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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
189/232

37-3.診えるが途、看えぬが先

 気の抜けた声と雰囲気の毛の塊、玉。

長い髭と髪の境界も曖昧なドワーフは一行へ露出した鼻を向け、向きが存在する事を示していた。

「ンー?ん~?何じゃ、何じゃ、ワシに用がある連中とは思えんノ。」

毛玉のドワーフは一行を頭から足の爪先まで、舐め回す様に視線を送る。

そして、髭をフワフワと揺らし、首らしき箇所を左右に振りながら訪問の理由に考えを巡らす。


「あのォ~、ドワーフのおじちゃま?実はアタシ達、アナタに…」

カルマンは尻を後ろへ突き出し、視線を毛玉ドワーフに近くしては手揉みをしながら、媚びる様に言葉を発する。

「…嫌じゃ。」

だが、カルマンの言葉は遮られ、毛玉ドワーフからの即答。

「まずゥ、話だけでモ…」

「嫌じゃ。イヤじゃ。おンしらの目を見れば十分じゃ。」

カルマンは更に食い下がろうとするも、毛玉ドワーフは言葉を被せて拒絶し、カルマンのこめかみに筋が浮かぶ。


「私達はトゥルパ様から紹介を受けてここへ来たんです。…グラン様?」

「あ、あぁ。」

そこにカルマンを脇から突き飛ばし、ウィレミナは丁寧な言葉使いと仕草で挨拶し、事情を説明しようとグランにも声をかける。

「フゥームゥ~。あのツルテン小僧からの紹介か。」

そして、グランが紹介状込みの地図を手渡すと、毛玉からは細く長い腕が伸ばされ、それを受け取った。

示す場所、走り書き、そして印を確認し、毛玉に乗っかっている眼鏡が上下に動く。


「…でも、ダメじゃァ~。」

「な、何故でございますの!?」

だが、毛玉ドワーフは紹介状を髭の中へとしまい込むと鼻を鳴らして同じ返答を返した。

ウィレミナはそれに驚き、理由を問い質す。

毛玉ドワーフは髭をフワフワと揺らし、再び一行へ視線を送る。

「言ったじゃろ?おンしらの目を見れば判ると。」

「…理由を聞かせて貰えぬでござろうか?」

<目>、眼光や意志の表れならこの中で最も強いであろう、ソウシロウが毛玉ドワーフへ一歩前に出てはその目を見つめる。


「…この場の全員に<先>を<見たい>と願うものが宿っておらん。そういう目じゃないとワシは相手にしたくないの。」

細長い腕を出し、眼鏡、鼻、口元らしき場所の髭を指でなぞりながら毛玉ドワーフは理由を語る。

そして、毛玉ドワーフは鼻の先を一行各自へ向けた。

「ゴブリンとエルフの娘、それに鎧、お前達はまず何もかもが<迷い>に満ちておる。」

鼻の先端は、ソウシロウ、ウィレミナ、ゴリアーデにと順番に差していく。

「…そして、ネレイドの娘と色眼鏡男、お前達は既に<諦め>が宿り、進む事を放棄した目じゃ。」

次にカルマンとラミーネにも鼻先が向けられ、呆れが混ざる苦言を受ける。

「そこのお嬢ちゃんはそんな歳でありながら<悔い>に縛られておる。」

相手が少女とはいえ、毛玉ドワーフは容赦無く<目>に宿る真実を言い放ち続けた。


「ちょ、ちょっと黙って聞いてれば…」

「まぁ待て。まだ俺は何も言われてないぜ?なら俺にあの爺さんを説得させる少しの可能性が…」

ラミーネが反論せんと前に出ようとするも、それをグランがそれを遮り、最後の1人である自分の評へと耳を傾ける。

「赤いの、お前は何も<無い>。その心臓のようにスッカラカンじゃ、判断する必要すらない。」

だが、毛玉ドワーフはただ髭を撫でながら初めから興味なさげにグランの評価を告げた。


「ナ、ナニモナイ…」

「…ご老人、赤法師殿の<心臓>をどうしてご存知か?」

その一言に落胆し、その場で崩れるグラン。

一方でグランの心臓を言い当てた毛玉ドワーフへソウシロウは視線を鋭くして真意を伺う。


―――gmmmmm~~~ッッッ!


その時である。

ピアの抱えた袋が激しくうごめき出し、中のカワノスケが暴れ出した。

「gmmmm~~~~ッ!」

そして、その袋から勢いよくカワノスケは飛び出すと一行を飛び渡り、毛玉ドワーフへ飛びかかる。

「カ、カワノスケっ!?」

少女の制止を聞かず、カワノスケの柔らかい嘴は毛玉ドワーフの唯一露出した鼻を鼻息を荒く何度と突き出した。


「gm!gm!gm!gm!」

「やめーい、やめーい、こそばゆいワイ。」

毛玉状の髭から細長い両腕が伸びると、カワノスケを顔から引き剥がし、暴れるカワノスケを抱えたまま髭と腕で拘束する。

「gm~ッ!gm~ッ!」

「ホーッホーッ?これは、これは。」

片腕でカワノスケを摘み上げ、もう片腕で眼鏡を直しながら毛玉ドワーフは髭を楽しそうに揺らす。

「そうか、そうか、お前は<悔い>ではなく<悔しい>のか、そんなにあのお嬢ちゃんをお前は助けたいと。」

「gm~…」

暴れるのを止めたカワノスケを毛玉の頭頂部に降ろし、「フームフム…」と髭を撫でつつ、再び一行へ鼻先を向けた。


「ムー、ム~、仕方ないのぉ。この獣に免じて前向きに検討してやっても良いぞ。」

「やったぁッ!ファインプレーね、カワノスケっ!」

事態の好転にラミーネを初め、カワノスケを賞賛する一行。

「しッかぁしッ!じゃッ!明日の朝まで、おンしらの誰かでも前向きに<先>を見る気にならん限り、この話はおしまいじゃぞいっ。」

だが、毛玉ドワーフは厳しい条件をつけ、一行の顔色は一気に暗くなる。

「とりあえず、その端の小屋で寝るだけなら許可するぞい。火は外で使うには良いが中では使うなよ。」

そう言ってグランの頭にカワノスケへを乗せ返し、背中を見せ、細長い腕を振りながら毛玉ドワーフは小屋へと戻って行く。


―――ガッシャンッ…!


そして、露骨な程、扉に施錠される音を鳴らすと、小屋は静寂に包まれた。

一行は呆気にとられながら、互い互いの顔を伺い。


―――はぁぁぁぁ~~~~…


互いに一斉に大きな溜息を吐き出した。


「…このまま骨折り損は勘弁して欲しいわネ。」

「どちらにせよ。一旦此処で野営するしかあるまい。」

カルマンは<自動車>に背を預け、そのまま座り込むと天を仰ぎながら呟く。

<自動車>に取り付けられていた<エーテル浮き>は既に効力が枯れ、車体の車輪は地面へと接していた。


「とりあえず、焚き火くらいは準備しておくかね。」

グランは立ち上がりながら頭のカワノスケを掴むと少女の前に差し出す。

「んじゃ、俺は適当に枯れ木と食料の足しでも集めてくるわ。」

「そ、それじゃあ、私も赤マントさんと…」

そして、身体を伸ばし、首を左右に鳴らすグランにピアは同行を申し出ようとするが、その肩をラミーネが掴んだ。


「ダメよ、ピア!。日が沈みかけた山は危険なんだから!だから、私がグランに着いてってあげる。」

ラミーネは語気を強め、少女の身を案じ、しかして何故か得意げに同行を申し出る。

「なれば拙者らも別行動にてそう致そうか、カルマン殿。」

「まぁ、このままクサクサしてたらあの毛玉ちゃまの言ったとおりになっちゃうわネ。」

ソウシロウとカルマンもそれに続き、現状を打開する為、自分達なりに行動すると告げた。


「それじゃあ、私はお食事の準備でもしてお待ちしておりますわ。」

続いてウィレミナが<車>の荷台から食料の入った袋を取り出し告げる。

「ならばオレも1人で枯れ木でも集めてくるか…」

ゴリアーデも肩を回し、それぞれの行動に合わせ動こうとした。


「「「「「ゴリさんは休んでて。」」」」」

だが、少女以外から一斉にその行動を押し留められる。

それは、今後もゴリアーデが<自動車>の牽引等に駆り出される事を意味していた。

「…わ、わかった。オレはここの番を適当にしていよう。」

たじろぎながらも、ゴリアーデはその空気を察し、1人で見張り番に就く事を告げる。



「…ん?となると<冒険者手帳>持ちが全員出払ってしまうな。」

グランは行動の割り振りに首を捻った。

<冒険者手帳>に付属するコンパスは互い互いの位置を指示す機能が備わっているも、一行全員がコレを所持してはいない。

このままでは戻るべき座標を追えず、山中へ赴いた途端、遭難が確定されるに等しい。

「…ピアちゃん、悪いけどしばらく俺のを預かっててくれ。」

グランは腰から<冒険者手帳>を取り出し少女へと差し出した。


少女はそれを両手で受け取り、グランを見つめながら頷き、赤マントの男も頷き返す。

「じゃあ、夕飯を楽しみにして一働きしに参りまショ!」

そして、カルマンは方針と準備が整ったと判断するや、両手を叩き一行は顔を見合わせて散り散りにその場を去る。


―――


「…と~は言え、たかが後半日で何ができるって言うのかしラ。」

上空を見上げながら、土と落ち葉と小枝を踏み鳴らし、カルマンは吐息混じりに愚痴をこぼす。

「…それが<諦め>ではござらぬか?カルマン殿。」

ソウシロウの言葉に口を尖らせ、カルマンは色眼鏡を胸元にかけながら再び息を吐く。

「ホント、あの毛玉ちゃま、ヒトの痛いところを平気でカミングアウトしてくれたわヨ!」

そして、同じ事を言うソウシロウに対し、今度は泣きと怒りが混じる視線を向け、ソウシロウは苦笑するしかなかった。


「ははは、しかし、あのご老体が持つ<目>。アレが見通したものは概ね間違ってはおらぬでござる。」

「なーんでそんな事がわかるのヨォ。」

カルマンの問いにソウシロウは首だけを振り向かせ、それに答える。

それは、以前の事、カルマンの元婚約者となったエフィムが師事を受けていた人物も<目>で見通す、見抜く力を持っていた事であった。

その時にグランが言われた事をソウシロウはカルマンにも伝える。


「それが赤マントちゃんの<心臓>って事!?と、言うよりも本当に言葉のまんまなのネ、赤マントちゃんの<心臓>。」

「然り。故にそれを一目で見抜いただけの信憑性はあるにござる。」

カルマンもグランも以前、<転移門市>で行われた戦闘、重傷にもかかわらずグランの驚異的な<不死性>、<不死身>をその目にした事を思い出す。

「…じゃあ、ソウシロウちゃん何かが<迷い>を抱えてるってのもホントなのネ。」

「…それはこちらも同じ台詞にござる。カルマン殿は<諦め>など程遠い人物と思っていたでござるからな。」

互いに互い、共有しているグランの<不死身>から毛玉ドワーフの<目>の力がいかなるものか認め、2人は苦笑した。



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