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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
148/232

31-4.光明視しても、足は沼

 荒れ果てた店内では店主の啜り泣く声が静かに響く。

「…力に成れず、すまぬでござる。」

店主の気持ちを察し、ソウシロウは詫びながら肩にそっと手を添え、落ち着かせた。

「いえ、すみません。お客様にこんな事に巻き込んでしまって…」

店主は涙を拭っては気を取り直すと、店内の惨状を目の当たりにしてバツの悪い表情を浮かべる。


「よければ、事情を聞かせてもらえぬでござるか?」

「ほ、ほら!話せば少しは気が紛れたり、考えもまとまるかも知れないじゃない!」

ソウシロウに続いて、ラミーネも店主の気を紛らわそうと声を発した。

「…厨房奥に休憩室があります、そちらでお待ちください。私はせめてお茶の準備でもしてまいりますので…」

覇気など微塵も感じぬ弱々しい声で店主は一行を厨房へと案内すると、自らはその足でカウンターの中へと入っていく。

ソウシロウとラミーネは不安げに顔を見合わせ、ひとまずは言われるがまま、グランとピアを担ぎ、厨房の方へと足を向けた。



奥にある休憩室では手狭な空間の中心にテーブルと椅子が置かれ、その上へと一行は腰掛ける。

直後、店主は変わらずの浮かぬ表情で、給湯ポットを手に入ってくると戸棚、湯飲みを人数分取り出してはテーブルの中央のお盆へ並べ出していく。

湯飲みには挽き粉入れられ、店主がそれに注げば、甘い香りの立つ湯気を立て、ラミーネは鼻を鳴らし満足げに頷いた。

店主もお盆に湯飲みを並べ終えると、自分も椅子に腰掛け、大きく溜息を吐く。


「…あぁ、すみません。簡易なベリー茶ですが、よろしければどうぞ。皆様甘いものは苦手ではないでしょうから…」

店主は苦し紛れの笑顔を一行に向けながら勧めると各々は軽く礼をするとそれを手に取って茶を口にする。


***********************


乾燥挽き粉のベリー茶


***********************


棘がなくすんなり喉に通るベリー茶は 滑らかでほのかな優しい味。


「あ、あの…貴方は確かゴリアーデに両腕を…」

「あ。」

先の力比べで両腕の骨を粉砕されたはずのグランは何の躊躇もせず湯飲みを手にし口へ運んでいる。

ラミーネも目を丸くしてはその様子に釘付けになっていた。

「あ、あははは、こ、コイツこんなボロ雑巾みたいな成りなんですけど、何故か自分に対してだけは高度の回復魔法が使えるんですよ~。」

「…オイ。」

咄嗟にラミーネは苦笑いをしながら肘をグランに突きながらフォローを入れるが、グランはその発言に眉をひそめる。

「そうだったのですか…しかし、そんな方でもやはりゴリアーデには敵わなかったのですね…」

店主はグランを目にして、神妙に呟き、湯飲みを両手で包むように持った。


「その<ゴリアーデ>と申したか。アレだけの力を持っておいて、何故あのような連中と行動を共にしているのでござるか?」

ソウシロウは湯飲みに口を付けながら、店主の心情を察して率直な疑問を投げかける。

「連中も言っていましたが、彼はこの街の闘技場で目まぐるしい活躍をみせ、幾多の優勝を重ねてチャンピオンにまで上り詰めた者なんです。」

「…没落の剣闘士…、いや、あの風体だと<剣闘奴>か。」

店主は力無く言葉を続けながら、店内のショーケースが粉砕された様を思い出してか目に涙を浮かべ、グランはそれを横目で見やるがそれを口にせず再び湯飲みを口に運んだ。

ソウシロウも店主の心境を察し、小さく頷きながら、話を続けていく。


―――


「…事情は大方察せますわ。私も一応は<奴隷>の身でしたので。」

「キサマは確かあの場にいた…」

一方でウィレミナは人気の全く無い裏路地を歩く全身鎧の大男、ゴリアーデの後ろ姿を見据え、静かに口を開いた。

それを耳にして大男は足を止めては振り返り、兜がウィレミナへ向く。


「…何が言いたい?」

「貴方様の後ろめたさをあの連中は利用している。そして、ゴリアーデ様はそれに気付いておられますわね?」

ウィレミナは屈強かつ鋼の大男に臆する事なく、正面から見据えながら告げるがそれを聞くと大男は再び背を向けて歩き始めだす。

「オレはオレの贖罪をする。それだけだ…」

「新たな罪を作り出してまで、それが本当にゴリアーデ様の<罪>に決着を付ける事になるのですの?」

ウィレミナも大男の後を追い、歩みながら再び言葉を投げかけた。

その言葉を受けてかゴリアーデは足を止めて無言になるが、続けてウィレミナは言葉を繋げる。


「貴方様があの三下共の言う本当に猛者で強者であれば、悪行を成すにしても堂々と最前を歩んでみては如何でございます?」

大男は再びウィレミナの方へ体を向けるが、やはり無言になる。

「それがどうです?貴方様はただあの三下共に付き従い、この街を荒らすだけ。残飯の骨をただ投げられるのを待っている、まさに負け犬ですわ!」

「…キサマッ!」

ゴリアーデの腕がウィレミナの首元を掴むも、ウィレミナは動じない。


「さぁ、おやりなさいッ!先のグラン様の両腕よりも私の首は簡単に折れましてよ!」

ウィレミナが煽り、その挑発にゴリアーデはわなわなと全身を震わせるがその握力は弱まっていく。

そして、ゴリアーデはウィレミナの首から手を離し、力なく体の横へ垂れると、膝を落とした。

「キサマはオレにどうしろと…。何をさせたいんだッ!」

ゴリアーデは俯きながら、言葉を絞り出す。

「貴方様は今、沼の中でもがき、息をするがやっとの状態ですわ。ですから…」

そして、ウィレミナは軽く溜息をついて大男に歩み寄りながら答える。

「…私がきっちりと<絶望>という水底に突きつけてさしあげます。」

ウィレミナは膝をついたゴリアーデの兜にそっと手を置き、囁きかける。


―――


「そぉ~か、そぉ~かぁ、そろそろあの店も終わりのようだなぁ~。」

「へ、へいっ!オレ達が店を後にしたときはハデな音が響いてましたからねぇ。」

とある倉庫、粗雑な木張りの床と壁の空間の一辺。

そこに品のある小さなテーブルと椅子が置かれ、その椅子には質は良くとも悪趣味な柄の背広に、また悪趣味な指輪やネックレスで身を飾った男が踏ん反りかえって腰掛けていた。


男の目の前には店にいたゴロツキ達が手もみをしながら、媚びへつらうように笑みを浮かべて立っている。

そして、男はテーブル上の酒をグラスに注ぎ、それを一気に飲み干すと男は小さく舌を打ち鳴らす。

「で、その肝心のゴリアーデはどうした?何で一緒に戻ってこない?」

男はゴロツキ達を睨みつけながら不機嫌に問うとゴロツキ達は互い互いを目配せし合い、困惑する。

「フンッ!まぁいい、ヤツには後で灸でも据えてやるさ。」

男はグラスに再び酒を注ぐと、それを少しずつ舐めていくがその目は何か企みがあるような怪しい輝きを放っていた。


「へ、へへ…。し、しかし、凄いですよね!<ジャーゲ>さんはあの元チャンピオンをアゴで使えるなんて!」

ゴロツキの1人が、男へ機嫌を伺うように口を開くと、ジャーゲと呼ばれた背広の男は軽く鼻で笑い飛ばしながら酒を豪快に口へ流し込む。

「客として居た冒険者が何だかがオレ達の邪魔に入ってましたが、あの様子なら何も問題ないでしょう。」

他のゴロツキもジャーゲの機嫌を損ねまいと言葉を続け、それを聞いてジャーゲは口元が緩みつつも即座にゴロツキ達を睨み付けて牽制をした。

「アイツは下級剣闘奴の頃から俺様がマネジメントをしてやってたからな。それに…」

ジャーゲは懐から鈴のようなものを取り出すと軽く振ってみせる。

「そいつは何なんで?」

「奴隷を体よく働かせる為の魔道具よ。チャンピオンといってもアイツはまだ奴隷、つまり俺様の持ち物なのサ。」

ジャーゲは不適な笑みを浮かべながらそれを再び懐へとしまい込み、ゴロツキ達は言葉を失った。


―――それは、それは大変興味深いお話ですわ。是非、私にも詳しくお聞かせ下さいまし。


その時、突如ゴロツキ達の背後から女の声が響き渡り、ゴロツキ達は皆驚き振り返る。

「て、テメェは!あの時の冒険者の中に居た…!」

ゴロツキの片耳のかけたエルフの男がその人影を見ると、驚きを隠せない様子でウィレミナを指をさして叫ぶ。

「な、何故この場所がッ!」

ゴロツキの1人が即座に腰から剣を抜くが、ウィレミナは全くと気にかけずジャーゲへ視線を向け歩み寄る。

ジャーゲはウィレミナの姿を見て、一瞬意外そうな顔をしていたがすぐに笑みを浮かべ直すと余裕を見せるように笑った。


「構わねぇ、剣を仕舞え。女、こっちに来い。」

ジャーゲの言葉でゴロツキ達は眉を歪めながらも剣を収めては、ウィレミナに道を譲るように退いていく。

そして、ウィレミナは丁寧なお辞儀の後にジャーゲに笑みを見せ、ゴロツキ達を露骨に無視しながらジャーゲのテーブルへと向う。

「…どうして此処へ辿り着けた?」

「あの大男の向かう方向へ先回りをしたら、今度はあちらの方々がこの倉庫へ入っていきましたから。」

ウィレミナはジャーゲのグラスに酒を注ぎ、ジャーゲはその言葉と笑みを前に鼻で笑う。

「ほう。…コイツらは体良く尾行されたのか、間抜け共め。それで、1人で報復に来たってワケでもあるまい?」

グラスを一気に飲み干し、ジャーゲはウィレミナの手を覆うように触れながら語りかけた。


「えぇ、私は私を高く買って下さる<ご主人様>をご所望しておりますの。あの大男がボスでなければもっと<強い>お方が居ると思いまして。」

ジャーゲに触られるも、ウィレミナは笑みを浮かべたまま平然とし、ジャーゲがウィレミナを上下に値踏みするよう眺めだすと、途端、手を払って己が値を吊り上げる。

「フヘヘ、イイ女だな。そりゃコイツらには手が負えるワケもねぇか。いいだろう買ってやる、欲しいのは金か?」

だが、ジャーゲは機嫌を悪くするどころか上機嫌かつ欲の湧いた表情を浮かべだしていった。

「はい。お金は解り易い対価として是非に。ですが、私も旅に出る前は奴隷でありましたの。是非その奴隷を従わせる力を味合わせて頂けましたら…」

そう言ってウィレミナはテーブルに腰掛けるとスカートを僅かに捲り上げ、ジャーゲを挑発していく。


―――ゴクリッ…!


ジャーゲの喉音が鳴るのを聞くと、一瞬ウィレミナには眼光が灯る。


―――


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