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第6話 『コクハク』

ワン・ラブ 第6話 『コクハク』


 優太が聞きなおすと冷静になってちゃんと聞かなくてはと思い

書斎の入り口に立っている優太に、

「こっちにおいで」

 と手招きして椅子からおりて立ちひざになる。


「うさぎちゃんはおいすで待っててね」と言って優太からあずかると、今まで座っていた椅子に座らせた。


 優太はきょとんとした表情でこちらを見上げている。

 優太の両手をしっかりと握って見つめあう。

「寒くない?」

「うん。もうだいじょうぶ」

「眠たくない?」

「うん、パパとおふろはいったらパパがへんなおふたをうたうからめがさめちゃった」

「そっか…」

 そんな話でどう切り出そうか迷っていると

「おねえちゃん。どうしたの?」

 優太が気遣って聞いてきた。

「うん。お姉ちゃん、気になってる事があるんだ」

「なに?」

 少し躊躇したが思い切って聞いてみる。

「ゆ、優君さっき、お部屋に入ってきた時になんで『また』って言ったの?」

「え?ぼく、そんなこといったっけ?」

「…うん。。多分…」

「そっかぁ、じゃぁ、しかたないからおしえてあげるよ」

 意外な言葉に驚いたがそのまま優太の話に耳を傾ける。

「だってさ……」

 そこでちょっと戸惑って静かにゆっくりと

「おねえちゃん、まえからよくああやっておそとみてたでしょ?」

「えっ?前っていつのこと?それに何でそんなこと知ってるの?」

 どう考えてもおかしい。冬の夜空を眺めることが好きなことは、今日はじめてあった優太はもちろんのこと、新潟の家族だって知らないはずなのに…


「ずーっとまえだよ。それにおねえちゃんひるまのおそら、もよくみてたよね?」

 もう完全に理解の範囲を越えてしまった。確かに不思議な感覚はあったでもそんなことがあるはずがないと思っていたから…


「ねぇ?あかねちゃん」

「ん?」

 呼び方が変わった事も気づかないまま呆然と答える。

「ぼく、あかねちゃんのことほかにもいっぱいしってるよ」

「んっとねぇ、あかねちゃんは、しぜんがとってもすきで、やさしくて、さびしがりやさんで、からあげがだいすきで、あとねぇ、じてんしゃがうまくのれなくて、どうぶつもだいすきで、でもカエルさんがちょっとにがてだったり、あとはねぇ………まだわからないかなぁ?」

 優太の言葉の波に乗って頭の中に思い出のスナップ写真が迫ってきて目の前でグルグルとまわりだした。

 あまりのことに返事さえもできないでいると優太はさらに続ける。

「じゃぁね。これがさいごだよ。あかねちゃんは、いぬをとってもだいじにしてくれるやさしいひとなんだ」

 決定的な一言に握っていた手を離しギュッと優太を抱き締める。

「ごめんね…」とあふれる涙に耐えながら一言絞り出すことで精一杯。

 思いが通じたのを感じ取ったのか優太も首の辺りに両腕を伸ばし抱きつく。

そ れから頬をよせて耳元で囁く

「やっとあえたね。ぼく、ずーっとまってたんだ」

「うん、うん」

 と震えながら頷いて

「茜、全然気付かなかった…だってこんなこと普通ありえないもん」

「でも、ぼくここにいるよ。」

「ほんとだね…また一緒にいられるんだね…」

「うん。あのころとおなじようにね。でもいまはおはなしができるよ」

「そうだね、茜、いつも思ってた。お話ができたらどんなに良いだろうって」

「でもあのころだってあかねちゃんはぼくのおもってることみんなわかってくれたよ」

「もうぉ、やっと落ちついたのにそんなこと言ったらまた涙が出ちゃうでしょ」

「へへっ、ごめんね。ねぇ?あかねちゃん。きょうは、いっしょにねていい?」

「うん。また、前みたいにいっしょに寝ようよ」

「じゃぁさ。こっちのアカネちゃんもいっしょでいい?」

 と言い先程、椅子に座らせておいたウサギのぬいぐるみをさし出した。

「え?この子もアカネって言うの?」

「うん。そうだよ。うらみてみてよ」

 と促されてウサギをひっくり返すとタグの所に小さくちょっと歪な文字で書かれた『あかね』の文字

「ぼく、ずっとこのアカネちゃんとほんとうのあかねちゃんのこと、まってたんだよ」

 その言葉でまた愛おしさが蘇ってきてもう一度ギュッとして

「じゃぁ、3人で仲良く寝ましょ」

 と言うと

「うん。なかよくね」と満面の笑みで答えてくれた。

 そして寝る準備を整えて一つの布団に入って。電気を消してしっかりと手を握りあう。


『ねぇ。らんまる?』


『ん?なぁ~に?』


『ありがと』


『ありがとうをいうのは、ぼくのほうだよ』


『あかねちゃん。ありがと…』


『うん。会えてよかった…』


『うん。またあしたもあえるよね?』


『もちろん、会えるよ』


『なんかいつまでもねむれないね』


『でももう寝ないと明日ママに怒られちゃうよ?』


『それはたいへんだ。ずっとおはなししてたいけどもうねなきゃね。あかねちゃん。おやすみなさい』


『うん。おやすみ』


 奇跡の再会を果した夜、握りあったその手は朝になるまで離すことはなかった…そしてこの幸せがずっと続くものだと信じていた…

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