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赤い瞳の銀の鳥   作者: アマメ ヒカリ
第三章 星
12/50

12.美しい渦

ユーマは、目をそおっと開けた。



鳥の背中は暖かくて、ひとつも揺れない。

けれど周りを見ると白い霞がぐんぐん下に遠ざかる。


ユーマは、ゆらゆらと揺れる足の先の、更に下に広がる景色を眺めた。


ちょっとこわいから、鳥の首にしっかりと抱きついて、頬を羽根に押し当てて、金茶の大地が広がる様を眺めた。


その見慣れた色合いの広い大地は、自分がいつも住んでいる場所だとわかった。

所々に緑色のまとまりが見えて、時折白っぽい緑色になる。

ある時は下の方から、濃い緑が一斉に上の方に向かって白っぽい緑色になる。

今度は右上から、次は次は左下から、

その様子は音もなく続いている。



ユーマは小さな小さな声で、わあ…とつぶやいた。

「畑に風が吹いているんだ。」

何故だか、心が震える。

あの緑色から目が離せない。



ふと、気配を感じた。

それはとても友好的なもの。

これまでにも何度か来たことのある気配。


気配はユーマの頭の中で像を結び始め、

人の姿を象る。


立派な体躯をこちら側に向けて、手を振っている。笑い顔で二人を見ている姿は、精悍だった。


「やあ。」

と、その人は言葉を紡いだ。


「元気そうだ。」

二人を見つめ、笑う。


「私の事を、これまでの預かり手は、知増、と呼んだが、お前は好きなように呼ぶと良い。私に新しい名をつけてごらん。」


ユーマはあかがね色の目を少し細めた。

「しる……ふえ?シルフェ?」


風の王は胸に響く声で太く笑う。

「そうか。私はシルフェだな。よろしく頼む。ユーマ、そして鳥よ!」



ユーマは少し笑う。

鳥は前を向いたきり。



「我らは、初めてでは、ないぞ。」

王の声は、そこらの空気を震わせる。

ユーマはその震えが少々恐くなって、鳥の首を抱き締めた。



鳥は王を初めて見る。

瞬きもしない。

赤い目は語る。

ユーマは恐いと言っていると。



「はっは。鳥よ、そんな目で見るな。お前の友を驚かしたな。すまぬ。」

王の言葉を聞くと、鳥は再び前を向いてしまった。



「シルフェ。僕達は前に会っているの?」



シルフェと呼ばれた風の精霊王は、片側の眉を上げてあきれて見せる。

「ま、仕方あるまい。人としての心身の成熟が、先だな。」



シルフェはユーマに向き直って、笑みを深くした。

「お前の友は、鳥や人の他にもいるのだよ。」



気が付けば周りは黒、光をはらんだ黒い空間。

ゆらゆら揺れる足先の向こうを見れば、桶の中の水を勢い良く回した時にできる渦のような、玉のようなものが見える。



渦は微かに発光しながら振動を伝えてくる。

青くて、緑色をしている、白い霞みも所々みえる、きれいなものだ。



ユーマはしばらく、その美しい渦にみとれていた。

「ルゥ・ラァ」

羽根を撫でて、鳥の名を呼んだけど、心が震えて言葉を紡げない。



シルフェは、その様子を静かな顔つきで見守っている。



「……ルゥ・ラァ。あの渦には……僕たちの住む家があるんだ。あの渦に近づくと、どんどん近づくと、お母さんや長のおじい様に会える。あそこでは、たくさんの木や岩や……山に水に、動物や、たくさんの命が集まっているんだ。」



ユーマの顔は、渦の放つ光でぼんやりと明るい。

あかがね色の瞳に、渦が揺れていた。



共に渦を見ていたシルフェは、ユーマに向き直る。



「ユーマよ。お前には友がいる。あの渦の上と中に、我々のような者がたくさんいて、皆がお前を知っている。

皆、約束を覚えているのだよ。」



ユーマは目を渦から離し、シルフェに向けた。

シルフェの顔も、渦の光でわずかに明るい。



「この星は!

この星は…この星に住む命が預かったのだ。我らは全き姿で星を受け継いで行く者だ。ユーマよ、直に思い出すだろう。

その時、古い友がいて、今もお前を待つと知るだろう。

その時を、私は待ち望むぞ。」

立派な体つきの風の王は、言葉を言い終えると人の姿を解き、風になって去った。


風はルゥ・ラァの羽根をふわりと押し上げ、ユーマを楽しませた。



ユーマは静かな渦を見つめた。

「ルゥ・ラァ。連れてきてくれてありがとう。僕は、あの渦が、好きだ。」



銀の帯がユーマの回りをくるくると回り出す。

「ユーマ。あなたに見せたいものはまだまだ、たくさんあります。あの渦へ、あの渦の真ん中へ、行きましょう。」



ルゥ・ラァは緩やかな弧を描いて、光る渦へ舞い降りて行った。

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