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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
117/232

25-4.高み見て、舞えるならば

 水飛沫が激しい音を立てる中、飛散した飛沫の霧の中の巨大な影へ向かって赤く切っ先が煌く。

そして、刀身に貼られた1枚の札が光を放ち、その光が赤き刃に纏わりつくと、赤い刀身は更に輝きを増した。

「イグニ!<ファイヤーボール>ッ!!」

グランの叫びと共に、火のジンが集い、それが影に向って解き放たれ、魔力の火炎弾は尾を引きながら一直線と影へ、着弾と同時に爆炎を上げる。

爆風と熱により周囲の霧が吹き飛ばされ、飛沫が煙となって晴れると、影の正体があらわになった。


それは、グラン達の身の丈を超える巨体、全身を包む青い外殻とハサミ状の巨大な前腕、それらを支える複数の脚。

一見として蟹、巨大な蟹を思わせる外見、だが外殻は塗装の行き届いた金属の様な光沢を放っている存在。

人造の巨大蟹、<鋼鉄巨蟹>はグランの放った魔法をハサミで受け止めており、そこからは霧が晴れた最中でも白い煙をあげていた。

「ボサっとするな!グラン!」

ビルキースの叫び声の束の間、今度は煙を上げているハサミの先がグランへ向けられており、次の瞬間には何かが射出される。


―――ドシュゥッッ!!


鈍く空を割く音はグランを捉え、貫く。

当のグランは回避が間に合わず、咄嗟に左腕を盾にするが射出されたものは小手を、それは腕を貫通し、グランの胸へと喰い込まれる。

そして、ビルキースがグランの姿を再確認しようとした際には既にその場に姿は無く、一瞬の内に背後の倉庫の壁へと縫い付けられていた。

「グランッッ!」

赤マントの男を貫いたのは弩に使われる様な矢であるが、それは余りに長く、<銛>と呼ぶに相応しい。

ミウルはパージルの中からグランの無残な姿を見て悲鳴を上げる。


「チッ!聞こえていろよ。セバスッ、予定を更に変更だ!高速度を維持し運河を3周したらお前達は<離陸>しろ!」

ビルキースは通話機を手に取ると、セバスへ連絡を取り始める。

その間にも<鋼鉄巨蟹>は動き始め、そのハサミがミウルとパージルへと向けられた。

「…それではお嬢様方は!?」

「その間に乗り移ってみせる!以上だ!」

ビルキースはセバスからかろうじて受信された応答に吐き捨てる様に返答すると、両手を二輪車両のハンドルに移しグリップを強く握る。

車輪が路面を削り、土埃を上げさせると、ビルキースは両手を離し車体のみを<鋼鉄巨蟹>へと走らせ始めた。

更にとっさに備え付けられていた長銃を手にしており、その狙いを二輪車両へと定め、発砲させる。


<鋼鉄巨蟹>にぶつかり、拉げる二輪車両がビルキースの放つ弾丸に撃ち抜かれると、破片を撒き散らしながら火花を散らせた。

一時的な閃光、そして炎が<鋼鉄巨蟹>の行動を遮るも、それは決定打にならず、すぐさまビルキース達の方へ向き直る。


―――オ~~ーッホッホッホ!


そして、甲高い笑い声と共に再び巨大なハサミは振り下ろされ、残る二輪車両の車体は粉々にされた。

「やはり、あの執事が居ないとお前の守りは脆いも脆いねぇ~。ビ、ル、キィィィ~~~スゥ~~~、せんぱぁ~い。」

<鋼鉄巨蟹>の頭頂部の外殻一部が開き、その中から女性の声が響き渡る。

現れたのは青いドレスに身を包んだ銀髪の女性、その身の丈程もありそうな巨大な縦ロールの髪を揺らす。

女はビルキースを見下ろしながら、片手を腰に当て、もう一方の手は口元にあてがい、まるで勝ち誇ったかのように高笑いを続けていた。


「チッ、よりにもよって<あの馬鹿>か。」

そんな女を知っているかのように睨み付けながらビルキースは舌打ちをし、悪態をつく。

「フンッ!さっきのが<不死身の赤マント>とかいう飼い犬か。だが、あぁなってしまえば、例え不死身でも文字通りに手も足も出せやしないさね。」

そう言いながら彼女はビルキースと吹き飛ばされ壁に縫い付けられたグランの方を見やる。

壁からは血が流れ、その出血量は致命傷と言っても過言ではない量であり、一見すれば誰がどう見ても死んでいる状態であった。

女がビルキースに最早守り手無しと確信し、高慢かつ嫌味たらしい態度をとる中、ビルキースは銃口を彼女へと向け弾丸が発射される。


だが、その銃弾は彼女の目前にて<鋼鉄巨蟹>のハサミに阻まれ、その軌道を変え明後日の方向へと飛んでいった。

「オッホッホ!それにしても。相変わらず骨董品を掘り起こしては、それを再利用しているようねェ~。」

次にパージルに目をやりながら、ビルキースの事を嘲笑う女にビルキースは無表情に再び弾丸を放つ。

しかし、またもそのハサミにより銃弾は弾かれてしまう。

「無駄よ!無駄無駄!我社が誇る魔導重工技術によって作られたこの<マシンナリー・ギア>はそこのオンボロゴーレムとは比較にならないよッ!」

自慢げに語る女の言葉を遮るように、ビルキースは再び弾丸を撃ち出す。


だが、それもまたハサミによって弾かれる。

それでもビルキースは諦めず、何度も引き金を引き続き、無数の弾丸を放つもただの1発として彼女に届く事はない。

かにみえた、放たれた内1発の弾はハサミの間をすり抜け、女の銀髪、その縦に伸びる巻き毛を抉る。

「……小癪なマネをしてくれるねッ!」

「マムッ!幾らなんでも流石に危ないよ!」

「中に戻るんだなぁ~、ママァ~。」

反抗を止めない姿勢、その攻撃に怒りを見せる女に対し、中の操縦席らしき場所から他の2人が女を諌める声が響く。

すると、女は身を震わせ、手摺りよりも前に乗り出していながらも素直にそれを聞き入れ、外殻の中へ姿を消していった。


「さぁッ、エンヤ!コラヤ!もう手加減は無しだ、やっておしまいよッ!」

「エンヤー、サーッ!」

「コラヤ~、サ~ッ!」

<鋼鉄巨蟹>の中へ入り込み、自身の座席に座った女は中に居る従者達へ指示を出し、それに答えるように返事をする。

従者の2人が操縦桿を握ると、鋼鉄巨蟹は内側から青く光り輝き始めだす。


「…相変わらずデタラメに頑丈なものを造ってくるヤツだ。ミウル!私もそっちへ乗せろ!」

ビルキースは叫びながら、さらに銃撃を繰り返す。

しかし、それは依然として巨大なハサミにより悉く防がれるが、その間にビルキースはミウルとパージルの元へ向かうべく駆ける。

「え?あ、え!?ハ、ハイ!そ、それで、ビルキースさんこれからどうすれば…」

一方、ミウルはパージルを動かし、流れでビルキースをその左腕の掌に乗せるも、どうすればいいのか決断に至らない。


「いいか、ミウル。これから正面の運河を船が1隻横切るはずだ。そいつに飛び移れ、いいな!」

「は、はいッ!」

「飛び移れるチャンスは…あと2回だ。」

ミウルとビルキースの正面、<鋼鉄巨蟹>のその後方に走る運河からはその言葉通り船が現れた。

その船は漁船よりは大きいながら帆を有しておらず、漕ぎ手の姿も見えない。

しかしながら、その船体は水面を割き、波と水飛沫を立てながら高速で運河を横切りっていく。

「アレに!?…ですか?」

驚きの声を上げるミウルであったが、ビルキースはその反応に何の返答も示さない。

ミウルはその沈黙にただ唾を飲み込むばかりであった。


「まず最低限、あのデカブツと私達の位置を入れ替えねば…」

弾倉を装填し直し、ビルキースは長銃を構え淡々と次のチャンスへの備えを整えてだす。

「…何時まで寝ている、この駄不死身ッ!このままだと私はおろか、彼女まで死ぬぞッ!」

そして、上空へ発砲し、壁に縫い付けられたままのグランを叱咤する。

だが、当のグランは意識を失っているのか、返事はなく、動く気配も見えない。

その間に<鋼鉄巨蟹>は内側の発光が収まると背面から蒸気を噴出させながら、ミウル達へと迫りだした。


一方で意識を朦朧とさせるグランはどうにか動かせる右腕で左腕に赤い楔、そして首には液剤を注射する。

「<竜化転身ドラゴンフォーム>…!!」


「さぁ、終りだよッ!ビルキース!オーッホッホ!」

女は<鋼鉄巨蟹>の操縦席の肘掛け部分に手を置き、自らの勝利を確信して笑みを浮かべ、高笑いを上げた。

そして、<鋼鉄巨蟹>のハサミがパージルへと向き、<銛>が発射される。


―――ガインッッッ!


だが、それはミウルとビルキースに命中する事なく、後方の壁へと突き刺さるのみであった。

ハサミの先端は鈍い音を立てた衝撃によって逸れ、その原因は別の<銛>がハサミへと撃ち込まれた為である。

確信した自分の攻撃の失敗に女は驚愕に目を見開きくと、次の瞬間、標的との間に炎を纏う赤い影が上空から割って入り込んだ。


―――幻真竜・フレアブラス!


赤く輝く仮面の様なクチバシと赤銅色の鱗、外殻に覆われた体表の影が<鋼鉄巨蟹>の眼前に突如として現れ、攻撃の邪魔をする。

「グランッ!」

その影を見たミウルは明るい表情を見せながら赤マントの男の名を叫び、それを見たビルキースは口角を上げ、不敵に笑う。


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