第5話 『お風呂タイム』
ワン・ラブ 第5話 『お風呂タイム』
「茜ちゃん。今日は長旅とこの子の相手で疲れちゃったでしょ」
「パパは、まだ飲み足りないみたいだから先にお風呂入っちゃっていいよ」
「ぼく、おねえちゃんとおふろはいりた~い。」
「優君。それじゃぁ、茜ちゃん疲れ取れないでしょ。また今度にして今日はママと一緒に入ろ」
「…はぁ~い」
とちょっとふくらみながら返事をする優太に
「ごめんね。優君。でも明日は一緒に入ろっか?」
と茜が謝ると
急に表情が明るくなって、
「うん。絶対だよ。約束だからね」
「うん。じゃ明日一緒に入ろうね」
「じゃお先に頂きますね」
と秀人に頭を下げると右手を軽くあげ答えてくれた。
風呂場に入ると爽やかなレモンの香りに湯船にはアヒルのおもちゃが優太を待つように漂っている。
新潟の自宅と違う足の伸ばせる湯船につかり「ふぅ」と息をつく。
バスオイルの効果だろうかゆったりとくつろいでいると、体の力が抜けてとてもリラックスすること出来た。
風呂からでて居間に戻ると理央はキッチンで洗い物をしていて
秀人はグラスを傾けながらニュース番組を見ている。
優太はというとラグマットにうつ伏せになって、静かに絵本を読んでいるようだった。
「茜ちゃんゆっくりできたかい?」と秀人が話しかける。
「はい。有難うございました。家と違って大きなお風呂で足伸ばして入っちゃいました」
「ははっ、それは良かったね。あそうそう、今回、茜ちゃんに使ってもらう部屋なんだけど…」
「俺の書斎でいいかな?あそこなら大きな机もあって勉強しやすいだろうしパソコンもあるから、調べ物もすぐにできるだろうからさ」
「私はどこでも大丈夫です。有難うございます」
「ほんとはさ、最近までひとつ部屋が空いてたんだよ。まぁ、今、優太が使ってる部屋なんだけど、今までずっと俺らと一緒に寝てたくせに、そうだなぁ茜ちゃんのお母さんから連絡あって、茜ちゃんがこっち来るって決まった頃から、急に一人で寝るって言い出してさ。急遽、俺の書斎に泊まってもらおうという事になったんだよ」
「でも、良かったですね。優君一人で寝れるようになって」
「まぁ、親としては嬉しくもあり、ちょっぴり寂しいのもありって感じかな?」
「な~にパパ?なんかぼくのわるくちおねえちゃんにいってたでしょ?」
ちょっと離れた所で絵本を読んでいた優太が体をそらせて問いかける。
「違うよ。優太はもう夜一人で寝れるようになったんだよって褒めてたんだよ。でもお風呂はまだ一人で入れないけどな。へへっ」
「ふ~ん、そうなんだぁ……」
「なんだ。お前眠いのか?」
「う~ん、ねむくなちゃった。」
「そっか。理央はまだそうだから、パパとお風呂入っちゃおうか?」
「うん、しかたないからそうする…」
「可愛くねぇけどそうするか。おーいりおぉ。優太眠たそうだから先、風呂入れちゃうぞ」
『ありがとう~ お願いね~』
「茜ちゃん。引止めちゃってごめんね。じゃ、俺はこいつを風呂に入れてくるから今日はゆっくり休んでよ」
「色々とありがとうございます」
「気にしない、気にしない」
「じゃぁお休み」
「おやすみなさい」
秀人と優太を見送ってから片付けの手伝いをしようとキッチンに向かうと、
「大丈夫よ~ 茜ちゃんは気を使わなくて。さぁさ。一応、お布団だけは敷いといたから後は自由にやってちょうだいね」
「理央ちゃん。ありがと。私、絶対受かるから」
「期待してるわよ。じゃまた明日」
「うん、おやすみ。」
ここにいると心が一杯になる。自分の夢のためにやっている私のためにみんなが優しく見守ってくれる。なんて素敵な家族なんだろう。私もいつかこんな家族を持ちたいな。そんなことを考え
ながら階段を上り秀人の書斎に向かう。
書斎に入るとさっき荷物を置きにきたときには敷いてなかった布団が敷いてあった。秀人の書斎は六畳ほどの洋間で入って正面には大きなこげ茶色の机とその横に背の高い本棚が一つあり、本棚には工学系の難しそうな本から見たことのない事典ような分厚い本がぎっしりと並んでいた。
今夜は荷物の整理だけして休むことにしようと前日までに宅配便で届けてもらったダンボールをあけて、大きな机に次々と無造作に置いていく。新潟にいるうちにほとんどの事はやってきたから自信はあったが、でもやっぱり日にちが近づくにつれて不安がつのってくるだろうと勉強道具はみんな持ってきた。
簡単に整理をして、
「きょうはおしまい」
と独り言を言って椅子に腰掛ける。
「ふぅ」息をついて天を仰ぐ。
すると急に冬の空気を感じたくなって立ち上がり机の前の窓を開ける。昔から好きだった。冷たくて、でもとても澄んでいて大きく吸い込むとちょっと切ない気持ちになるけれど、そんな冬の夜の空気が好きだった。
ついでに電気も消して。冬の夜空も楽しむ。
「東京の空気もわるくないな。そんなにたくさんじゃないけど星も見えるし…」
と呟いて目をつぶる。
冬の空気が書斎を支配し始めたころ
『トントン、カチャ』
「うぁっ、ちゅめたいっ、またおねえちゃんさむいのにまどあけておそとみてるのぉ?」
振り向きながら「えっ?」と聞きなおす。暗がりの中に優太の姿をうっすらととらえる。
「だからぁ~ さむいのにあどあけてたらかぜひいちゃうよ。」
自分を落ち着かせるためにも、まず窓を閉め、電気ををつける。
そうすると薄い青色のパジャマを着て、うさぎのヌイグルミの耳を左手で握っている。風呂上りの優太の姿がはっきり見えた。
改めて「いや、そうじゃなくて…」
「な~に?」