第11話 『重なる思い・・・』
ワン・ラブ 第11話 『重なる思い・・・』
今日のバスルームには甘いミルクの香りが漂って、お気に入りの湯船は真っ白なお湯がゆれている。
子供用のバスチェアに座らせてシャンプーをしてあげる。
「あかねちゃん、ちょっとおっぱい、おおきくなった?」
「こら、ちょっとってなによぉ~ これでも気にしてるんだからね」
「あはっ、ごめんなさ~い」
髪の毛をクシャクシャしてやった。
そう彼が今とは姿が違った頃もこうしてよくシャンプーしてあげていた。行儀良く洗い場に立って気持ちよさそうにシャンプーされていた彼の姿が、目の前で笑いながらシャワーで泡を流されてる優太と重なる。
「ほら、笑ってると口にあぶく入っちゃうぞぉ」
「は~ぃ」
と口を締める。
優太の髪を流しながらふと思う…
蘭丸と優太の境界はどこなんだろう?
姿かたちは違えども確かに優太は蘭丸で
蘭丸は優太で…
「はい、おしまい。お湯に入っていいですよぉ」
「は~い。あかねちゃん、はやくきてね」
「髪を洗ったらすぐ行くからね。ちょっと待ってね」
優太はお湯につかり湯船の端に顎だけをのせて優しい表情でこちらを見ている。
その表情もあの頃となんにも変わらない。
いつだって私を優しい表情で見守てってくれていた。
お母さんに叱られた時だって、友達と喧嘩して落ち込んでる時だって、いつだって彼は私だけを見ていてくれたんだ。
どんな時だってそばに居てくれた。
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はっと思い出す。
それを私が裏切ってしまったんだ。
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下を向いて髪を流していると横から声が聞こえる
シャワーの水音で聞こえずらい
「あかねちゃん、だいじょうぶ。ぼくはきにしてないよ。
そんなことわすれちゃいなよ。ぼくのおもいは、ぼくだけのもの
ぼくは、あかねちゃんがすきなだけ、いっしょにいたいだけ」
『ゴトッ』
手に持ったシャワーヘッドを落として振り返る。シャワー上向きになり噴水のように吹き出している。優太の笑顔を見たら急に涙があふれ出てきた。湯船の優太に手を差し出し頬に手を添えて見つめ合う。優太はニッコリ笑って
「あかねちゃん、かみのけあわあわさんだよ。ははっ」
「ははっ、そうだね。ちゃんと流さなきゃね。」
と涙声で答える。
「はやくながしておふろにはいろ~。ぼくのぼせちゃうよ」
「うんうん」
うなずきながらシャワーヘッドを拾い上げて髪を流し直す。
「いらっしゃいませ。まってました」
優太を後ろから抱きかかえる形で湯船につかる。
「お待たせしました。大丈夫?」
少し涙が縮んで落ち着いた声で話せそうだ。
「まちくたびれました。うそ、ぜんぜんへいき」
「ごめんね」といい勇太を抱きしめる。
優太は私の腕を優しく包み込む。
静かな時間が過ぎていく
優太も黙ったまま、シャワーの残り水が、ポタッ・・・ポタッと落ちる音だけが響く
しばらく沈黙が続いた後、優太が口を開く
「ねぇ、あかねちゃん?ぼくはいいこだった?」
「うん。とっても」
「あかねちゃんをじゃましてなかった?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「ぼくはずっとあかねちゃんをじゃましてたのかなっておもってた」
「そんなことない・・・」
「ぼくはずっとあやまりたかったんだ。じゃましてごめんねって」
「それはちがう私が」
悪いんだと言おうとした所で
バスルームの外でパタパタと足音が聞こえて
「茜ちゃん大丈夫?優太悪さしてない?」
「うん、全然平気だよ。私のほうが優君待たせちゃったぐらいだよ。あったまったからもうそろそろ出るよ」
「は~い、良く拭いて出てきてね。湯冷めしないようにね」
「は~い、ありがと」
「牛乳用意して待ってま~す。」
『ざばぁ~』
と立ち上がり手を添えて優太を湯船から出させる。
扉を開けて外の手すりに掛かったバスタオルを一枚取り、優太の髪の毛をゴシゴシして綺麗に拭き取る体も丹念に拭き取ると、
「やっぱりふきふきはあかねちゃんがいちばんだね。ふぅ」
「ははっ、ありがと。君がいい子にしているからきれいに拭けるのですよ」
慣れた感じで何も言わなくてもすっと足を上げとても良いコンビネーションで拭くことが出来る。
「はいおしまい。よくできました」
「はい、タオルかしてください。きょうはぼくもふきふきしちゃいます」
「そんなぁ、いいよ。せっかく拭いたのに風邪ひいちゃうから」
「うんうん」
と首をふり手を差し出すのでタオルを渡す。
「じゃぁ、髪だけ手伝ってくれる?」
「うん」
嬉しそうな顔で頷く。
中腰になり頭を委ねる。
優しく丁寧に拭いてくれる。
自分が拭くときと同じように拭いてくれた。
「ずっとこれやりたかったんだ。いつもふいてもらってばっかりだったから」
「ありがとね。うん。もう大丈夫。あとはさっと拭いて出ましょう」
「外は寒いから早く着替えようね」
「は~い」
バスルームから出るといつもの優太にもどり着替えをさせると
脱衣所から飛び出して行った。
あの子があんなこと考えていたなんて意外だった。
邪魔なんかじゃなくて自分が邪険にしてしまっただけなのに…
お互いの切ない思いが重なる瞬間。




