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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
171/232

35-3.新生

 室内は緊迫感が張り詰め、2人の男は腕を組んでは事、現状の整理に頭を捻っていた。

「結局、オレ達は事に対しただただ後手に回らざる得ない、か。」

「今の拙者らでは出来うる限りの防衛策で事が起きぬように街を見守るしか出来ぬにござるな。」

だが、その<事>は如何なるものか検討も付かず、2人は互いに困った仕草を見せて一息を吐く。


―――ハァァァ~~~~~………


「それよりも、<アレ>は今後も使い物になるのか?」

向き合う男の内、全身鎧の大男、ゴリアーデはテーブルに伏した赤いマントへと視線を移す。

「何、赤法師殿は<不死身>にござる。その内、元に戻ると思うでござるよ。」

対する異国風貌の剣士、ソウシロウはゴリアーデの問いに軽く笑みを作っては答える。


―――ァァ~…ァァ~ァ~~~~………


しかし、ただ息を吸う事無く、何時までも吐き続ける赤マントの男、グランの様子に2人は肩を竦め、呆れ顔を見せた。


「皆様、そろそろ出発の、…どうかなさいまして?」

そこに青味がかった銀髪で給士姿の女エルフ、ウィレミナが入室し、2人へと声を掛ける。

そして、現状と2人の仕草と表情から彼女は状況を察すると、静かにグランへと近付く。

「…ソウシロウ様、ゴリアーデ様、後ろを向いて頂いてよろしいです?」

ウィレミナの申し出に2人は疑念を浮かべるも、彼女の視線から何か策があるのだと察し、素直に後ろを向いた。


コホンと咳払いをするウィレミナにグランのくすんだ赤い瞳が彼女へと向く。

だが、それも僅かの間、視線が外れ興味が無い事を示すとウィレミナは己のスカートの端を掴み、ゆっくりとたくし上げ始めた。

「…!?」

彼女の動作を視野の端で捉えたグランの脳裏には電撃が走り、瞬間まで無気無力であった四肢が機敏に反応しては起き上がる。

椅子をそのまま突き飛ばしては、ウィレミナから距離を取った。


それはウィレミナの持つ<呪い>、ないし<異能>に対する行動。

その能力は彼女の<色香>を感じさせるものを直視した場合、災いが降りかるというものである。

グランは既にその<呪い>を幾度と受け、今や反射的に回避してしまうまでになっていた。

赤い瞳は爛々と灯り、その眼差しからはただ息を吐き続けていた時の姿は微塵も無い。

ウィレミナはその姿を確認するとにっこりと微笑み、発破をかけた彼女にグランは流れる汗滴る顔の汗を拳で拭った。


「ワーォッ!!」

だが刹那、ウィレミナは声と共に勢い良く脚を天高く上げ、風が巻き起こる。

「おま、ちょっ、パッ…」

もちろん、彼女のスカートは大きく捲れ上がり、白い一画が露わと成った。


―――ゴインッ!!


「…目を閉じるだけで良かったのではないか?」

「男には時に目を逸らせぬ宿命があるにござるよ。」

2人に背を向けるもう2人、ゴリアーデは目を伏せて腕組みをし、ソウシロウは天を仰いだ。

グランの頭上には何処からか巨大な金タライが落下し、直撃、仰向けに倒れた。


「お目覚めの気分は如何でございますか、グラン様?」

「…極めて最悪ですかね。」

ウィレミナの覗き込む微笑みにグランは頭を抑えながら上体を起こす。

「…でしたら、もっとハッキリとお見せしたほうがよろしいでしょうか?」

「わーかった!わかったから、もう、いい!結構!大丈夫ッ!」

ウィレミナは再びスカートの両端を摘んで軽く持ち上げ、見得を切るとグランは慌て後ろへと這うように下がる。

その様子を見てウィレミナは笑顔でスカートから手を離すと、グランはホッと息を吐き己が黒髪を掻く。


「気は済んだにござるか?」

「えぇ、たっぷりと吐き出させて頂きましたよ。」

ソウシロウの言葉にグランは立ち上がり、バツ悪そうに頬を掻く。

「では、オレ達も出るとしよう。ピア、あの子の<予見>が本調子なら何事も無く終わる筈だろう。」

「戻ってくる頃にはお昼でしょうから、エフィム様とピア様と私で昼食を準備してお待ちしておりますわ。」

ゴリアーデがグランの肩を軽く叩くと、ウィレミナは恭しくお辞儀をして送り出す。

「よかったにござるな、エフィム殿の手料理が馳走になれるでござるよ。」

「…随分嬉しそうに言うな、ソウシロウ。」

「ははは、赤法師殿に皮肉を言える機会なぞ、そう滅多に無いでござるからな!」

ソウシロウの軽口にグランは呆れた様子で溜息を吐くと、3人は館を後にして行った。



3人が館を出て、空を見上げるとその視界の中央には巨大な塔が聳え立つ。

「ったく、自分達はあんな安全の塊みたいな場所に向かったっていうのによ、俺達に見回らせて何なるんだかね。」

「まぁまぁ、何かが起きるまでは物見遊山といくでござるよ。」

「野郎3人、肩並べて食い歩きも出来ないで何を楽しむんだか。」

愚痴るグランにソウシロウは宥めるように諭す。

そして、3人は各々軽口を叩きながらも周囲を警戒しながら歩き出した。


―――


その街の中央のに立つ巨塔。

一室に集う6人、それぞれが全身を包む仮面とローブ姿のが円卓を囲んでいる。

6人は互い互いを確認すると、椅子を引き、各々が纏う仮面とローブを手にしてはそれを脱ぎ始めた。

逞しい幅広の背中、美丈夫の男、アンドン=ハレル=バスタック。

髪を後部へ掻き上げ、外した仮面に代わり眼鏡を掛け直す男、ゲウト=サハディー。

一見だけならば、ただの可憐で小さなエルフの少女、ケミカルカ=アケアルダ。

正体を露にすると全身をくまなく指先で撫でる、長身痩躯の男、カルマン=オー。

仮面とローブの下からは差して変わらぬ姿を現すルゴーレム、デデン=エデクゥス。

腰の曲がった弱々しい身体、だが表情は何時に無く厳しいコボルドの老人、ラッシ=エブ=スタイブ。


全員が普段の姿を晒すと、ローブを椅子へと掛け座っていく。

「…前回からも議長は俺…、いや、私のままで進めていくが異論はあるか?」

唯一椅子に腰を掛けなかったアンドンが円卓に手を付き、全員に確認を取る。

その問い掛けにコボルドの老人以外は誰も頷くが、誰もが異論を唱える事無かった。

「それでは始めよう。錬金六席による、83期、第2回目の議会を始める。」

アンドンが手元に用意された木槌で丸板を叩くとその音は響き渡り、部屋とその場に居る者達全てを静寂に包み込んだ。



以後、議会は恙無く進んでいく。

基本的な各人の通例報告、進捗状況の報告が終わりを告げ、6人それぞれの表情や仕草は普段通りのものであり、カルマンは内心、拍子抜けしていた。

それをミカに見破られ、厳しい視線を受けると咳払いと共に姿勢を正す。


―――カンカンッ!


「…それでは、これまでの報告に関し、特に述べるものが無ければ、<六席議題>に移るが、宜しいか。」

木槌を再び叩くアンドンに6人は頷き、了承の意を示す。


―――カンッ!


「では、以前より続く<魔神の卵>の件を最優先として議題を進めて行きたい。」

そして、アンドンのその言葉を皮切りに、眼鏡の男、ゲウトが挙手をすると目元指で正した。

「その前に、我がサハディーの開発したものについて、ご報告をさせて頂きたいのですが。」

ゲウトの言葉に他5人の視線が彼に集中する。

「…<開発>?聞き捨てならないわネ。担当のアタシを差し置いて、何を勝手に進めているのかしら?」

カルマンの言葉にゲウトは軽く肩を竦め、話の続きをアンドンへと促した。


「サハディー卿、今は<六席議題>の最中。終わるまでは席に着くことをお勧めする。」

アンドンがゲウトを否定するとカルマンは調子良くニヤリと笑みを見せる。

「割り込んでの挙手、無礼であるのは先刻承知。ですが、今こうして出す理由には<魔神の卵>に関わっております。」

しかし、ゲウトは引く様子を見せず、それどころかアンドンへと鋭い眼光を向け、言葉を続けた。

「別に私は決議を取ってから後でも構いません。…しかし、決議後のお心変わりは皆様に余計な時間を取らせる事となりますが…」

自信に満ち溢れた姿勢、ゲウトはそう言い切って見せると、アンドンは小さく唸り、溜息を吐く。


―――カンッ!


「では、サハディー卿のこの割り込み、是か非か、諸君らに問いたい。非であれば挙手を。」

木槌を叩き、アンドンは残る4人の方へと顔を向けた。



カルマンの顔は絵に描いた様な不満を表情を露わにし、ゲウトを睨みつけている。

だが、どの席からも手は挙がらない。

ゲウトの自信ある姿勢、それと<開発>という担当部を踏み躙られたカルマンが手を挙げなかった事が他の席にも響いた。


「…いいだろうサハディー卿。卿の<開発>とやらを関連議題に加えよう。」


―――カンカンッ!


アンドンが木槌を鳴らすとゲウトは一礼をし、僅かに間を空けた後に手を叩いた。

すると扉が開き、ゲウト以外も顔を知る彼の従者が大きな籠をワゴン台車に乗せて運び入れる。

ゲウトは側に寄せられたワゴンから籠を手にし、それを円卓に乗せ、視線が籠へと集中すると被せてある布を取った。


「なんじゃ、期待させおって、細工も無いただの<筒>ではないか。」

老人スタイブがそうぼやき、他の4人からも似たような反応を示しては次に視線はゲウトへと向けられる。

籠に収まったものは老人が言うとおり飾り気の無い筒が4つ、短い棒と形容する方が適切だ。

「申し訳ありません。何せまだまだ開発の段階でありまして。」

眼鏡を指で押し上げながらゲウトは1つ<筒>を手にする。

「…それで、ゲウトちゃん。自信満々に何を見せてくれるのかしラ?」

周囲の反応に笑みを浮かべ、カルマンはゲウトへ問い掛けた。


「オー卿はお察しして頂いてると思いますが、これらは<魔導具>。…ですが、類似したものです。」

「<類似>?そのものではないのかい?」

ミカが疑問を浮かべ尋ねると、ゲウトは眼鏡を光らせ、頷いた。

「えぇ、これは<魔導具>と違う原理、原動力で動いております。形がただの<筒>なのも、機能に左右されない為と言えるでしょう。」

「…それで、コレに<魔神の卵>がどう関わってくるのだ?」

アンドンは腕を組みゲウトを睨みつける。

「…その前に、まず実演をお見せしましょう。皆様も<錬金術師>であるならば、機能と効能、そちらへ興味がありますでしょう?」

ゲウトの言葉に誰しもが喉を鳴らし、各々が目配せをした後、手にされた<筒>へと注目が移った。


「一見同じ<筒>に見えますがこれ等は4つとも個々の機能が備わっているのです。1つは<収納>、1つは<隔離>、1つは<隠蔽>…」

ゲウトは残る最後の<筒>が<それ>だと解らせるように手を伸ばし、末端に指を置く。

「そうですね。コレは差し詰め、<召喚>と言ったところでしょうか。」

そして、強く握り、置いた指をゆっくりと押し込む。


―――カチリ…


小く嚙み合う音が鳴り。


―――ブチッ…


一瞬空気の振動と圧が辺りを包むとそのまま暗闇が訪れた。


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