あとがき 『ゆうしゃらんまる』
日下裕一寿 著『ワン・ラブ』 後書 『ゆうしゃらんまる。』
14歳の夏、全国模試で自己最高偏差値を記録したご褒美に、子供の頃よりの念願だった犬を買ってもらえることになった。
俺は親戚の家で飼われていたビーグル犬に憧れていて、母と一緒に近くの犬屋(犬舎)に二人で歩いて視察に行った。
もちろん目当てはビーグル犬。
小さな体に太い足、猟犬ならではの力強さになかにあの愛らしい垂れた耳がなんとも好きだった。でもその日はいい子がいてもすぐに決めないようにしようなんて、言いながら歩いたのを覚えている。
本当にその日に決めてくるなんて思ってもいなかった。
小さなお店で中に入るいくつものケージから犬の賑やかな鳴き声が聞こえてきた。ひとつひとつケージをのぞき込み見て回る。
残念ながらビーグル犬はいなかった…でも母とふたりそんなことは完全に忘れひとつのケージに釘付けになっていた。
そのケージには一匹のシーズー犬。他の犬が賑やかなのにも関わらずその顔と背中が黒と茶色で手足が真っ白ほわほわの毛並みの犬は人懐こくケージ越しに僕たちに愛想を振りまいていた。
二人は顔見合わせ即決してしまった。
後日、予防接種など済ませもらい、また母と二人でお店に迎えにいった。バスタオルを用意して俺が抱っこして連れて帰った。
彼の名は俺が付けた。『蘭丸』これは当時の英語の教科書に登場した犬の名前からとった。その時はまだ勉強が好きだったんだな…昔の俺…
それからというもの毎日が楽しくて仕方なかった。彼も子犬で俺と二人で家中駆け回って遊んでいた。楽しい思い出をいっぱい作ることが出来た。そして15歳、受験も終わり進学した俺は実家を出た。離島の水産高校に入学したためだった。
でも実家に帰るたびに喜んで迎えてくれた彼は今後は俺のかわりに、共働きする両親だったために家に残された婆ちゃんに同志になっていた。買い始める時に江戸ッ子の婆ちゃんは『こんな畜生と一緒に住めるか!!』なんて言ってたくせに一緒に暮らしてみたら可愛くてしかたなくなったんだろう。
いっつも蘭丸を小脇に抱えて家を歩いていたのを覚えている。あいつはそれだけ何か惹きつけるだけの魅力があったのかもしてないな…
それから何年も婆ちゃんが天命を果たすまで蘭丸は、婆ちゃんの味方で居てくれたんだ。
婆ちゃんがなくなったあとも家族を支え俺が後につれてくる後輩黒猫のヤマトとヤマトが連れ込んだ彼女のトマトの先輩として色々活躍してくれた。
そしてその蘭丸の生涯の支えになってたのは母だったんだろうな…。毎日、必ず母の傍らで眠りにつく。一時期は蘭丸、ヤマト、トマトの三匹が、母と寝ていた位だから…母の愛情はすごい。
でそれまでもうちの家族にとって素晴らしい犬だったんだけど、ほんとに蘭丸のすごいところはここから、性格は至って温厚でちょっとドジなところと女の子好きなところはご愛嬌なんだけど…
蘭丸の晩年の話。父の失業という事件があった。でもまあそんなに暗い話じゃなくて長年働きづめだった父にとっては、はじめて、ゆっくりできる休養みたいな感じだったんだけど…16年間の生涯で最後の一年はもう白内障で目が見えなくなっちゃっていたなかで…失業中の父の話を聞いてあげたりしっかりと支えになってくれたそうだ。その失業期間も終わりが近づき父の新しい勤務先も決まった矢先…母と父は泊まりで出かけなくなってしまい目の見えないじいちゃん犬を
どこにあずけようか迷った挙句一日だけだからと思いお隣さんにあずけて出かけたそうだ。
そしてその日を境に彼はご飯を食べなくなった…父と母が蘭丸の預け先を探していることで悟ってしまったのかもしれない。僕は皆に面倒を掛けたくない。自分の仕事は終わったと…
あれだけ家族を支え続けてくれたんだから迷惑かけてもいいのにな…それからうちら家族と蘭丸とのお別れまでの時間が始まったんだ。
一切食べ物を摂らず水だけでちょうど一ヶ月蘭丸は俺たちに時間をくれた。店をたたんで転職した俺も忙しい生活を送っていたんだけどたまたま早く帰れる日があってなくなる三日前にちゃんと有難うを言えたんだ。本当にすごい犬だったな。本当に勇者みたいな犬だった。いなくなってもう3年以上経つんだけど今これ書いててもやっぱり涙が出てくるな…これが本物の蘭丸のお話…。
そんな素晴らしい愛犬を自分の願望で蘇らせて、蘭丸を支え続けてくれた母に贈ってあげたくて書き始めたのがこの物語『ワン・ラブ』です。蘭丸のためにも絶対にバッドエンドは無しって最初から決めてました。だって俺もみんなもいっぱい泣いたからこれ以上の悲しみはもういらないもんね。かあちゃん待ってろよちゃんと全話揃えて届けるからな^^
最後に蘭丸。本当に有難う。本当にまた生まれ変わってもうちに来いよな!!
待ってるぜ!!相棒!!
ほんとのおしまい
日下裕一寿 著




