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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
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10-1.サブラヒ

 丘の街道は陽気に包まれ、風は穏やかに、清涼なる空気が吹き抜けていく。

林は風に揺られ、枝葉を鳴らし、まさに風情を楽しみ歩みを運ぶには理想の旅路である。

そう、目の前を遮る男3人が居なければ、なのだが。


正面中央には顔にあどけなさが残る大男が1人。

向かって右側は細長い男が1人。

更に左には丸く小柄な男1人。

男3人はそれぞれ既に武器を抜き、何やら独特に合わせた構えを取っては道中央に鎮座し、此方を待ち構えている様であった。


「やいやい!止まれ!この道は今より、我ら三兄弟…」

丸い小柄な男が名乗りをあげんとするその途端であった。


―――カッポンッ!


細長い男の顔面には乾きどこか景気の良い音を立てて太枝が減り込み、穏やかな風中を響かせる。

「兄ィーーーーーッ!?」

中央の大男が叫ぶ。

「弟ーーーーーーッ!?」

時同じくしてその隣の丸い小柄な男もまた叫ぶ。


「…」

そして、その3人に対峙する男が1人。

穏やかな風を受け、赤い襟巻き、赤いマントをなびかせながら、太枝を投げた腕をゆっくりと降ろした。

「テメェッ!よくも俺の弟を!」

丸い小柄な男は顔を怒りで真っ赤にして叫び声を上げると、振り上げ構えていた大刀を振り回し突進してくる。

しかし、対する男は微動だにせずただ静かに佇んでいるだけ。


「キェェェェッッッ!」

そして、勢い良く振るわれた大刀であったが、空を切り、その刃先は虚しく宙を切るのみに終わった。

赤いマントの男は僅か寸歩、脇にずれただけであり、丸い小柄な男は手応えが無い事に我に返った瞬間、金属小手の甲で頭頂部を殴打され、地面に崩れ落ちた。

「兄者ァーーーーッ!?」

「兄貴ィーーーーッ!?」

2人の絶叫が響き、細長い男は先の一撃も含め、わなわなと怒りをあらわにし、身を支えていた槍を構えては突き刺さんとばかりに飛び掛かる。

「おのれッ!よくも兄者を!そして喰らえ!疾風迅雷と謳われたオレの突…」


―――カッポンッ!


突き出された槍が伸びきる事は無かった。

下段構えから突き出そうとされた穂先は下を向いたまま、細長い男は仰向けに倒れ、その顔面にはまたしても太枝が減り込んいる。

「…」

その光景を見つめる赤マントの男の顔からは表情というものは無く、黒髪の奥に爛々と灯るその赤い瞳は何処までも冷たく無機質なものであった。

意識の残る大柄な男は一歩、後ずさりをすると、風も無いのに眼前の赤いマントが大きくなびき、赤い一閃が煌く。


「ほひぃッ!」

奇声を上げながら、大柄な男は赤い一閃を受ける。

しかし、刃は大柄な男に通っていない。

剣閃は大柄な男の鎧に弾かれ、いや男の全身が一瞬金属の様な光沢を放ち、まるで鉄の様に硬化していたのだ。

「…!?」

「…ふへへ、驚いたか。これが俺達三兄弟の三坊の<能力>よォッ!!」

赤マントの男の後ろから目覚めた小柄な男が鼻血を垂らしながら自慢げに叫ぶ。

「ウェッハッハ!<能力>によって守っている三坊は、動けないがどんな攻撃も効かないぜェッ?このまま勝てるかなぁ!大人しく降参すれば痛い目見ずに済むんだけどなァ!?」

そう下品に笑いながら小柄な男は両手を大きく広げ、挑発をする様に構えを取る。


「……<異能者>ね。」

赤マントの男は小さく呟き、小柄な男へ赤い剣の切先を向けるよう振り向く。

丸い小柄な男もそれに応じるように身構え、互いの視線が交差すると、先に動いたのは小柄な男の方であった。

そして、一直線に走り出し、勢いそのままに跳躍する。

「…イグニ、<ファイヤーボール>。」

赤マントの男は丸い小柄な男に切先を合わせ一言発する。

火炎弾が現れ、次の瞬間丸い小柄は燃え上がる全身を焦げ付かせながら落下し、地面に叩きつけられた。

赤い剣の切先に貼られた詠唱札が散り、燃える炎と共に消失する。

丸い小柄な男はそのまま白い煙を身体から上げながら動かなくなった。


「なら、攻撃が通るヤツから始末するだけだろ。」

「あ、あ、あに、アニギィィィィィーーーッッ!!」

残った大柄な男は<能力>を解くと、慌てて駆け寄り声をかける、が、小柄な男は反応は無い。

赤マントの男はその様子をじっと見据えた後、残る1人の方へと振り返る。


振り向きざまの赤マントの男の持つ赤い剣が滑り落ち、地面に当たる音だけが鳴り響いた。

「獲ったッッ!」

細長い男はそう叫び、手に握られた槍を突き出している。

槍の穂先は今まさに振り向いた赤マントの男を心臓を捉え、貫いていた。

筈だった。


槍の穂先は確かに赤マントの男を貫き、その胸元へ深々と入り込んでいく。

だが、それは細長い男の所業ではなく、その槍は赤マントの男の左腕で手繰り寄せられている。

「ば、馬鹿な!?」

確かに細長い男の目の前で胸元を貫かれているにも関わらず、赤マントの男はその表情には眉一つ動いていない。

細長い男は咄嵯に槍を引き抜こうとするも、槍に躊躇したのがまずかった。

細長い男が槍と赤マントの男間を目移りしてる間に、赤マントの男は右手を振り上げる。

その手に握られていたのはまた別の太枝であった。


音は無い。

鈍い衝撃、空気の振動が細長い男の頭蓋から放たれると、細長い男は後頭部から血を噴出し、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

「アニィェェ~、アニキ!アニキ!アニィがアニキィィィ!!!」

大柄な男は泣きながら、倒れた2人の姿を相互に見てはうろたえていた。


そんな大柄な男の様子を見てか、赤マントの男は胸元に突き刺さる槍を引き抜きながら静かに近寄る。

大柄な男は<能力>を使いその場を凌ごうと防御に徹する。

だが、赤マントの男はのしのしと、ずかずかと、赤い瞳を爛々と灯し、一歩ずつ歩み寄ってくる。

やがて大柄な男の目前まで近づくと、赤マントの男は大柄な男の顔面を踏み付け、勢いを付けて蹴り飛ばした。

確かに、大柄な男に蹴り事態の攻撃は通じない。

だが赤マントの男自身の重さ、加える力により、大柄な男は後ろへ倒れ道脇の坂を転がり落ちていった。


それを見届けた後、赤マントの男は改めて周囲を見渡す。

辺りは道は陽気に包まれ、風は穏やかに、清涼なる空気が吹き抜ける街道。

しかし、赤マントの男は一歩も動かないまま、一点へと視線を向けていた。


「…いやー、お見事、お見事。実に興味深い戦いぶりでござった。」

その先の茂みと木の影から両手を上げ、敵意を無い事を示すように現れたのはこの地では余り見受けられないゆったりとした羽織と旅装束に丸笠の男が1人。

長身痩躯、被る笠からはアゴ元までしか見えず、その口は笑っている様に見える。

腰の2本の剣が鞘に収まっている事を赤マントの男は確認すると、無言のまま赤い剣を拾い上げては、その切先を向ける。

「やや、剣を納めてはくれませぬか、<赤法師>殿。」

「<アカホーシ>?」

「おおっと。それは拙者が勝手に言ってるだけでござるな。失礼、兎にも角にもここは穏便に参りませぬか。」

<赤法師>は何も返答をせず、見向きもせず、剣先をくるりと回転させると、右腰に下げる鞘へと納めていく。

そんな態度に、笠の男は苦笑いを浮かべつつつ、肩をすくめる。


―――


「御仏の加護があらんことを…」

丸笠の男は木製の数珠を片手で握りしめ、倒れた男2人を道脇に並び寝かせ合掌し、祈りを捧げた。

「…三兄弟仲良く突き落としてやったほうがこの街道の為だと思うんだがね。」


赤マントの男は倒れた男2人の武器と腰帯の荷を担ぎ、冷めた目で丸笠の男を見下ろす。

「出来る限り殺生は避けるに越した事はないでござるからな。心の蔵を貫かれても立っていられる、赤法師殿には<死>というものが何やら縁遠い様でござるが…」

「…だから、何だよ、その<アカホーシ>ってのは。」

「ははは、旅先で<不死身の赤マント>とやらの噂を耳にしまして、ついつい見聞を集めていたのでござる。<赤法師>は拙者が付けたその目録にござるよ、<グラン>殿。」

<赤法師>、赤マントの男、グランはその名を聞くなり目を細めて睨む様に見る。

「おっと、まずは拙者が名乗るべきでござったな。度々の無礼、ご容赦を。拙者の名はオキタガワ=ソウシロウ。ここ大陸西部では<ソウシロウ>が名に当たるでござったな、以後お見知りおきを。」

そう言うと、ソウシロウと名乗った男は頭の丸笠を外し胸に添え頭を下げた。


長い髪を後ろで結わえ、顔立ちは小ざっぱりの優男。

その見せる笑顔はこの街道を吹きぬける爽やかな風そのもの、まさに好青年といった印象だ。

一見、也は<ヒューネス族>ではあるが、尖った耳に額に2本の角が種族の違いを物語っていた。

「<ヒノモト>とくればまぁ、<ゴブリン族>だろうが、まさかこっちで<サブラヒ>を見る事とはね…で、そのソウシロウさんがこの<アカホーシ>様に何か御用でも?」

皮肉を込めてグランは言い返すと、担いだ荷物を背負い直しては旅路へ戻ろうとする。

「ああっ!お待ち下されっ!!実は拙者は貴殿に頼みたい事があるのでござる!」

そう言ってソウシロウは腰の2振の剣を手に取る、その仕草にグランは眼を見開き、背筋には緊張と悪寒が入り交じり走り抜ける。


「拙者に道、いやこちらでの旅の手解きを教えて頂きたいのですぞ!!」

ソウシロウは剣を脇の地面に置き、座ると地に両手と額を平伏させ懇願する姿勢をとった。

「な、何ィッ!?こ、これは、<DOGEZA>!ただの土下座ではない、ヒノモトさらにサブラヒの噂に聞く本場中の本場の<DOGEZA>だとぉッ!?」

余りの事に赤マントの男は思わず声を上げてしまう。


ヒノモトにおいて土下座とは、謝罪の際に使われる作法であるが、サブラヒにおいては、相手に許しを請う際に使われる最上級の謝罪方法であり、また、相手への最大の敬意を示す行為でもあった。

見よ、この一切乱れぬ流れる様な所作、洗練された動き。

見よ、この凛とした背筋が一文字に伸びた姿勢、佇まい。

そして、何より雰囲気、ソウシロウが纏う独特の張り詰めていながら、どこか気品のある空気感。

WABI-SABIであった。

そのあまりの姿に、グランは息を飲み込み言葉を失ってしまう。


「…わかった、わかった。わかったから、その姿勢を止めてくれ。次の宿場町か村までくらいなら案内してやるよ…」

黒髪をくしゃくしゃと掻き上げつつ、溜息混じりにグランは答え手を差し出す。

「かたじけないでござる、赤法師殿!」

差し出された手に取り、ソウシロウは立ち上がると、両手を握り返し満面の笑みを浮かべる。

「そして是非、拙者を立派な<冒険者>にしてくだされ!」



「…はぁッ!?」


―――

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