせた。
「鳥よ。ここは我らが引き受けよう。風と火と地と水が。」
ルゥ・ラァは、ひときわ高く啼くと、翼を広げた。
光が粒になって翼に集まる。
二人の姿が光の炎となったころ、3人は現れた。
「この星のためなのだぞ!おろかな!」
金色の人が、消え行く二人に怒鳴り付けた。
風の精霊王は3人を見つめた。
「もう、終わりにしたら如何か。」
銀色の人が言う。
「我らはこの星に対し、正しき事をする役割の者だ。」
「この星には我らがいる。 そして、たくさんの命が息づいている。見守っては頂けぬか。」
「我らが代わりに力を預かってやろうというのを、なぜ阻むのだ。」
金色の人が言う。
水色の人が慎重に言葉を紡ぐ。
「まだ、何も起きる気配はありません。彼らは学ぶのです。幼子の扱いは、お止めになったが良い。」
「はっ!若いのが何を言うか!確かにな。兆しはないな。」
金色の人は、怒りながら続けた。
「だが、今は、だ。いずれ起きるのならば我らが受け持つと言っているのだ。」
風の精霊王はうなずきながら3人に近付く。
「お帰り願いたく存ずる。我らが共にあるかぎり、貴殿方が憂慮するような事はない。ユーマは、あの者は、素直なお子だ。根源のお方は大変優れた預かり手を下されたのです。あの方をお疑いか。根源に住まうあの方を。」
王は3人を見据えた。
「事によっては!我らが!我ら精霊の長が、正義を行いますぞ!」
風の精霊王の周りには、3人の人がいる。
皆、静かな顔をしているが、目付きは真剣であった。
「ゆくぞ。」
銀色の人が言うと、二人は後に続いた。
後ずさりながら、すっと消えたのだ。
風の王は3人が消えた場所をしばらく見ていたが、完全にあちらへ行ったと見ると、仲間の精霊に向き直る。
「皆、そういう事だ。」
そういうと、王は顔を渦に向けた。
「ユーマ、あれはな、手強くて、愛に溢れた、情けのない…」
王はしばし目をつぶる。
「かみさま、なのだよ。」
青と緑の渦は輝きながらまわる。
明るい暗闇に、静かに浮かぶ、それはとても稀有で、美しかった。