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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
118/232

25-5.高み見て、舞えるならば

 「ド、ドラゴン!?何処か小さいけどドラゴン!?マムッ!あの赤マント、ドラゴンになっちゃったよ!?」

「ひ、怯むんじゃないよっ!目の前のビルキースをここで仕留めればワタクシ達の勝利ッッ!いいね!!」

その言葉と共に従者の2人は操縦桿を握り締め、それを振り上げる。

「合ァ点ッ!」

「承ォ知~…!?」

「…!?」

だが、その腕を振り下ろす直前、2人の身体に異変が起こる。

まるで何かに押さえつけられるかのように、操縦桿の動きがピタリと止まったのだ。

従者2人はそれぞれ目を丸くし、互いの顔を見合わせると、ハンドルレバーとペダルを幾度と動かす。

しかし、機体はびくりとも動かず、そうしている間に、今度は操縦席全体が大きく揺れはじめた。


「グラン!そいつを運河沿いに近づけさせるなッ!」

《不死身遣いが荒いぜ、まったくよ!だがしゃーないな、今回はミウルの為に人肌脱いでやらぁ!》

「こ、声!?何なんだい!一体に!全体に!?」

そして、グランは<鋼鉄巨蟹>に再度取っ組み合うと尻尾を振り回し、その遠心力を利用しては叩き付ける様に自分が縫い付けられた倉庫の方へ投げ飛ばす。

「アァ~レェ~ッ!」

「ほぎゃーッ!」

「んだなぁ~~!」

中から3つの悲鳴が響き渡ると天地を逆さにして<鋼鉄巨蟹>は倉庫の壁にめり込んだ。


その間にビルキースは外殻を開けたパージルの中へと乗り移ろうとするが、間際の表情は浮かない。

何故なら、眼前には2度目の船の往来が横切り終えだしていたからであった。

「…くっ、次が最後だ!いいな!?」

ビルキースは叫ぶように言うと、ミウルの座席後部に回り込む。

「は、はい!パージル、いける!?」

「ジジッ、現在の瞬間出力では目標となる通過する物体へ飛び移るのには不足。出力の圧縮充填を行います。」

そして、2人は2度目の船が運河を横切る様を見送りながら次、最後のチャンスに賭ける。


「ずぇぇぇぇったいに…逃さないよッッ!ビルキーーーースッッ!!」

倉庫の壁に空いた穴の中から這い出してきた<鋼鉄巨蟹>はともかく姿勢が整い次第<銛>を連射し、パージルを狙う。

しかし、それらは眼前の赤い竜、それも尻尾の軌道だけで全て弾き飛ばされてしまっていた。

「マム、そんな何度も連射はまずいよ!負荷で砲身が破裂しちゃうよォ!」

「さ、さっきの攻撃で圧力機関が本体と腕の両方が壊れちまったんだなぁ~!」

「弱音は後におしッ!アイツ等には何か狙いがあるんだ、最低限それだけは邪魔してやるんだよッ!わかったら返事ッッ!」

その言葉に従者の2人は背筋を伸ばしては返事をする。

「エンヤー、サーッ!」

「コラヤ~、サ~ッ!」

<鋼鉄巨蟹>は覆いかぶさるすべての瓦礫を跳ね除けた後、竜化したグランへと向かって再び突進を仕掛けた。


グランが<鋼鉄巨蟹>を押さえつける中、パージルの中のミウルとビルキースは3度目の船が通るのを待つ。

「軌道予測完了、圧力充填範囲内、操縦は搭乗者に完全譲渡、対象のサーチに入ります。」

パージルが告げると、ミウルは深呼吸をして覚悟を決める。

だが、船を待つ間の沈黙がミウルの脳裏に様々な思考を巡らせた。

今後の事もあるが何よりなのが後ろで今尚、自分の為に戦ってくれている不死身の男の事である。

しかし、後ろを振り向く事など出来ない、そのもどかしさがミウルを焦らせていた。



「対象を確認、圧力解放。」

「ミウル!」

パージルが船を感知すると、ビルキースはミウルへと呼びかける。

その声にミウルは前を見据え、操縦桿を前に倒しペダルを踏み込む。

そして、背中からの露出した推進器の加速と共にパージルが徐々にだが宙へと浮き上がっていく。


「…やらせやしないよォッ!!」

しかし、その動きに気付いた<鋼鉄巨蟹>はグランの脇下から強引にハサミだけでも抜け出し、その先端をパージルへと向ける。

《…しまった!》

グランは咄嗟に腕を妨害するも、時すでに遅く、<鋼鉄巨蟹>のハサミからは再び<銛>が発射された。

鈍く空を切り裂く音を立て、一直線に伸びる攻撃はパージルの機体右半身を大きく抉り、その姿勢を崩し地面を擦りつけてしまう。

「ま、まだこの程度なら高度を持ち直せればッ!」

ミウルは体勢を整えようと操縦桿を引くが、機体は言う事を聞かずにいた。


それだけでは済まなかった。

運河を横切る船が変形をし始め、なんと翼と尾翼が生え出したのだ。

それは巨大な鳥の様な形になると船は浮上しだし、水面から離れていく。

「そ、そんなこれじゃ…!」

対し、パージルの機体の高度は維持が厳しくなり、ミウルは操縦桿の力を緩めてしまうがビルキースは上から覆い被さるように手を重ねそれを阻止しする。

そして、ミウル達の様子がおかしい事にグランは気がつくと、渾身の力を込め<鋼鉄巨蟹>を蹴り飛ばし、距離を取らせると後方へ大きく跳躍した。


宙をひるがえしグランの身体はミウル達を追い抜き着地するとすぐさまグランは両腕の手で組んで前に出し構える。

《来いッ!》

その頭に響く一言にミウルは気力を取り戻すと操縦桿を再び握り直進、グランを信用しぶつかっていく。

次の瞬間、パージルはグランの両腕によって上空高くへ跳ね上げられていた。

ふわりと、だが高く浮き上がるパージルにグランはすかさず尻尾を地面に突き刺し反転、今度は両足を踏み込み追従する。

その時、背後から衝撃が、<銛>がグランをまたも射抜いていた。

「ワタクシを無視するんじゃないよォッ!こンのォ、竜モドキがァッ!」

だが、グランは怯まない。

既に思考はこれからどう動くかを脳に焼き付けて、痛み程度に躊躇など微塵もなかったのだ。


グランは狙いを定めると、浮上しつつある船に向ってパージルを叩きつけた。

「きゃあああッ!」

ミウルの悲鳴が響く中、パージルの身体は船体に衝突し、大きな振動が伝わる。

パージルはそのまま船の甲板を割り、船上に<着地>をした。


「お嬢様ーーーッ!」

異変に気付いたセバスがパージルへ駆け寄る最中、船内に居た従者達は驚きを隠せない様子だった。

それは自分達が宙を浮いた船に居る事もあったが、主人がゴーレムに乗ってさらにその上から乗船した事。

何より丹念に込めて張り敷いた甲板に早速穴が開いた事もあった。

「アイツめ、無茶をさせるッ!」

パージルの外殻が開き、2人はよろめきながら船上へと足を着ける。

「…フッ、だが、コレも私の因果応報か。いや、にしてはまだ生温いものだな。」

セバスの肩を借り、ビルキースはそう呟くが口元はどこかほくそ笑んでいた。

一方ミウルはふらつく足取りで船の縁にもたれかかり、遠のく倉庫に向って叫ぶ。

「…グランーーーッッ!」

だが、ミウルの頭にはあの竜化した赤マントの男の返事は響いて来なかった。


―――


グランは竜の姿のまま、空へと浮かび上がった船を見上げながら佇む。

そして、自分を貫く<銛>を手にかけ、それを引き抜きながら<鋼鉄巨蟹>へと向き直る。

「お、の、れ!おのれ!おのれ!おぉぉんのぉれぇぇぇ!!」

中で女が怒り狂った声を上げ、その激情を表すかのように<鋼鉄巨蟹>は雄叫びを上げ蒸気を吹き荒らす。

だが、グランからは構える様子は見られない。

ただただ、足を一歩一歩と<鋼鉄巨蟹>を詰めながら、のしのしとズカズカと歩いていく。

その足が踏み鳴る度に、赤銅色の鱗と外殻は煌きを増し、そして仮面のようなクチバシの奥からは鋭く眩く光る目が覗かせる。


「せめて!せめてもだよ!アイツをふんじばって実験材料にでもしてやるとするよッ!!」

<鋼鉄巨蟹>は両手のハサミを構え、グランへと突進していく。

対し、グランは引き抜いた<銛>をその場に放り投げると足を広げ、腰を落した。

仮面のアゴ部分が開くと左右に割れ、その中からは白く並ぶ歯がギラリと輝くと、グランの全身から溢れるように炎が吹き出し、その身体は紅蓮に包まれていく。

そして、胸を張り、大きく息を吸い込むと胸中央の玉が光を放ちグランは<咆哮>を放った。


「<ヒートハウリング>!ハッ、火の竜であるなら定番も定番ときたね!だが、そんなものでこのアタクシの<マシンナリー・ギア>を止められると思わないことだよッ!」

外殻表面が高熱の咆哮により溶けだし、煙が立つ中、<鋼鉄巨蟹>はその身の青い塗装が焼き剥がれながらもグランを捕らえようと距離を縮めていく。

動じない<鋼鉄巨蟹>ではあるが、グランもまたその事に動じる様子を見せない。

両手掌を広げると赤々と煌く爪をあらわにし、一気に距離を詰めると<鋼鉄巨蟹>へ爪を振り下ろす。


熱せられた外殻は脆くなり、<鋼鉄巨蟹>の装甲は火花を放ち裂けていく。

「アチチチ!マム!もうダメだ、機体がもたないよッ!」

「このままもっても蒸し焼きにされちゃうんだなァ~!」

割けた外殻からそのまま熱が入り込み、内部機構を焼き、そして操縦席を過熱させていく。

その熱に耐え切れず、2人の従者は悲鳴を上げる。

「~~~~ッッ!脱出!脱出装置起動~~~~~ッッ!!」

女は苦悶の表情を浮かべ、すぐに脱出するよう指示を出すと、従者達は慌てて操縦桿の緊急射出ボタンに指をかけ、押し込んだ。

すると、<鋼鉄巨蟹>の背面の一部、操縦席部分が分離され、勢いよく空中へと投げ出される。

更に追い討ちをかけるよう、本体が爆発しその爆風が脱出を試みた一行を、より大きく吹き飛ばしてしまう。


―――覚えてなさいよォォ~~~…ッッッ!


そして、吹き飛ばされた脱出部は空の彼方へ陽の光を反射させ消えていった。



戦いが終ると竜の身体は光を放ちながら解けるようにグランは人の姿に自然と戻っていく。

吹き抜ける冷たい風が赤い襟巻きとマントをなびかせ、この身がいつもの自分自身と自覚するとグランはその場に座り込むと仰向けに倒れ空を眺める。



「…まーた、置いてけぼりくらっちまったか。」

空へと舞い上がった船が戻ってくる様子も無く、グランは溜息を漏らすと目を閉じた。


―――


「…赤法師殿、息はあるにござるか?」

グランが再び目を開けると、そこには別れたはずのソウシロウの顔が覗かせている。

「実は拙者、ビルキース殿に1つ用事を頼まれておってな。」

グランのくすむ赤い瞳を確認するとソウシロウは背負っていた背嚢から水筒を取り出し、それを差し出す。

「まさか、俺が残っていた場合に<竜核>の回収でも請け負ったか?」

嫌味を飛ばしながら、腕だけ伸ばしその水筒を受け取ると、頭からその水を被った。


「いいや、そんな事なら受けぬでござるよ。」

グランから投げ返される空になった水筒を受け取り、ソウシロウは苦笑を浮かべながらそう答える。



だが、次に見せたその顔は真剣そのもので、先程までとは違う空気が流れていた。

その気配を感じ取ったのか、グランは上半身を起こすと胡坐をかき、耳をほじりながら傾ける。

「赤法師殿、拙者と<ヒノモト>へ来る気はござらぬか?」



「…はァッ?」


―――


この日、この街では奇妙な噂が流れた。

それは船と巨大な砲弾が早朝に空を舞っていたというもので、更には竜まで現れたという。

ある1人のネタに詰まった吟遊詩人は噂話を早速と詩にしようと試みたが、その3つを結ぶものがみえず、筆を止めて結局は酒へと走った。


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