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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
140/233

30-4.禍つ黒き卵

 ワザとらしい裏返った声が<通話機>から発せられ、ソウシロウは驚いた。

その声は以前に<魔法都・レテシア>の転移門のある街へ訪れた際に知り合った<カルマン>その人のもの。

<通話機>越しでの声だけでは鮮明さは無いが、その独特の口調、言い回しと態度は紛れも無くソウシロウの知るカルマンそのものであった。

「…ひ、久しゅうにござる、カルマン殿。と、世間話でもしたいところでござるが、火急に尋ねたい事があるのでござる。」

「アラ、連れない☆。でも、ソウシロウちゃんの頼みならいいかしラ?」

ソウシロウが急を要すると伝えるや、カルマンは声色を戻し用件を聞き出そうとする。


―――かくがくしかじか…


<荷包>に対し経緯を手短に要件を伝え始めると、途中でカルマンの表情が険しくなる様子が姿見えずとも伝わってきた。

「…アタシの名刺とアタシ宛の荷を渡した、小太りの男ネ。まったく心当たりがないワ。それに…」

トントンと指で何かを小突く音と共にカルマンの声色が重いものに変わり、ソウシロウは息を呑み次の言葉を待った。

「まるで、アタシが誰かを利用して<何か>を手段問わず<集めている>みたいに聞こえるわね。アタシのキャラをな~んにも解っていないワ☆」

「ははは、赤法師殿もそう申されていたでござるよ。カルマン殿はやるなら直接の手で、と。」

ソウシロウの一言にカルマンは笑い声を上げたが、話は積み重ねる程に何処か緊張感まで持ち合わせていく。


「その赤マントちゃんに丁度聞きたい事があったのだけど、ソウシロウちゃんがこうして出てるって事は…」

「…如何にも、拙者は本来この様なハイカラなカラクリは未だに苦手でござるからな。赤法師殿は少々用事があって同席にはいかぬでござる。しかし、用があるならば…」

「あー、いいワ、いいワ。まずは目の前の事を片付けましょ☆。じゃ、ソウシロウちゃん、その<荷包>の中身改めてもらっちゃっていいかしラ?」

カルマンはソウシロウの言葉を遮り、要点だけを促す。

「よ、よいのでござるか?」

「許可します。何せアタシ宛の名義だもの、決定権はアタシのものヨ!それに大丈夫、もし罠の類なら運んでる最中、既にボン!…と、なってるはずヨ☆。」

過ぎる不安にカルマンは簡単に答え、ソウシロウは「承知。」と一言返事をすると荷包の封を丁寧に解き、中身をテーブルの上に広げた。


「こ、これは…」

ソウシロウはその中身に既知を感じ、恐る恐るカルマンに尋ねようとする。

それはまたも<魔法都・レテシア>で見た、<瘴気の塊>に酷似していたのだ。

硝子シリンダーの中に封じられている点も共通しており、ソウシロウは何か作為的ではないかと勘ぐってしまう。

「ま、<魔神の卵>!?」

そして、ソウシロウが驚きを口にする前にラミーネがその単語を口に出した。

どうやらラミーネはこの中身を知っているようで、その反応は驚きと何処か歓喜が混じっている。

だが、カルマンは即座にラミーネの言葉の意味を理解するや、口調からは冗談めいたものが一切消え、重圧感さえ感じさせた。


「…ソウシロウちゃん?今、誰が<魔神の卵>って言ったのかしラ?」

声だけであるのに、カルマンからの圧が無機質の<通話機>から発せられ、一触即発、まさに今後の些細な発言で敵か味方かに割れる状態となる。

その変化にラミーネは咄嗟に口を両手で塞ぐも、時すでに遅く、カルマンの圧は更に増していく。

「…今、此処には拙者らと同行して旅を続けている者が共に居るござる。」

「…変ってもらえる?」

当然庇いきれるはずもなく、ソウシロウは沈黙で返答すると、ラミーネと立つ位置を交代し<通話機>へと向き合わせる。

ラミーネは気圧されるようにゆっくりと息を吸うと、ソウシロウに目線を送りながら話を始めた。


「…も、もしもし、変わりましたけど。あの…私は…」

「アナタ、ドコか<専属>の冒険者だったりするのかしラ?」

ラミーネの言葉を遮るようにカルマンは淡々と問いかけ、ラミーネは戸惑いながらも返答する。

「は、はい。専属主は…」

「…それは言わなくていいワ。」

何かを察したのかカルマンはまたもラミーネの言葉を遮り、ラミーネは訳が解らないままに緊張を強いられていた。



「…<終焉に辿りしサウラス・ロンの墓所>。」

しばしの沈黙の後、カルマンは謎の単語を口にする。

その言葉にラミーネは驚いて目を丸くし、ソウシロウは首を傾げた。

「サ、サウラ…?あの、もう一度…」

何かの聞き間違えかと思い、ラミーネは改めてカルマンへその単語の確認をしようとする。



しかし、返ってきたのは沈黙、声以外の仕草の音ですら、<通話機>からは発せられず、かすかなノイズだけがまだ相手と繋がっている事を示していた。


このまま対話は終わるのか、ソウシロウは以後を念頭にし、カルマンへの反応に身構える。

「あーーーッ!そう、そうよ!<終焉に辿りしサウラスロンの墓所>よ!まさか本当に投げかけられるとは思っても見なかったわ!」

その時、ラミーネは何かを思い出し、突然の大声にソウシロウはビクリと身体を跳ねさせた。

「<川>!答えは<川>、それだけよ!もー、そうよ!カルマン=オー!ミカちゃんとベルゼーさんから聞いた事がある名前よッ!」

はしゃぎはじめるラミーネに続いてピアもビクリと驚き、ソウシロウは眼を丸くし、カルマンは笑い声をあげる。

「…はぁ~、良かったワ☆<身内>で。」

「どういう事にござる?」

「あぁ、ごめんなさい。でも、これは<錬金術ギルド>での問題になるから、詳しくは話せないワ☆。」

質問にカルマンは茶化すような返答し、ソウシロウは彼なりの立場を察した上で困った顔を浮かべた。


「でもいい、そこのアナタもよ?ミカちゃんからある程度の話は聞いてるけど、部外者に無用な詮索を抱かせないようにしなさい。」

「す、すみません。」

カルマンははしゃぐラミーネに釘を刺すと、少し落ち着いたのかラミーネは姿勢を正し話を聞く。

「さて、改めて話を続けましょう。まず…」

「ま、<魔神の卵>の事ですね。」

「…アナタと赤マントちゃんはどういう関係なの?」



「その話、関係あります!?」

あっけらかんとしたカルマンの質問にラミーネは困惑し声を上げる。

「えぇ、関係あるワ。アタシはミカちゃんを信じては居るけど、アナタ個人を知ってるワケでも信頼を持っているわけでもないノ☆今、アナタ以外に他のメンバーは居ないのではなくて?」

「う。…あ、アイツとはその、腐れ縁?というか別に、常に一緒に行動しているわけじゃなく、一応…今はただの冒険者仲間みたいな?」

だが、カルマンの声から見る姿勢は何処か真摯で述べる言葉も正論、仕方なくラミーネは歯切れの悪い回答を繰り返していく。

「ふぅん。実際どうなの?ソウシロウちゃん。」

「ははは、ラミーネ殿に対し赤法師殿は<いつもの>といったところにござる。」

ラミーネのしどろもどろな回答にカルマンはソウシロウへ問い直し、ソウシロウは苦笑しながら答えた。


「gmmーーーッッ!」

そのとき、ピアの抱える<河グリフォン>の幼体が鳴き声を上げる。

「ピアちゃん!?」

「ピア殿!」

2人が何事かと目を向けると、膝を崩し、苦しそうに屈むピアの姿が映った。

「すまぬ、カルマン殿!時間を置き、改めて伺わせていただきたい!」

「…仕方ないわね、<魔神の卵>の案件となるならばアタシも無視はできないし赤マントちゃんもやっぱり必要ね。いいわヨ、ただし、夕刻までには何かしら一報いれなさい。」

ソウシロウは回答を得ると即座に「御免!」と一言の残し、<通話機>を目にした元の状態に戻しピアの下へ駆け寄る。

「あーもうッ、私のバカ、バカ!そもそもこの<荷包>を板水晶で覗いた時に<予見>を発現させていたんじゃない!そんなものを不意に直視なんてさせたから…」

ラミーネは後悔を呟きながら、ピアを抱え介抱し始めた。


「ご、ごめんなさい。でも、その黒い卵と同じものが…このお屋敷の中から…呼び合っていて…赤マントさんが、きっと、近くに…」

「gm~…」

ピアは苦しそうな表情を浮かべながら語り、<河グリフォン>の幼体は心配そうにそんな彼女を柔らかい嘴でつつく。

「つまり、この屋敷に<瘴気の塊>が有るという事にござるか?」

ソウシロウは先の駅で、屍獣となったこの<河グリフォン>の番の事を思い出しながら、ピアの言葉に耳を貸す。

「うっかり、聞き流しちゃったけど人を絡め持ち上げるほどの<触手植物>って…」

ラミーネもウィレミナでなくこの館自体、既に<呪い>、瘴気に侵されているのではないかと考え始めていた。


ソウシロウ、ラミーネは互いに頷き、ピアをソファーで寝かせると、グランを探しに部屋をでる。

「うむ、針はゆっくり回っているでござるな。少なくとも館内から出てはいない様子。」

「じゃあ、浴室を探しましょう、あの臭いだものすぐには湯から出るとも思えないわ。」

そうして、2人はコンパスの針の向きを手繰り、足早に廊下を進んで階段を下りていく。


―――


一方のグランはウィレミナに連れられ、浴室にてその湯に浸かっていた。

「しかしまぁ、如何にも金持ちって浴室だな。」

薄暗い浴室内は床と壁は大理石で設えられ調度品が浴槽を取り囲み、その浴槽は数人は余裕を持って入れるほどの大きさがある。

湯面には花びらが浮かべられ、底から差し込む光で一面が照らされ、グランは不相応な風呂に居心地を悪くしていた。


鼻を鳴らしては自分に着いた臭いがまだ消えないかと確認し、かすかでも鼻を貫く臭いを捉えると頭まで潜るを繰り返す。

「湯浴みを堪能できるのはいいけど、どこか早く出たくてそわそわするぜ…」

大きな溜息を吐き出し、浴槽の縁に肩を掛けてグランは天井を見上げた。

「余りお気に召しませんでしたか?」

グランの隣から声が聞こえ、驚いた様にそちらを見る。

そこにはウィレミナが浴槽に浸かり、頬を赤らめうっとりとした表情を浮かべていた。


縁に畳み置いていた赤いマフラーをすぐさま手にし顔に巻くと、グランはウィレミナの反対側へと移動する。

急な行動と態度にウィレミナは小首を傾げ、グランの行動の意味が解らないでいた。

「何で、入ってきてるの!?」

「何でって、それはもちろんお背中でも…。あと、一緒に入らないと意味がありませんので…」

グランの指摘にウィレミナは当然の如く答え、両手を頬にまたもうっとりとしているのだった。


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