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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
184/232

36-4.浮き足立つ旅路

 乾いた風が抜け、砂混じりの荒野に雑草地がまばらに生えた一帯が地平線まで続く。

傾斜と遠方の丘を境目に青い空が広がり、そこでもまだらと厚い雲が幾つか浮かび流れている。

「…」

「もし、この先の先まで見通せれば、ピア様の里も見えるのでしょうか?」

グランが眼前に走る地平線から向かってくる雲の影に目を細め、ウィレミナは彼方まで見渡せそうな空と大地に目を細めて尋ねた。


トゥルパの提案に乗ったグラン達は<大鉄道>の線路沿いから南東へと進み、ラーシェンの案内を受け近隣の荒野へと入る。

だが、それは旅の向かう先ではなく、<自動車>を浮かせる<エーテル浮き>を作り出す為の素材探しが目的だった。

「何はともあれ、肝心の<浮き>を作り出せないと<進まない>な。」

「…ごもっともで。」

ゴリアーデが雲からこぼれる陽の光を纏う鎧に反射させながら答えると、グランは息を深く吐きながら同意する。


「それで?流石にあてずっぽうで手に入る代物じゃないんだろ?」

そして、肩を鳴らすとグランは風を受けてたなびく赤いマントと襟巻きを翻してはラーシェンに振り返った。

「はい。浮きの材料となる<サンド・トレモアー>、通称<砂鮫>は薄明薄暮性で…」

「…はくめいはくぼせい?」

ラーシェンが砂鮫の性質について話し始めると、ウィレミナは聞き慣れぬ言葉に首を傾げる。

「あー、えーっとつまり、昼でも夜でもなく、早朝や夕方に活動が活発になるんです。そして、名前の通り砂や土が荒れ乾いた場所に潜っています。」

言葉を選び直し、ウィレミナに向き直るとラーシェンは<砂鮫>について話を続けた。


「砂、<鮫>ねぇ…」

聞き馴染みのない魔物の呼称にこの場に訪れた3人、グラン、ゴリアーデ、ウィレミナは揃ってますます首を傾げる。

とりあえず言葉のイメージから地中から背ビレを覗かせながら砂を巻き上げ、獲物を探すという想像は容易だった。

「それで、どうやって捕らえるんだ?」

「あぁ、それは簡単です。何せ見晴らしだけはいいですからね、現れたら捕まえればいいだけですので。」

ゴリアーデは肝心の捕獲方法をラーシェンに問いかけるも、返答の内容は実に簡単だった。

その言葉の真意に疑問を感じ、グランは続きを促す様にラーシェンへと目を配る。


「…えーっと?」

「なので、待つだけですね。ここで。」

一行は何時の間にか地面のひび割れが目立ち、砂地が混ざり合う一帯に足を踏み入れていた。

それまで踏んでいた、まばらに見えた雑草帯は地平線の彼方とはいかなくても遠くへと移っている。

「…なーんだ、待ってるだけでいいならそりゃ楽だ。」

「いやいや、ダメですよ!それこそ日没に入ったらもう姿を現さなくなるんです。集中してください、集中!」

グランが楽観的な姿勢を見せるや、ラーシェンは釘を刺す。

「よろしいのですか?待つにしても餌や罠をご用意しておかなくものでは…」

「あぁ、大丈夫です。餌はこうして<僕達>がいますし、臭いで気取られる様にしています。」

そう言って小さな指先の傷から血を滴らせ、ラーシェンは質問に答えた。


「…なら、後は本当の本当に待っているだけなのか。」

「しかし、日没まで時間は残り少ない、<準備不足>となる可能性の方が高いのではないか?」

「…それより、お二方?私達が既に<餌>として扱われてる事について、何か思う事はないのです?」

だが、グランとゴリアーデはそんなの<当たり前>だという表情を見せ、ウィレミナは不安を走らせる。

「あっ、皆さん見てください!<サンド・トレモアー>の背ビレが見えます!」

その直後、ラーシェンは地平線の向こうから砂煙を巻き上げながら迫る背ビレを見つけ、一行に知らせた。


ひび割れた荒野の地にひょっこりと不自然な三角形。

「そら<餌>って事はよ。」

「策を弄せずとも相手から喰い付いて来るという事だ。」

グランはマントを翻すと赤い刀身を鞘から抜き出し、ゴリアーデもまた長棍棒を両手に携える。

そして、地肌が盛り上がり、砂を巻き上げて<砂鮫>はその姿現していく。



<砂鮫>は勢いにのってそのまま地上、更には宙へと飛び出す。

「むっ!?」

「思ってたのと何か違う!」

陽の光を受け、宙で魚影をとったその身体はまさしく<鮫>。

そして、目算でも然したる大きさではなく、せいぜいが両手で抱えられそうな程であった。

「気をつけて!飛び掛ってきます!」

だが、ラーシェンの忠告に一行の注意が向くと、砂鮫は口を大きく開き、その鋭い牙を剥く。

「「…!?」」

グランとゴリアーデが<砂鮫>に再度意識と視線を向けたとき、砂鮫は既に2人の間を飛び越え<餌>へと突進していた。


「はッ!」

ラーシェンへと飛び掛る<砂鮫>をウィレミナは脚に忍ばせていた投げナイフを引き抜くと、投擲する。

しかし、3本のナイフは<砂鮫>の牙に跳ね返され、その肌を裂く事無く地面へと突き刺さった。



それでも突進の軌道は逸れ、<砂鮫>はウィレミナの横を通り過ぎとそのまま地面の中へ潜り込む。

一行は地中に潜った敵に警戒するも、静寂だけが空気を支配するだけで姿を現さない。

「…グラン様!ゴリアーデ様!しっかりしてくださいましッ!」

ウィレミナは敵の気配のなさに一安心しては、グランとゴリアーデへと振り向き油断への注意を促す。

「す、すまん。」

「わ、悪い。だが、手の内が解ればこっちのもんだぜ。」

グランはウィレミナとラーシェンを間にし、ゴリアーデの後ろへと回った。


「それで、<アレ>を2匹、3匹狩ればいいのか?」

肩を回し、赤い剣を握り直し構えてはグランはラーシェンに問いかける。

「いえ、その何といいますか…」

「まさか100匹とは言うまい。」

言い辛そうに口ごもるラーシェンにゴリアーデは警戒を解かず、冗談交じりに言葉をかけた。

だが、その予想は覆される事となる。


―――ズズ…ズズズズ……


足元から響く振動と地鳴りに一行は嫌な予感を覚えだす。

「…なんだ、なんだ!?」

グランは周囲を見渡しながらこの違和感の原因を探り始める。

「つまり、<群れ>で襲ってくるんです。」

「また思ってたのと違うッッ!!」

気が付けば見渡す限りの荒野全方位に<背ビレの群れ>が点在し、自分達周囲をゆっくりと取り囲む。


「…グライ、<アースシールド>ッ!!」

札を腰のポーチから引き抜き、グランは急ぎ魔法盾を発現させては迎撃の意を見せる。

「赤マント、どうする?」

「ラーシェン!コイツ等は<挟撃>はしてくるのか!?」

策を問うゴリアーデに対し、グランはラーシェンに習性問う。


「だ、大丈夫です。同時に別々の角度からは攻めては来ません。」

質問の意味を理解し、ラーシェンは強く頷きながら答えるとグランの眉間と瞳、気迫から意志の覚悟が映る。

「ゴリさん、アンタが迎撃。俺はそのこぼしを弾く。ウィレミナとラーシェンは動き出す次の群れを教えてくれ!」

呼吸を整え、グランは各自に指示を出す。

「任せろ。」

「承りましたわ。」

「が、がんばります!」

全員の返事と共に、地鳴りは次第に強さを増し、乾いた荒野の空気がより一層張り詰めていった。


―――ズ…ズズズ…ズズズズズズ……


「なるほど。<地揺れ>(トレモア)とはよく言ったものだ。」

「前ッ!」

ゴリアーデが関心気味に<砂鮫>の名前を賞すると、長棍棒を両手で持っては構える。

そして、グランが叫ぶと同時に荒野の地面が一斉に盛り上がり、<砂鮫>が数引き宙に飛び上がった。


背ビレが夜へと傾く陽射しを受け、ギラリと反射させると宙を浮く<砂鮫>は次々にこちらへと突進。

だが、ゴリアーデは重厚な長棍棒を振りかぶり、向かってくる<砂鮫>の群れに渾身の一撃を入れる。

「Shaaack!!」

<砂鮫>は鋭い叫びをあげながら宙でその身体をねじると、地面に叩きつけられ砂煙を上げた。


―――ズズズ…ズ…ズズ…


しかしとて、撃破の余韻など持てる暇など無い。

「右が来ますわっ!」

次の動きを見せた群れを発見したウィレミナの声に反応し、自然と組んだ一行の円陣がその角度へと合わせる。

「むぅんッ!」

ゴリアーデは地面を長棍棒で突いたタイミングを捉えた後、突進する<砂鮫>への一撃を見舞う。

「shaaa!?」

「Zhackck!?」

先と同じに叫びを上げてはそのまま飛ばされる<砂鮫>達。


―――バゴンッ!


そして、鈍い音を立て、ゴリアーデの長棍棒を逃れたものもグランの魔法盾が受けては弾かれ飛ばされる。


「ウムッ!先の森の蟲達と比べれば対処は容易い。」

長棍棒を握りなおすと、その感触を確かめながらゴリアーデは呟く。

「左、来ますッ!」

一息入れるのも束の間、<砂鮫>の動きに合わせ再び円陣が回った。




次々と一行は<砂鮫>を迎撃を繰り返す。

だが、地面から響く地鳴りは留まる事を知らず、次第その頻度が上がっていく。


―――ズズズ…ズ…ズズ…


地響きからの<圧>から慣れはしたものの、続く地響きは一行の不安を募らせていた。


「ぐおッ!?」

当然、その根負けの隙を<砂鮫>は通り抜けて始める。

「グラン様ッ!?」

グランの魔法盾は効果を失い、<砂鮫>の牙をその身に受ける。

「心配しなさんな、俺にとっちゃかすり傷だってーの。」

赤い剣が<砂鮫>を貫き絶命させ、グランはその牙から身を引き離す。

だが、その傷から流れる血にウィレミナは不安を隠せない。


―――ガラン…!


「…くっ」

ゴリアーデも散々と振り回してきた長棍棒がその手から滑り落ち、地面へと転がる。

陣形、態勢の瓦解、それはこちらの劣勢を示すものであった。


―――ズズズ…


一方の<砂鮫>も迎撃の成果、そして時間もあってか目視による数は減ってはいる。

しかし、グランが流す血がか、残る<砂鮫>の戦意に更に火を点けたのか諦める様子は出ていない。


まだ態勢が整わない内に次の<砂鮫>の群れが宙を浮かぶ。

ゴリアーデがそれを確認すると、長棍棒の端を踏み、飛び起こす。


―――ブオンッッ!!


長棍棒を掴み、そのままに<砂鮫>へと投げつける。

そして、円を描きながら飛ぶ長棍棒は群れを巻き込んては薙ぎ払い、地面へと落ちていく。

「ゴリさん、アンタ!」

「すまない、咄嗟の判断とはいえ得物を失った。お前が迎撃に回れ、オレが壁だ。」

だが、それで状況が好転する像が一行には思い浮かばなかった。


「…ゴリアーデ様、投げるものが<何か>あれば<砂鮫>を迎撃できますの?」

そこにウィレミナは何か思い浮かんだのか、ゴリアーデに問いかける。

「あ、あぁ、宙に飛び上がった際は動きが止まるし、その後の軌道は精密な程に直線だ。オレの投擲が悪くとも距離が出せる間なら当たる。」

「…でしたら、良い物がございますわ。グラン様、お手を。」

「おいおい、俺の身体はお前さんも知ってるだろ?治療なんて効果ないし、そもそも勝手に…」

ゴリアーデの回答を聞くと、ウィレミナはグランの手を引く。

だが、グランはそれを拒絶しようとするも、掌は既に何かを握らされていた。


「あ。」

それは服の、<それ>を支える下着の上からでも柔らかく感じるもの。

「…あ。」

次にウィレミナの行動を理解したグランは彼女の<呪い>、その次に起きる<事象>を察してしまう。


―――ゴインッッッ!!


そして、鈍く響いた音を立て、グランの頭上には何処からか<タライ>が直撃していた。

「さぁ、ゴリアーデ様。こちらを思いっきり投げ飛ばしてくださいまし。」


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