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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・近朱必赤、見定めるは鉄の道の先
129/232

28-3.進む先は前に1つ、されど迷いは遠い後ろ

 荷物から取り出したのは1枚の地図。

「…で、お前が最後に立ち寄った場所の印象とか特徴は覚えてるか?」

それを一度広げ、一部だけが見えるよう畳みなおし、適当な石で端を押さえるとその中に記載される1本の目立つ線に印を付けた石を置いた。


次に現状を仕切るこの赤マントの男、グランは自分の手帳をめくり適当なところで開いたままにする。

「お酒が美味しい。」

「それはもう聞いた。せめて酒の産地とか銘柄を言え。」

「…お酒が、美味、しい?」

「ハァ~…、つっかえねぇ…」

「な、何よ~、馬車移動の連続でそこまで覚えてないわよぉ。」

ラミーネの答えにグランは、露骨に大きな溜息を漏らし。

その態度にラミーネも不貞腐れながら、反論するが負い目を見抜かれている為、語尾は弱くなってしまう。


「あの、ラミーネさんがその日飲んだお酒の種類をとりあえずの産地ものとして考えるのはダメですか?」

「ほぅ…。何故そう考える?」

ピアの言葉にグランは視線だけを向け、彼女は少し背筋に力をいれながら答える。

「冬はお酒の消費が多いのですが、外から仕入れるお酒はすぐ無くなっちゃって、高くなっちゃうから、です…」

逆に地酒は輸出という流通の行き場を無くし、定価、安価となって足止めをされる旅人でも求め易くなる為だとピアは以前奉仕していたレストランでの経験を語った。


「よーし、ラミーネ、ピアちゃんの頭をなでなでして褒めてやれ。あと、街全体の屋根には特徴がなかったか?」

「えーっと…そうね、そういえば確かに赤みの強いオレンジ色の瓦屋根が多かったような…」

ラミーネはグランの言うがままに、ピアを手繰り寄せ、頭を撫でながら彼女の意見に同調し記憶を呼び起こして答える。

自身の手帳をパラパラとめくり、改めて自分が書き記したであろう記憶と照らし合わせていく。

「ビンゴだな。養蜂場と果樹園で名の知れた街は複数あっても地域が偏っている。」

グランはラミーネの言葉に正解だと言わんばかりに指をパチンと鳴らした。


「それで、その場所は何処にござる?」

「大陸西部でも内海を挟んだ南だから…、大陸中央の北側を中心に記載するこの地図には載ってないな。いま開いてるのは大陸西部の東端。」

「そう!そうよ!みんなと船で渡ったの覚えてるわ!」

ラミーネは思い出した!と言わんばかりに手を叩き、地図の側に這いよっては確認するように身を乗り出した。


「…え?今、大陸西部の東端って言った?」

ラミーネはグランの話を聞き返し、内海どころか湖すら記されていない地図を信じられないといった様子で目を見開いている。

「先に進めば俺達は地理的には大陸中央へ入る所だぞ。」

その反応にグランは線路の進路に指先を向け、ラミーネ本来の居場所とは程遠い事を示す。

「な、なんで私がそんな場所に居るわけなのよ!?」

「聞きたいのは俺らの方だよ。」

ラミーネの混乱に対しグランは素気なく、沸いた湯をカップに注ぎ3人分の茶を用意しだした。


「どどどど、どうしよう、戻るにしても何日かかるの!?依頼期日までに戻れないと私、もしかして専属をクビにされちゃう!?」

「お前の実情なんて知らんがな…」

「何処かで<転移門>を利用したりはできぬのでござるか?」

混乱するラミーネに、ソウシロウはどうにか落ち着けるよう、助け舟を出せないかグランに問う。

「できない土地だからこうして俺達は<大鉄道>を渡ってるんだぜ?ここから内海に向うなら、それこそ俺達が使うはずだった港に寄るか、馬車でも探すしかねーな。」

だが、グランの返答は自分達の旅の移動手段が限られていることを告げ、手詰まりだと主張する。

ラミーネとソウシロウは落胆し肩を落としその状況を受け入れようと努めるしかなかった。


『…ところで赤法師殿。これは<異能>によるものと思うでござるか?』

『まぁ、一朝一夕で飛んで来れる距離じゃないとなると<転移>の類、こいつ自身の状況から罠や儀式は候補から外すとして…』

めそめそする姿をピアに頭を撫でて慰められるラミーネの姿を横目にソウシロウはヒソヒソと状況について小声で話し合う。

『他者からの攻撃か、それとも無意識な自身の手によるものか…、それよりも何故<ここ>に飛んできたかがだな…』

『ふむ、難解にござるな。』

互いに既知の存在とはいえ、唐突に現れた存在に対し警戒心を取り払う事などできない。


「…では、ここは一つ、この出会いは運命って事で手を打つでござるか?」

「俺にも運命を選ぶ権利はあると思うんだが…」

「選べぬから運命にござるよ。赤法師殿。」

ソウシロウはグランに冗談交じりの軽い口調で、この再会を運命と捉えて良いのではないかと勧める。

「せめてどうにかして連絡を取り合う手段を見つけないとぉ~…」

だが、ラミーネの涙目になりながらピアにすがりつく姿にグランは呆れながら溜息を吐くだけであった。


「あの、赤マントさん。ここから北に村があるみたいで、そこでラミーネさんが仲間の方に連絡を取れないでしょうか?」

ラミーネの髪をなでながら地図を指し、提案をあげるピアにグランは地図を受け取るとその集落がどんな規模で、どこの村かを確認する。

「…牧場村か、でも<通話機>が置いているとも思えないな。このまま進んで当面の目的である荷を受け渡せる街へ進む方がギルドなりがあって確実だと思うが。」

そう言って地図をしまい込みつつ、グランはピアの頭をポンと叩いた。


『…赤法師殿、行ってみるのが良いでござるよ。』

『そうは言っても、今からじゃ着いて戻る頃には陽が落ちて進めなくなるぜ?』

ソウシロウはピアの案に乗ろうとグランに伝えるも、彼は渋い顔で懸念を挙げる。

『拙者らはいいとしても、ピア殿には少しはまともな休息を与えたいでござる。それに人数が増えるならば水、食料の残りも心配にござるよ。』

『色々期待はできないと思うがなァ…。最低ラミーネをそこに置き去りにでもするか。』

グランは2人を見ながら黒髪を掻き毟り、物騒な妥協点をこぼすとソウシロウから苦笑いが漏れる。


そして、赤いマントをひるがえし、ピアの手を取り立ち上がらせると、うな垂れるラミーネを雑に肩に担ぎ、牧場村を目指す姿勢をみせる。

「ババを引いたついでにござる。留守は拙者に任されよ。」

「…いいのか?」

「この位の荷であれば昼寝ついででも守れるにござるよ。あぁ、でも何か土産を手にできるのであれば頂きたいにござる。」

ソウシロウは仕草で酒を催促し、グランはそれにやや呆れ気味に一息吐くがその言葉に信頼を持っている様子だった。

「わかった、任せた。」

「い、行ってきます。」

こうして互いに手を振り、しばしの別れを3人は告げると本筋から外れた道へと進みだす。


―――


牧場村までの道は閑散としており、長い。

ただ、道程が正しい事は収穫を終えた跡の広大な畑と半刻前に立っていた看板、放逐されている家畜が示していた。

3人は地平線の先に向って延びるような道をただただと歩いていく。

「…ねぇ。」

「なんだよ。」

沈黙に耐えかねたラミーネがグランへと声をかけ、面倒臭そうに男はそれに返す。


「アナタって、お酒に興味無いわよね?」

「あぁ、基本飲まないからな。」

2人の視線は一切交差せぬ状態で会話を続ける。

「じゃあなぜ、冒険者手帳にお酒の事書かれているのよ?」

「…ハァ?」

ラミーネの質問にグランは立ち止まり、思わず怪訝な声をあげる。


「…悪いピアちゃん。俺はちょーっと、コイツに説教をしなければならないようだ。いいかラミーネ。」

グランは襟巻きを指でさすり直すと、ラミーネの正面に向き直るがそこにはラミーネはおらず代わりにピアが申し訳なさそうに立っていた。

「…今、担がれてるんですけど。」

「…」

変わらず後方から聞こえる声にグランは咳払いをすると、何処か適当な道端の岩を見つけ、そこにラミーネを降ろした。


「…それで、理由は?説教なんて回りくどくじゃなく、教えなさいよ。」

「冒険者は普段、集落間を何で移動している?」

質問を質問で返された事にラミーネは頬を膨らませるも、腕を組み思考を一端を過ぎらせる。

「<馬車>か<徒歩>ね。」

「じゃあ<徒歩>を選ぶ理由は?」

答えにグランは腰に手をあて、更なる質問を投げていく。

「路銀の関係とか、馬車停から目的へのが出てないとき…要は馬車が使えないとき。で、答えは何よ!」

「もう先に地図を見せたときに彼女が答えただろ?」

質問を重ねられるだけにラミーネは苛立つが、グランの返答に記憶を辿りながら答えを返す。

だが、その答えは見つからず、ラミーネは隣に座るピアの顔を覗き、首をかしげた。


「<流通>。そいつに便乗する為だよ。」

つまりは酒の流れを抑えておけば馬車停外の馬車を拾える機会が増え、更にはその運搬に関わる仕事でもこぎ着ければ路銀も稼げるとグランは語る。

「別に流通するものは酒以外にもあるじゃないの。」

「…流通しているお酒の種類で向う先も<選べる>…って事ですか?」

ラミーネはそこまでする必要性に疑問を持つが、ピアが小さく挙手をしたその回答に対し、グランは腕を組み人差し指をあげ、ラミーネに視線を向けた。

「いい答えだぜ、ピアちゃん。物流は色々あるが酒は嗜好品として定着していて入出の禁止も少ないからな。移動のツテが何処かしらにあるワケさ。」

襟巻きで半分以上は隠れているグランの顔、そこは嫌味で不適な笑みが含まれているのを感じラミーネはまた頬を膨らませる。


「全く、冒険者たるもの、ましてや<専属>になるようならな、こういう…」

「あー!はいはい!わかったわよ。ご忠告痛み要りますぅ~!」

自分の疑問、その答えが出た途端、ラミーネはグランの言葉を遮り、<脚>を捻るとその場を掻い潜るように抜け出し道の先へ向う。

遠ざかる揺れる長い髪を見て、やはり説教など聞かなかったかとグランは後頭部をくしゃりと掻いた。

「…赤マントさん。」

「そんな顔しなさんなって。ただ、どうも長い事冒険者やってるという割りに、アイツは言動に地に脚が着いてないというかなぁ。」

ピアが向けるラミーネを心配する視線にグランは彼女の肩を叩き、その心配は必要ない事をそれとなく伝える。


「何やってるの2人ともー!建屋が見えてきてるわよ!」

そして、僅かな勾配の向こうから轟く声に2人は互いに顔を見合わせ、小さく笑みをこぼすとラミーネを追った。


―――


建屋周囲の柵を抜け、3人はその玄関となる扉を前にする。

「見知らぬ土地の閉じられた扉って、招かれていても、どーにも入り辛いよなぁ…」

扉に下げられた表札には<開店>が記され、グランは呟き、やや躊躇気味にドアノブを回す。


扉が開かれると蝶番の軋みと乾いた鐘の音が響き、屋内へと3人を招き入れる。

「おや珍しい、表口から入ってくるなんて。」

そして、奥のカウンターに座る、左右の角と毛に覆われた長く垂れた耳が特徴的な<サテュロス族>、その壮年の男性がカウンターから立ち上がり3人を迎えた。

男性は3人へ視線を巡らせた後、グランへと視線を止める。

「おぉ、貴方は確かビルキース様のお側にいた…。あの時、貴方には娘がお世話になりました。」

「ビルキース<様>!?」

「娘!?」

店に入った途端、男性から飛び出した言葉にグランは驚愕し、ラミーネは声高に疑問を叫ぶ。


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