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「魔法世界に生きる者たち」シリーズ

俺は、世界最小で最強になった。

作者: まいまいഊ

 よくある話だが……俺はチートを身につけて異世界にいた。

 身についた力に少し不満はあるものの、その能力は「俺、TUEEEEEEEE」を可能とした。


 この体は、ドラゴンでさえも足元に及ばないくらい最強な部類だ。マグマのような熱さはもちろん、有毒ガスや無酸素状態……たいていのことには耐えられて、高いところから叩きつけられても、つぶされても死なない体になったのだ。

 おそらく、何も身に着けないで、宇宙を旅することも可能だろう。

 ……行かないけれど。



 ――思い出す。

 この世界に来た時、俺は空中にいた。それだけならまだ良かったのだが、落下地点は草原でも海でも人の胸の中でもなく、火山だったのだ。火口に激突したあと、そのままマグマに、どぼんと、したのだ。

 その時は死んだと思ったが、熱いと思うこともなく、俺は火口から這いあがることができたのだ。服は一瞬で燃えてなくなったけれどな!

 全裸で山を降りることになったが、気候は熱いとも寒いとも言えない地域で困ることはなかった。しかも、火山ということもあり、草木があまりは生えていなかったのも良かった。方向を見失うことなく下山できたのだ。

 体が丈夫になったおかげか、裸足にもかかわらず怪我なく歩くことができた。


 火山がある一帯は不毛の土地なのだろう。砂漠一歩手前のような、岩と砂の風景が地平線まで続く地であった。

 その風吹き荒れる大地を歩いていると、そこで運よく風の精霊と仲良くなることができた。その地は精霊(かぜ)の通り道だったのである。

 精霊が持つ意思伝達の魔法のおかげで、俺は知的生命だけではなく、動植物とでさえも意思の疎通ができるようになった。

 それに加え風に漂う形で、楽に長距離移動ができるようになった。この風の精霊のおかげで、俺の生活はかなり充実したものになっている。



 ――この世界に来てひと月がたった。

 俺は耐性以外の自分の特殊能力に気がついた。俺はその身に触れたモノならば、何でも食事と同じように味わうことができたのだ。

 それは魔法という現象でさえも、だ。純粋な魔力の塊はもちろん、炎や雷といった自然現象的な魔法から、毒や呪、死の状態など異常を起こす魔法を分解し、吸収することができたのだ。


 ――その能力が判明したきっかけの事件のことを話そう。

 その頃、俺は洞窟を住処としていた。(後で知ったことだが、忘れ去られた地下迷宮(ダンジョン)だったらしい)その最下層には凶悪な魔物が封じてあり、それを復活させようとしていた者がいたのだ。

 洞窟には仲良くなった動植物がいる。知的とはいえない生物たちも多かったが、俺としては大切な友人たちだ。採取という誘拐や、駆除という殺害の被害を受ける俺の友人たち。そして心地の良い住処を、魔法やら死骸やらで荒らされていることになるわけで、俺は侵入者を排除しようと奮闘した。だが、耐性はあっても、戦う術を持たなかった俺にはどうすることもできず最下層まで、侵入を許してしまった。


 初めて入る最下層のその部屋には、巨大な壺があった。あまりに大きいので、そういう形の塔だと言われてもおかしくはない大きさだ。そんな大きな壺に封印されている魔物は、どれほどの大きさなのだろうか、検討もつかない。

 大きさゆえに持ちだして姿を眩ませることはできない。俺は渡してなるものかと、せめてもの抵抗に、かじりつくように必死で壺にしがみついた。


 ――その瞬間、俺の口の中で味がした。壺のざらりとした食感、封印の魔力が臓腑にしみわたる感覚、中の魔物を消化している感覚。封印の壺のすべては俺の舌の上だった。

 そして壺は、数秒もたたないうちに、中身ごと無くなってしまった。俺は封印の壷を、中に封じてあるものと一緒に食してしまったのだ。


 壺を求めた者は何が起こったのか分からず狼狽していた。その隙に俺はこっそりと逃げだすことに成功したのだった。



 ちなみに、封印物の味はといえば、あんまりおいしいとはいえなかった。やはり、味のついた肉とか、甘いお菓子とか、心のこもった料理というのか、カロリー高めなもの、味の濃いものを食るに限る。

 今後、そういったゲテモノを食べることがないように願いたかった。



 ――そう、俺は願っていたのだが。世の中は、それを許してはくれなかった。


 俺は今、世界を滅ぼそうとしている魔王の元へ行こうとしている。目的は、魔王にお灸を添えるためだ。

 マグマも平気な俺は、魔王が世界を滅ぼした結果、どんな環境になろうとも生きていく自信はあった。がしかし、暮らすのならば快適なほうが断然いい。せっかく仲良くなった友人たちが、魔王のせいで死んでしまうのはやはり悲しいのだ。



「今度は、魔王の魔力。食い尽くしてくれるわ! 今の俺は、虫ケラよりも、小さい。だからってなめるなよ~!」

 そう叫んだ、俺の体長は約1ミリメートルにも満たない。顕微鏡で見なければ、塵か何かと見間違えそうな、とても小さい微生物だった。

 忍び込んでも、見つかることもない微生物()


 数日後。

 魔王城を支える地盤は穴だらけとなり、雨が降れば確実に崩れ落ちてしまう緩さになっていた。魔王にいたっては、その比類なき魔力を食いつくされ、ただの魔族と成り果てた。


 そうして、最強の微生物型の勇者によって世界は救われたのだった。



 ちなみにその頃から俺は、友人たちから『世界最強の微生物』と、ささやかれるようになった。

 ぴったりな通り名ではあるが、不思議とあまりうれしくはなかった。


 めでたし。

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