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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
156/231

32-5.幻に名を問う

 翼が空を斬り、快晴の下に一行は2頭の<鷲獅子>の背に乗って、空の中を舞っていた。

眼下には荒野と林が交互に広がり、冷たく乾いた風が一行を包みながら抜けていく行く。


―――ブォンッ!


<鷲獅子>が羽ばたく度に視界の周囲は流れ、開けた風景は一瞬で過ぎ去る。

「さぁ、到着ですよ!」

エリーデが笛を鳴らし後方へ合図を送ると、2頭の<鷲獅子>は徐々に降下し、森林の中に覗かせる地面へと着地した。


―――


「…着いたそうだぞ、ラミーネ。」

グランは自分の後ろから抱き付くラミーネへ声を掛けるが、<空輸停>から空へ出た途端に黙り込んでおり返答が無い。

グランは溜息の後、腰に回された腕をこじ開け、固まるラミーネを自身の両腕に抱えて<鷲獅子>から降りる。

続いて後方の他の一行も地面に足を着くと、エリーデの側へ寄っていく。


「ここが目的地…にござるかな?」

高さのまばらな木々に囲まれ、枝の隙間を縫うように陽の光が射し込む。

「はい、ここがこの土地では貴重な森林帯ですね!」

2頭の<鷲獅子>を労うように撫でつつ、エリーデは目の前の木々を見上げて頷いた。

「ここに例の<風精灯>とかいう実が成ってるんだな。」

ゴリアーデも自分の得物を地面に置き、各部関節を回しながらウィレミナへと確認をとる。


「えぇ、トゥルパ様のお話ですと。後は…」

ウィレミナは頷き、カワノスケを抱くピアの方へと視線を向けた。

「ピア様の持つ<予見>という力が頼りでございますか…」

「gm~。」

一行はこの場に降り立つ前、トゥルパにこの件の依頼を請け負った際の事を振り返る。

その依頼とは<風精灯>と呼ばれる実の採取と調査、だが本来ならせいぜい<見回り>程度の簡単な仕事のはずだった。


だが、トゥルパが対象となる手持ちの<風精灯>をピアへと手渡したその時である。

彼女の小さい掌に翡翠に艶めく実が触れた瞬間、少女はある1つの<予見>を視た。

それは、巨大な<風精灯>が魔物によって食い荒らされ、力を得た魔物は更に増殖し拡大していくもの。

もちろん、トゥルパは<予見>を疑いはしたが、少女が森林の方角を言い当てた事にそれを信じざるを得なくなった。


「どちらにせよ、向かうのであれば対処するに越した事はないだろう。」

「ピア様を巻き込ませるのは少々気が進みませんが…」

自分が話題に上がっている事に少し緊張を見せるピアにウィレミナは心配する表情を浮かべる。

「森の住人といえばエルフ。エルフ的に何か感じるものはあったり所見はないのかい?」

「そうは申されましても、私は森中での生活はとんとございませんので…」

グランはラミーネを抱えながらウィレミナへ尋ねるが、彼女は困った様子で首を横に振った。


「なれば、拙者らはピア殿の助力にすがる他ないでござるな。」

「…ちゃんと此処であってるか、わかるかな?」

エリーデは<風精灯>の1つを胸元から取り出すとピアの掌に乗せ、少女はそれをゆっくりと指で包む。

「…はい。あっちの方角から、とても嫌な感じと強い<緑>の感じがします。」

ピアは指を差して、その先を示した。


「あっちには泉がありますね。確かに<風精灯>の大きいものは水部付近で採れます。」

「なら、決まりか。後は…」

エリーデの補足説明にグランは後頭部をくしゃりと掻きながら、一行の顔を見渡す。

人数は居るが二手、三手に分かれる事がどうにも得策とも思えなかったからだ。

「あ。わ、私でしたら大丈夫ですよ?いざとなれば空に逃げられますから。」

グランが神妙な面持ちでエリーデに向いてる事に気付き、彼女は慌てて答える。


「例えここから真っ直ぐだとしても木々の中に入れば方角を保つのは困難だ、この子は必要だろう。」

迷うグランにゴリアーデは諭すように口を挟む。

「何、いざとなれば赤法師殿がピア殿を守ればよいではござらぬか。」

そこに、さらにソウシロウも口を挟みながらピアの頭を撫で、その2人の様子に、グランは溜息を漏らして肩を竦めた。

「じゃあ、ソウシロウとゴリさんに前衛は任せるとするよ。」

「…ゴ、ゴリ?」

「うむ!気張りましょうぞゴリ殿!」

「あ、あぁ…」

ゴリアーデが困惑の仕草をとるなか、ソウシロウは満足げな表情で頷きながらゴリアーデの背を叩く。


「さぁ、ラミーネ様!そんな特等席で何時までずるい事をしていますの?気をしっかりしてくださいましッ!」

「…はッ!?」

一行の行動方針が定まると何時までも呆けているラミーネへウィレミナが声を上げ、彼女は肩をビクリと震わせた。

「え、着いた!?…ってアナタは何してるのよ!?」

「いっそグリフォンの背に縛り付けてもいいんだが?いいから、まず俺の腕から降りてくれ。」

グランの腕の中で正気に戻ったラミーネはその現状に慌てて声を上げるも、グランはただ呆れた言葉を返す。

「わ、わかったわよ。うるさいわね…」

そして、ラミーネはぶつくさと文句を言いながらグランの腕から降りるとみせかけるが、その手はグランの服を掴んだままであった。


「…どうした?」

「腰が…抜けちゃった…」

一行全員はその場で足を滑らせ崩す。

「gm~。」



地面に敷物を広げ、一行は仕方なくラミーネが回復するのを待つ事となる。

「まぁまぁ、腹が減っては戦はできぬですし!少し身体を温めてからでも遅くもありませんよ!」

用意した簡易コンロの上に鍋でミルクを沸かすエリーデはラミーネの回復を急かそうとせず、ウィレミナとピアへ笑いかける。

次に正方形の紙に包まれたものを中央に置き、注目が集まる中、紙を縛る紐を解く。

「…ほぅ、コレは。」

紙が広がると側面はまるで黄金のような輝きをみせるスポンジ断面であった。

そして、上の紙を剥がすと食欲をそそる焼けた表面の芳ばしい香り、そして焦がし砂糖のような甘い匂いも漂い出す。


一行からははしたなくも喉をよりも唾をすする音のが大きく鳴り、エリーデは笑い声を漏らした。

「見事な<かすていら>にござるなぁ!」

「あー、ナガサキで食った事あるわ。」

パウンドケーキとは何処か違う、どこか懐かしささえ感じる甘菓子に一同は感嘆の声を上げる。

ウィレミナが即座、手早く切り分けると各々の前へと配って行き、皆は待ちきれないとばかりにフォークを手にしケーキを頬張った。


―――ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!


口の中の水分は瞬時に奪い去られ、涙を浮かべる一行にエリーデは笑いを堪えながらミルクを配っていく。


「あー、美味しいけど死ぬかと思った!」

「拙者が今まで口にしてきた焼き菓子の中でも群を抜くでござる。」

「なんだろう、卵の風味がそこらのと違うな…?」

「エリーデ様、こちらは何か特別な卵でも?」

口々に感想を述べ、エリーデは笑顔と自信に満ちたの表情で頷くとウィレミナの質問へ答える。


「あぁ、それグリフォンの卵で作ったカステラなんですよ!」


***********************


鷲獅子卵と濃厚蜂蜜のカステラ


***********************


―――ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!


エリーデの回答に再び一行はむせ返り、ミルクを流し込んでは呼吸を整え、伏して眠る2頭の<鷲獅子>とカステラを交互に向ける。

「あははは、あの子達が産んだ卵じゃないですよ!ウチの<空輸停>はグリフォンの飼育も兼ねてるので。」

エリーデは一行の驚き方に苦笑しながら、自分の分のカステラを切り分けて口へ運ぶと静かに頷き、言葉を続けた。

「そういえば、コイツも卵から生まれたな…」

「…gm?」

グランは温かいミルクを啜りながらごろごろと転がるカワノスケを横目で眺める。


―――


一時の休息を終え、エリーデを待機させ、ピアの<予見>を辿り森林へと踏み込む一行。

陽が僅かに差し込み、生い茂る枝葉が緑の匂いと湿気を充満させていた。

とりあえず泉のある場所を目標とし、半ば定期的に<予見>伺っては慎重に進んで行く。

「…このまま真っ直ぐ進んで大丈夫です。」

「うむ。こちらもちゃんとエリーデ殿に向かって針が反応しているでござるな。」

ピアとソウシロウは自身の手元を見ながら状況を発し、進むべき道に迷いが無い事を保証していた。


「…グラン様が何やら渋っていたのは帰路の確保だったのですのね?」

2人が進む道と戻る道を確認する様を見て、ウィレミナは横を歩くグランへと言葉を掛ける。

「全員が冒険者手帳持ってるワケじゃないからな。内1つを拠点に残して行動となると今度は人手の分け方で困る。」

グランは頭の後ろで手を組みながら、ウィレミナへ言葉を返す。

「…まさか、アナタ最悪自分と他で二手に分かれて依頼に当たるとか考えてなかったでしょうね?」

「お、少しは俺の考えを理解する気になったのか。」

ラミーネが呆れつつ睨み、不満げに口を尖らながら尋ねると、グランは意外だと彼女へと視線を向けた。


「ゴリさん!グランのホント、こういうところどう思う!?」

「ゴリ…、いや、剣闘士のオレに振られてもな。ただ、団体戦を行う場合はいざ切り離せる役割を分けた方が有利なのは間違いないな。」

ゴリアーデは腕を組みながら答えると、ラミーネは益々不満そうに口を尖らせる。

「堅実って事。何せ俺は<不死身>だぜ?適材の適所よ。」

グランの言葉にはウィレミナもソウシロウも流石に苦笑し、ラミーネもやりきれない様子で首を左右に振っていた。



「…あッ!」

一行が茂みを掻き分けながら暫く進むと、ピアが声を上げ、その足が止まる。

しかし、進む先は変わらずの木々と茂みであり、何事かと少女の方へと全員の視線が向いた。

「だ、ダメだよ、カワノスケ!ぺっ、して!ぺっ!」

「gmmm~~…」

ピアは慌ててカワノスケを上下左右に振り、必死に吐き出させようとする様子に一同は首を傾げつつ、状況を見守る。

「どうしたにござる?」

「カ、カワノスケがあの実を食べちゃって…」

目に涙を溜めながらピアはカワノスケをソウシロウへと向けた。


「あー、とうとう食べちゃったの。フフフ、でも大丈夫よ、ホラ。」

ラミーネは適当に茂みを漁りだし、<風精灯>を1つ手にして戻ってくると、それをピアとカワノスケに見せる。

更にラミーネは自慢げに巾着にしたハンカチを広げ、既に集めた<風精灯>も披露してピアを安心させた。

「まぁ、そもそもはそれを集めるに依頼だったからな。それにしても手際がいいじゃないか。」

「カワノスケは食べても大丈夫なのですの?」

「大丈夫よ。<幻獣種>は魔力を得る為なら何でも食べるもの、<風精灯>は風の精(ジン)を多量に含んでいるみたいだから問題ないわよ。」

そういって自慢げに高説した後、ラミーネは<風精灯>を1つ摘むと躊躇なく口の中へ投げ込んだ。


「…まさか、集めて酒の肴に…とか考えてないよな。」

「…な、なんでわかったのよ!?」

その様子に疑問が過ぎったグランはラミーネに問うと、彼女は目を丸くし、そして少し頬を赤くして視線を逸らす。

「わかりたくなかった…」

その反応でグランは確信し、深い溜息を洩らした。


「ともあれ、探索の中断されそうもなく何よりですわ。」

「…いや、それも心配無用、既に<水の匂い>がするでござる。」

ウィレミナが安堵する横でソウシロウの表情は緊張に強張り、腰の刀へ手を掛ける。

その気配、言葉に全員は頷くと、慎重に歩みを進めた。


―――


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