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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
139/231

30-3.禍つ黒き卵

 異臭、異物を纏う赤いマントと赤い襟巻きに包んだ存在、それは紛れもなくグランの姿。

「少し、離れてくだされ。」

曲剣の鞘を手に、ソウシロウは他3人をグランへ近づけまいと構え、少し渋い表情の後に短くも強い息を1つ吐き、剣を抜く。


―――パカンッ!


景気の良い音と共に頭部のバケツが割れ、グランの茂る雑草のような黒髪が姿をあらわす。

続き、手足の異物も割れ、異臭とその根源たる照り返す謎の液体を以外は元の姿に戻った。

「赤法師殿。」

困り果てた表情を浮かべながら剣を鞘に戻し、ソウシロウはその柄頭でグランの腹を小突いた。


グランは頭を覆うものが無くなった事を確認し、目をパチパチと瞬かせ鼻から長く息を吐く。

「……あーーーーー、死ーぬかと思った…」

そして、全身の埃を手で払うも、手が謎の液体に塗れると眉を歪ませ、今度は溜息を漏らす。

「おはようございます。」

「…え?あ?お、おはよう…か?」

隣に立つ給士姿の女エルフに声をかけられ、グランは戸惑いながらも挨拶を返し、別れたはずの3人がこの場にいる事に状況の整理が出来ないでいた。


―――ブフフーッッ!


「アハハッ!アハッ!何よ、さっきの格好!」

その状況を見てラミーネは息が零れた途端、グランを指差して声を出し笑い始めた。

「…<でなきゃこんな道草を食い漁る旅なんてこっちからごめんだぜ。>とか、とか言ってたグランが、ウフッ、アハハハッ!」

次にグランへ背中を向き、別れる際の言葉を真似てラミーネは笑い続ける。

「さ、流石に…笑い過ぎに…ご、ござるよ、ラミーネ殿…。ブフッ!」

今度はソウシロウも、顔は向けてはいないものの、笑いを堪えるものの堪えきれずに吹き出した。


「…いいんだぜ。ピアちゃんも大笑いしてくれて。」

自分を笑う2人を余所に、グランは腰から石鹸の棒を取り出してはゴシゴシと汚れを拭う。

ピアはその言葉に首をただ横に振るが、すぐに後ろを向いて肩を小刻みに震わせる。

「…」

その状況に、グランはただ沈黙で答えながら目を瞑り、洗い続けた。


――…コホン!


そんな笑いが飛び交う中、気品のある咳払いに3人の笑いは止み、その主へ視線を移す。

「皆様、改めて始めまして。私、この館の主に代って管理をしております。ウィレミナ=ヘミーデンと申します。」

女エルフの給士は片手でスカートの端を掴み、やや深くお辞儀をする。

その優雅な姿と行動に、3人も笑いを堪えて姿勢を正し、改めて挨拶を交わす。

「…失礼仕った。拙者、ソウシロウ=オキタガワと申す。隣の2人はラミーネ殿にピア殿。」

ソウシロウの挨拶に続いてラミーネとピアともに丁寧な挨拶を返し、ウィレミナは微笑みを向けた。


編まれて後頭部で纏めた髪型は青みのある銀髪、美しい顔立ちには翠色の瞳と長く尖った耳。

<エルフ>という種族もあってか、艶張りがありながら繊細な肌とその細身は一見ドレス姿の令嬢と見間違う程であった。

だが、その姿勢に隙は無く、ただ者で無いとソウシロウには感じていた。

「…で、お前達が何で此処に居るんだよ。」

汚れを浮かし移した泡を道端に削ぎ捨てながら、グランは3人へと目を向ける。

「もちろん、<通話機>を探してよ。ここなら借してくれるって聞き込みをしてね。」

「こちらも同じのを聞き返しても良いでござるかな?赤法師殿。」

ラミーネは何故ここに居るのか、という問いに対して当然とばかりに答え、ソウシロウもからかい気味に同じ問いを返す。


すると、グランは石鹸をしまった後に頬を搔きながらバツが悪そうに目を泳がせた。

「あー、彼女は買い出し先の雑貨屋で知り合ったというか…えーっと…」

「はい…。グラン様はその際に胸を大胆にも鷲掴みにしては2揉み、3揉みと…」

ウィレミナは頬に手を当て赤らめて、顔を背けながらグランの言葉を遮るように答える。

「…2揉み?」

「…3揉み…」

「不可抗力ーーーーーッ!」

その言葉にラミーネとピアは交互にウィレミナの胸を覗き込み、グランは思わず抗議する。

「あ、良く見たらソイツ私達の知人じゃなかったわ。何か、臭いし、赤いし。」

「散々笑っておきながらその仕打ち酷くない!?」

ラミーネはピアを抱き寄せ、あからさまにグランから距離を置きながら、冷たい視線を送った。


「実際は何があったのでござる?」

「雑貨屋でそのなんだ?彼女の下着を目に映してだな…」

「…下着?」

「…下着…」

「…お恥ずかしい限りです。」

再び頬を赤らめるウィレミナに女子2人はグランへと冷たい視線を放つ。

「…ねぇ、出直さない?彼女はその<生ゴミ>を片付ける必要があるみたいだし。<通話機>を借りるのは後にしましょ?」

「だから、不可抗力なッッ!…その目やめて…普通に傷付くからね?…で、何でか彼女を視界に入れる度に災難にあったんだよ。」

グランはラミーネ達に弁解しながらも、その視線から逃れるようにウィレミナを親指で差した。



普段の表情とは打って変わり、赤い襟巻きごしからも情けない困り顔が見える。

「誤解を招きたくないから経緯をちゃんと報告してるのに、何故か突き刺さる視線が送られて辛いっ!」

グランの弁解の口が開く度に、ラミーネとピアからは冷たい視線を送られ続け、ウィレミナは頬を赤らめもじもじと身を揺する。

事の発端は雑貨屋で店員に避けられ、脚立で高台にある品に手を伸ばすウィレミナを下から覗き上げて下着を見てしまった事。

そして、雑貨屋を出てもなお、ウィレミナの下着がグランの目に映り続け、<トラブル>が引き起こされるというものだった。

「この街は足元に風が吹き続いてまして、細い路地は風が物にぶつかって余計に巻き上がってしまうのです。」

ウィレミナは両手を頬に当て、自分が下着を見られる原因となった風の流れを説明しながら、頬から耳へと赤みを増していく。

「どう?俺の故意的でない事は理解してもらえたよな?」

だが、ラミーネとピアは口を閉ざし、グランと目を合わせようとはしなかった。


「もしや、ここが<呪いの館>というのは…」

「…はい、お察しの通りです。私めがその<呪い>の源、殿方が私に<下心>をみせたとき災いが降りかかるものなのです。」

ソウシロウの表情にウィレミナは包み隠さず己の正体を隠すことなく明かす。

そして、<下心>という単語に女子2人はグランを再び睨む。

「フフフ。ごめんなさい、殿方の<下心>というのは私の推察でグラン様の本心かはわかりかねますからご安心を。」

ウィレミナは3人の反応が面白かったのか、小さく笑いフォローを入れるがラミーネとピアの態度に変化はなかった。


「まぁ、いいわ。私は仲間とすぐにでも連絡を取りたいの。その赤くて鼻の下が伸びた臭いのはアナタの事情だから好きにしていいけど、まず<通話機>を借してもらえない?」

「…お前なぁ、いくらなんでも態度でかいぞ、失礼だろ。後、臭い言うの止めて…」

ラミーネは悪びれる様子も見せず、ウィレミナに要求し、それを見たグランも思わず横槍を入れるがラミーネの非常に冷たい視線には逆らえずにすぐに口を閉ざす。

「申し訳ないウィレミナ殿。手前勝手が過ぎるでござるが、拙者らの用事を済ませた後に礼は致す。」

ソウシロウもまたラミーネの失礼を詫びつつ、ウィレミナに頭を下げた。

「えぇ、構いません。ここを<呪いの館>と知りながらも訪れた相応の理由があるのでしょう。それに、それがグラン様へのお詫びとなるのでしたら。」

ウィレミナはにっこりと微笑み、3人へと背中を向け歩き始めると門へと振れる。

「それではご案内致します。どうぞ中へ。」

音を立て門が開かれると、3人は促されるままに館へと足を踏み入れた。



館の庭はソウシロウが外で下見をした通り、手入れは行き届いていているが質素で華やかさには欠けていた。

「しかし、ウィレミナが<呪い>の源なら、何故ここが<呪いの館>になるのかしら?」

ラミーネは玄関まで続く石畳を歩きながら、ふと浮かんだ疑問を口にする。

それはソウシロウも気になっていた事であったが、その問いに対してウィレミナはすぐさま答えた。

「はい、ここの庭は夏頃に、<触手植物>が地中から顔を出すのです。恥ずかしながら何度かその触手に絡め取られてしまいまして…恐らくそれで…」

ウィレミナは自らの失敗を恥じるように顔を赤くしながら説明を続け、一行が「あぁ…」と納得しかける最中、ラミーネはグランに下手な妄想を起こさせまいと睨みを利かせる。

グランはそんな視線を受けると勢いよく首を横に振った。



そうこうして一行は屋敷の中へと案内される。

中も庭と同様、調度品はあるものの、質素な作りであった。

「お茶などはいかが致しますか?」

「結構よ。目的第一!」

ラミーネは遠慮無しに返答し、ウィレミナは頷いて返事をすると一室のドアを開ける。

そこは一種の応接室か書斎のようなもので、部屋には年季の入った革製のソファーとテーブルが置かれていた。


そして、テーブルの上には1本のコードが繋がれていた装置が1つ。

ラミーネ、ソウシロウ、ピアが部屋に入ると装置の周りへと集まる。

「あ、グランは入って来なくていいわ。臭いし。」

「もうちょっと言い方あるだろ!?」

ラミーネの罵倒にグランはツッコミを入れると、後ろでウィレミナがくすくすと笑い始めた。

「湯を用意しますのでグラン様はそちらへ。そして、皆様の目の前にあるそちらが<通話機>になります。ご自由にお使いください。」

「それでは。」と、グランをあやすようにウィレミナは別室へと案内し、部屋に残った一行へ丁寧なお辞儀をすると部屋を出て行く。


コツコツと廊下を響かせる足音が聞こえなくなると、3人は一旦深呼吸し、気を引き締める。

「…さて、これ、如何様にして使うのでござるか?」

ソウシロウの一言にラミーネはその場で崩れると、気を取り直して<通話機>の上に飾られたものを手にした。

そして、脇のハンドルをぐるぐると回し、手にしたものを耳元にあてる。

「えーっと、まずアナタ達は何処に繋げたかったの?」

ラミーネの問いにソウシロウは懐をまさぐりだし、1枚の名刺を手渡す。

「すごい、直通ができる番号じゃない!これなら交換手待ちなんてしなくていいわね!」

ソウシロウとピアはラミーネの驚く様に合点がいかず、共に首をかしげるだけであったが、ラミーネは上機嫌に<通話機>の円盤をいじり始めた。


ジーコ、ジーコと円盤から機械音が鳴り、何度かそれを回し終えるとラミーネは手にしたものをソウシロウへと渡す。


―――ガチャッ!


「もしもぉ~し☆。アタシの直通番号に掛けてくるなんて一体ドコのド、ナ、タなのかしラ☆」

手渡された道具の溝から聞き覚えがある声がするや、ソウシロウは驚き、それに向かって声を掛けた。

「カルマン殿!?本当にカルマン殿でござるか!?」

「エー!?アッラー、まさかソウシロウちゃんなのぉ!?」


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