第14話 『夢』
『ワン・ラブ』 第14話 『夢』
夢を見た。
山あいの広がる草原にいる。木の柵で囲まれたなかには牛の姿、
牧場らしい…
そして柵のなかには少年がひとり、すぐに優太とわかる。
お腹を大きくした母牛を心配そうに見つめている。少し大人になった優太が振り向きにっこり笑って、手を振ったところで目が覚めた。
傍らには優しく寝息をたてる優太の姿があった。そぉっと布団を出て、時間をみると
6:13
もう起きる時間だ。
カーテンを開ける。
「う~ん。あかねちゃんおはよう」
「優君おはよう」
「あかねちゃん、ゆめをみたよ。うしさん、いっぱいいた。あかねちゃんもいたんだよ。あかねちゃん、手振ってた」
「ほんと?」
「うん。ホントだよ。」
「えぇ~?私も夢に優君出てきたんだんだよ。優君、手振ってたよ」
「なんだ。よかった。同じ夢見てたんだぁ。不思議だね」
「不思議だね。はは」
二人で階段を降りるともう、秀人がダイニングチェアに座りコーヒー片手に新聞を読んでいた。
「おはよう。ふたりともよく眠れたかい?」
「おはようございます。はい。お陰様でよく眠れました。」
「そっか、それはよかったね。で調子はどう?」
「はい。大丈夫です。あとは試験を頑張るだけです」
「そっかぁ、もう明日だもんね。それでなんだけどさ、今からこんな事、話するのものなんなんだけど、春からの話。考えて見たんだよ。茜ちゃんがしよかったら、うちから大学に通うというのはどうかなって」
「えっ?それではみんなに迷惑になっちゃいますよ」
内心とても嬉しかった。というよりも飛び跳ねたいくらい嬉しかったがその気持ちを押しころして答えた。
「そんなのいんだよ。優太も小学校に上がって手が掛からなくなるし、なによりも優太が茜ちゃんにとっても懐いているからさ。それに新潟の叔父さんや叔母さんだって、安心なんじゃないかな?アパート借りるのだって大変だしさ」
「ありがとうございます。お母さんに話してみます」
「でもまずは合格することが第一だからね」
「はい。頑張ります。絶対合格しますから、よろしくお願いします」
「うん。頑張って。茜ちゃん」
浮き足だってしまった。嬉しくて嬉しくて、春からも優太と一緒にいられると思うだけで口元が緩んでしまう。
みんなを送り出してダイニングチェアに座り「モモ牛乳」のホットミルクを飲みながら、ニヤニヤと考え事をしていた。
始まるであろう未来の生活ことを考えると期待に高鳴った。
しかし思い返せば東京にきてからというもの不思議なことばかりだった。これからもずっと昔と同じようにいられるのであろうか?急に不安に襲われる。ほんとはこれは夢なんじゃないだろうか?目が覚めたら私はまだ新潟にいて東京に向かう日の朝だったりして…蘭丸と別れたあの日からずっと思い続けた願い。
別れは急にやってくる。でもそんなに急にくるなんてあの時は思っていなかった。
「茜、ラン君ちょっと元気ないみたいなの、今日、一緒にいてあげらない?」
「ゴメン、今日は紗由ちゃんと約束してるんだ。なるべく早く帰ってくるから。蘭丸じゃぁね」
そう、それが最後。
永遠の別れ…
どう騒いでも、泣きわめいたって、戻ってくることはない…
過ぎた時間は戻らない。
そんな当たり前のこと分かっているのに…
『ちゃんと言わなきゃ』
ガタっと立ち上がる。
机に向かっても頭に浮かぶのは、あの日に言えなかったあの言葉。
「ありがとう」の言葉
一緒に居てくれてありがとう。
遊んでくれてありがとう。
慰めてくれてありがとう。
伝えたい気持ちは沢山ある。
だから一人でもこんな思いをする人を減らしたいと願って
獣医の道を志したんだ。追い求めた夢はあと少しの所まで来ている。でも本当にそれが正しいことなのか、今ではわからなくなってしまった。
どんなに有能な獣医だとしても、
それは避けられない。
その時は必ず来る。
それよりもどう共に生きるかが問題なのかもしれない。
優太に出会い。優しさに包まれ、幸せな時を過ごしていると、
それが私の一方的な思い込みだったような気がしてくる。
ちゃんと確かめよう。
彼の気持ちを…
そしてちゃんとありがとうを伝えよう。
もうあの時のような思いはしたくない。
書斎の窓を開けて大きく深呼吸した。試験前日の空は期待と嬉しさの青空と、思い出の切なさの曇空の斑模様だった。




