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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
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19-5.瘴気の行方

 更に2人を加えた一行だが、前衛の3人は変わらずに、程度、程度に歩みを止めてはエイミの誘導する座標を確認しながら、道程を消化していった。

しかし、敵襲らしき敵襲もないが弾む会話も無く、一行は淡々と、そして何所か息の詰まる雰囲気で歩を進めていく。

「…空気が重い。」

「お前のせいだろ!間違いなく!」

天井は高く、そこから光苔の陽が柔らかく差し、風の嘶きが通り抜けるというに赤い襟巻きを押さえてグランはぼそりと呟く。

ユートもその一言を機に我慢なら無かった沈黙を破り、前衛として隣に並ぶグランへと詰め寄って来た。


「飛び入りは俺のボスとセバっさんだろ。何で俺のせいに…」

そう言って後ろを振り向くと、セバスとビルキースは少し離れて後方を警戒しつつ歩いていた。

「あの2人、信用できるのでござるか?と、ユート殿は心配しているのでござるよ。」

睨むユートにソウシロウが代弁し、グランは納得いかない表情を浮かべ、後頭部をくしゃりと掻く。

「そうなると連帯で俺も信用ままならない存在になるわけなのだが…」



「だから、黙るなよ。」

自分が一見において信用が持てる人物ではな無いと自覚した上、グランは2人向かって肩をすくめて文句を垂れた。


「だってよ、エミせんを見てみろよ。」

「何時ものエイミ殿なら、はしゃぐ程の焦がれ人が目前に居るとなれば、道中は質問による質問でまくしたているであろうな。」

3人は揃ってちらり、後衛のエイミへ振り向く。

先程までの、何時もの快活さは無く静か過ぎるエイミとそれを横目に心配するフラナが3人の目に映る。

「真面目に仕事をしていい事じゃないか。」

「緊張もあるでござろうが、2人のお主への扱いに思うところがあるのでござるよ。」

ソウシロウの言葉に、グランは黒髪をくしゃくしゃと掻き眉を歪めた。


「で、実際<どう>なんだよ。」

「どう…って。まぁ、十中八九、何か企んでいるのは間違いないだろうな。俺が言うのも何か変だな…」



「…心配すんなよ。どうせ巻き込まれるのは俺だけで、他に迷惑はいかねーよ。」

「<龍天楼>のあの人が既に巻き込まれてるんじゃねーの?」

再び黙って視線だけを向けてくる2人にグランは皮肉めいて答えるもユートの一言に言葉を失う。

「ならば、赤法師殿はせめてハンス殿には気を掻けるにござるよ。ハンス殿もお主を随分と気にしているようにござるからな。」

「今回はナナリナさんが居なくてよかったぜ。居たらアンタの女ボスと大喧嘩になってるところだ。」

2人からの更なる指摘に、グランはその黒髪を勢い強く掻きむしって苛立ちを表した。


「前衛、何をしている。進まないのか?」

「へいへい、といっても、ここのまま直進は崖へ真っ逆さまなんですけどね。降りるのか?迂回するのか?」

前衛3人が足を止め、会話をしている事に追いつく後続達。

ビルキースは呆れ顔で声をかけ進行の催促に、グランは言葉を返す。

「針は真直ぐを指していますね。」

だが、エイミの言う前方には窪地が広がり、今の地面と高さが合うのはその遥か先。

ビルキースは3人を割って窪地の崖手前まで進むと底を見下ろしながら眼鏡をの位置を調整する。


「…その下で間違いない。降りる道は近くにある、探せ。」

「何故、解るのですか?」

ビルキースは自らの眼鏡を外すと、ハンスへ渡し、首を傾げながら自分の眼鏡と付け替えては崖下を覗く。

ハンスの目には建物らしき影が崖下に見えるものの、しかし、その存在はぼやけていてハッキリとしない。

「これは、<認識阻害>。貴女はじゃあ、既に場所を知っていたのですか?」

「隠蔽は魔法の研究、扱うものとして<常套手段>だろう?それにまだこの層は私の庭みたいなものだ。当時の末席魔術師の工房すら場所を把握している。」

そう、ビルキースはハンスから眼鏡を返されかけ直すと鼻を鳴らした。

すると、セバスから窪地の底に繋がる道が見つかったとの合図を受け、一行はその道へと向かう。


「今の前衛は殿に回れ、私とセバスと学院の彼女が先に進む。」

「おいおい、とうとうあのオバさんに仕切りだされちまったぜ?」

「…」

前衛だった3人は今度は最後尾に回り、ユートは坂道を下る一行を見て苦笑いを浮かべ、グランはただ無言でその後ろ姿を見送っていく。


―――


エイミが常時覗いていた、コンパスの針が回りだす。

「ここに間違いは無いみたいですが…」

しかし、周囲は木々が生い茂るだけであって何も無く、冷たい風だけが一行を吹き抜ける。

「<認識阻害>ってヤツか。」

「近くにいればそれだけその効果に飲み込まれる。例え先の崖上に人を立たせ、信号や通話を送っても互いに認識し合うもできん。」

グランの呟きに答えたのは先程先頭を歩いていたビルキースがキセルを咥え、煙を吹かしては腕を組み、ハンスへと振り向いた。


「さて、アナタの出番ではないか、学士殿。」

自分の呼びかけ方が都度変わる事に挑発を受けているのを認識しだしたハンスだが、それを敢えて鞄から鈴の玉を取り出すとそれを鳴らす。

すると、周囲がざわつき周囲が変わりだすと、その目にしていた木々の一部からドーム状の建物が姿を現した。

「うへぇ、建物だけじゃなくて周囲そのものも幻覚だったのか…」

ユートは感心の声を上げつつ、一行は入り口の前へと立つ。

巨大な扉の前に立つとハンスは手を掛け、ゆっくりと押し開けていく。

中からは、金属錆、湿った土、そして埃っぽい臭いが漂ってくる。

そして、中には人の気配は無く、明かりもない暗闇の中ハンスは鈴を別の音色で鳴らし響かせると部屋全体に明かりが灯った。


「…こ、この中を私達で調査するんですか?」

「いえ、皆さんはボクが戻るまで待機をしていてください。もし、何かあればコンパスの針に異変がみられるはずです。」

フラナの言葉にハンスは振り返りながら答えると、そのまま奥の扉へと向く。

「1人でか?」

「…エイミさん、ボクと来てくれませんか。」

グランの質問にハンスは首を振り、再び鞄を漁っては小箱を取り出し開くと中には2つの指輪が納まっていた。


「はにゃッ!?ゆび、指輪!?ぺぺぺ、ペアリング!?」

「この2つの指輪は両手に身に着けると<龍心堂>内の魔力圧から守ってくれるものです。流石に全員分は用意できないので依頼主側の貴女が。」

その言葉にエイミは顔を真っ赤にして慌てると、ハンスは困った表情を浮かべながら淡々と説明をしていく。

「あ、そ、そういう事でしたか。それでしたら…ってアレ?」

自分の勘違いを笑顔で誤魔化そうとしながら、エイミは指輪に手を伸ばすもそれは空を摘む。

2人が視線を周囲に向け探すが、何時の間にか2人の横に立つビルキースが先程の指輪を手にし、それをはめる。


彼女の行動に驚き、ハンスは声を上げるもビルキースは気にせず指を眺めた。

「ど、どういうつもりですか!?」

「彼女ではなく私が行く、という事だが?」

ビルキースは悪びれもなくそう言い放つと、流石にこれまで穏やかであったハンスの瞳が大きく見開いた。

「この依頼は学院からのものです。貴女はただの同行人で、関係者では…」

「調査は<瘴気>だろう?あの<瘴気石>をサンプルとしてな。それを踏まえ、キミは私を必要と言い出したのでは?」

ビルキースは不敵に笑う。


「詭弁を…!それは調査の後に擦り合わせれば…」

「やめとけ、ハンス。」

ハンスは詰め寄るが、グランが彼の言葉を遮りって肩を叩いて制止する。

「グラン!?キミだって彼女には…」

「この調子で揉めると、あのセバっさんが力づくで通そうとする。そうなると最悪この場全員が白目を向くぜ?」

グランはセバスの方を向き顎で指し示すと、その先には物静かに佇むセバスが居るが彼の背後からには圧を感じ取れる。


「ただ、このまま首を縦に振れば<貸し>は作れる、とびきりでかいのを。な?ボス。」

「フン。少しは私をわかってきたか。」

不機嫌そうに鼻息を吐きながらもビルキースは満足げに笑い、ハンスは苦虫を噛んだかのような顔を浮かべる。

「交渉条件を口に出せってんだよアンタは…」

「わかりました…。ですが、これ以上は貴女の我侭を…」

ハンスはビルキースの強引な態度に折れる事となり、渋々承諾するが、それでも彼は不服な態度は崩さない。


「いや、後はコイツも連れて行く。」

「はぁ!?」

しかし、続くビルキースの提案、もはや要求にグランは大きく目を見開き、驚愕の声を上げた。

「…いや、そうだ、自分で言葉にしながら失念するとは、…悪いハンス。」

「ダ、ダメだよッ!いくらキミの身体でも内部奥にこの指輪無しに進むのは危険だ!それならキミとボクで入るべきだ!」

だが、すぐに冷静さを取り戻し、頭を掻きながらハンスへ頭を下げる。

それに対してハンスは激しく反対の声を上げ、彼女を説得しようと試みるがビルキースは聞く耳を持たない。


「入るのはこの<3人>だ。グラン、キサマも<竜核>への決着に進展はみせたいだろう?」

「…その口振りだと俺をあの中に入れる算段は既に整って事か。」

ビルキースの言葉にグランは諦めたように溜息を吐き出すと、ビルキースは笑みで返す。

ハンスは彼女の言葉に考え込むと、やがて首を振る。

「じゃあ、この<瘴気石>は…。ボク、いや、<龍天楼>が呼び出されるよう、貴女の撒いた餌。書いた筋書きだと!?」

「どちらにせよ、<アナタ>と<魔法都・レテシア>は瘴気に対して調査の必要は出る。」

ハンスが<瘴気石>のシリンダー瓶を手にしながらつぶやく言葉に、ビルキースは彼の顔を真っ直ぐに、鋭く冷たい視線で射抜きながら語る。

その様子から、彼女が嘘をついていない事が伝わり、だからこそ、ハンスは更に困惑の色を深めた。

「その<瘴気石>は外からおいそれと持ち運べるものでもない。<キミ>もその立場ならわかるだろう。私は偶然ながらもその機を最大に活かした手段をとったにすぎない。」


ハンスはその言葉に俯き、悔しそうにシリンダー瓶をビルキースへ突き付けると苦悶の表情を噛締め扉の方へと向かう。

「……進みます。他の方々はここで待機を。」

ハンスは振り返らずにそう告げると、扉を開け先へと進んで行く。

「フン。<使命>というものをもった組織は大変なものだ。使命に触れる条件が揃えばどんな状況下でも無視は許されなくなる。」

「アンタ、今回ばかりは悪党が過ぎるぞ。少なくとも中での俺はアンタじゃなく、ハンスの味方でいるからな。」

ビルキースの発言にグランは呆れながら釘を刺す。

「構わん。どうせ中でキサマの判断は役には立たん。」

彼女はそれを聞き、キセルを一服吹かすとセバスへと視線を送った後にハンスを追い、グランも少しの間の後にのしのしと続いた。


―――


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