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第1話 『からあげ』

ワン・ラブ 第1話 『からあげ』



 大学受験のために新潟を離れ東京に住む従姉夫婦の家に、10日ほどお世話になる事になった茜は東京駅に向かう新幹線の中にいた。

 新潟の家に送られてきた従姉夫婦と可愛い男の子が写った写真を見つめ、従姉の理央に会うのはいつ以来だろうかとの思い出しながら雪景色を眺めていた。

 思い返すと6年前の理央の結婚式以来だ。結婚してしばらくして産まれた写真の男の子とは今日が初対面になる。

 茜にとっていつも優しいお姉さんであった理央に会えるのももちろん嬉しいが、理央の子供、優太に会えるのもなんだか楽しみだった。

 できればもっと早く東京に訪れたかったが今思い描いている夢に向かって、今までまっしぐらに努力してきたために機会を失っていた。


「茜ちゃんが東京に出て来るのみんなで楽しみに待ってるよ」

 と先日の理央から電話を思い出す。


「何故だか優太が一番楽しみにしてるみたい。毎日のように『おねえちゃん、あと、なんにちでくるの?』ってしつこいのよ。まぁうちはお客さんなんか、めったに来ないから楽しみなんだと思うけどね」


 五歳になった優太は名前と写真どおりにやさしい子だと聞いていた。茜はふと思い出す。あの頃のことを…

 そう言えばあの子もやさしくてとてもかわいらしい子だった。茜が物心ついた時には隣にいたあの子…寂しがりや同士いっつも一緒にいたあの子…茜にとって始めての親友であり、恋人のようでもあったあの子…茜が悩み、辛い時には一緒にいてくれたあの子…一番辛いときに一緒にいてあげられなかったあの子…


 思い出しては辛くなる。

 いけないいけないと自分に言い聞かせ紛らわすように車窓を眺める。もう雪はなくなって空だけが泣きそうな顔をしている。

 外を眺めていたらいつの間にかに眠っていたようで携帯の振動で目を覚ます。


 理央からの写真付のメール

〔今、東京駅についたよ。パパは仕事だから優君と二人できたよ。新幹線もうすぐ着く時間だね。この前話した改札口で待ってるからね〕とあり、写真には東京駅の銀色の鈴の前で楽しそうに笑っている二人の姿がうつっていた。


 気がつけばあと15分ほどで新幹線は東京駅のホームに滑り込む時間だった。慌てて〔ありがとう。もう少し待っててね〕と返信して降りる準備を始める。

 はやる気持ちを抑えながら車両の一番最後に新幹線をあとにした。エスカレーターを昇ると遠くに懐かしい顔が笑っている。こちらに気づくと大きく手を振りながら改札口に近づいてくる。自動改札を出ると理央と茜は再会を喜び合い自然と笑みがこぼれる。


「紹介しなくちゃね。ほら、もう自分でご挨拶できるでしょ?」

「は、はじめまして。ゆうたです。あかねおねえちゃんよろしくね」

「あれぇ、優君、お年も教えてあげるんじゃなかったけ?」

「うん、ぼくね、いま5さいなんだ。3がつで6さいになるんだよ」

「嬉しいなぁ。もう私のお名前を覚えてくれたんだ」

「優君がちゃんとご挨拶してくれたから私もちゃんとご挨拶しなきゃね」

「私は藤川茜18歳。優君のママの従妹なります。今回は学校の試験の間、10日位かな?優君のお家でお世話になります。仲良くしてね」


「うん。仲良くしようね」

 元気良く答えた優太の笑顔は輝いて、茜の顔も満面の笑みであふれて、さっきまでの寂しい気持ちも何処かにいってしまった。

「さぁさぁ、ご挨拶はこれ位にして晩御飯のお買い物してお家に向かいましょ」

 理央は二人の背中をポンとたたいて在来線の方に促した。

 優太は理央の右手をしっかりと握って歩く。

 茜も優太の横について三人で並んで歩いていると、ぎゅっとした感触が左手に伝わってくる


「あかねおねえちゃんひとりであるいてるとまいごになっちゃうよ」

 小さな笑顔が茜を見上げる。

「うん ありがと。しっかり握ってなきゃね」茜も何か妙な感覚を感じながらもぎゅっと握り返す。

「まぁ 優君ったらちゃっかりしてるわね。でも毎日楽しみにしてたんだもんね」

「うん」と優太がちょっと恥ずかしそうに答える。

「そうそう茜ちゃん 今晩何か食べたいものある?理央が腕を振るってご馳走を作るからさ」

『からあげがいい!!』

「もう~優君に聞いたんじゃないよ~」

「だって~ あかねおねえちゃんとりのからあげだいすきなんだよ」

「えっ?… また優君いい加減なこと言っちゃだめよ。優君が食べたいだけでしょ」

「へへっ」

 と優太は笑う。

「ぼくもたべたいけどおねえちゃんもたべたいよね?ね?」

 また茜を見上げる。

「うん。お姉ちゃん唐揚げ大好きだよ。」と答えたもののやっぱりなんか妙な感じがする。

「なんで分かっちゃったのかなぁ?もしかして顔に書いてあったかな?」

「うん うん ちゃんとかいてあったよ… でもほんとうはそんな、きがしただけなんだ」

 茜はどうしても素直に勘で済ますことができなかった。


 もちろん唐揚げは茜の大好物である。でもそれは単なる好物ではなく特別な思い出のあるものだったから…

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