第3話 『茜、緊張』
ワン・ラブ 第3話 『茜、緊張』
『ピンポーン』
「優君きっとパパだよ~ 開けてあげて」
『カチャカチャ』
「ただいまぁ、優太ありがとな」
「パパおかえりぃ、ねぇねぇパパ。きょうねぼくママといっしょに、あかねおねえちゃんおむかえにいってきたんだよぉ」
「そーか優太偉かったなぁ。ちゃんとおうちまで案内できたのかな?」
「うん、ばっちりだよ。それでね、それでね…」
「よしよし。あとでゆっくりお話しような。茜ちゃん待ってるからパパは、先にお着替えしてくるよ」
「あっ、そうだね。おへやでまってるからはやくきてねぇ~」
玄関での会話が居間で休んでいる茜のところまで聞こえてくる。
『ガチャ』
「おねえちゃーん。パパかえってきたよぉ、もちょっとまっててね。いまおきがえしてるから」
「うん、なんか緊張しちゃうなぁ。久しぶりだから…」
「だいじょうぶだよ。パパもおねえちゃんくるのたのしみにしてたんだよ」
秀人に会うのも結婚式以来であの時はちょっとしか話せなたったから実質、今日がはじめましてみたいなものだから茜は緊張していた。
表情の硬い茜を見て察したのか優太がそっと茜の両手に手を添え茜の目を見つめて、
「パパはとってもやさしいからきんちょうしなくてもだいじょうぶ」と励ましてくれた。
そうすると不思議なことに肩の力が抜けて落ち着くことができた。しばらく二人で手を握ったままぷらぷらさせたり、タッチ遊びをしているとさっきまでの緊張は完全にまたどこかに行ってしまった。
『カチャ』
「お待たせ。お待たせ。茜ちゃん良く来たねぇ。こんな家だけど自由に使ってもらっていいから」
「いえ、ありがとうございます。しばらくの間お世話になります」
「うん、試験の直前にホテルをとって忙しなく試験を受けるよりいいでしょ。せっかくこんなに大学の近くうちがあるんだから」
「ありがとうございます。あの大学に入るためにいままでやってきたんで頑張ります」
「そうそうこの前、茜ちゃんのお母さんとっても褒めてたよ。『自分の夢の為とはいえ一番遊びたい盛りに一生懸命勉強してる』って、だから俺もさなんとか力になってあげたいと思ったんだ」
「でもあんまり力み過ぎないようにね。力みすぎると俺みたいに第一志望ずっこけるから。まぁ、それのお陰で理央とも出合ってこんな可愛い息子にも出会えたんだけどね…その時の結果が人生のすべてじゃないと思って気持ちを軽くしていけば絶対大丈夫だよ」
「はい、ありがとうございます」
秀人と話している間も優太は茜の手を握って静かに二人の会話を聞いていた。
「おい、優太。お前、随分と茜ちゃんにべったりだなぁ」
「だってぼくおねえちゃんだいすきだもん」
「でも茜ちゃんの邪魔はしちゃだめだぞ」
「うん。わかったよ。パパ」
ちょうどその時キッチンの方から理央の声が聞こえてきた。
「パパァ~ お料理できたよ。運ぶの手伝ってぇ」
「おぉ、今行く」
「私も手伝います」
「いいよ、いいよ。うちの小さな彼氏と遊んであげてくれるかい?」
そういって立ち上がり秀人がキッチンのほうに消えていくとすぐに、優太がソファの上に登ってきて両手で茜の耳を囲み
「ほら、パパ。やさしかったでしょ」と耳元で囁く。
それからすぐに肩につかまって茜の顔を後ろからのぞきこんで
可愛く微笑んでくれた。