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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
146/232

31-2.光明視しても、足は沼

 普段はピアに懐き、大人しい河グリフォンの幼体が威嚇を始める事にその場にいた全員が驚き、少女へと目を向ける。

ピアは薄っすらとまぶたを開き、身体を起こすと呆然と両手を見やり、何度か握りしめたり広げたりしていると幼体へ目を向けた。

「…ピ、ピアちゃん?」

ラミーネはその様子に不安そうに声を掛けるが、少女は特に反応を示さない。

「…我が先に目を覚ましてしまうか。」

そして、ぼそりと少女が一言つぶやくと、瞬時にして車両内の空気が一変した。


「グラン様!?」

「赤法師殿!」

ウィレミナは直ぐさまグランに寄り添い、ソウシロウも慌てふためいた様子で駆け寄る。

グランは赤いマントほ翻し、右腰の剣の柄に手を掛けていた。

普段はくすんだ赤い瞳も爛々と灯り、グランの戦意を感じ取ったのか幼体も毛を逆立てて威嚇する。

「落ち着く出ござる、赤法師殿!そして、ピア殿に憑いている化生よ、お主も言葉を発せられるならば会話くらいできような?」

ソウシロウは穏やかな口調でピアに言葉を投げかけるが、当のピアは何を言われているのか分からないといった様子。


「貴様は…確か、我が母と行動を共にしていた…」

「ソウシロウにござる。」

少女はその身なりに合わない「…フム。」と興味なさげに短く言葉を漏らし周囲を見つめる。

「…それで、会話とはなんだ?」

少女はソウシロウの言葉に素っ気無く言葉を返し、その態度に彼はやや肩を落とす。

「<なんだ>もクソもないだろ…、テメェ、ピアちゃんに何をしやがった。」

グランは少女の言葉に苛立ちを隠そうともせずに問い返すが、当のピア本人はぼんやりとした表情のまま小首を傾げている。


「アナタがピアちゃんから出られないというなら、アナタが何なのかそれを私達にも教えて欲しいの。」

ラミーネは河グリフォンの幼体を落ち着かせるように抱きつつ、少女に言葉を投げかける。

「…我の事を聞きたいと?」

「少なくとも今後も顔合わせするのでしたら多少の自己紹介はするべきと思いますわ。」

少女の問いに今度はウィレミナが言葉を重ね、少女は再び目を瞑り沈黙し、その思考の時間を周囲に感じさせた。


「互いに理解がし合える言葉を用いられるかは我にもわからぬ。」

少女はそう前置きをした上で、目を開くと再び4人へと視線を向ける。

「お主、名は無いのでござるか?」

「…名?貴様が言った<ソウシロウ>とかいうTagの事か?我は我が母に内包されたもの、我自身にそういうものは無い。」

「いきなり話が噛み合っていないな…」

ソウシロウの問いに対する少女の言葉を聞き、グランは憮然とした表情を見せ、少女の話す言葉について鋭い目付きのままでいた。


「では、何故ピア殿を<母>と呼ぶのでござるか?」

ソウシロウは穏やかな口調で少女に質問を投げ続け、少女はしばし考えを巡らせた後口を開く。

「我は<母>と接触した故に我という思考が生まれた。」

「…接触?」

少女の抽象的な回答にグランは疑問をますます深める。

「それ、以前はわからぬ。半身無き今、そもそもこうして明確に我が母の身体を借り、意思を外部へ言葉にするのが初めてなのだからな。」

4人は互いに顔を見合わせ、少女を見つめ直す。

「確か、半身を殺されたとお主は以前申していたな。<半身>とは何を指すのでござる?」

「…文字通り、我と我が母のもう1つの身体の事だが?」

「もう1つ?テメェはピアちゃんの身体に巣食ってる存在だろうが。」

ソウシロウと少女の会話を聞き、グランが苛立ちを言葉に込めて言う。


「そう、我と我が母は接触の後、互いの肉体、精神、魂を<同期>させたのだ。でなければ接触前の我が母の魂は消滅しかけていた。」

4人は驚き、またも互いの顔を見合わせる。

「では、お主とピア殿が出会った際、<半身>、2人目のピア殿がその場に生まれたのでござるか?」

「それは違う。半身は違う形状、大きさの肉体であった。だが、<同期>をした故か、我が母の身体は我に、我の身体が我が母にと互いに変異をしだし、それが繰り返されたのだ。」

「俄かに信じ難い話だな。」

グランがピアの方を向きながらそう告げると、ピアを除く他3人からの視線がグランへと向く。

「…何で俺を見るんだよ。」

「歩く摩訶不思議の赤法師殿にそう申されても…」

「せめて心臓の音くらい鳴るように成ってから言ったら?」

ソウシロウとラミーネがグランを揶揄う様に言うと、当人は赤い襟巻き越しながらの仏頂面で顔を背ける。


「しかし、これまでの拙者らとの旅の中でピア殿の身体の変化は見て取れぬでござるな。」

「それは本来の我が肉体分が失われても、精神と魂だけが我が母の内の中で<同期>を為し続けているが故だろう。だが…」

そこで少女は言葉を詰まらせ、表情が強張っていく。

「どうか致しまして?」

「改めて<喋る>というのは負荷が強いようだ…。我は我が母の内にしばらく戻る故、我が母の事を頼、む…」

「…あっ、オイ!」

そこまでを言うと少女は倒れ込み、意識を失うように寝息を立て始める。

「gm~…gm~…」

同時に河グリフォンの幼体は威嚇を止めると今度は親を求めるかのように鳴き声を発した。


―――ガタン…ガタン…ゴトン…


4人を包み込んでいた空気が元に戻り、グランは深く溜息をつくと身体を背もたれに預ける。

「…結局、何も解らないと変わりないな。」

「少なくとも<アレ>はピア殿自身を害する気は無いようでござるな。」

「フン、どうだか。」

安心したように眠る少女を見ながらソウシロウが言うと、グランはぶっきらぼうに返事を返す。

「…」

「ラミーネ様?」

そんな中、ウィレミナは険しい表情でピアを覗くラミーネへ声を掛ける。

「あ、いや。何でもない!そういえば、そう!この子も名前がまだ無かったわね!」

「gmー…」

腕の中の河グリフォンの幼体の頭を優しく撫でた後、ラミーネは誤魔化すようにピアの傍らに幼体を寝かせた。



車両の中は静寂に包まれてしまう。

それこそ、レール上を滑る車輪の振動音すら打ち消してしまう程である。

「み、皆様!次の駅に着きましたら、何処かでお食事でもなさいませんか?ここでは精々お湯を沸かせるくらいしかできませんので。」

「…何を考え込んでも仕方はないか。食事には賛成だ。」

ウィレミナの気遣いにグランが手を挙げて賛同すると、他の2人もそれに続いて頷く。

以後も静寂は続いたが、それは今までのものと違い、決して居心地の悪い物ではなかった。


―――


列車が止まり、一行はホームへ降り立つと乾いた風が出迎えた。

ホームから対面に見える街並みは高い建造物すらないものの、段々と上へと並ぶ家々がまるで城砦のように伸びており、一行はその光景に圧倒される。

中でも頂上部にある闘技場は遠目から見ても明らかに圧力のある存在であった。

ラミーネが未だ眠るピアを背負い、ウィレミナが河グリフォンの幼体を抱え、男2人は地図を片手に大通りを連ねていく。


「…意外だなお前さんが率先してピアちゃんを担ぐだなんて。」

グランは振り返りつつピアの様子を伺う。

「別にこれくらい、何てこと無いことじゃない。…アナタまさか、卑しい魂胆があるんじゃないでしょうね!?」

「何でそうなる…」

何の気なしに投げかけた言葉が辛辣な返事となった事にグランはソウシロウへ視線を送って問うが、ソウシロウはただ肩をすくめて返す。

それを見てウィレミナはくすくすと笑う。



一行が噴水前の案内板に辿り着くと早速、街の観光地や飲食店の情報に目を通し始める。

「して、何を食すにござる?」

「…うーむ。そもそもここも飯は大陸西部とは違うだろうしな。」

グラン、ソウシロウ、ラミーネは顔を合わせて眉間を歪めると、視線をウィレミナへと向けた。

彼女なら駅と駅の距離はあれど比較的<地元>に精通するだろうと考えたからである。

「え、えぇ、でしたら。<ベリーサンデー>なんてどうでしょう?」

やや困り顔であったが、ウィレミナもそれを察し期待に答えた。


「甘味…にござるか?」

「はい。ここの土地は様々なベリー果物の産地ですから、それらを用いたデザート、スイーツが名物になっていますわ。」

「ベリー!?じゃあ、ベリー酒なんかもあるかな!?」

「…お前は即座に酒かよ。しかし、俺達まだ朝飯すら食ってないんだぜ?」

ウィレミナの説明にラミーネが色めき立ち、グランは呆れて返す。

「…グラン様は甘い物はお嫌いでしたか?」

「いいや、…大好きだね!」

そうして満場を一致させた一行はベリーサンデーが楽しめる店を見つける事と決め、足を進みだした。


―――


「…本当に裏路地の店の方が美味しいのなんてあるのォ?私達この街初めてなのよ?」

「フッ、土地の味を知るなら表通りよりは裏通り。俺がこれまでの旅で得た格言サ。」

裏通りに踏み入れ、閑散とした通りを見てラミーネはグランへと疑惑の視線と言葉を投げる。

「赤法師殿の旅はあくまで大陸西部で通じるものにござらぬのか?」

「な、なんだよ!一応ヒノモトにも転移門で行ってるのはお前も知ってるだろ!」

ソウシロウの余計な水差しにグランは反論するが、ラミーネとソウシロウは肩をすくめていた。

「まぁまぁ、皆様。あそこに開店の看板が見られますわ。探し回る事なくよかったではありませんか。」

そして、ウィレミナになだめられつつ、一行は店へと訪れる。


店に入ると、中は温かみのある雰囲気で満たされていたがどこか寂しく寂れていたものだった。

だが、カウンターのショーケースには様々なベリーのジャムがが美しく並べられ、甘い香りが漂っている。

「い、いらっしゃいませ…ご、5名様で…」

何処か怯えがちな店主が一行を案内し、メニューを手渡すと、そわそわとした表情で一行の注文を伺い待つ。


「…ふむ、拙者は普通のベリーサンデーを頂くにござるか。」

「じゃあ、私はベリータルトとイエローベリーソースのブルーベリーサンデー!」

「俺はレッドサンデーのでかいヤツで。」

「私とこの寝ている子にはイエローサンデーフロートをお願いいたしますわ。」

しかし、4人がそれぞれ注文を告げるが店主は伝票に対して手を動かさない。


「あ、あの、申し訳ないのですが…ご注文は1種に絞っては頂けませんか…」

「「「「…えっ!?」」」」


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