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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
138/231

30-2.禍つ黒き卵

 薄緑色の髪を指先で弄びながら、ラミーネは<双嘴屍獣>の魔法による水の激流を受けた際の記憶を呼び起こす。

ピアを庇い、全身を打ち付けて岩壁の隙間に入り込み、そこの奥に<双嘴屍獣>の巣を発見し、そこには幾つか卵があるも、殆どが瘴気に汚染侵食されていた事。

「その中で唯一生き残っていたのが…」

グランは瓶の果汁エードを1口飲み込むと、静かに頷く。

「…えぇ、あの子の卵。本来は親だった<河グリフォン>の番は瘴気の塊を飲み込んで汚染から巣を護っていたみたいね。」

「何とも、皮肉な事にござるな…」

ピアに頭を撫でられ、嬉しそうに鳴く河グリフォンの雛をソウシロウは悲しそうな眼差しで見つめた。


「じゃあ、その汚染された卵も、あの時残った<泥>みたいに浄化したのか?」

「そ、そうだけど…」

何処か引っかかるグランのもの言いにラミーネは口を尖らせて返す。

「…随分と瘴気に対し<手際>がいいな。」

「そりゃ、私だって<専属>の冒険者になってるんだから…」

ラミーネのその言葉にソウシロウとグランは互いに視線を交わす。

その沈黙と行為にラミーネは何か変な事でも言ったのかと目を丸くさせた。


「な、何よ…」

「なーに、お前さんがその<専属元>に戻れるのか心配になっただけだよ。どうも酔い潰れたら元へ飛んでいってくれるワケでもないみたいだしな。」

何時もの調子でグランは嫌味を放ち、それに対してラミーネは不服そうに腕を組む。

「私だって、仲間の元へすぐ帰れるんだったら帰るわよ!」

だが、グランは両肩をすくませ、ラミーネの態度を鼻で笑う。

それがまたラミーネの神経を逆撫でし、彼女は食事を勢いで喉に詰め込むがむせ返り、ピアに背中を撫で介抱されると余計に恥ずかしくなった。

そのやりとりにソウシロウは苦笑し、河グリフォンの雛がそんな2人のやりとりを見て小さく鳴く。


―――


「…それで、今日はこれから如何に致す?荷を渡した後、すぐに発つワケでもござるまい。」

「<通話機>が使える場所まず探さないとなァ…」

一行は食事を終えた後、各自の身支度を済ませて宿の小さなロビーにて落ち合っていた。

ソウシロウの問いにグランは後頭部をくしゃりと掻きながら面倒臭そうに答える。

「冒険者ギルドもここじゃ経営系列が違う様だし、今までと勝手とはいかなそうだな。」

グランは周囲を見渡しながら愚痴をこぼした。


この宿も大陸西部の様式とは幾許か違う所が目に留まる。

これまでの壁や床は木と石から煉瓦主体へと変わり、見慣れたものはせいぜい天井を伝う梁だけ。

「<大鉄道>のこの駅にはあるんじゃないの?」

梳かした長い髪を手で軽く撫で、寝起きの姿とは様変わりしたラミーネが話に割って入る。

「昨日、この駅に着いた時点で確認してる。コイツ以外の荷を受け渡した時点でな。残念だが<大鉄道>のは駅同士でのみ使えるものだそうだ。」

グランはそう言いながら1つの赤い枠縁の伝票が貼られた荷包を赤いマントの中から取り出して見せた。


「それも他と一緒に渡しちゃえばよかったじゃない。」

「アホぬかせ。俺達は今、何らかに<巻き込まれてる>んだよ。コイツはその材料、手掛りの一端だ。」

「まぁ、手放すには情報がもっと欲しいところにござるな。」

ラミーネに呆れるグランの言葉にソウシロウはアゴに手をやりながら頷く。

「別にいいじゃない。アナタだって<専属>のはずが手漕ぎトロッコで<のんびり>した旅をしてるくらいだし。トラブルの1つや2つ、ドンと来いじゃないの?」

自分の事は棚に上げ、他人事のようにグランからの普段の嫌味を返すように軽口を走らせるラミーネ。

だが、その言葉はグランの視線を急激に冷えたものにさせていた。


「よかったな、俺があくまで<コイツ>の同行者で。でなきゃこんな道草を食い漁る旅なんてこっちからごめんだぜ。」

グランはソウシロウに向かって荷包を突き付けると一足先に外へと向かって歩き出す。

「お前がそうして、のん気に酒飲んで自身の<トラブル>にドンとしてられるのもソウシロウ様のお陰だ、感謝しとけよ。」

そうして立ち去ろうとするグランをソウシロウは呼び止めるが、「買い出し。」と一言、フンと鼻を鳴らしグランはその場を後にする。

ラミーネはバツが悪そうに口を尖らせ、グランの背を睨むとソウシロウに顔を向けた。


赤いマントの後ろ姿が見えなくなってから僅か後、ソウシロウは大きく溜息を吐き出すと苦笑しながら2人に向き直る。

「…随分とご機嫌ナナメね、アイツ。冒険者なんだから面倒事なんて刺激ある日常の一部じゃないの…」

口ではそう告げるものの、顔色からは多少なりとも反省の色を伺えるラミーネ。

ソウシロウはラミーネ肩に手を置き、首を横に振って見せた。

そして、グランの言葉に自分も含まれているのではとしょげているピアの頭をソウシロウは撫でる。

「とりあえず、情報収集に冒険者ギルドへでも向かうとするでござるか。」

ソウシロウは女子2人の気をどうにか紛らすと、宿の外へと歩き出した。


―――


宿を出て、グランを除いた一行は大通り沿いの酒場兼任の冒険者ギルドへと入る。

まだ日が昇る最中の時刻でありながら、中には客の賑わいをみせ、それらは冒険者達なのだというのが一目で伺えた。

ここでも土地柄が出始めているのか、冒険者の姿は軽装の者が多く、目にする種族も大陸西部とは違う。

この店では<コボルド>、<フェルパー>の<ドワーフ>が西部よりも多く見られ、それまで余り見かけなかった頭部を外殻で覆う虫頭の種族<デレム族>達がテーブルに集っている。

「よぉ、珍しい顔ぶれだな。<ゴブリン>、<ネレイド>に<フォウッド>か。種族だけでみたら大陸の東南から渡って来た様にみえるぜ。」

「まぁ、なまじ間違っているワケではないでござるな。」

受付にはガタイが良く強面のコボルドが一行を出迎えた。


「…それで、用件は何だい?」

ショットグラスに酒を入れ、それをソウシロウに勧め、強面のコボルドはニヤリと笑って問う。

「尋ねたい事が1つ、あるにござる。」

涼しげな顔でグラスを手にし、ソウシロウは酒をあおると表情を変えずにグラスを戻す。

そして、強面のコボルドは口笛を鳴らすと表情が柔らかくなり、ソウシロウの続く言葉を待つ姿勢をとった。


「何処かで<通話機>を借りれる場所はござらぬか?」

「<通話機>?あぁ、遠方と会話ができるというヤツか。確か…」

そうつぶやきながら、強面のコボルドは何やら台帳をカウンターから取り出し開く。

「あった。冒険者や旅人が訪問しても借りれるのが1件な。だが、ここはなぁ…」

「随分、歯切れが悪いわね。」

だが、強面のコボルドは途端に眉を歪ませて口ごもり、ラミーネはカウンターに身を乗り出すように追求する。

「…わかった、わかった。場所はメモしてやる、だが身の安全は保障できねーぜ。」

「ずいぶん物騒な言い回しにござるな。」

「あぁ、何せこの街一番の<呪いの館>だからな…」

強面のコボルドは不吉な表情を浮かべながら一行へとメモを差し出し、3人は疑問符を頭に浮かべながらそのメモを覗き込んだ。


―――


一行は冒険者ギルドを後にし、メモを足掛かりにして館へと到着した。

居住区からやや離れた場所にあるその館は豪華絢爛とはいかないが、周囲を囲む壁と庭の広さからしてそれなりの規模のだとわかる。

一行は辺りを見回すが、外に見張りや人影も見当たらない。

一応の周囲を警戒しながら正面の門に歩み寄り、ラミーネはとりあえずと叩き金を鳴らした。



鈍い金属同士がぶつかり合う音の後、一行を待っていたのはただの静寂。

「…ごめんくださーい!」

続いてラミーネは門の先の館へと向かって声をあげるも、結果は同様である。

「お留守…なんでしょうか?」

「これくらいの住まいなれば奉公人が働いていそうにござるが…」

<呪いの館>、その脅し文句が功を成しているのか、周囲にも人々の気配はない。

まして、札付きの館に珍客の来訪ともなれば誰かしら一行を覗くだろうに、その様子すらなかった。


ソウシロウはぐるりと館の周辺を回り、<呪いの館>が伊達や酔狂で付けられたのではない事を知る。

しかし、人の手入れが入っている以上、この館には人が住み、目的の<通話機>も存在するはず。

「しばらく待っていましょう!どうせ、宿に戻ってもグランの不機嫌な顔を拝むだけなんだし!」

ラミーネの声が静寂の中に響き、3人は門の前で頷き合うと、待機することに決めた。


「…お客様でしょうか?来訪のご予定は伺っておりませんが。」

その時、上品な声が耳に入る。

それは門の中向こう側からではなく、一行の背中から聞こえてくるものであった。

3人は恐る恐る、その声の主が誰なのかを確認するために振り返ると、そこには長耳のエルフの女性が立つ。

給士服姿で上品で優雅な雰囲気を纏う女性は軽やかに歩み寄り、一礼する。

だが、その表情や視線はどこか冷たく厳格さを感じるものだった。


一行はその雰囲気に一歩後退るも、普通の<ヒト>である事に胸を撫で下ろす。

しかし、一歩退いた事で現れた女性の隣には1人の人影が目に入った。

頭は引っ繰り返したバケツ、片足は煉瓦を履き、片腕は樽を装着、更には全身は光沢ある液体とゴミに塗れている存在。

故に、臭い。

「ぎゃああああああああッッ!?」

ラミーネはその異形の存在に悲鳴を上げ、ピアとソウシロウも驚きの表情を浮かべた。


「…って。」

だが、ラミーネはその異形から見覚えのある点を捉えた。

それは光沢ある液体とゴミに塗れているとはいえ、身を包むは赤いマントに赤い襟巻きの姿。

「も、もしかして、グラン!?」

「…赤法師殿!?」


「…」

更に驚きをあげる2人に対し、グランはただ沈黙を保っているだけであった。


―――


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