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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
130/232

28-4.進む先は前に1つ、されど迷いは遠い後ろ

 思わずに叫んだ口をラミーネは即座に塞ぐ。

「…私に娘が居る事が不思議ですか?」

「い、いえ、すみません。私が見てきた<サテュロス>は誰もが筋骨隆々な殿方ばかりだったものですから。オホ、オホホホ…」

男性からの指摘にラミーネは苦笑いを交えて誤魔化す。

「まぁ、無理もありませんか。最近のサテュロスは西大陸の新興開拓に移ってるとも聞きますし、この村の男手も多くが稼ぎに出向いてしまってる程です。」

やや眉を寄せつつ、男性は周囲を見渡し寂しげな面持ちで現状を嘆いた。


「そういえば、3人方、共に余り見ない種族ですな。美しい<ネレイド>と可愛らしい<フォウッド>のお嬢さんの方々。」

「す、すみません…」

少し皮肉めいてはいるが男性は笑顔で冗談を交えた口調で返し、ラミーネはそれに気付き、髪で赤面する顔を隠しつつ謝った。

「そして、<ウィザーク>である貴方。」

「やはり、俺<達>を知っているんで?」

グランの正体を言い当てられるの時点で、この男性が少なくとも自身とビルキースに面識と近親の仲があると推測が立つ。

しかし、その判別できる事に男性に対してグランは警戒感を示していた。


「えぇ、覚えておいでないのですか?確かに今から4~5年も前になりますからな。ビルキース様には以来、直にお会いするのは稀ですが続けて薬を頂いております。」

「あー…、その頃の記憶は時間が関係なく大半がぼやけてまして…。じゃあ、俺は以前にもここに来てたのか…」

屋内を見回すグランではあるが男性の言うような記憶は当て嵌まらない、その呟きに男性はあごに手を当て、何かを思案し始める。

「あの…お薬っていうのは、何処か具合が悪いのですか…?」

男性が口を開くのを待つ中、ピアはおずおずと薬について尋ねつつ、その顔色を窺う。

「…あぁ、気遣ってくれてありがとう、お嬢さん。何、この村…、いや、私達サテュロスの中でもミノス衆の若い娘達には特異な体質がありましてな…」

縁無き少女からの気遣いに男性は穏やかな笑みを見せ、不安を浮かべるピアを安心させるように語った。


「それを治療する薬か何かを?」

「正確には<抑制>ですな。ビルキース様は体質の自然とした向き合い方を勧め、薬が必要な時はあくまで異状をきたした場合のみ、と。」

男性からの説明にラミーネはなるほどと納得する。

「ところで、その薬の方は前回から頂いて間が空いてないのですが、貴方はここに別の御用が…?」

「あぁ、それにはちょっとかくがくがしかじかでありましてね…」

会話から用件がこの牧場村の接点とは何かズレがあると感じた男性は問うと、グランはかいつまんで最近の経緯を語る。

ビルキースの事、今の自分の現状と必要なものと立ち寄った目的、それらを聞いた男性はまた考え込むようにあごに手を当てた。



そして、男性はカウンターの下からビルキースに繋がるものをいくつか広げグランへ見せる。

「そうですか、ビルキース様の行方が…。ですが私も謝礼の品々は指示された場所に送るだけですので…」

「くそっ、こっちは見事なまでに届け先はバラバラか。」

内1つの控え伝票の束を手にしてめくり、グランは苛立ちをこぼしながら、一応はわずかな痕跡としてメモに写していく。

しかし、これまでの記憶、先の自身が綴った旅の経験へと繋がる要素は見えず、グランはペンの後ろで頭を搔いた。


「…えぇ!?お、お客さん!?」

その時、カウンター裏のドアが開き、1人の女性が驚きの声をあげながら姿を現した。

肩まで伸びた髪が黒地で前髪の一部が白い、サテュロスの女性。

オーバーオールを着込んで居るが、その胸元は<豊満>に膨らんでいる。

(でっか…)

(…大きい。)

(す、すごい…)

女性を目にした3人の感想は見事に一致した。

ピアとラミーネの視線は自身の胸元へ、グランもまた、自ずと視線が2人の方へと向く。

それを感じた2人はグランへ厳しい目を向けさせ、受けたグランはすぐさま他所へと目を逸らす。


「あ、あなたは赤いマントの方!また、こちらに来てくれたのですね!しばらくは滞在するのですか!?」

そんな娘はグランを発見するやいなやに近寄り、その両腕を掴みながら話しかける。

「…え?あ、いや…俺は…別に…」

「こら、お客さんは彼だけではないぞ。あぁ、失礼、こちらが私の娘になります。」

娘からの唐突かつ熱烈な接触に、グランは対応にも困りたじろぎ、男性はそれを察し口を挟む。

グラン以外に気付いた娘は「はじめまして。」と挨拶を交わすと、2人は反応の選択に困り、喉を詰まらせながら応えた。


「…そうだ、今晩はこちらに泊まっていかれては?聞いた道中では野宿続きでしょう。」

「し、しかし、残った連れを放っても…」

グランは男性からの申し出を断ろうとするが、ソウシロウからピアに気遣いする事に釘を刺されたのを思い出し、言葉を濁す。

このまま必要なものだけ手にしトンボ帰りでは、ソウシロウの忠告は守れない。

「そうですな、では旅に必要なものを私が運び、ついでにお連れに貴方がたの連絡をするといたしましょう。何、日が暮れてしまったら私はその方の側で夜を明かしますよ。」

男性は如何にも取って置きの酒瓶をカウンター下から取り出しては、その提案で満悦の笑みを浮かべる。

「グランと旅をしてきたのだもの。あのサブラヒくんなら理由さえ解かれば邪険なんかにしないわね。」

「…一番の異邦者がそれを言うか。」

ラミーネの物言いにグランは呆れて口を挟むが、確かにソウシロウの人当りなら余計な心配は起きそうもない。

グランは肩をやや竦めて承諾しその反応に男性とその娘は喜び、ピアとラミーネはグランの態度が軟化した事に笑い合う。


「では、入用のものを揃えてまいりましょうか。」

「待った!」

話が纏まり、カウンター奥へ向おうとした男性を呼び止めたグランは、1枚の紙切れを懐から取り出しカウンターに差し出す。

「…あの、支払いに<紙幣>は使えます?」

「えぇ、ビルキース様から紙幣の価値については手解きは受けておりますから。」

男性の返答に安堵する一息を吐くグラン。

「ただ、釣銭は出せなくなりますけど。」

「…ははは、ですよねー。」

だが、男性からの補足に乾いた笑いが漏れた。


―――


ピアとラミーネは出来うる限り紙幣と吊り合いの取れるよう、屋内に並ぶ様々な品物を物色していく。

屋内に陳列された品揃は様々だが数が揃ったものは無く、しかもその大半は用途と出所不明、武具ならまだしも謎の置物等は流石に選びようが無い。

「しかし、随分と色々なものが置かれているのですね。」

「旅人相手に金銭の代わりに物々交換をしていたらこの有様になりまして。ですが行商人との取引には役立っているのですよ。」

カウンターから物色に精を出す2人の姿を見ながら、グランは男性は他愛もない言葉を交わす。


その珍品が連なる中、ピアは掌に収まる程の大きさで外縁に装飾が施された1枚のガラス板に興味を示し、自然とそれを手にした。

「へぇ、<板水晶>じゃない。懐かしい~。」

「…<板水晶>ですか?」

ラミーネが板の中に描かれた青い結晶の表面を撫で、その懐かしさに笑みを浮かべ、ピアはその名を聞き返す。

「あぁ、昔流行った魔導具よ。その場の風景を写して記憶させたりできたの。ただ、流行ったら粗悪品が出回ったりそもそもに問題点もあってね…」

昔を懐かしむラミーネの隣でピアはその<板水晶>を覗き込むと、突如水晶から一瞬の輝きが発せられ、思わずにピアは水晶を顔から離した。


「ひゃわっ!?」

声をあげ、思わず腕で目を覆うピアにラミーネはその光景にほくそ笑む。

そして、ピアが再び板水晶を覗き込むとそこには鏡のように驚く姿の自が映り込んで静止していた。

「あはは、スゴイじゃない!ピアちゃん、その板水晶と相性が良かったのね。そーなのよ、粗悪品は使用者との水晶の相性で起動すらできないのよね。」

「あうう、これ消せないのですか?」

困り顔をするピアにラミーネは意地悪に笑い、顔を真っ赤にしながら消そうと試みるが彼女の操作では板水晶はそれに応えない。

「後で使い方教えてあげるわよ。動かせれば便利だからこれは決めちゃいましょう、ね?」

ピアの頭を撫でながらラミーネはそう勧め、少女は自分の情けない姿を見ながら頷いた。



その後、一行は必要な物を見繕い終えると建屋から出てソウシロウの元へ向う男性を見送る。

「…このコンパスの針が反応し次第、そちらに向えばきっと出会えると思うので、これを見せて渡してください。」

「大丈夫、ここ一帯の<大鉄道>の線路でしたらこの村は定期的に管理を請け負ってますから。」

グランは自身のコンパスを取り出し、ソウシロウを指示す針を取り付け手渡すと男性はそれを手にして頷きながら懐へと仕舞う。

「いいの?冒険者にとっては大事な物じゃない。」

「まぁ、ソウシロウへの信用に繋がるものとしてな。」

ラミーネは冒険者にとって自身の命綱となるコンパスを容易く渡すグランに呆れるも、彼の返答に納得する。


「気をつけて、お父さん。」

「あぁ、お前もがんばりなさい。」

娘は父である男性を心配し、男性は娘の心配に笑顔で答え、彼の言葉に娘は脇を締め、鼻息を立てて強く頷いた。

そして、男性は別れの挨拶を済ませると、グラン達一行が訪れた道を辿り村を後にする。



「それでは皆さん、夕食前の前にお風呂などいかがですか?」

「お風呂!いいわね、いいわね!入りましょう!」

父親の見送りが済むと、娘は一行を風呂に誘う。

その誘いにラミーネは目を輝かせ、ピアの腕を掴むと今にも駆け出しそうに体を弾ませていた。

「…じゃあ、俺はそれまでの間に何か手伝いでもして待ってますか。」

「あ。あ、そうか…。それじゃあ、ま、薪割りをお願いしても…」

だが、娘は唯一の男であるグランが共に風呂には入れないことに気付き、その事に恥じらいながらもお願いをする。

何やら奇妙な2人の関係性と空気にラミーネは何処か不満気に視線をグランへと向けていた。


―――


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