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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
165/232

34-3.未来と涙を賭してまで

 現れた少女は特に言葉も無く、手にしている杖の石突で床を小突く。


―――キシャアッッッンッッッ…


すると、グランの目の前に稲光が迸り、彼の身体が壁へと大きく吹き飛んだ。

「…師匠でしょ。馬鹿弟子の赤マント。」

<魔術>、詠唱を用いず、ただ風の<(ジン)>を操作しただけで、グランは吹き飛ばされる。

「赤法師殿!?」

それを見たソウシロウ、ウィレミナは咄嗟に行動を起そうと駆け寄ろうとすも、カルマンはその動きに対し、腕を伸ばしては制した。

私はただ、息を詰まらせてはグランが吹き飛んだ先を見続けている。


「あっ、ぶねぇなぁッ!御大層な挨拶もいいところだぜ、ミカ…」

起き上がった赤マントの男、グランは少女に対し怒りの声を発しようとした。

「…師匠。」

「…ハイ、ミカ…師匠。」

だが、この少女がただ一言の訂正を要求するとグランは押し黙った後、不貞腐れた返事を返す。

何時もの調子なら老若男女問わず、皮肉と嫌味を織り交ぜたグランの軽口が飛ぶ所だ。

しかし、目の前に立つ少女、ミカに対し、彼はバツが悪そうに顔を下に向けていた。


「ハイ、ハァ~イ☆ミカちゃん。アナタのお弟子への教育指導はそこまでにして、まずはお仕事しまショ?ネ?☆」

そこへカルマンが割って入り、ミカの両肩に手を置くと覗き込むようにウィンクをする。

だが、ミカはそれを無視し、再び杖の石突で石畳を小突くと稲光と共にグランはまたも後ろへ吹き飛ばされた。

ミカ、ミカちゃん、この<ケミカルカ=アケアルダ>が私達が専属する雇用主であり、カルマンと同じく<錬金六席>の1人。

私は彼女と始めて顔を合わせた際、啖呵を切った事を思い出し、彼女の<魔術>を目の当たりにしては冷や汗を流す。


「うん、うん、心配しなくて良いよ。アイツの<先天霊性>は<火>、それにあの<身体>だ。魔法ですらないボクの<(ジン)>を当てたくらいじゃたかが知れてるよ。」

稲光の後に僅かに乾くこの場の空気の中、周囲に語る少女の口調は淡々とし、表情も無表情に近いがどこか怒りを孕んでいる様に見える。

そのせいか、誰もがこのミカの雰囲気に圧され、誰も言葉を発する事が出来ない。

「…ミカ様、お戯れはそこまでに。」

だが、そんな中で1人だけ、その少女へ向け歩みを進める者がいた。

擦れた声がミカの背後から聞こえ、それを聴いたミカは杖を下げ、振り返る。

その視線の先には外殻に覆われた頭部ながらその風貌から老年である、背広姿の<デレム族>が1人。


「…ベルゼー卿。」

シャオリーが少女の<安全装置>が現れてくれた事に安堵したのか、胸を撫で下ろしながらその名を呟く。

<ベルゼー卿>、ミカの側近の執事にして私達の<表向き>の専属雇用主。

「カルマン殿。」

「…!あぁ、そうネッ!ホラホラ~、皆はアタシの指示した場所を頼のむわヨ☆」

ベルゼー卿はカルマンに声を掛けると、カルマンはリズム良く手を叩き、私達にそう告げる。

その言葉に場の指示を受けた一同は何処か不服を抱えている様子ながらも、部屋を後にして行った。


私はピアがこちらを覗きつつ、部屋から去るのを小さく手を振りながら見送ると、グランの方へ身体を伸ばす。

「…だ、大丈夫?」

月並みで<不死身>の身体である彼にとって無意味な言葉ではあるが、私はそう声を掛けずにはいられなかった。

「…なわけねーだろよ。」

白い煙を微かにあげている赤マントの男は、溜息交じりにそう答え、その間に私の後ろからはドアが開く音が響き、場に残った人数のコツコツと大理石の床をかかとが叩く音が響く。


「…し、しょうがないわね!肩くらい貸してあげるわよ!」

正直この男からは雑に担ぎ上げらた事ばかりが脳裏を過ぎる。

こういうときこそ、その仕返しに私も雑に担ぎ返し、あの時に受けた屈辱の気持ちも少しは晴らす事ができそうだ。

だが、グランの腕を肩に通し、腰に力を入れると彼の体格や装備の重量が圧し掛かる。

「…うッ。」

「…無理するなよ。」

ふらつく私にグランは呆れながらそう気遣う。

これでは仕返しどころか情けない所を見せてしまうだけではないか。

「さ、流石に這わせて移動させるワケにもいかないじゃないの、別にいいわよ、コレくらい。」

私は気丈に振る舞い、グランを半ば引き摺る形で開いた扉へと向かう。


「…悪かった。俺はお前を適当に扱ってきたのに。」

「~~~~ッッ!?」

卑怯なヤツだ、この男は。

こちらが怒る余力が無い中、そう素直に謝られるとこちらは何も言い返す事が出来なくなってしまう。

先日のこの男が熱を出し、やたら素直だった際を思い出す。

だが、あの時と違いグランに熱はないのだろう、それがこの率直な謝罪に、だからこそ余計に何も言い返せなくなる。

「…」

私はそのまま何も言い返さず、彼を形だけ担いでは扉を通った。


扉が開いた奥の部屋には既にシャオリー達が席に着き、まるでこちらを待ち構えて居たかのように私を見ては何か言いたげな視線を向けてくる。

部屋の中央に用意された円卓と椅子、カルマンとミカが並んで座り、ミカ側に席を空けてシャオリーとアーカムが着いていた。

ベルゼー卿は席に着いておらず、私を確認すると椅子を引き、こちらへ座る様に促す。

「ありがとう、…ございます…」

礼を言うがベルゼー卿からは何も言葉は返ってこず、席にも着く様子を見せない。

私はとにかくグランを席に座らせ、隣の席にそのまま着席した。



扉が閉まり、正面にはミカとカルマン、横にはベルゼー卿、何やらまるで私達2人が裁判に掛けられているような気分の状況。

いや、それは間違いではない、何せ私は事故的なものとはいえ、1ヶ月近くを脱走した様なものだからだ。

私は急に自分の立場が危うく感じ、緊張感が肩を強張らせる。

「…それじゃあ、話を始めたいと思うけども。赤マントちゃん、問題は無いかしラ?」

正面のカルマンが口を開き、グランに<裁判>の開始を是非を尋ねた。


「…質問が1つあるが?」

グランが椅子の背もたれに崩れながら、カルマンにそう尋ね、彼は続けるように頷く。

「何でアンタ達はこの街に来れた?俺達が辿った<大鉄道>より早く来るには空でもすっ飛んで来るか、コイツみたいに<転移>でも使わない限り不可能だぜ?」

それもそうだ、私は自らの<異能>で元居た場所から大きく東へと<転移>したというに、シャオリーは私よりも早くこの街へと到着していた。

「時間稼ぎ、もしくは俺、それともビルキースをハメるつもりの何かがあるのか?」

罠の可能性を否定していたグランではあるも、やはり何処かに違和感はあったようで、その疑問をカルマンへ投げかけた。

それは動機よりも、こうして邂逅できた物理的な疑惑というのが捻くれてる辺り何とも彼らしい。


「それをそのまま正直に話してくれると思う?」

「少なくとも疑問を投げかけた時点で態度と顔色は答えてくれるね。」

カルマンの問いにグランはそう答えると、カルマンは肩を竦めて両手を上げると、私の方へと困った顔を向けた。

「わかったワ、答えましょ。そう、アタシ達はこの街には<転移>で訪れたの。」

襟巻きで隠れているグランの表情に疑惑が更に色濃くなったのがわかる。

言葉で軽々しく出せる程、<転移>とは簡単に出来るはずがない。

それは何かしらの<物流>を担う彼ら<錬金術ギルド>なら尚更だ。


だが、カルマンはグランのその顔を見て得意げな口元を見せながら言葉を続ける。

「ウフフ、良い顔だこと。アタシ達にはね小規模の<転移門>が各地に用意されてるのヨ☆それで難なく訪れたってワケ。」

しかし、グランの表情からは疑問が晴れた様子はなかった。

その口ぶりなら<大鉄道>の終着駅である必要性も無い、<転移>に要する<龍脈>があればいい。

それは同じ<龍脈>を用いた<通話機>で連絡した近隣、何ならその街で用件を済ませられたはずだ。

もちろん、その表情を察し、カルマンは更に続ける。


「赤マントちゃんも<転移門>、利用した事はモチロンよネ?なら必ず運用に共通して必要なものは何かしラ?」

「…<龍脈>はまぁ、当たり前で、出入りを繋げる高度魔方陣、要の晶石、転移の術者。それくらいか?」

グランがそう答えると、カルマンは拍手をしながら首を横に振る。

「なぁ~んだァ、解ってるじゃないノ☆つまり、アタシ達の<転移>も相応にそれらが必要になってくるワ。」

「うん、うん、しかも<秘密裏>にね。ボクだってカルマンの<転移門>が何処にあるか知らない。」

彼らは揃って共通の<転移門>を利用していないと述べた。


「もうお陰で維持が大変よォ~。常に専用、しかも信頼ができる転移の術者を待機させてるンだから、お金がいくらあっても足りないワ☆」

「嫌味かアンタ。」

「オホホホ、この場合お金よりも<信頼>を強調した方が赤マントちゃんには効くかしラ?」

高笑いをするカルマンにグランは何時ものような仏頂面で言葉を返し、それにはグランがカルマンを信じた返事にも思えた。

「ラミーネ、私達もミカちゃんの<転移>に付き添って此処に来る事ができたの。」

「それでフレインとダッカは任務もあるが、<転移>の際の負荷問題で今回は来れなかった。」

シャオリーとベルゼー卿は、何故に<大鉄道>より先に到着できたのかを捕捉する。

世間に開かれた大きな<転移門>も<転移>の許容量は限界があり、ミカの使える<転移門>如何に限られたものかが伺えた。


「…それで、この街には<錬金術ギルド>の偉い連中が<秘密裏>に集うモノがあるって事か。」

そして、グランはこの2人の説明で既に理解していたのか、溜息交じりにそうカルマンへ答えを突き付ける。

「ホーント、そういうところ勘がいいのネ。」

「そら、<錬金術ギルド>が世間で知られる活動域を越えて大陸中央へ跨ぐとなりゃな。」

カルマンはグランの推察に呆れながらも感心した様子を見せ、隣のミカに視線を投げると彼女は頷く。


「それじゃあ、本来は例の<荷物>の受け渡しだけでよかったのだけド☆本格的に協力を頼もうかしら?」

カルマンの<提案>に部屋の緊張感が高まり、グランは身を起こすとカルマンを睨みつけるような視線を向けた。


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