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第九十六話 これから、あなたを処刑します

第九十六話 これから、あなたを処刑します


 揚羽と御楽が、私を潰すために出ていき、一気に静かになった室内で、キメラは難しそうな顔をしていた。


「さて。真白ちゃんの方は、あの二人に任せるからいいんだけど、問題はこれだけじゃないんだよね」


 「他にもあるのかよ」という喜熨斗さんに、無言で頷くキメラ。


「残念なことに、彼女以上の懸念事項があるんだよ。僕としては、こっちの方に頭を悩まされているのかな」


「最近、急増している異世界のことですか?」


 哀藤が指摘すると、キメラは無言で頷いた。急増している異世界と言うのは、巨大花から生み出された異世界のことだ。最近は活動を控えているそうだが、生まれた異世界は既に三百近く、そのせいで異世界の総計は五百に達していた。


「具体的な害が発生している訳ではないけど、僕のコントロールを外れて増殖しているというのが、どうも気味が悪い」


「本来なら、メインプログラムであるあなたの意志で、全てが決められる筈ですからね。あれの存在を見過ごすことは出来ません」


「はっきり言って、バグみたいなものだよ。それだけに何が起こるのか、想像の外だ。今は大人しくしているけど、いつ活動を再開するか、分かったものじゃない」


「これ以上厄介なことにならない内に、私が原因を断ってきましょう」


 異世界を増殖させている一輪の巨大な花を駆除しようと言うのである。あんな巨大なものを処理するなど、ずいぶん大胆なことを、眉一つ動かさずに宣言するのだから、哀藤の神経も相当図太いといえるわね。


 キメラは、そんな無茶苦茶な申し出を満足そうに聞いている。こいつもこいつで、神経が図太い。


「これだけ騒ぎになっている物を駆除するんだ。騒ぎになるなとは言わないよ。好きにやってきてくれ」


「そういうことなら、俺も行こうかねえ」


 好き放題やっていいと言うことで、喜熨斗さんも名乗りを上げていた。哀藤は迷惑そうにしていたが、もう付いていく気で満々だ。来るなと言ったところで、勝手に同行するのは目に見えている。


「ついてくるのは構いませんが、先走らないでくださいよ。余計なトラブルはごめんです」


「これから率先して、トラブルを起こしに行く人間の台詞じゃねえな」


 観念したようにため息を吐く哀藤を、ニヤつきながら、喜熨斗さんがからかう。相手にしないように聞き逃しながら、哀藤は席を立っていた。


 哀藤と喜熨斗さんも出ていって、一人きりになった室内で、キメラはポツリと独り言を漏らした。


「何でも自分の思い通りになると思うなと言われるけど、全くもってその通りだよね」


 苦笑いしながら、冗談でも言いだしそうな顔でため息をついたりなんかしていた。




 その頃、私はと言うと、異世界から帰還して、研究所で汗を流していた。


 本日の成果は神様ピアス十個だ。なかなかの収穫といいたいところだが、肝心のキメラへの対抗策は、まだ糸口もつかめていない。そういう意味では、収穫ゼロと判断した方が良いかもね。


「神様ピアスだけあっても、『魔王シリーズ』を使われたら、ひとたまりもないのよね」


 以前、御楽が異世界を破壊した時のことを思い出した。後輩のお兄さんが、神様ピアスで対抗しようとしていたが、為す術もなく蛮行を許す羽目になっていたっけ。


 バスタオルで濡れた髪を拭きながら、萌の寝ている部屋へと歩いた。ずっと一人にしていたから、いい加減付き添ってあげないとね。私ってば、模範的なお姉さんだわ。


 ちょっと自己満足に浸りつつ、部屋に近付くと、中から数人の気配を感じた。


 先客がいたのかと呑気に構えそうになったが、そいつらの顔を見た途端、一気に体内の血液が沸騰しそうになってしまったわ。


「ここで何をしているの?」


 厳しい口調で、先客に凄む。私の接近には気付いていたみたいで、先客たちは驚くこともなく、私を見て、ニヤリとした。


 中にいたのは、揚羽と御楽だった。


 いや、違う。外見こそ、私の知っている早坂揚羽だけど、すぐに違う人間だと気付いたわね。


「あらら! マジで神様ピアスを集めているのね」


 そいつは私の手にしている神様ピアスに目を留めると、神経を逆なでするような笑みで、こっちに近付いてくる。私も負けじと声を出す。


「あなたが怒木揚羽ね……」


「正解! やっと会えたわね」


 こいつとは電話で一度話しただけだ。こうして実際に会ってみると、確かに早坂揚羽と瓜二つだ。使っている体が同じなので、そっくりなのは当たり前だが、これなら級友たちが間違えてしまうのも無理はないわね。


「今日は俺も一緒だよん!」


「そうみたいね……」


 やけに馴れ馴れしく接してくる御楽に、冷めた声で返す。


 キメラの次に嫌いなやつが一緒なんて。会いたくないコンビを、勝手に結成しないでよね。


「そんな嫌そうな顔をしないでよ。俺は繊細な性格なんだから、傷つくじゃん」


 御楽はそう言って、頬を膨らませていたけど、私は返答しないで、揚羽を睨んだ。


「とりあえず妹から離れてもらえる?」


 揚羽と御楽は、萌のすぐ横に立っているのだ。姉として見過ごせる状態ではない。


「会って早々、人を不審者扱い? まっ、正解だけどね」


 ぶつくさ言いながらも、揚羽は眠っている萌から離れて、代わりに私の方へと歩み寄ってきた。突然の邂逅に警戒心が高まっていた私は、全身を硬直させたが、揚羽はその様子を見て、おかしそうに笑った。


「何をしに来たのかしら?」


 萌から離れたのを確認して、改めて問いただす。質問された揚羽は、少々意外そうに顔をしかめた。


「何をしに来たですって? 愚問ね。以前、電話でこっちの用件は伝えた筈よ?」


 以前伝えられた内容など、一つしかない。私の殺害予告だ。警戒レベルは一気にマックスまで跳ね上がり、反射的に揚羽に回し蹴りを見舞った。


「いきなりね」


 揚羽は、私の蹴りをあっさり交わすと、後ろに飛びのきながら、尚も楽しそうに笑っている。


「でも、先手必勝は良いと思うわよ。もっとも、今みたいな蹴りじゃ、私を捉えることは不可能だけどね♪」


「て、てめえ……」


 見え透いた挑発に乗ってしまい、言葉遣いも徐々に乱暴になっていく。萌が寝ていることを忘れて、乱闘に発展しそうな険悪なムードの中、御楽が私たちの間に割って入ってきた。


「は~い、そこまで!」


 次は御楽に蹴りを見舞ってやろうかとも思ったが、また不発に終わりそうなので、とりあえず足を収めた。


 私が引き下がったのを見て、御楽は語りだした。


「このままルール無用の戦闘に突入しても良いけどさ。それだと、真白ちゃんが圧倒的に振りじゃん。それよりも、良い方法を提案させてほしいんだけど」


「は!?」


 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。こいつは何を言っているんだろうと、心底思ったのだ。


 一見すると、私にとってチャンスにも聞こえるけど、そんなことをするメリットが、こいつらにはないじゃない。実力差があり過ぎて、つまらないから、ハンデをくれてやると言われているようで、聞き捨てならないわ。


 私が乗り気じゃないことは向こうにも伝わったみたいで、御楽は返答を待たずに、話を続けてきた。


「そんな怖い顔をしないで。まずは話だけでも聞いてよ。提案というか、譲歩なんだけど、これからゲームをしない?」


「ゲーム?」


「そうよ! 名付けて、『百木真白処刑ゲーム』!」


 私の返答に反応したのは、御楽ではなく、揚羽。こいつが話すと、何でもイラつく台詞に早変わりね。


 しかも、その私がろくなことにならないことが前提になっているようなネーミングは何なの!? みんなで、私をボコボコにするゲームだとか、言わないでしょうね。そんなゲーム、ルールを聞くまでもなく、却下決定よ!


「賞品だって、あるのよ」


 商品って……。そんなもので私が考えを変えると思うの?


 訝しる私に揚羽が出してきたのは、一体の人形だった。それを見て、すぐにピンときたわ。


「それ! 萌が眠った時に、足元に転がっていたやつ!」


「そうよ。あなたの可愛い妹さんの意識が詰まった人形よ」


 くっ……! ちょっと卑怯じゃない? 私に選択権があるみたいに話を展開しているけど、妹を商品にされたら、受けるしかないじゃないの。


 私の心中を見透かしたかのように、揚羽と御楽は余裕の笑みを漏らしている。最早、話の主導権は、やつらに握られていた。


 押されている私は、ただただ状況がよろしくない方に向かっていることを感じていた。


話がどんどん核心に向かって動いています。

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