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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
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15-2.転移門市

 「さぁ、着きました!ここがこの町の<転移門市>に成ります!」

ペギーが声高らかに宣言するゲートの先に広がる光景、それは正門の階段から見下ろした通り、大小様々なテントが張られ、そこかしこに露店が並んでいた。

中には敷物を敷いただけで商品を広げている店も多々見受けられ、上から見た時には気付かなかったが、かなりの賑わいを見せ、その活気の様相は正にお祭り騒ぎといったところだ。

ペギーは鼻を鳴らしながら、得意げに胸を張ると、一行を先導するように大通りの中央へと向かう。


「ところで赤法師殿。<転移門>とはどのようなものでござる?」

先導に歩を進めるペギーに続きながら、ソウシロウは興味深そうに辺りの様子を眺めるながらグランへと尋ねた。

「…お前がそれを聞くの?」

「何か変でござるか?」

グランの驚き混じりの言葉に、ソウシロウは不思議そうに小首を傾げる。


「いや、てっきり<ヒノモト>からは<転移門>で来たんだと思ってたんだが…」

後頭部をくしゃりと掻きながらグランは困惑気味に言葉を返す。

「拙者は船でここ大陸西部に来たでござる。この港町の概観は見覚えがないでござるから、拙者が降りたのはここよりも東の港だと思うにござるな。」

「はぁ、海路でわざわざ、ねぇ。…いや、そもそもここ大陸西部にヒノモトへの海路なんてあったのか?」

今度はグランが考えるように首を傾げ、更に後ろ髪をくしゃりと掴む。


「そういえば、赤法師殿はヒノモトを訪れた事があるそうでござるな。」

「あぁ。確か<ナガサキ>って名前だったか、そこがヒノモト唯一の玄関とは聞いてたからな。ただ、余所者は町外れの島から出る事はできなかったが…。お前もそこから来たんじゃないのか?」

「あ、いや、拙者は…」

問いにソウシロウが言葉に詰まり、グランは少し眉を潜めた時であった。

「ソウシロウばかり、ダーリンを独り占めしないっ!」

ナナリナが赤いマント越しにグランの腕を抱き寄せ、ソウシロウと距離を引き剥がす。

「ははは、そんなつもりは毛頭ないでござるよ。ナナリナ殿。」

ソウシロウは笑顔を浮かべナナリナを宥めるも、ナナリナは更に強く腕を締め付けソウシロウを睨む。

その様子にグランは肩を落とし、溜息を吐いた。


一行はそのまま並ぶ露店を物色し、市場の通りを歩を進み続けていく。

「ねぇ、どうして<転移門>在る所には<転移門市>が在るの?」

赤いマント越しの腕にしがみつき、今度は機嫌が上向きになったナナリナがグランへ尋ねる。

「せめてガイド役は擦り付けられると思ったが、結局俺が解説するのね…」

ナナリナの態度にソウシロウの視線、それらの意味を理解した赤マントの男は面倒な顔をしながらも口を開く事にした。

「まず、<転移門>は言葉通り、主に長距離の場と場を繋ぐものではあるが、繋がった場へ一度、一辺に転移できるわけじゃない。」

赤マントの男は人差し指を立て、空に描く様に動かし説明を始めだす。


<転移門>も一度に転移させる量には限界があり、それは敷かれた陣の大小だけならず、距離、質等の影響が左右する。

転移に弾かれたものは転移元に取り残されるか、予測不明の場所へと飛ばされるか、最悪の場合消滅してしまう可能性を秘めてしまう。

「そして、対象内での<繋がり>が地味に重要になるんだわ、コレが。」

「<繋がり>?」

ナナリナが疑問を口にすると、グランは小さく肯き続ける。

「簡単に言えば転移される俺自身とその衣服や装備だな。これは俺が着用しているという意識が<繋がり>となり転移に弾かれる事はない。だが…」

そこまで言って、グランはチラリと自分の腕に密着するナナリナを見ると、2本の指を伸ばすと彼女の額に軽く叩いた。

「例えば、<今の>ナナリナに意識が無く、1人程、まぁ許容量を超えた場合で俺が転移するとどうなるか。」

叩かれ、キョトンとするナナリナだったが、すぐに何かに気付いた様にハッとした表情を見せる。

「ナナリナ殿が転移元に取り残されるか、ナナリナ殿と赤法師殿が予期せぬ場所へ飛ばされてしまう…で、ござるか?」

ソウシロウの言葉にグランは頷き、言葉を続けていく。


「だが、何が<弾かれる>か、解るのはまだいい方だ。そのあげた例以外も様々パターンで<弾かれる>事となるんだわ。」

「その<弾かれた>物品がこの市に並んでるってワケなのね。」

ナナリナは納得した様にポンっと手を叩くと、グランはまたも肯く。

「…が、当たらずとも遠からずって所だな。それだと<転移門>の管理組織でこの市が埋まってるはずだ。」

赤マントの男が肩をすくめる様子にソウシロウは小首を傾げ、グランは各大型のテントに立つ旗を指した。

そこには、風に揺れ特徴的な紋様が描かれた旗達がなびいているが、同じとした紋様をした旗は殆どない。


「転移に<弾かれ>ないよう、事前対策を行っているのさ。商隊側も転移門側もな。」

「あぁ、そういう事でござるか。」

今度はソウシロウは得心がいったのか大きく手を打つ。

商隊規模ともなると<転移門>を利用し人員等を一気に運ぶ事は可能だが、馬車とその膨大な量の積荷は<繋がり>が希薄となり纏めて送るのは難しくなる。

通す量を分割する事もあるが、利用の順番待ちや商隊が合流するまでのロスを考慮すれば、結局は大量の物資を一度に転移させる方が効率が良い。

つまり、この市場は転移の際に生じる被害と利益のバランスを取る為に存在するのだ。

<転移門>の管理側は事故が起きないように事前に対策を行い、商人達も状況をある程度把握し、商品の損失を最低限に抑える為に知恵を振り絞っている。


「転移門側も転移の際の<繋がり>を拡張させる触媒を売っては居るんだが、これがまた中々の額でな。」

「ふむ、<弾かれる>以前に互いの利から漏れたものがこの自由市には集まっている。で、ござるか。」

ソウシロウは感慨深げに呟きながら周囲を見渡し、グランもそれに頷く。

ナナリナは2人の会話に弾き出されつつあると感じたか、再びグランの赤いマントを強く抱き寄せ、ソウシロウを睨む。

その視線に気付くとソウシロウは苦笑を浮かべるが、グランは呆れた顔で溜息を吐いた。


「それにしても、すごい量なのね。」

途切れる事無く続く露店の数々にナナリナは驚きの声を上げ目を輝かせる。

食料、日常品は勿論の事、武具に薬品に装飾品等、はたまた家畜まで、様々なものが溢れかえっていた。

れもこれも、見慣れぬものはソウシロウとナナリナは興味津々とばかりに視線を動かし、特にナナリナは興奮気味にグランの腕を引く。

「あぁ、3割近くが便乗で出店しているそうだが、残りは商隊流通による品ってワケだからな。商人が如何にガメツイか見て取れるってもんだ。」

グランが皮肉混じりに言うと、ナナリナとソウシロウは互いに顔をしかめ笑った。


「しかし、1つ1つの店には商品の種類が偏っているようでござるな。」

ソウシロウの指摘通り、目にする通りには多種多様な品物が陳列されているように見えるが、店1つに並ぶ商品はせいぜい2、3種類程度と同じ物が並ぶ。

「だから<転移門市>には必然的に大口の運搬流通する商品が格安、かつ大量に並ぶのよ。まさに<アイツ>にとっては火精の宿る釜戸、大水を得た魚ってヤツだな。」

そういってペギーの方へアゴを向けると、彼女の手には既に幾つかの品物が掴んでいて、店主らしき男と値段交渉をしている最中だった。

交渉が終わると次々と品を袋に詰めていき、それをユートの両腕へ、そして次の店では同じようにフラナの両腕へと押し付けていく。


「…さて、観念しとけよ2人とも、あの女に出会わない方がよかったって後悔する事になるぜ?」

「ダメですよぉ~旦那方~、ほら、両手が開いてるじゃないですか。宿まではウチの荷物を持ってくださいな~。」

口元は笑いながらも、目は何所か笑ってないペギーの言葉に、ソウシロウとナナリナは引き攣った表情で顔を見合わせる。

「た、助けてくださ~い。ナナリナさん、ソウシロウさん、赤マントさぁん。」

「YO、YOPO~…」

立ち止まっていると、ユートとフラナが次々と抱えられなくなるほど袋を押し付けられていく様を見せつけられ、3人は慌てて2から荷物を受け取っていく。



―――


「…それで、何時になったらお前の言う宿に向かう気になるんだ?」

グランは疲れたように肩を落とし、ながら新たな店で半ば脅迫めいた交渉をしているペギーに声を掛ける。

「なんです?旦那ともあろうお方がもう音を上げてしまったんです?」

「何言ってる。もう誰もがお前の買い物で腕が塞がってると言ってるんだよ!」

怒鳴り声を上げグランだったが、ペギーはどこ吹く風と涼しい顔をし、先々で交渉と買い物を続けていた。


「それに何で俺だけ背負子を付けた上で、こんな荷物持たされなくちゃならないんだよ!!」

「ふぅ、仕方ありまへんなぁ。じゃあ次の店で買い物が終わりましたら、宿まで一直線でご案内します。」

そういうと、ペギーは新たに買い付けた品をグランの両腕に押し付け、満足げに笑うと次の店を物色し始めに行ってしまう。

それを見たグランは肩を落とし、背後で同じく荷物を抱えさせられているソウシロウ達に目配すると、一行も力無く首を振るのだった。


「あ、あの店に大量に並ぶアレはもしや!も~し~や~!」

ペギーが次なる獲物を見つけたのか、駆け足で向かった先の店では無数の人形が並びに並び、積まれに積まれている。

「ヒポポ・ニポ・マタスコ人形!」

「…ニポのヒポのなんだって?」

思わず聞き返す赤マントの男だが、そんな言葉など耳に入ってすらいない様子のペギーはその店の主人と思しき人物に声を掛け、商品に手に取る。


「ニ、ニセモノやあらへん。ちゃんとした製造元が造っとる本物のヒポポ・ニポ・マタスコ人形ですわ。それが目の前にこんなに!?」

「…だから、なんだそりゃ。」

目を輝かせ、頬を紅潮させるペギーの様子に、グランは呆れたような声を上げる。

「今、ここ西部に近い大陸中央では今、大流行中の人形なんですわ。特にこのヒポニポシリーズは今や飛ぶ鳥落とす勢いの人気ぶりで、ウチでもなかなか手に入らなかったんです。」

「…このもーれつぶっさいくにしたトロル族っぽい人形がかぁ?」

その言葉に怪しむような目つきをするユート。


しかし、ペギーは興奮していたにも関わらず、商品を両手に握ったまま俯き、それまでならすぐさま交渉に持っていくはずの彼女が、一向に動こうとしない。

「ど、どうしたんですか?ペギーさん…」

「ふむ、どうやらペギー殿の買収力に限界が来てしまったようでござるな。」

フラナの言葉にソウシロウは口の閉じる事のなかったペギーの急変した様子に納得する。

ペギーは顔を上げず、まるで何かに取り憑かれたかのようにブツブツと呟き頭の中を高速で回転させ、残る余力で大量に仕入れるかの算段を立てだす。

その時であった、1つの細く、長身の人影が店内に颯爽と現れた。


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