第7話 『お願いママ』
ワン・ラブ 第7話 『お願いママ』
「おはよう。おねえちゃん」
「お、おはよう。優君」
窓の外からは気持ちの良い日の光が入り爽やかな冬の朝をむかえていた。
『優く~ん、保育園遅れちゃうよ~ ママもう用意できたからね~』
「う~ん、いまいく~」
「じゃぁ、おねえちゃん、ぼくおきがえしてくるね。ママまってるからさ」
「うん、一人で出来る?」
「もちろん」
あまりにも普通な優太の態度に昨夜の出来事は夢だったような気がしてきた。
しかしそれはすぐに夢ではなかったとちゃんと優太が教えてくれた。立ち上がり隣で寝ていたウサギのぬいぐるみを抱き上げて
「さぁ、アカネ。おへやにもどろ。はやくしないとママがかわいそうだからね」
と独り言を言いながらドアノブに手をかけていた。
「おねえちゃん、じゃあね」
「うん、お姉ちゃんも着替えて下にいくね」
「うん、じゃ、したであおう」
といって部屋にもどっていった。
しばらくすると部屋の外から階段を下りるト、ト、トンという音が聞えた。自分も着替えを済ませ部屋でて階段を下りていると
理央が優太に何か話しかけていた。
「優君昨日の夜、茜ちゃんの所に行ってたでしょ?」
「うん…」
「あっそれは…」と階段の途中で言いかけた時
「パパ、落ち込んでたよ~」
「え?なんで?」
「お風呂出てちょっとしてからパパ、優君の部屋のぞきに行ったんだ、そしたら優君いなくて寂しそうに帰ってきたの、『どうせ俺なんかより茜ちゃんの方がいいんだよな…』ってやきもちやいてたよ」
「そっか、じゃあ、きょうパパかえってきたらゴメンねしなくちゃね」
「でもさぁ、パパとママとはさぁ、これからだっていっしょにいられるけど…あかねおねえちゃんとはいましかいっしょにいれられないんだもん」
「だからね、いいでしょママ、ねっ?ねっ?」
「ママは、だめなんて言ってないよ。でも茜ちゃん今、学校の試験前だから邪魔はしないでねって言ってるだけよ」
「ぼく、じゃまなんてしないもーん」
階段を下りると優太はコーンフレークにマキムラのモモミルクをたっぷりかけておいしそうに食べていた。
理央はこんがり焼いたトーストとマキムラのヨーグルト、サクラを食べていた。
「あっ、茜ちゃん、先食べちゃってごめんね。好きなの食べてね」
「うん、ありがと。じゃぁ、優君と同じのにしようかな…」
「おねえちゃん。おさらもってきて、ぼくがつくってあげるから」
「またぁ~ 優君、茜ちゃんには優しいのね。ママに作ってくれたことなんてないのに…」
「おねえちゃんはとくべつなのぉ。おきゃくさまなんだから。」
「はいはい、そうですか。でも早くしないと置いてっちゃうからね」
「もぉ~ ママのいじわるぅ」
「優君、ありがと。いただきまーす」
さっきのことが気になって理央に話しかける。
「理央ちゃん、ごめんね。心配させちゃって。でも私は大丈夫だよ。向こうでちゃんと頑張ってきたから、優君と一緒に寝るくらい平気だよ。理央ちゃんたちが迷惑じゃなかったらこっちにいる間、あたしも優君と一緒に寝たいな?」
「勉強も優君が保育園行ってる午前中に十分できるから大丈夫だし」
「そう?あたしたちは構わないけど…あんまり無理しないでね。邪魔なときはいつでも追いだしちゃっていいからね」
「わーい。やったね。おねえちゃん」
「うん」
「でもほんと、優君の『茜ちゃんすきすきオーラ』には親のあたしでもビックリだわ」
「会う前からうるさかったけど、会った途端だもんね。茜ちゃんにベッタリでさ…」
「まさかとは思うんだけどあなたたち前世でなんかあったんじゃないの?」
「なんかの事情で引き裂かれちゃった恋人とかさぁ」
「ははっ、ごめん。そんなことあるわけないか…。あたし、映画の見すぎだわ」
その言葉にはさすがにドキッとした。
「それさすがにわからないけど優君、素直で可愛くて、優しいから大好きだよ」と誤魔化した。
「優君、良かったね。茜ちゃんも優君のこと大好きだって」
「うん。ボクもおねえちゃん、だいすき」
「はい、ごちそう様でした。お腹も胸もいっぱいです。さぁ出かけますよぉ」
「もぉ~ ママが聞いたのにぃ~…ごちそうさまでした」
「あっ、茜ちゃんはゆっくり食べてね」
「うん、ありがと」
「あっそうだ。茜ちゃん、ちょっと頼みがあるんだけど聞いてくれる?」
「うん」
「あのさぁ…今日、仕事で帰りに一軒、寄ってこなきゃいけないところがあるの…でさ、もし大丈夫だったらでいいんだけど今日、優君のお迎え頼めないかな?」
「うん、任せて」
「ありがとう。自転車使ってもらっていいからさ。地図も簡単に書いておくからね」
「うん、ありがと。そうだ、ねぇ、理央ちゃん、帰りにちょっと寄り道してきてもいい?」
「うん、もちろん」
「一応、一度、学校見てきたいなぁと思ってさ」
「そっか、だったら学校からの時間はかってくるといいよ。試験の日に遅刻じゃまずいから」
「うん、そうする」
「じゃぁ、これで決まりだね。良かったね優君、今日は茜ちゃんがお迎えに行ってくれることになりました。だから保育園へはりきって、行きましょう」
「は~い」
元気良く、返事した優太はパタパタと出発前の準備をはじめた。
理央は洗い物を済ませてから簡単な地図を書いて渡してくれた。
自分も食べ終わった食器を一旦、キッチンに置きお見送りのために玄関へ向かう。
「じゃ、よろしくね。お留守番とお迎え。なんかあったらメール頂戴ね。いってくるね」
「おねえちゃん。いってきま~す」
「うん。いってらっしゃい。気をつけてね」