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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
145/232

31-1.光明視しても、足は沼

 暖かな陽気が肌を撫で、レール上を滑る車輪の振動が伝わる。

夢うつつにまどろむ意識が揺り起こされ、赤いマントと赤い襟巻きに身を包む男がまぶたを開き、くすんだ赤い瞳が覗く。

視界に映るのはちょっとした小部屋の様子で、男はくしゃりと黒髪の後ろを掻いては首を傾げて陽気の差す窓の方へ向いた。

そこから見える景色は常に流れ、草原、林、畑が不規則に移り変わり、その情景に男は深い溜息を吐く。


「お疲れの様子にござるな、赤法師殿。」

語りかけるは覚えのある声、ぼやけた視界が晴れたその先には異国風貌の服に身を包み額に2本の角を生やす爽快な顔立ちの男。

「…あぁ、そうか、再び列車に乗ったんだったな俺達…」

「ははは、これまでの様に手漕ぎトロッコでの旅が忘れられぬでござるか?」

思考が定まらない頭を掻きつつ、赤法師と呼ばれた男、グランはゆっくり背を伸ばし、眼前の男、ソウシロウを見据える。

「まさかッ。だが、あの時に<大鉄道>の鉄道員には吹っかけておいたかいがあったぜ。こうして特別な客車に乗り込めたんだしな。」

グランは客車内を見渡しながら懐からパスを取り出し、ソウシロウに示すと互いに笑い合った。


そして、客車の奥、簡易的に設けられたカーテンが揺れ、2人は同じ方向に顔と視線を向ける。

カーテンから姿を見せたのは青みがかった銀髪、長い耳、旅装束風に組み直された給士服を着る<エルフ>の女性、ウィレミナであった。

彼女は湯気立つマグカップを5つトレイに乗せ、こちらの元へと歩み寄る。

「おはようございます。何のお話をされていたんですか?」

ウィレミナは穏やかな笑みを見せ、「どうぞ。」と、マグカップを差し出し、2人は湯気を深く吸い込んで一時の安らぎを感じる、ウィレミナに軽く礼をして受け取った。


2人と違い、上品にマグカップを口元へ運び、静かに啜るウィレミナ。

「ところで、ウィレミナ殿、拙者らと共に来て本当によかったのでござるか?」

ウィレミナの様子に安堵してか、ソウシロウは一息吐いた後、思い立ったように問う。

「えぇ、とりあえずは。ですので、今後は身の振り方も考え、再雇用先をみつけませんとっ!」

マグカップをテーブルに置き、ウィレミナはグッと力を込めてやる気を見せる。

『再雇用ねぇ…。まさかカルマンに取り入ろうって魂胆か?』

『ははは、前向きなのは良い事ではござらぬか。』

グランは小声で語りかけると、ソウシロウも察して苦笑を浮かべる。

そのやりとりにウィレミナが小首を傾げ不思議そうにするのを横目に、2人は誤魔化す様にカップを啜り鳴らした。


続いて、カップから伝わる湯気と香りに釣られてか、薄緑色の髪がカーテンから出てくる。

「眠いぃ…頭痛いぃ~…」

唸るような声をあげ、それはカーテンから全身を出すと、下半身がまるで大蛇の様な<ネレイド族>の女、ラミーネが目をこすり、青い顔でぐねぐねとふらついていた。

その様子にウィレミナは心配の顔を浮かべながらラミーネの元へ駆け寄り、グランは襟巻き越しながらも呆れた表情で溜息を吐いた。

「ラミーネ、どうせならピアちゃんもこっちに連れて来てくれよ。」

「えー、なんでよ…寝かせてあげていいじゃない。」

長い髪をかき上げ顔を見せると、ラミーネは駄々をこねる様に唇を尖らせて言い返す。

「目が覚めたら<アイツ>だった場合、色々と聞き出さないといけないからな。」

不満な表情を浮かべながらも、グランの言葉には合点した表情見せたラミーネは渋々とカーテンの向こうへと消え、ウィレミナも続く。


そして、カーテンが再び開くとラミーネの腕にはウサギのような耳が縦に伸びたピアが、ウィレミナの腕には河グリフォンの幼体が抱かれて出てくる。

覗かせる少女の寝顔が苦痛や苦悶を浮かべてない事にその場の4人は安堵し胸を撫で下ろす。

だが、グランにとって<監視>対象であり、ラミーネへ少女を自分の横に寝かせる様にアゴで促すも、彼女は少女を強く抱きしめ顔を背けた。


「さて、とりあえずは今後の方針でも相談せぬでござるか?」

「そうだな。今は道中が同じなだけで目的はそれぞれバラバラだしな。」

各々が席に着き一息を入れたところを見計らうと、ソウシロウが口火を切ってグランもそれに合わせる。

「まずは当面の目的になるカルマンの話を整理をしてみるか。まずは…」


「「ナナリナ!」」

「…って誰なのよ?」

「…様とはどなたの事ですの?」

グランが言い終える前に2人の声が重なり、ウィレミナとラミーネは互いに見合うと再びグランへ強い視線を放つ。


「…そこから蒸し返すのかよ!?」

グランはソウシロウに助け舟を求めるが、当人は顔どころか身体の向きを背け、静かにカップを啜っていた。


~~~


「…それなら早速と質問をさせて貰うワ。」

通話機を前にして一行はカルマンの次の言葉を待つ。



「…ナナリナちゃんとは、何ァんで別れちゃったのかしラ?」

グランだけがその質問を聞くと足を滑らせ、ガタンと音をたてた。


「は、はぁぁあぁッ!?名指しで聞きたい事がそれ!?」

姿勢を立て直すとグランは動揺を露わにし、声を荒げる。

「あったり前じゃナ~~イ☆」

だが、カルマンはグランの反応にどこ吹く風とばかり言葉を返す。

「アタシもあの後、<魔法都・レテシア>の魔法学院に用事ができたんだけどォ。あ~んなにアナタにダーリン♥、ダーリン♥、ひっついてたナナリナちゃんがよぉ…?」

「ダ、ダーリン…」

ウィレミナはカルマンの言う単語に耳まで真っ赤にして俯く。

「それが、通りすがりに見たときは見知らぬ赤い髪の女とベタベタ、イチャイチャしてたら気にならない方がおかしいじゃな~イ?」

カルマンはそう言って、不満な声を漏らした。


「…あぁ、エイミ殿にござるな。」

「そいつは学院の教員でナナリナの世話をして貰っているんだよ…」

グランは頭を抱え、ソウシロウに視線だけを向けて、事情を簡単に話す。

「…<世話>?あのコが他人の世話をするならまだしも、掛けられているってどういう事ヨ!赤マントちゃんが今、世話を焼かれてないのをアタシは聞いてるノッ!」

「…ぐっ。そ、それはだな…、だから、イロイロ…あったんだよ。」

カルマンの追及にグランはしどろもどろになりつつも、どうにか言葉を絞り出す。

「まぁまぁ、カルマン殿。本当にあそこでは色々とあったのでござる。赤法師殿に仔細を述べさせたいならば相応の場を用立ててもらえぬでござるか?」

「…ソウシロウちゃんが言うなら仕方ないわね。じゃあ、その事は土産話として楽しみにしておくワ。」

「…なんでお前の意見だと素直に通るんだよ。」

「拙者に言われても困るでござるよ…」

見兼ねたソウシロウがカルマンを宥めると、不満げな声色を浮かべつつも承諾した。


「ん?土産話?まるで俺達が会うみたいな…」

ただ、カルマンの言葉に何か引っかかりを感じたグランは疑問を浮かべる。

「えぇ、本当なら赤マントちゃんにアナタのボス、ビルキースとの橋渡しをできないかじっくり聞き出したいところだったんだけども…」

「<魔神の卵>にござるか。」

カルマンが本題を言おうとした矢先、ソウシロウは察する様に言葉を繋ぐ。

「ご明察~☆。それを私に直接届けに来てほしいの、それと<もしも>道中<魔神の卵>を見つけたら回収してもらえないかしラ?」

「…ったく、<ビルキース>の名前だけで頭が痛くなるのに、お使いまでさせようって…。って何で俺のボスが誰だか知ってるんだよ!?」

カルマンの要求に頭を抱えていたグランだが、自分の雇用主とので関係を知っている事にカルマンへ食って掛かる。


「ホホホ。少しは大物の下で働いている事の自覚を持ちなさい赤マントちゃん。<不死身の赤マント>、錬金術ギルドでは結構、目の仇にされてるのヨ☆」

「アンタ達が俺のボスと争ってるのは知ってるが、俺の事は眼中に入れないで貰いたいね、まったく。…それで、何処へ向かうんだ?西へ戻れとでも?」

相手には見えないものの、グランは険しい表情のままカルマンへ問う。

「…いいえ、向かうは<大鉄道>の<終着駅>、10日を目処に到着して欲しいの。」

「拙者らは手漕ぎトロッコでの移動にござる。とてもではござらんが、無理難題が過ぎるでござるよ。」

グランに続き、ソウシロウも難色を示す。


―――チッチッチッチッ…


だが、その回答にカルマンはわざとらしく舌を鳴らし、指を立てて振っているのが容易に想像がつきそうな様子で言葉を続ける。

「大、丈、夫☆元より、その駅からは折り返しで別の列車が運行なされているノ。その列車に乗って向かって貰えばいいだけ☆」

カルマンの言葉にグランとソウシロウは顔を見合わせ肩を竦ませた。

「…で、その列車は何時来るんだよ。」

「日没過ぎの夜中ヨ。」

一行は窓に目を向け外を見ると、空の茜色は沈みつつある状態である。


「…もうすぐじゃねーかよッ!」


―――


「なんだかやる事だけが増やされていってる気がする…」

「ははは、選択の余地を無くした上で交渉をしてくる辺り、流石はカルマン殿といった処にござるな。」

テーブルに突っ伏すグランにソウシロウはカラカラと笑いながら言葉を返す。

そして、女2人は<ナナリナ>の事に対し、答えを待ってる状態であった。

だが、グランはテーブルに突っ伏したまま「終着駅の後。」と一言だけ発し、ラミーネ、ウィレミナの表情はどこか不機嫌となっていく。

「ま、まぁ、私はアナタの交友関係なんて、別にいいのだけどっ!」

「そのナナリナ様がグラン様をお慕いしていたのでしたら、よっぽど人が出来たお方だと興味があったのですが、残念ですわ。」

それぞれが何処か棘を含んだ不満の捌け口を零し、グランは謂れの無い棘に胸を痛め、ふと未だ眠るはずの少女、ピアへと視線を向ける。


「…Gmmmmmッ!」

その時、河グリフォンの幼体がピアへと向かって唸り声をあげだしていた。


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