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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
134/232

29-2.孤掌鳴らし難し

 駅舎に辿り着いた一行は鉄道員に連れられるがまま、改札脇の待合室へと案内される。

中央にはストーブが置かれ、その傍には休憩用の椅子が数脚。

一行が待合い室へ入り、鉄道員がストーブを灯すと暖かな空気が室内を包み込み、一行はそれぞれ椅子に腰かけていく。

「それでは当方は、トロッコを一時分解し整備をさせて頂きます。皆様はこちらでお寛ぎ下さい!」

鉄道員が元気よく告げると、扉を勢い良く開けてはホームのトロッコへと向かっていった。


「「「「…ふぅ~~~~。」」」」

4人は脱力と共に溜息を漏らし、ストーブに手をかざし、チリチリと向ける掌を焦がす火は、温もりを伝えている。

「いやー、まだまだ冷え込むもんだ。」

「身体を温めて今の内に柔らかくするでござるかな。」

「はぁ~、こういう時に故郷のチャイを思い出しちゃう…。…飲みたい。」

「あったかい…」

それぞれが思い思いの事を喋ると、4人は椅子にゆったりと身を委ねては身体の力を抜いていく。


「しばらくぶりの人里にござるが。如何いたす?」

「そうだなァ。物資はそこまで不十分ではないし、数時間休んだら出発でいいんじゃないか?俺ら本来の用事はもうないしな。」

「えぇ~、美味しいご飯食べたいぃ~!お酒も飲みたい!ふかふかのベッドでも寝たいぃ~!」

ラミーネは駄々をこねるように<脚>を振り回し、床を何度も叩く。

しかし、グランは気にも留めずにストーブの中で赤々と輝く晶石を眺めているだけで、ラミーネは頬を膨らます。


―――バダムッ!


その時、勢い良く扉が開き、冷たい風が一行を包むと、そこには布に来るんだ何かをだ大掛かりなものを抱えた鉄道員が笑顔で立っていた。

一行は再び呆気に取られ気味に、戻ってきた鉄道員を目で追う。

鉄道員は鼻歌を口ずさみながら、手頃な広さの場所にドカリと置くと覆い布を勢いよくめくる。

「…」

それは、人の半身以上はある機構、つまりは手漕ぎトロッコの駆動部であった。

「って、うぉぉぉーーーいッ!」

グランはガタリと身体を浮かし、鉄道員へ指を差す。

「お任せくださいッ!キッチリと仕事はしますのでッ!!」

笑みから零れる歯を輝かせ、親指を力強く立てる鉄道員に、グランは襟巻きで隠れているとはいえ、開いた口が塞がらないのが伺える。


「ど、どの位でその整備は済みそうでござるか?」

「えぇ、明日の昼前には万全にしておきますとも!」

「地味に掛かるな…」

鉄道員の表情は揺るがず、むしろ力強い笑みが深まり、それを見てグランとソウシロウは複雑な表情を表す。

「…じゃあ、宿で休みましょうよぉ。もう分解されちゃってるのだし、止めようがないでしょ?」

「そうは言うがな。それはお前が本来の仲間との合流が遅れる意味でもあるんだぜ?」

鉄道員の作業を遠い目で眺めながらラミーネはボヤくも、グランにそう指摘されては頬を膨らまし腕を組む。


「そもそも、此処はどの辺りなのよ。どうせ皆の居る場所から離れる一方なんでしょ?」

「確か、本来拙者らが<大鉄道>から降りる地点でござったな。北に向うと港があるはずでござる。」

口を尖らせたラミーネにソウシロウが答えると、ラミーネは表情は明るくなる。

「え!?じゃあ、私はそこから船に乗れば皆の処に帰れるって事!?」

「おや、北の港を利用するつもりでしたか!それは、危なかったですね!」

しかし、嬉々とした声を上げた途端、鉄道員から不穏な言葉が聞こえた。


「…どういう事にござる?」

「数日前に出航していたら、皆さんは今頃は戦火巻き込まれていたところです!」

鉄道員は変わらぬ大声で何やら物騒な言葉を口にするが、一行はポカンとして鉄道員をただ眺めるばかり。

「戦火…って戦…争…?」

「えぇ、はい!ここ最近、外海では商船団同士が航路を巡って小競り合いが頻繁化し、とうとう北方の海も戦場へと変わってしまいました!」

鉄道員がハキハキとそう告げると、ラミーネは信じられないという表情で立ち上がる。

嬉々する様子も悪意も無いのであろうが、鉄道員からはその口振りが一行にとっては不気味さを感じてしまう。


「…それって、私、最速で西側に戻れなくなったって事?」

「どうにも。」

「そのようでござるな。」

「そんなぁ~…」

少しは希望を持っていたのか、床に向かってラミーネは肩を落と崩れるも、その様子に鉄道員は特に気にせずに分解した部品を丁寧に磨き始めていた。


「なぁ、せめてここで俺達が代わりに運んでいる荷の受け取ってはくれないのか?」

グランはまたもラミーネを同行から外せないと解かると、少しでも旅の負荷を減らせないか鉄道員に問いかける。

「ふむ、そうですね。運送、交易馬車の往来はありますから、荷次第ではこちらで引き受けが可能でしょう!」

ならば早速と、グランは荷を鉄道員の前へと広げると、鉄道員は整備の手を止め荷をチェックし始めた。


鉄道員は慣れた手付きで次々と荷の分別をしていくと、やがて鉄道員は手を動かすのをやめて、グランに顔を向ける。

そして、1つの荷物を手にすると、貼られた伝票を指差して口を開く。

「この赤い枠が印された荷、これがここでは受領できないものになりますね!」

他の赤枠伝票の荷物をグランの方へ置きながら、鉄道員はそう告げる。

「理由は?」

「それらは特定の運送ルートがどんな状況でも順守しなければならないからです!」

グランは席を立ち、分別された荷を手にし、その伝票を注意深く見ていく。


「随分面倒な送り方を選ぶものねぇ~…」

「まぁ、だが襲撃を受けた時点で貨物は大分切り離されちまってたからな。こうして残って運ばれ続ける効果はあるって事だ。」

椅子の座面にうな垂れながら、ラミーネがぼやくと、グランは鉄道員から受け取った伝票に目を通しながら答える。

「それで、在ったにござるか?」

「あぁ、やっぱり在ったぜ。<カルマン=オー>宛ての荷物が。」

グランは手にしていた荷物を掲げ、ソウシロウへと見えるように掲げた。


「まさか!何か計画的窃盗を企てているおつもりですか!?」

「…しない、しない。後で今回の件で巻き込まれた分の<貸し>を付きつけてやろうと思ってね。」

鉄道員は目を丸くし、何かを疑うようにグランへ詰め寄ると、流石のグランも後ずさりしては手を横に振りなが苦笑いで答える。

「何だ、そうでしたか!驚かさないでくださいよ!ふははは!」

痛快な笑い声を鉄道員があげると、グランとソウシロウは苦笑いで顔を見合わす。

「んー…、カルマン…、カルマン=オー?何処かで聞いたような…」

そして、ラミーネはこめかみに指を当てながら、記憶を遡るその時であった。


―――カタンッ!


ピアの<板水晶>が手から零れ、床とぶつかり音を鳴らす。

「…ピアちゃん!?」

隣のラミーネは膝を崩すピアに気が付くと、すぐに彼女を支えに入る。

ストーブの熱が漂う中だというに、彼女の身体はガタガタと震え、血の気の引いた表情は一行に緊張を走らせる。

「…ピアちゃん、何をした。」

「ちょっと!」

グランがピアに顔を寄せて問いただすと、ラミーネは抗議の声を向けるが、グランは静かにと手をラミーネの前に向けた。

「水晶で…赤マントさんの…さっきの荷物を覗いたら…。急に、頭の中に…」

震えるピアの目に涙が浮かび、ラミーネは彼女の肩を抱く。


「あ、あの…、近く、この近くに…、川、川はあり…ますか…?」

ピアはラミーネの腕に抱かれたまま、鉄道員に問いかけ、何か事態の急変に鉄道員も困惑し、周囲を見渡してから答える。

「川、川ですか…。この街の用水に使ってる支川ならありますが。」

そう言うと鉄道員は脇を締めると小走りに待合室を出て行き、地図を手に再び戻ってくると、それを広げて街近くの川を指し示した。


「地下…?洞窟…?そこから黒いモヤが…このままだと街に…」

ピアは地図のある一点を見て、目を見開くとそう呟いた。

「ピアちゃん、もうダメよ!目を閉じて!」

ラミーネは慌ててそのまま彼女を抱きかかえ、ピアの目を閉じさせる。

「あ、あのー…一体全体、何がどうしたので…?その子は<フォウッド>ですよね?その種族の何か直感に優れるといった話ですか?」

鉄道員はその様子に理解が追いつかず、困惑の表情を浮かべるばかり。

しかし、その質問はグラン達も聞きたいものでもあった。


「ねぇ、2人共、この子は占いとか普段したりする?」

ラミーネの問いにグランとソウシロウは互いに顔を見合わせた後、首を横に振る。

「…私が軽い気持ちで<板水晶>なんて渡しちゃったからか。」

額に掌を当て、ラミーネはピアを支える腕に力を込めながら後悔の念を呟く。

「…話が見えないんだが?」

「…多分だけど、この子<占術師フォーチュナー>の素質が目覚めてると思う。水晶を通して、<予見>っていうの?そういうのが頭の中に流れ込んできたんだと。」

「何か根拠があるのでござるか?」

「<シン>の魔術院に通っていた頃、居たのよ。悪戯半分で強力な占術具を触った子が似たような状態になってね…」

グランとソウシロウの問いかけに対して、ラミーネは過去の記憶を思い起こすように答えた。



しばしの沈黙、ストーブ内で火が弾ける音だけが響いた後、グランは髪をくしゃくしゃと搔きながら立ち上がると襟巻きを直しながら顔を深く埋める。

「…明日までに時間を潰すには悪くはなさそうでござるな。」

続いてソウシロウも立ち上がると、軽く笑みを浮かべながら腰の曲剣を差し直す。

「ま、まさか、何かがあろうという川へ行かれるのですか!?」

「俺としてもね、旅先の勇者様やら賢者様じゃないんだ。この街自体の厄介事にタダで首を突っ込みたくは無いんだが…」

驚く鉄道員に、グランは顔を深く隠したまま答える。

「…なら、街側が何が襲来するかわからない備えでもしてくれるか?情報源は旅の女の子が見た白昼の悪夢だぜ?」

「ははは、まぁ、赤法師殿が行かずとも拙者が行くつもりでござったが。」

グランは「それ見たか。」とソウシロウの胸を拳で軽く叩いた。


「なら、私も。それにピアちゃんも連れて行かなきゃダメよ。」

ピアを抱きしめる腕に力を込め、ラミーネはそう言い放ち身体を起こす。

「…あのな。」

「この子が感知したものである以上、この子しか正確な場所を探り出せなくないわ。辛い…だろうけど。」

グランはラミーネの提案に難色を示すが、ラミーネはピアと目線を合わせてから言葉を続ける。

「何、いざ戦となれば、こっちは<不死身の>赤法師殿が居るにござる。2人を守れば心配はござらぬではないか。」

「ケッ、担ぐな。しかも他人事みたいに、気味が悪いぜ。」

ソウシロウに肩を叩かれ、グランは渋い顔で答えた。


―――

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