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1,000文字小説

心霊サウンドトラック

作者: 柴見流一郎

今回の1,000文字小説は「心理的瑕疵あり」と名のついた物件に住まうことになった陽気な青年。そして幽霊のお話です。

 私は幽霊だ。安アパートに地縛霊として住み着き人間を心霊現象で悩ませる。それが私の日課であり「心理的瑕疵有り」として不動産に登録させた功績を持つ。


 そして今日もまた一人、馬鹿な人間がやってきた。下見にきた際、不動産屋に散々この物件の危なさを説明されたにも関わらず、一つ返事で決めてしまった。

 二十代半ばの青年で、陽気な性格をしていた。

 舐められては困る。早速心霊現象にあってもらおう。まずはポルターガイストだ。


 ガシャン! と派手な音をたてて食器が割れた。ワンDKの狭い部屋でひとりでに食器が割れる。これの不気味さは誰もが青ざめるものだ。だが。


「あっちゃー……割っちゃったか。引っ越してそうそうゴミだしちゃったなぁ」


 ……いや。あなたはテレビを見てただけじゃないか。流し台にすら近寄っていない。食器棚はキッチンの奥だ。それなのに割れたお皿を片付け、それに充実したどや顔でテレビ鑑賞に戻る。


 幽霊を舐めてもらっては、困るのだ。

 次はラップ音だ。ひとりでに鳴る音に震えるがいい。


 バチン。カン……トントン……


「ん、何の音だ? まさかこれがラップ音ってやつか?」


 愚鈍なこの青年にもようやく置かれた立場が分かったらしい。私はラップ音を立て続けに放った。


 コン、コン。ビシ、バチン。


「YO、YO」


 トン……カチャン。パチン、ドン


「HEY、HEY。チェケラッチョ」


 違う、そっちのラップじゃない。


「はあ……ほんとにいるんだな、幽霊って」


 認識されたはいいが何故満ち足りた顔をされなければならないのか。


□□□


 ある日の夕方。青年はグラスを二つテーブルに置き、両方のグラスにビールを注いだ。もう片方は何のためにあるのだろうか。


「バンド仲間でさ。たまに晩酌に付き合ってもらうんだよ」


 きょとんとする。私に説明しているつもりなのだろうか。


「……自殺だった。俺は、なんも出来なかった」


 青年からは陽気な気配は消えない。ただ寂しげな笑みを浮かべていた。


「だからたまに、ただ酒につきあってもらってるんだよ」


 言って青年はギターを手に取った。つま弾く曲は、『ジムノペディ』。生きていたころに一度は聞いたことがあった。


「……何もできないで、ごめんな」


 青年がか細い声でつぶやいた。


 パン、とラップ音を鳴らしてみる。トン、カン、ドン。立て続けに、空気を揺らす。


「お、ソロじゃ寂しかったんだ。一緒に曲やろうぜ」


 パン、トントン、ドン、パン。


「はは、いいなこれ。いっそ武道館目指そうか!」


 音が重なる。不慣れと思える合いの手がギターの音色にのって転がり、またギターがそれを拾う形でメロディを会わせた。

 流れてくるセッションは不思議と騒音問題とならず、いつしか不動産の登記簿から「心理的瑕疵あり」という項目は削除されていた。



ラストを書き換えました。上げ直しになりお手間を取らせてしまいますが、クオリティを重視したくありました。ご容赦ください。

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