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エルフヘイムをぶっつぶせ!  作者: 寄笠仁葉
第7章 隣界隊
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7-14 突然の便り

「じゃあ、どうやったとしても、銃を配備することはできない、という結論になりますか、やはり」


 俺がそう言うと、一同は沈痛な面持ちとなった。


「はいはい暗くならないでください。皆様まだ完全にこの武器がどういうものかわかったわけではないはずですよ、それにあくまで我々の世界ではこういうものが発達したという話をしているだけで、魔法が存在するこの世界での有効性がどれほどのものになるかは、まだ未知数なわけですから」


 前列に座っていた壮年の学者が手を挙げた。


「しかし道化師殿、魔法を持たぬ者でもキリング・クラス(殺生級)の魔法に相当する攻撃が可能だと説明したのはあなたではないですか。しかも弓より遥かに短い訓練期間で扱いを習得でき、その気になれば女子供でも持つことができるという……」

「確かにそうですが、初期型の命中力は非常に低くなるということと、そのために集団運用が前提であるという説明もいたしましたよ。実用化のためには大量生産をしなければなりません。そのためのシステムから構築する必要があるということです。今のヒューマン同盟にそれが本当に可能なのかを検討してみないことには……」


 別の学者――ディーンから来ている――が腕を組み、唸る。


「いたずらに大金を捨てるだけの結果に終わりかねない、ということか」

「おそらくは」


 いつかは話さねばならないことではあった。俺達のいた時代の人間が戦争と聞いて思い浮かべるものは、銃だ。人によっては小銃より先に、戦車やら戦闘機やら戦艦やらがくるかもしれないが、そのどれにも、銃は付いている。同じことだ。

 効率よい殺傷を考えると、この機能を避けて通ることはできない。口ではああ言ったものの、俺はこの世界でも銃器の類が有効な攻撃手段であることはほぼ確信していた。その程度には、世界同士は似ている。


 だからこそ、これまでは慎重になっていた。

 斬った射られたの世界ではまず間違いなく革命的な存在として扱われるだろうから、その変化が引き起こす事態を考えると、かなりの劇薬となってしまう可能性は否定できなかった。それこそ今言われたように、非戦闘員と見なされていた人々までも動員されるようなえらい状況もありえた。種の存亡がかかっているならそれは不思議じゃない。

 また、銃器の導入を提案したところで配備まできちんと事を運べるのか? という懸念は前まではより強く、とても現実的とは思えなかったことも秘匿の理由になった。半端に教えてまごついている間に、万が一その情報が敵方へ渡ってしまったら、おそらくは向こうの方が上手くやってのけてしまうだろう。もちろん必ずそうなると決めつけていたわけではないが、諜報に疎いからこそ、警戒はしておきたかった。


 だが、シンという少年の登場で、ヒューマン陣営だけが地球の知識に触れることができるという優位は崩れつつある。既にエルフが新兵器の開発に着手していても何もおかしくはない。そういうわけで、このタイミングとなった。


「ふむう……しかしなあ、失礼ながら、それを申すならゼニア殿下の進めておられる客人(まれびと)の件も、苦労の割にはあまり効果が上がっていないように思われまするが」


 今度はルーシア出身の学者がそう言った。すぐにセーラムから反論の声が出る。


「いーや! 数は少なかれども、あの調子ならば魔法戦力として十分に期待できると我輩は考えますな。次の戦いでは間違いなく成果が挙がるでしょう。それに、この席には当人達も参られている。無礼だとは思いませぬか?」

「……これは失敬。ただ、そこへ金剛石を支払えるのなら、セーラムの道化殿が言う新たな武器を開発するのに出資をためらうのは些か滑稽、と申したかったまで。それで、実際のところどう考えておられますか。もしヒューマン同盟三国が労を惜しまずに打ち立てた目標へ邁進できたとしても、完成までの見通しは立たぬというのですか」


 俺の隣に座っていたナガセさんが言った。


「いやー、やっぱり難しいでしょうな」


 一同の視線がそこへ集まる。

 一応、俺が代表して話を進めてはいるものの、今回、詳しい説明の大部分はナガセさんが担っていた。専門家というほどではないものの、客人の中では彼が一番その方面に明るかった。加えて、彼の持つ魔法の才能と、それに伴う鍛冶の心得が銃器開発における大きな鍵を握っていることは間違いない。


 それだけに、その口から出た否、という言葉は重かった。


「お金を用立てるなんてのは大前提の話ですし、先生方しか集まらないこの場じゃ議論しても仕方ない。それは大蔵大臣とやってください。だから技術的な話にまた戻りますけど、理屈がある程度わかってる、ってだけじゃすぐに再現なんてできませんよ。興味があって少しかじったとは言いましたけど、研究していたわけではないし。まあ仮に本職だったとしても、一からじゃかなり手探りになるわけです」


 ぼんやりとあるイメージだけでそれを成形しようとするのだから、気の遠くなるような話だ。


「魔法があるから、色々な加工の部分はクリアできるよう祈るとしても、とにかく時間がかかるだろうってのがまず一点。叩き台を作って、それを改良していく、の繰り返しをどれだけ許してもらえるかで成功率は変わってくる」

「それにかかりっきりになってしまうでしょうね」


 と俺は言った。


「そう。それに必要な資源だって集まるかわからない。鉄と木はいいとしても、」


 ナガセさんはそこで立ち上がり、黒板の硝石・硫黄・炭と書かれている部分を裏拳で軽く叩いた。


「火薬ですよ火薬! さっきは敢えて言いませんでしたけど、オレ達の国じゃあ硝石が自然に取れないってんで排泄物を利用したり涙ぐましい努力をしてたんですよ。それでもほんの少ししか取れなかった。皆さんそのやり方でいく覚悟、ありますか? あと、質のいい火打石が出ないならフリントロック式が作れないから、もう選択肢が火縄銃しかなくなるでしょ。わかります? 火をついたままの縄を持ち続けるのってすげえ大変だと思いますよ。雨降ったら終わり、水の魔法使いと出会ってもアウト」

「でもナガセさん。私達はもう機関銃だって知っているわけだから、わざわざ古いところから始めずに、いきなり金属薬莢を試してみてもいいのでは?」

「フブキさん、剣であんだけ難しいんだから、複雑な構造のものは絶対に実現しないよ。少なくともオレは自信がない。でもまあ――」


 そこで彼は、ちらりと部屋の隅に立っているマエゾノさんを見た。


「――もし、マエゾノさんがオレに代わって数字の相手をしてくれるっていうんなら、ライフリングとドングリ型の弾丸まではいけるかもしれない。それで高い命中力を確保できるなら、集団運用以外の使い方もありえない話じゃなくなってくる。でも仮にそこまで行けたとしてですよ、最初の目的はあくまで通常戦力の増強なわけで、結局、量産をどうするのかって問題が残ります。この世界にはまだ工場と呼べるものがない。どう見積もっても()()()()()の域は出ない。それぞれの国中の工房に全部同じことをやらせても何丁を何日で作れるか……それが何部隊分の完成品になるか、どれだけの量を期待できるのか。あまり多くならないなら、作るための場所を作るわけですが、そのための土地と設備と人手、ありますか?」


 彼はぐるりと、一人一人を確認するように、部屋の中を見渡した。

 誰も何も唱えない。


「オレ個人の意見はね、賛成でも反対でもないです。やれって言われれば頑張りますよ。そうしないと勝てないだろうしね。でも――それでも、やります?」




「いつもあのような雰囲気なのですか?」


 とジュランさんが訊ねてきた。帰り道の廊下でのことだった。


「ああ……いえ、今日の内容は結構重要な事柄を扱っていたと思います。だからジュラン様にも来ていただいたわけですが」

「でも、ゼニア殿下はいらっしゃらなかった……」

「それは、私と姫様の間では既に話が済んでいたからです」

「そうなんですか?」

「はい。議論が重ねられて話がまとまっていけば姫様も顔を出されるとは思いますが、今日はまだ皆さんに概要を説明しただけなので……。いつもはもう少し気楽というか、役に立たない話もしていますよ。例えば、月がただの石ころだってご存知ですか?」


 彼女は、何を言っているかわからない、という顔をした。


「私のいた世界ではそう信じられていました。実際にそこまで行って確かめてきた人達がいたんですね。ただの石ころというのは言いすぎかもしれませんが、あれはとても大きな岩の塊が宙に浮いているだけなのです。ものすごく遠くの、宙に」

「……あの、すみません、あたくしにはよく……」

「信じられないのも無理はありません。勉強会の参加者の中にも懐疑的な方はまだいらっしゃいますし、なにせ世界が違うので、私の知っている月とこの世界の月が本当にまったくの別物であるということはありえる話です。この世界では、月は石ではないのかもしれません。チーズかもしれません。見ている分には、一緒だと思えるのですが」


 角を曲がろうとしたところで、後ろからの足音に気付いた。


「フブキ殿!」


 フォッカー氏だった。珍しく慌てた様子で、こちらへと駆け寄ってくる。


「これはこれは、ハギワラ様。そんなに急いで――どうかいたしましたか?」

「お勉強会の方は、もう?」

「ええ。今は部屋に戻るところでした」

「左様ですか」


 彼はジュランさんと俺を見比べて、少し申し訳なさそうな顔になり、


「これから、お時間をいただきたく」

「はい、それはもちろん、大丈夫ですが――もしかして、内密なお話でしょうか?」


 フォッカー氏は頷く。


「実を申しますと、ゼニア殿下にもお越しいただく必要が」

「……うーん、捕まるでしょうか……」

「今、人をやって探させています。ジュン殿を見たという者がいたので、そう時間はかからないかと」

「そうですか。ええと、じゃあ……」


 ここでお別れですね、とはっきり言っていいものかどうか迷った。

 だが、明らかにフォッカー氏はジュランさんの同行を望んでいないように見える。


「あのう、あたくし、お邪魔みたいですね」

「……大変申し訳ない」


 と彼は深々と頭を下げた。


「いえ、大事なお話なら、仕方がないですものね。それに丁度、この先で別れるところでしたから」


 ただ、何か理由をつけて彼女に誘われるのではないかという予感が、俺はしていた。いや、予感ではなく、期待か。どちらにしろ、そう悪くはないと思い始めている。少なくとも、それなりに残念がっている自分がいた。


「それでは、ごきげんよう」


 軽く手を振って、ジュランさんは角の向こうへ去った。俺も軽く手を振り返した。


 フォッカー氏は今度は俺の方へ頭を下げ、


「……大変申し訳ない」

「いえ、まあ……それで、何があったのですか?」

「それが、ここではどうも……」


 言いながら、二人して早足で歩き始める。


「簡単に申しますと、つい先程、ちょっとした荷が本国から届いたのです」

「はあ。もしかして()()便()を使いましたか?」

「まさか。船ですよ。それで、私宛てだったのですが、フブキ殿の名前もそこに並んでおりました」

「……一体それは、どういうことなのですか?」

「ジェレミーが送ってきたのです」


 と彼は言った。




 その荷とやらは本当にちょっとした、小包の大きさだった。

 既に開封してある。木製の箱の中に、かなり古い綴じられた本と、折り畳まれた大きめの紙、そして小さな紙片が入っていた。


「こっちは手紙ですよね? この紙切れは」


 手に取ってみると、「みんなで開けてくれ、早めに」と書いてある。


「なので、その通りにしよう、と。みんな、というのが具体的に誰かまではわかりませんが、貴方が含まれるのなら、当然ゼニア殿下も立ち会う必要があるのでは、と考えました」

「なるほど?」


 城の中の、ディーンの人々が勝手に使っていい部屋の一つだった。


「遅くなったわ。ごめんなさい」

「来ましたか」


 姫様は少しだけめかしこんでいた。まだジュンに任せると危なっかしいらしく、複雑な飾り立ては控えている。


「それで?」

「ディーンのジェレミー君から、本が届きました」

「本?」

「古い本です。読めますか?」


 姫様はそれを手に取り、ぱらぱらとめくって、すぐに置いた。


「……では、とりあえず手紙を読みましょうか」


 意外にも達筆な字で、フォッカー・ハギワラ殿、と、フブキ殿、と記されている。

 フォッカー氏の許可を得てから、俺は文面を読み上げた。




 よう、兄貴。セーラムで元気してるかい? あまり親父を一人にするなよ。

 こっちは相変わらずの冒険者暮らしで、心配するようなことは何もない。

 だからこれはどっちかっていうと、あのおかしな格好をしたアンちゃんに書いてる。


 それで、同封した本だが、遺跡で見つけた。

 遺跡ってより、森の中に前みたいな屋敷が捨ててあったんだ。

 まあ、あんなメチャクチャな中身じゃなかったよ。もうちょいまともだった。

 でも、収穫は全然だった。

 それでも磨けばまた使えそうな食器とかはあって、図書室もあったから、ついでに、なんとか読めそうなやつだけ見繕って回収してきたわけだ。

 でも文字が古いんで、中身はよくわからなかった。価値がわからないと売りようもないから、知り合いを片っ端から当たってみたら、部分部分だけは読めるヤツがいて、そうしたらそいつが召喚だかなんだか言うもんだから、そういえばアンタらもそんな話をチラッとしてたなあ、なんて思い出して、こうして送ってみた次第だ。


 頼む! 買ってくれ! できるだけ高く。


 そうしたらまず、兄貴が仲介料として一割取ってくれ。

 あとは全部その箱に金を入れて、同じルートで返送してくれれば問題ない。

 セーラム側の運び屋と、ディーンの船で二割づつ取ることになってる。

 ダメで元々のつもりだが、オレ達の手元に残った五割で、儲けてることを祈るよ。


                        よろしく頼む  ジェレミー




「これ、何も入れずに返したらどうなるんでしょう」


 とジュンが言った。

 それは謎だったが、もし本当に召喚魔法に関係する書物なのであれば、箱にギッシリ詰めてやるのが筋というものだ。


 俺も試しに開いてみたが、手紙に書いてあった通り、見たこともない文字の羅列がしばらくは延々と続き、途中、図説のような部分もあったが、何について言及しているかまではさっぱりだった。


「全然わかんねえ。ここは専門家に任せよう」


 レギウスなら解読できるかもしれない。


「――っとと?」


 ちょうど真ん中あたりのページから、手紙とはまた別の折り畳まれた紙が落ちた。

 本の材料と同じくらい古い。


 開いてみると、それは手書きの地図だった。


「どこかわかりますか?」


 姫様は首を傾げたが、フォッカー氏の方には心当たりがあったようだ。


 だが、彼は言うには、


「――もしや、蛮族領では?」

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