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第15話 『幸せなひととき』

『ワン・ラブ』 第15話 『幸せなひととき』


 晴れ渡る空。


 並木通りの上の空には雲一つない。もちろん試験は問題なく終わることができたが、どうも気持ちが冴えない。


 理央に借りた自転車を走らせ優太の家にもどる。


「ただいま~」


 誰もいない。まだふたりとも戻っていないみたいだ。

ダイニングテーブルには一枚のお皿、理央が焼き上げたクッキーが可愛らしいく花の形に盛り付けられている。お皿の下には一枚の紙。


『ぼくもおてつだいしたよ。たべてまっててね』

 優太の可愛い字で書かれていた。


 鞄を書斎においてから、下に戻ってミルクココアを作ってダイニングチェアに座りクッキーを噛る。この家とも今日でさよならだ。あのお気に入りの大きなお風呂とも…

 そして優太とも…

試験に受かればまた厄介になることになってはいるが、それはまだ先の話、気持ちは冴えない。胸騒ぎともいうのか不安で仕方なかった。


『たっだいま~』

二人の声がする。


「茜ちゃ~ん。ちょっと手伝ってぇ」

「は~い」

 玄関に向かう。


「はぁ~重かったぁ。今日は前祝いしようと思っていっぱい買い物しちゃった。へへ」

 理央が笑う。

「どうしたの?そんな暗い顔して、もしかして試験ダメだった?」

「あっ、うんうん。そんなことない。試験は完璧だったよ。もうバッチリ」

 冴えない気持ちを悟らてしまった。ごまかすかのようにめいいっぱいの笑顔をつくる。


「あかねちゃん。ただいま」


「優くんおかえり」

「あかねちゃん。きょうはごちそういっぱいだよぉ」

「うん、楽しみだねぇ。じゃぁ今日は私もお料理、手伝っちゃおうかな?ねぇ理央ちゃん。試験も終わったしいいでしょ?」

「ぼくもおてつだいするー」

「じゃぁ今日は三人で作りますかぁ。じゃ優くんはお着替えをしてキッチンに集合ね。パパ驚かしちゃうぞ~」

「わ~い」

 理央と一緒に食材を冷蔵庫にしまっていると優太が戻ってくる。


「ただいまぁ」

「おっ、良いの付けてるじゃん」

 理央が褒める


 いつも優太が持っているうさぎのぬいぐるみのデザイン刺繍が入っているエプロンを付けてきた。

「ママがつくってくれたんだよ。いいでしょう?」

「うん。とっても、可愛いね」

「でしょ?」

 優太が自慢げに言う。

「女の子みたいでしょ」

 理央が言う。

「もう~」

 優太が口を尖らせる。

「でも似合ってるから素敵だよ」

「さぁ~今日はご馳走、たくさん作るぞ~」

 理央の掛け声とともにお料理開始。

「茜ちゃん。キャベツ切っておいてくれる?」

「うん」

 包丁を取り出して千切りにする。


『トントントン』

 軽快に切っていく。

「あらぁ、上手だね~。これは良いお嫁さんになるね。うんうん」

「あ~だめ~ あかねちゃんはぼくのおよめさんになるんだから~」

優太がクレームつけてきた。


「もうあんたはまったく。それに私はだれのお嫁さんっていってないじゃない。そういうことはもうちょっと大人になってカッコよくなったら言いなさいよね」

「じゃぁもっとお料理うまくなんないと優君のお嫁さんになれないね」

「ぼくはあかねちゃんだったら、おりょうりできなくてもいいよ。ぼくがつくってあげるんだから」


「まったくあんた達は… ほら、優君、茜ちゃんが切ったキャベツ盛りつけしてね」

「は~い」


どんどん美味しそうなお料理が出来ていく。トンカツ、若鶏の唐揚げ、シーザーサラダ、エビの炒め物、根菜の煮物などなど…


「これだけあると、テーブルいっぱいなっちゃうね」


『ただいまぁ~』


「あっ、パパだぁ」

 優太が玄関へかけていく。

「おっ、これはすっごいご馳走だなぁ。」

 秀人が感心している。

「今日は三人で作ったのよ。」

「それは楽しみだな。茜ちゃん試験大丈夫だったみたいだね」

「はいっ」楽しくお料理したおかげで気持ちがすこし晴れたみたいだ。


 テーブルいっぱいのお料理を前に秀人が話し出す。

「よし、みんな揃ったかな。茜ちゃん良くここまで頑張ったね。

あとは結果を待つばかりだけど、きっといい結果が待っていると信じて今日は、みんなで楽しくご飯をたべよう」

「はい。ありがとうございます」

「はやく食べようよう」

「おう、悪い悪い。じゃ頂きます」


『いただきま~す』


「おおう、このシーザーサラダのレタスみんな繋がってるぞ。」


「あっ、それは優くんがちぎったやつだなぁ。そんなんじゃ茜ちゃんのお婿さんにはなれないぞ~」

 理央がすかさず言う。

「ごめんなさ~い」

「なんの話だそれは?」


「パパには内緒だよ~ ねっ、優君?」

理央がからかうように言うと、

「うん…」

 優太は恥ずかしそうに頷いた。


 その後も、楽しい話ばかりで嫌な気分とか全部吹き飛んでしまった。この家族は本当に暖かく私を包み込んでくれる。ずっとこのままでいたいと思うような幸せなひとときだった。

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