18-3.鎮まれ我が…
エフィムの一言にシータは何かを思い出したように勢い良く声をあげ、3人の来客は顔を向ける。
「ま、魔力の吸い上げ?<聖伏の柱>の事ですか…?」
「せーふくのはしら?」
その聞き慣れぬ言葉にグランは首を傾げ、エフィムの方へと疑問の視線を送る。
「グランさんも司祭様の行った<鎮魂の儀>を目にしたのであれば、あの<儀式>の代理をする設備といえば、お分かりになると思います。」
「あぁ、アレか…。ン?じゃあ<儀式>を行えば俺の腕の問題を解決できるのでは?」
エフィムの言葉に、グランは自分の左腕の症状を思い浮かべ、解決への糸口を見つけたと表情が明るくなったが、エイミは渋面のまま答えた。
「<儀式魔法>ってかなり高度なんですよッ?それに儀式を成立するには人手か時間が必要ですから、そんな簡単に出来るものじゃないですッ?」
「…あぁ、何か、そんなんだったか。」
グランはソウシロウと聖堂協会を訪れ、エフィムと初めて出会った時を思い出しながら納得する。
だが、それは同時にならば何故<聖伏の柱>とやらがその儀式と魔力の吸い上げを行えるのかと、疑問も浮かぶ。
「<聖伏の柱>ってのはね、1人でも儀式を行えるよう造られたものなのよ。必要なのは起動させる為の<術者>と<触媒>の2点。」
「俺にその<触媒>、つまりそれって、生贄…」
「アラ、察しのいい。とどのつまりはそういう事、聖堂管理官が交代した、という事は引継ぎの間で魔力炉の空きも大きいはず、今が吸い上げる最大限のチャンスともいえるわ。」
グランは後頭部をくしゃりと掻き、眉を歪ませては困ったような顔をした。
「そんな心配しなくても大丈夫ですよッ!別に祭壇に奉って刃を突き立てるなんて、今の時代どんな儀式でもしませんってッ!」
そう、エイミはグランの背中を叩きながらフォローを入れる。
「あ、あの~、それで<聖伏の柱>とグランさんがどのように関係あるのでしょうか…?」
「「「あー…」」」
―――かくがくしかじか…
3人はエフィムに対し説明という説明が省かれていた事に気づき、改めて事の経緯の説明を入れた。
「どうかしました、シータ?」
「…今になって正直、私に余り関係ない事だっていうのに、<聖伏の柱>に気付いて声を出してしまったのが、急に恥ずかしくなって…」
口元を抑え顔をやや赤らめるシータの様子をエイミはニタニタと笑い、その顔をみたシータは咳払いをして仕切り直す。
「…それで、エフィム。2人を聖堂の<聖伏の柱>へ案内してあげてくれないかしら?私も私で2人から頼まれ事があるしね。」
「そ、そうですね!お話ですと時間も無いようですから、直ぐにでもご案内します!グランさんには司祭様がお世話にもなりましたから。」
「んー、それに関しては一応報酬を受け取った事だから、余り気にかけなくても…」
エフィムは何かが湧き出したかのように勢い良く立ち上がると、そのまま扉へと向かい、その様子にグランは少しだけ困ったように頬を掻いた。
―――
「では、このまま学院を出て、聖堂に向かうという事でよろしいですか?」
シータの研究室を後にし、エフィムの先導で聖堂へと向かう事にグランとエイミは頷き、一行は学院の棟と棟を繋ぐ空中回廊を渡り、校内の外へ向かう。
グランが窓から下を覗くと、そこにソウシロウが学院の生徒数名を並ばせては素振りをしているのが見え、その光景を眺めながら先へと進んでいく。
「そういえば、街の大穴を覗きに行って以来、ここの外に出た事なかったな…」
グランの言葉にエフィムは振り返り、その呟きに反応を示す。
「私も、ここに戻ってくるのは何年も前なので、あまり変わってないといいのですけど。」
エフィムは昔を思い出しているのか懐かしみながらも何処か困惑した顔を見せる。
「ぐふふふ、気を付けてくださいッ。未だ<暗黒邪教徒>はこの街に潜伏しているそうですから、エフィムが迷子になってたらそれこそ生贄にされてしまいます。」
エイミが手を小刻みに動かしながらエフィムへ迫り、彼女は両手を振って拒絶した。
「あ、見つけた!ダーリン♥」
空中回廊を渡りきり別棟の廊下に差し掛かったところで、グランはその聞き覚えのある声にビクリと肩を震わせ、声の方へと向く。
そこには満面の笑みで両手を広げ駆け寄ってくるナナリナが居り、グランは自然と身構えた。
しかし、彼女の青い髪と尻尾が駆け始めて2度3度と揺れ、次の瞬間にはグランへと向かって飛び込むであろう瞬間である。
「きゃーッ♥ナナさまぁーッ♥」
今度はその後方から黄色い歓声が上がり、全員がそちらを見ると数人の女子生徒が、ナナリナへと向かい走りだす。
「ンもぉーっ!またなのーっ!?」
まるで土煙を撒き散らすかのような速度で突撃してくる集団を見たナナリナは涙目になりつつ、一行を過ぎ去るように走っていった。
…
「ろ、廊下や回廊を走ると危ないですよ~っ!」
遠行くその背にエフィムの声が届いたかどうかは定かではないが、勢いが消えると同時に姿は見えなくなった。
「…あんな乙女、乙女した走り方もするんだな、アイツ。」
「あの生徒達がナナリナの女子ファンクラブって奴ですねッ。なんでもフラナちゃんの野外実習時に助っ人で参加して人気になったそうです。」
一行は静けさを取り戻した廊下を確認し、校外へと向かって歩き出す。
「アイツ基本はお節介焼きだしな。ま、何となく想像はできる…」
「あのぅ、ところでグランさん。」
エフィムは小さく手を上げながら、黒髪の後頭部をくしゃくしゃと掻くグランに問う。
「<ダーリン>というのは…?」
「…空耳です。」
「いえ、でも、あの青髪のドラグネスの女性がグランさんに…」
「いいえ、きっと、多分、メイビー、…空耳です。」
グランはエフィムの言葉を遮るようにして言葉を重ねると、それ以上は何も言わず黙々と歩く速度を上げる。
その様子を見ながらエイミはくつくつと笑い、エフィムは首を傾げつつもその後を追うのだった。
―――
校舎の玄関を出て、校門へと向かい歩く一行。
すると、その途中でふらふら、よたよたとおぼつかない足取りで歩いている小さな人影が眼前に現れる。
「おや、アレは確かフラナちゃんの<使い魔>でしたね?」
エイミが指差すとその先には何とも疲弊したかの様子で<シキガミ>のヨポがトボトボとこちらに向かって来ていた。
エフィムが手をかざし、拾い上げるとヨポはエフィムの豊満な胸へと飛び込んで抱きつき、ぐったりとした様子で頭部を擦り付ける。
「Yo、YoPo~…」
その身体からは微かに湯気が立ち込めており、どうやら熱気に参っているようであった。
グランは握りこぶしを作りながらその光景を見つめるが、ヨポの足取りを目で追うと、そこは以前昼食をとったガゼボのような場所。
その中を3人が覗くと、テーブル中を覆い尽くす程に積み上げられた本の塔の中で勉強するフラナの姿が見える。
「どうやら<このコ>は<あのコ>の熱意に当てられてしまったみたいですね。」
エフィムはそう言いながらヨポを抱え直し、優しく撫でてやった。
「…根詰めないといいが、今はそっとしておくか。」
「そうですね、気遣いは使い魔クンを返す時にでも何か差し入れでもしましょう。」
グランの言葉にエイミも同意を示し、一行はそのままヨポをエフィムに任せる事にして学院を後にする。
―――
そして、一行は街の中心にある広場までやって来た。
大きな噴水、それを囲うようにして屋台が並び様々な物を売り賑やかな喧騒に包まれている。
「うーむ、つい最近までここが<幻の都>という認識だったのが不思議なくらい一般的な都だなぁ。」
「そういえば、私、他の街の事さっぱり知りませんねッ。<転移門>で往来できる土地すらもさっぱりです。」
エイミはそうエフィムの顔を見て、彼女から外の街の話題をねだるような視線を送り、その意図を察したのかエフィムは少し困った顔をしつつ口を開く。
「いえ、私もここを出たとはいえ、そこまで大きな街も知らないものでして…」
「話を聞く限り、エフィムさんはこの街の出身で、あのじい…、えー、あー、老司祭の奉行へ?」
「はい、信奉者の修行として。なんでも昔に学院長のお知り合いだったとのご縁で。」
エフィムはグランからの続く言葉に対し、どこか懐かしむ雰囲気で答える。
「あの2人、ボスに面識があったな、じゃあ2人も俺の雇い主、<ビルキース=パダハラム>を知ってるのか?」
「えぇ、学院長がまだ教諭だった頃、直に教えていた生徒だったと聞きます。」
「おまけにここの大穴の遺跡も在学中に深層域まで到達したとか、聞きしに勝る武勇伝をお持ちの方ですよッ!」
2人は掻い摘んでだが、グランの雇い主<ビルキース>への賛辞を口にした。
「ですが、学院を卒業してわずか、父君を亡くされたそうで…」
「その負債等を請けてしまい、大陸西部から大陸中央へ移られ独立自尊で活動していた聞いていますね。やはり行方の手掛りはまだなのです?」
エイミの言葉に対してグランは右の肩をすくめ、首を横に振りつつ答える。
「…こればっかりは学院長が口を割ってくれないと、きっかけも掴めそうにないな。」
進展しない問題、更には自分の腕の事でグランとしては悩みの種が増すばかりであった。
―――ぐぅー…
「そういうに、そういえば、朝から目覚めていきなりコイツが乗り込んでくるものだから何も口にしていなかった…」
悩みがそうさせたのか、グランは腹の虫を鳴らし、エイミの方へと顔を向ける。
「…だらしがないですねッ!私なんて後数時間は余裕で動けますよッ!そもそも目が覚めてその腕では食事どころではなかったでしょう?」
―――ぐぅー…
エイミが張り合うように声を上げるが、それに呼応するように彼女の腹部からも空腹を知らせる音が鳴り響く。
「それでは、何か露店で召し上がりませんか?エイミ、お願いします。」
2人のやりとりを聞きながら、エフィムは微笑みながら提案すると、エイミは恥ずかしさを誤魔化すかの様にして、早足で屋台へと向かっていった。
…
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串刺し湯でハーブソーセージ
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「露店といえば串モノ!これでも私、生徒達からは串モノのエミせんと呼ばれているくらいですのでッ!」
「その二つ名自慢できるもの?」
3本の串の腸詰肉を持ち、エイミは胸を張って噴水の縁に座る2人へと見せびらかす。
エフィムは手渡された1本を手にとってはまじまじと眺めると、酸味柑橘系の爽やかな香りが漂う。
「しかし、こういうものは殿方の驕りで振舞ってくれるもんじゃないのですか?」
「俺はお前さんから自分の報酬を何度か勝手に食費を天引きされてる身なんだが?」
エイミの問い掛けにグランは半眼になりながら返すと、彼女は口笛を吹きながらエフィムの隣へと座る。
「まず、串先の頭からがぶーっといくんですよ、エフィム!」
「え、そ、そうなんですか?それでは…」
そして、串を目の前にし、どうしたらいいのか戸惑っている様子のエフィムにエイミは助言を出す。
その言葉にエフィムは左手を口元に添え、右手に持つ串の先端を上品、恐る恐ると口に近づけ、先端を食む。
―――ゴクリ…
腸詰肉の先端を噛み千切ろうとする、その小さくすぼんだ可憐な口元を見て、グランは喉を鳴らす。
「物欲しそうにしなくても目の前にあるものを食べたらどうです?」
「…ン?、あぁ、そういえば、そうだった…」
―――




